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3-7

 ネイラ様から、不思議なお誘いの手紙をもらった夜、わたしは、衝撃のあまりあっさりと寝落ちしたらしい。気がついたら、翌日の朝になっていて、ふっくふくの巨大な雀のスイシャク様と、真紅のルビーみたいに輝いているアマツ様が、左右の枕元に寝転がって、可愛い寝息を立てていたんだ。


 考えてみると、神霊さんのご分体が、こうして一緒に寝ていること自体、あんまり普通じゃないのかもしれない。

 そもそも、神霊さんっていうのは、実体を伴わない霊的な存在なんだから、人が触れられるものじゃないって、習ったんじゃなかったっけ? スイシャク様もアマツ様も、簡単に触れられるし、スイシャク様なんて、完全にわたしの膝を台座だと思っているんだけど?

 スイシャク様とアマツ様が、あんまり親しげで優しいから、普通じゃないことに慣れてきちゃってたよ、わたし。


 実をいうと、わがカペラ家は、昔からわりと神秘体験に事欠かない家だった。アリアナお姉ちゃんの偽装もそうだし、わたしが生まれてからは、〈尊く神聖な何か〉の存在を感じるようなことが、しょっちゅう起こっていたんだって。

 うちの家や〈野ばら亭〉って、そういう〈磁場〉みたいな土地に、建っちゃってるんだろうか? スイシャク様とアマツ様は、まだ気持ち良さそうに寝ているから、後で教えてもらおう。


 冷たい水で顔を洗って、頭をすっきりさせてから、お父さんが用意していてくれた、おいしい朝ごはんを食べることにする。

 町立学校がお休みに入ってから、わたしはちょっとだけ朝寝坊になったから、皆んなは先に済ませている。でも、この頃には、スイシャク様とアマツ様も来てくれるから、一人と二柱ふたはしらで、仲良く食卓を囲むんだ。


 白身のふちのところを、カリカリに焼いた目玉焼きと、お父さん特製のハーブの香りのソーセージ。レタスをさっと湯がいて、甘酸っぱいソースで和えた一品は、ちょっと辛味も効かせてあって、いくらでも食べられる感じ。今朝のスープは、緑の野菜を何種類も裏漉うらごしした、エメラルドみたいな色合いのもので、薄っすらとオリーブオイルの輝きをまとっている。黄色と赤のパプリカと、旬の真っ白なカブの三色サラダは、身体の中から綺麗になれるような味がするんだ。お父さんの今朝の焼きたてパンは、素朴な堅焼きパンと、ハーブを練り込んだパンの二種類で……って、違う、違う!

 朝ごはんのメニューより、昨夜のネイラ様の不思議な手紙と、手紙をもらうきっかけになった、〈神託しんたく〉が問題なんだった。


 機嫌良く起きてきたスイシャク様とアマツ様は、他に誰もいないから、食卓の上に座って、ごはんを食べることにしたみたい。考えてみたら、鳥が座るっていう表現も、ちょっと変なんだけど、まあ、そこはいいだろう。


 じっくりと焼き上げて、いい色の焼き目をつけたソーセージを、スイシャク様が、おいしそうに食べている。鳥には歯がないはずなのに、噛みちぎるたびに、パリッていい音がするのは、気にしないことにする。

 口直しに三色サラダを差し出すと、黒曜石みたいな瞳が、うっとりと細められて、ものすごく可愛い。ふすふす鼻息を漏らしながら、ふんわりと膨らんでいるスイシャク様に、わたしは戸惑いがちにメッセージを送ってみた。ネイラ様の手紙に書かれていた、〈魂魄こんぱくで会いましょう〉って、どういう意味ですかって。


 わたしの質問に対して、返ってきた答えは、深い溜息だった。スイシャク様ってば、三色サラダを飲み込んだ途端に、ふすーーーって、肩を落としたんだ。丸い可愛い頭まで、うなだれちゃってるよ?

 続いて、わたしに送られてきたメッセージも、何だか困った感じだった。〈文字通りの意味也〉〈神威しんいげき法外ほうがいなること〉〈彼の御方おんかたは、の魂魄を別次元へといざなわんとす〉〈人のことわりを知らんとて、降臨いたせしはずであろうに〉〈□□□□□□□よ、如何いかがなすや〉って。ネイラ様のお誘いは、スイシャク様から見ても、唐突だったんだろう。


 スイシャク様に話を振られたアマツ様は、シャクシャクとレタスを食べながら、上機嫌に微笑んだ。ご神鏡みたいな銀色の瞳をゆるめて、にっこりと。鳥型のお姿だから、笑顔になれるはずがないんだけど、なぜかはっきりとわかっちゃったよ。


 アマツ様は、スイシャク様とは違って、あんまり困っていなかった。真紅の美しい羽根先を振って、緑色のスープを差し出すように、わたしに指示を出しながら、元気良くイメージを送ってきたんだ。

 〈拙速せっそくに傾きしは、待ちびていたがゆえ〉〈我らが眷属けんぞくにして、□□□□□□□□□□の愛子まなごたる雛なれば、魂魄にての逢瀬おうせも可也〉〈我らが導きにて、月の銀橋ぎんきょうへと夜空をけん〉って。


