友人
水瀬と会った次の日から、俺は親戚の家に年明けの挨拶をしに県外に出ていた。
その間に水瀬からこの間の件で話があるんだけど会えるかな?、とメッセージが来ていた。
県外にいて会うことは出来ないが、電話で良いなら聞くぞ、とメッセージを返すと、出来れば電話じゃない方がいいと水瀬が言ったので、冬休みの間は会うことはが出来なかった。
久々に制服に袖を通し、歩き慣れた通学路をイヤホンを付けてポッケに手を突っ込みながら歩く。
冬休みで生活リズムが崩れた影響か、普段は見ていた生徒達の姿が見えないので、本当に今日から学校が始まるのか不安になる。
目の前の信号機が赤になり、足を緩めのんびりと歩いていると、突然背中を押されよろめく。
「っと、危ねぇ」
何とか体勢を整え、怪我をしなかったことに対する安堵の息を漏らした後、背後に視線向ける。
「よっ、ミナ。あけおめ」
そこには俺のことをミナと呼ぶ、天パ黒髪の友人 有馬 凛が爽やかな笑みを浮かべていた。
音楽を止めてイヤホンをケースにしまい、俺も正月の挨拶をする。
「あけおめ有馬。珍しいなこんな時間に会うなんて。いつもギリギリ遅刻するかしないかくらいの時間に来るのに」
「いつも遅れる原因は寝坊だからな。今日は寝てないから早いってわけだ」
「冬休みの課題やってたからか?」
「ザッツライト、その通り徹夜して死ぬ気でさっきまでやってた」
そう言って有馬は、目下に出来ている徹夜の証隈をなぞる。
「はぁ、相変わらずだな。で、終わったのか?」
「もちろん終わってねえ!だから、後で写させてくれ。ミナ!」
「早く来てる時点で、そんなことだろうと思った。何を貸せばいい?」
「数学の課題冊子と英語の冊子と化学のワークだ。途中式が答えにないからそれ写させてくれ。英語は英作問題のところ。他はやってるからすぐ終わると思う」
(それ、めっちゃ時間かかるじゃん)
と思うが、それは口に出さずリュックに入っている課題を取り出し、ヒラヒラと見せつける。
「ジュース奢りな」
「そこは友達料金で無料ってことに」
「じゃあ、これは無しだな」
そう言って俺がリュックにしまおうとすると、有馬は慌て出した。
「冗談だって!?貸してくれよ。ミナ。ちゃんと奢るからさ」
「じゃあ、交渉成立ということで」
持っていた課題達を加藤に渡したところで信号が青になったので歩くスピードを上げる。
「ほら、モタモタしてないで行くぞ。課題今日中には終わらせるんだろ?」
「ちょっと待てよ!今リュックにしまってるから……おし、今行く!」
課題を自分のリュックにしまった有馬は、駆け足で俺を追いかけ隣に並んだ。
「そういえば、ミナ?知ってるか?」
「何をだよ?」
「堺と星川がカップルになった話」
「いや、初耳だが」
有馬の話は、前世の知識を得たため知っているが、誰からも教えてもらってないのに知っているのは不自然なので、知らないフリをする。
「聞いた話だとクリスマスの日に、堺の奴が星川に告白して、付き合うことになったらしい」
「へぇ〜」
「反応薄いな!もっとあるだろ!こう、悔しいとか、妬ましいとか。」
「まぁ、あいつらが付き合うのは時間の問題だと思ってたし、そういうのはあんまり」
と口から出まかせを出しつつ、俺はポッケに突っ込んでいる手を思いっきり握りしめる。
「おっ、噂をすれば何とやら。話題のカップルが目の前にいるぞ」
有馬がそう言って、視線を向けた先には幸せそうに手を繋ぎ談笑をしている堺と星川。と、その遠く後ろをゆっくりと下を向きながら歩く水瀬がいた。