水瀬の友人
「………悪い、かと「ことちゃんおっはよー!」」
自分が望み憧れた場所に、他の女がいる。それを嫌というほどに痛感する光景。
水瀬が目を逸らしてしまうのも仕方ないだろう。
だが、彼女が下唇を噛みしめ何かを堪えるようにしているのが見えた。
悲痛の表情を浮かべる彼女を見た瞬間俺は、反射的に加藤に断りを入れ水瀬の元に向かおうとした。
が、丁度そのタイミングで彼女に元気よく挨拶をする人物がいた。
「おはよう、リサちゃん」
「あっ!ごめんことちゃん。さっきの挨拶なし!やり直させて、おほん。では、気を取り直しまして明けましておめでとう!ことちゃん今年もよろしくね」
そう言って、純粋無垢という言葉を体現したかのような笑みを浮かべるのは、水瀬の自称親友の 坂柳 アリサだ。
彼女については以前軽く説明したが、もう少しだけ詳しく説明すると、去年の秋アメリカから編入してきたバリバリの帰国子女で天真爛漫を体現したかのような美少女で、日本人の父とアメリカ人母の間に生まれたハーフである。そのため、今もゆらゆらと風に揺れている金色の長い髪は地毛なため校則には引っかからないが、瞳は父親譲りの黒い瞳なため何も知らない人からは、髪を染めていると勘違いされることはしばしばあった。身長は142センチとかなり小さく本人はコンプレックスを感じている。この間、加藤が坂柳の前でチビと口にしたらニコニコと無言でシャーペンを使って加藤を血が出るレベルの威力で刺していた。それ以降は坂柳に身長関係のネタはタブーという共通認識が出来た。
スタイルに関しては前世で設定資料を見た時に、85、51、81と書いてあった。
身長の割にはかなり発育は良い。
これは余談になるが、水瀬はスリーサイズは96、58、90と書かれていた。
高校生とは思えない悩殺ボディをしている。
「あけましておめでとう。リサちゃんこちらこそ今年もよろしくね。冬休みはどうだった?」
「おっ、それ聞いちゃう〜?実はとっておきの話題があるんだよ、知りたい?知りたいよね!では、聞かせてあげよう!何とお爺ちゃんの家でクリスマスを過ごしてたら、毛むくじゃらのソリに乗った本物サンタさんが来たんだよ!凄くない!?リアルサンタに私あっちゃたんだ。しかも、ちゃんと私が欲しいですって手紙で書いたプレゼントをくれたんだよ!」
「ふふっ、それは良かったね。何をもらったの?」
「2メートル位あるくまさんのお人形だよ!名前はしま三郎ね。ここのもふもふが気持ちいいんだ〜」
坂柳はスマホを操作して、水瀬に画面を見せて自慢している。プレゼントをもらい子供のようにはしゃぐ坂柳を水瀬は先程の悲痛そうな表情が嘘のように穏やかで優しげな表情で話しを聞く。
「おい、ミナどうしたんだ急に走り出そうとした癖に立ち止まって。腹でも痛いのか?」
「……いや、何でもない。たぶん、収まった」
有馬が俺の行動が不可解だったため疑問の声を投げかけてくるが、俺は雑に誤魔化した。自分の気持ちすらも誤魔化すように。
「そうか?お前がそう言うんなら大丈夫なんだろうな」
「学校に行きたくないって身体が訴えてるのかもな。リア充のイチャイチャを見たくないって」
「……あぁ、なるほどな。確かにアレをこれから毎日見せられると思うとそうなるのも仕方ないか」
有馬は俺の視線の先に堺と星川がいることに気づき、苦笑いを浮かべた。
その後、肩を軽く叩き「元気出せよ。お前にもいつか出来んだろ」と励ましてくれた。
ズキンっ
俺は加藤に嘘をついている後ろめたさから胸が痛んだ。
「…違うな」
有馬に嘘をついてる後ろめたさもあるだが、それよりも自身に対する嫌悪が大きい。
(俺だけが水瀬のことを幸せに、笑顔にできるなんてことがあるわけない。そんなの当たり前のことだろう。なのに何で俺は坂柳に居場所を取られたように感じたんだよ。……嫉妬なんてする資格俺にはないのに)
彼女と過ごした時間はほんの僅かな自分が、それよりも長い付き合いの相手に勝てるわけないのに。
本当、そんなことに気づかない自分は馬鹿だなと素直に思う。
「女心が分からないような奴に何が分かるんだよ」
自虐的な笑みを浮かべ放った言葉は、自分に向けてなのか有馬に向けてなのかは俺には分からなかった。