 スイシャク様とアマツ様は、わたしのことをそっちのけにして、そんなメッセージを次々に交換し始めた。別にいい争ってるわけじゃないんだけど、お互いに意見の相違があったんだろう。

 スイシャク様は、いきなり〈魂魄で会う〉なんていい始めたネイラ様を、強引すぎるって思っていて、アマツ様は、別に大丈夫だって思っているみたいだった。普通に〈野ばら亭〉を訪ねてくるか、手紙を送ってくればいいのにって、困りながら呆れているスイシャク様と、親しくなれていいんじゃないのって、軽くいっちゃうアマツ様……。

 これは、あれだ。慎重派の優しいお母さんと、どんどんやってしまえっていう、行動派のお父さんの会話っていう感じだね。話しているのは、巨大な白い雀の神霊さんと、やっぱり巨大な真紅の炎の神霊さんだけど。


 結果的に教えてもらったところによると、〈魂魄で会いましょう〉っていうのは、比喩でも何でもなく、本当にそういうお誘いなんだって。

 人の身として、現世うつしよに顕現していても、ネイラ様の本質は、神々の化身である〈神威の覡〉に他ならない。だから、ネイラ様は、自分の意志によって、自由自在に魂魄だけを分離させることができるし、魂魄だけの存在のときは、人の身のネイラ様を遥かに超える力を振るえるらしい。

 そして、ネイラ様にとっては、魂魄だけで行動するのは、別に特別なことじゃないから、わたしのことも、わりと気軽に誘ったんじゃないかっていうんだけど……もう、どこから突っ込んだらいいのかわかりませんよ、ネイラ様……。


 さっきのスイシャク様みたいに、溜息をついて肩を落としたわたしを、アマツ様が慰めてくれた。すべすべした真紅の頭を、わたしの頬に擦り付けながら、心配しなくても大丈夫だよって、優しくいった。

 ネイラ様の〈至らぬところ〉は、アマツ様が補佐するようになっているから、わたしが寝ている間に、魂魄だけで〈月の銀橋〉に行けるように、助けてくれるんだって。何の危険もないし、残された身体も安全だから、一緒に行こうって誘ってくれたんだ。


 ネイラ様の無茶振りに文句をいっていたスイシャク様も、ふすーっ、ふすーって、鼻息を吹き上げながら、可愛い薄茶の羽根先で、ふっくふくの胸を叩いてくれた。

 こうなったらしょうがないから、〈逢瀬〉を楽しみなさいって。スイシャク様とアマツ様の眷属であるわたしなら、星の海を渡っても、魂の器が耐えられるだろうから、一緒に連れて行ってあげようって、約束してくれたんだ。


 あまりの展開に衝撃を受けながら、わたしは、一生懸命に考えた。魂魄っていうのは謎だけど、ネイラ様に会えるのは、とっても嬉しい。でも、同じだけ、会うことが怖くて仕方がなかったからね。


 本当のことをいうと、ネイラ様の名前を聞くだけで、胸がぎゅっと痛くなっちゃうんだよ、わたし。どきどきして、震えてきて、顔が赤くなっているのが、自分でもわかるくらい。こんなふうに、誰が見たって、こっ、恋をしているってわかっちゃうような状態で、ネイラ様に会っても、大丈夫なものなんだろうか?

 誘ってもらったのが嬉しくて、今も泣きそうなくらいで、すぐにでも顔を見たいって思ってるけど、実際にネイラ様に会ったら、こっ、恋心なんて、お見通しになっちゃうんじゃないの? そして、わたしの気持ちがわかったら、ネイラ様を困らせるんじゃないのかな?


 ネイラ様は、王立学院に推薦してくれて、わたしの未来を大きく広げてくれた。優しい手紙をたくさん書いて、わたしを〈友達〉だっていってくれた。ただの十四歳の平民の少女に、これ以上ないくらい親切にしてくれて、お姉ちゃんとフェルトさんを守るために、力を貸してくれた。

 そんなわたしが、ネイラ様に、こっ、恋をしちゃったのは、ネイラ様を裏切ることにならないんだろうか? ネイラ様に失望されるのは、きっと何よりつらいのに。


 正直なところ、こっ、恋が成就するなんて、わたしはさすがに思っていない。だって、わたしとネイラ様とでは、あまりにも身分に差があるし、そもそも存在としての〈格〉が違いすぎるからね。

 でも、だったら諦められるのかというと、多分、きっと、無理だと思うんだ。わたし、チェルニ・カペラは、一生、ネイラ様のことだけを好きなんだと思う。やたらと鋭いわたしの勘が、はっきりとそう告げているんだよ。


 十四歳の少女にして、一生ものの失恋をしたのかもしれないショックで、頭がいっぱいになっていたわたしは、スイシャク様とアマツ様が、〈神託しんたくかも知れぬ宿命よりも、いとけなき恋情に惑うとは、我らが雛のきことよ〉って、楽しそうに紅白に発光している様子には、ちっとも気が回らなかったんだよ……。


     ◆


 わたしの長所のひとつは、気持ちの切り替えが早いことだと思う。ネイラ様を、すっ、好きになっちゃったのは、もうどうしようもない。この気持ちが、ネイラ様への裏切りにならないかどうか、とっても心配ではあるんだけど、今はどうしようもない。〈魂魄で会う〉なんて、考えただけでくらくらするのも、やっぱりどうしようもない。あれもこれも、わたしには、どうしようもないんだから、いったんは諦めるしかないよね?


