傍観者を嫌う少年
本日二本目
世界は不条理だ。
いつの世も敗者のことなど目もくれず世界は進んでいく。
主人公に振られ傷心の彼女のことなど、知ったことではないと言わんばかりに周囲のカップル達は幸せそうな顔をして手を繋ぎ、プレゼントを渡し、楽しそうに会話をしている。
今、彼女の現状を本当に理解して優しくしてくれる人などこの場には居ない。
ただ、遠目に「女の子が泣いているどうしたんだろう?」と眺めるがすぐに『「俺達には関係ない」と目を逸らし何もせず離れていく。
俺はそんな世界に腹が立った。
何で水瀬が泣いているのに誰も救いの手を伸ばさない!
何であんなに努力した彼女が選ばれない!
あぁ、分かっている。これが八つ当たりなことくらい。俺だって記憶が戻らなければ彼らと同じような行動を取っていただろう。
だけど、そうだとしても俺は怒らずにはいられなかった。
こんな世界間違ってる。と。
前世、大好きだった女の子が死ぬ時自分以外誰も手を伸ばさなかったあの世界と同じだ、と思わずにはいられなかった。
だけど、それを叫んだところで何も変わら無いことはあの時学んだ。どれだけ周りの人に訴えようと彼らは我が身可愛さに傍観するだけ、何の行動も起こさない。
なら、俺のすることは周りに頼ることなんかじゃない。
俺は泣いている水瀬の前に行き、屈み彼女と同じ視線になりこう言った。
「突然泣き出してどうしたんだ?なにか悲しいことでもあったのか?水瀬」
水瀬は突然声を掛けられ、肩をビクッと跳ねさせた後恐る恐るこちらを見た。
「みなとがわくん…何でここに?」
水瀬はまさか知り合いがこんな場所に居るなんて思っても見なかったのだろう。目を少しだけ大きく見開き困惑の声を出している。
「俺そこのカフェでバイトしててな。この格好で客引きをしてたら水瀬がたまたまこの店の前で泣き始めたのが気になって声を掛けた」
「そっか…ごめんね…おしごとのじゃましちゃって…ごめん、わたしもうだいじょうぶだから、どっかいくね」
俺がこの場にいることを理解するとすぐに、離れようとした。
だけど、それを許しては何もあの時と変わらない。
俺は水瀬の腕を掴み引き止める。
「そんな泣きながら、大丈夫なんて言われても信じられねぇよ。この際理由は聞かない。落ち着くまでの間店で休憩していけよ。飲み物は奢るから」
「そんなの…みなとがわくんにわるいよ」
「これは俺の自己満足だ。水瀬が気にする必要なんてない。クラスメイトが今にも消えちまいそうな顔してたら放っとけないだろ。ほら、行くぞ」
そう言って俺は無理矢理水瀬の腕を引っ張りに店の中に入っていく。
「ちょっ!?」
水瀬が困惑の声を上げているが、そんなの無視だ。
「マスター、クラスメイトを一人捕まえてきました」
「いらっしゃいませ〜。奏君がクラスメイトを連れてくるなんて珍しいね?もしかしてこれかい?」
俺はマスターに水瀬を捕まえたことを報告すると、水瀬と俺の顔を交互に見て小指を立ててニヤニヤとし始めた。
(面倒くせぇー。四十のオッサンがそんな顔をしないで欲しいです。普通に気持ち悪いですよマスター)
と内心毒づきながらも、俺はマスターに水瀬を連れてきた経緯を説明する。
「違いますよ、捨てられた子犬みたいな顔をしてたから連れてきたんです」
「それはそれで気になるんだけど。奏君、クラスメイトが来たのなら客引きは良いよ。もう十分お客さんは来てくれたしね。バックヤードで制服に着替えてこの可愛らしいお嬢さんの相手をして差し上げてくれるかな」
「はい。水瀬、ここでこれ見て待っててくれよ。すぐ戻るから」
マスターが俺の意図を理解してくれたことに感謝しつつ、水瀬を座らせメニューを渡しバックヤードに向かった。
小鳥はこの怒涛の展開について行けずポカーンと奏の後ろ姿を眺めることしか出来なかった。




