放課後 バイト先に向かうまで
ショートホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴り、生徒達は次々と席を離れ教室を出ていく中俺は鞄に教科書をしまっていた。
「ミナ、途中まで一緒に帰ろうぜ」
冬休みの課題を何とか全部写し終え提出期限通り出した加藤は、開放感から満面の笑みを浮かべ俺を誘ってきた。
「加藤は…今日は部活か。分かった。今日は直でバイト先に行かないといけないから途中までな」
加藤の方を向くと、背中に背負っているラケットを見て今日はテニス部がコートを使える日だったことを思い出し、二人だけで帰ることにする。
有馬を連れ教室を出ようとした際に、水瀬の方を向くと案の定大勢の人数に絡まれていた。が、今回は黒瀬と坂柳がガッチリと守っているため、今日は遊べないと断っていた。
(黒瀬達が居てくれれば大丈夫そうだな。……ん?)
水瀬の方を見ていると、彼女と俺の視線が合わさった後、口パクで何かを言ってきた。
「ミナ、どうした?」
「なんでもない。帰ろう」
何を言っているのか全く分からなかったが、後でメッセージを送っておこうと思い加藤と共に教室を出た。
◇
「じゃあ、また明日な有馬」
「おう、また明日ミナ」
俺はバイト先に行くために帰り道の途中で加藤と別れた。その後、スマホを取り出して画面を確認すると水瀬からメッセージが来ていた。
ことり『今日って、時間あるかな?』
湊川『バイトがあるけど、多分暇だろうから店に来てくれれば話せるぞ』
平日のこの時間はバイト先に殆ど人が来ないため、正直言って暇だ。店長もお客さんが来てくれるなら喜んでくれるだろうし、変な気を使って俺が水瀬の話し相手になるよう勧めてくるだろうから話をする分には問題ない。それで構わないならと返信を書いた。
するとすぐに返信が来て
ことり『じゃあ、お邪魔させてもらうね。多分予想はついてるだろうけど正月言ってたことを話したくて』
俺はやっぱりかと思った。そしてここからが正念場だとも思った。彼女は、本編のアフターストリーで失恋したトラウマから人と付き合うことに対して消極的になり一生を独身のまま過ごしていた。読者的にはこのアフターストリーはヒロインが他の男に目移りしていないため『可哀想だけど健気』といった感じで、好評だったが俺はそうは思えなかった。何かを堪えるような目で堺達を見ている彼女を見て俺は胸を何度も何度も痛めた。
俺は彼女に幸せになって欲しかった。
人並みに恋をして誰かを好きになって欲しかった。あの子みたいに自暴自棄にならないで欲しかった。
あの子みたいな目をして欲しくなかった。
彼女の心をどれだけ前向きに出来るかは分からない。けれど俺は出来る限りの言葉を使って励まそう。温かい飲み物を出して彼女の冷たい心を解そうと、そう思った。
彼女のために自分の出来ることをひたすらに考えながら俺はバイト先に向かった。
後ろにいる誰かに気づくことなく。
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