休憩時間
更新再開
学校に着くと、やはり堺と星川が付き合ったという噂が広がっているせいか他クラスから野次馬達が休憩時間に何人か来た。彼らの中に堺や星川にどういう経緯で付き合ったのかなどを聞いた後茶化して帰っていくだけの奴もいたが、彼らが本当に狙っていたのは水瀬だった。
「ドンマイ、小鳥ちゃん」
「落ち込んでないで新しい恋を探そ?」
「そうそう、あっ、今日合コンしない?小鳥ちゃんのために」
「あっ、あの……」
「いいねー。小鳥ちゃんを励ます会も兼ねて」
「よし、じゃあ決定!」
「場所は招き犬でいい?」
「おけ。カラオケなら沢山人も呼べるし話題も尽きないし」
「えーっと…私は」
「水瀬さんが居るなら俺参加しようかな〜」
「はぁ!?抜け駆けは許さねえぞ!俺も参加する」
「こらこら、水瀬さんが困ってるじゃないか。水瀬さんの意見もきちんと聞かないと?予定とか大丈夫かな?」
「……一応空いてはいるけど…」
ここで断れば雰囲気が悪くなると分かりきっている状態で話を振られた水瀬は困ったような笑みを浮かべそう言った。
「なら行こうよ!」
「水瀬さんがいいなら問題ないよな!」
主役であるはずの水瀬の意見など何も聞かず、励ますフリをして彼女を利用する者、彼女に近づく者ばかり。本当の意味で心配している者達はそいつらのせいで彼女に近づくことが出来ず遠巻きで心配そうに水瀬のことを見守ることしか出来なかった。坂柳は何度か近づこうとしたが、背が低く力のない彼女ではあの人混みの中に入り込むことは出来ず人混みの前でワタワタとどうしようかと悩んでいる。
堺と星川が付き合ったということは、水瀬がフラれたということ。ということは水瀬はフリーになったということ。今まで、堺にべったりだった彼女が堺から離れるとなれば、男どもが放っておくはずもなく、しかも女子は女子で水瀬を利用して意中の相手と近づくために。
見ていて反吐が出る。
本当に心配している者達が遠ざけられ、心ない奴らが近くにいる。
「………」
俺は教科書と筆箱を手に持つと椅子から立ち上がり水瀬の元へ向かった。
「ちょっと、悪い少し退いてくれ」
「うぉっ」
水瀬を囲んでいる男子の一人に断りを入れ、身体を無理矢理押し込み水瀬の目の前へ。
俺が目の前に来たことで目を大きく見開く水瀬。そんな彼女に俺はこう告げる。
「水瀬、次の授業移動教室だぞ。そろそろ行かないと間に合わない。急いだ方がいい」
そう言って時計を指差した後、俺は人混みを無理矢理開けてその場を離れた。
その際に何人かから睨まれたが、顔も知らないような奴らに何を思われようが知ったことではないので無視した。
「あっ…本当だ。ゴメン!みんなこの話はまた後で」
水瀬は周りを囲んでいる奴らに頭を下げると、鞄から教科書を取り出し筆箱を片手に俺の後に続いた。
「あの、湊川君ありがとう」
教室を出て、別校舎に来たタイミングで水瀬が俺に追いつき頭を下げて礼を言ってきた。
「別に。気にするな。あいつらを見てて苛ついてたからやっただけだ。礼を言われる筋合いはない」
「それでもだよ!私は湊川君のおかげで抜け出せたんだから!」
あれは自己満足だ。坂柳が出来なかったことを自分は出来るという優越感を得るための。
だから、礼を言われるとこんな自分は嫌だなと自己嫌悪に陥るので言われない方が嬉しかった。
だけど、さっきとは違って取り繕った笑みではなく自然な笑みを浮かべる彼女を見て胸が少し温かくなる自分がいるのも事実。
だから思う。
また俺は同じことをするだろうな、と。
キンコーンカーンコーン
「やば、急ぐぞ」
「うん!」
そうして俺達はチャイムが鳴り響く校舎の中を二人仲良く走り目的の教室へ向かうのだった。