 わたしは、ブラウスの袖のところで、にじんできちゃった涙を拭いて、一生懸命に朝ごはんを食べた。最高においしいお父さんのご飯には、深い深い愛情がこもっているんだから、適当に食べたりはしたくないんだ。

 困ったことが起きたり、悩み事ができたりしたときは、おいしいご飯をたくさんたべて、身体を暖かくするといいって、お母さんがいつも話してる。お腹がいっぱいで、暖まった状態だと、人は絶望に囚われたりはしないものなんだって。


 うん。本当にそう思うよ、お母さん。今朝のご飯もおいしくて、スイシャク様とアマツ様が、慰めるみたいに寄り添ってくれるのが、ふくふく、つやつやと暖かくて、わたしは何とか立ち直ったからね。

 深刻な悩みは悩みとして、今は自分にできることをしよう。わたし、チェルニ・カペラ十四歳は、優先順位を理解する少女なのだ。


 食後のデザートとして用意してもらっていた、りんごのコンポートまで完食してから、わたしは自分の部屋の壁と向き合った。うじうじと悩むんじゃなく、ちゃんと考えようと思ったんだ。

 座礼の形を取った、わたしの左右には、スイシャク様とアマツ様が座っている。興味津々に瞳を輝かせて、〈其は面白き者也〉〈く、思案せよ〉〈我らが助言をば行わん〉とかって、イメージを送ってくるから、ちょっとだけ迷惑だったことは、わたしだけの秘密にしよう。


 同級生の女の子たちが肩に載せていた、小さな蛇については、結論が出ている。一回だけ、真剣に忠告をして、それで変わらないようだったら、わたしは一切かかわらない。冷たいようだけど、それが道理だと思うんだ。


 わたしが、〈神託しんたく〉である可能性については、保留にしておくべきだろう。いろいろと悩んだところで、正解なんて出そうにないしね。

 本当は、すぐにでも答を知りたいけど、人の都合で神霊さんを動かそうとしてはいけないって、ルーラ王国では子供だって知っている。神霊さんと人とでは、時間の感覚も、善悪のとらえ方も、大元おおもとことわりだって違うから、人の思い通りにはならないんだよ。


 ただし、自分で考えること自体は、悪いことじゃないと思う。逆に、何でもかんでも神霊さんに答だけを教えてもらおうとする方が、不敬なんじゃないかな? わたしがそうであるかどうかは別にして、〈神託の巫〉とは何か、自分でも調べてみようか?

 目をつぶっていても感じられる、スイシャク様とアマツ様のきらきらした瞳の輝きと、さっきから紅白に発光しちゃってる様子からすると、どうやら正解らしいんだけど、こういう〈合いの手〉って、やる気を削ぐというか、ちょっとやりにくい……。


 わたしは、左側でふっくふくに膨らんでいるスイシャク様と、右側でぱちぱちと鱗粉を撒き散らしているアマツ様に向かって、メッセージを送ってみた。わたしが言葉で尋ねたら、二柱はすぐに答えてくれるけど、メッセージを送ること自体が、神霊さんへの〈祈祷きとう〉の訓練になると思うから、最近はずっとそうしているんだ。


 〈神託の巫について知りたいんですけど、何かの本に書かれていますか?〉って聞いたら、スイシャク様もアマツ様も、揃って首を傾げた。多分、神霊さんから見て価値のある文献って、ないんじゃないかな?

 〈王立学院に行けば、教えてもらえますか?〉って聞いたら、二柱とも、さっきと反対側に首を傾げた。きっと、王立学院の先生でも、はっきりとは教えられないんだろう。

 〈ネイラ様にお尋ねしたら、教えてもらえますか?〉って聞いたら、ぴかぴかぴかぴか、目が痛くなるくらいの勢いで、紅白に発光された。うん。ネイラ様なら、やっぱり知っているんだね。


 ちょっと質問を変えて、〈わたしが祈祷の練習を重ねたら、何かの役に立てますか?〉って聞いたら、ぴかーっ、ぴかーって発光したうえに、メッセージが送られてきた。〈殊勝しゅしょうなる心掛け也〉〈祈祷こそは、其が役目の内〉〈く始めん〉〈微睡より目覚め、我らが名を呼ばん〉って。

 何だかよくわからないけど、わたしが祈祷の訓練をするっていうと、スイシャク様もアマツ様も、いつもとっても喜んでくれるから、意味のあることなんだろう。


 よし! 二柱には、とてつもないご恩を受けているし、〈神託の巫〉について調べる方法も、今のところなさそうだし、入試の勉強はとっくに終わっているし、今日は祈祷の訓練をしてみよう。

 ぴかぴかぴかぴか、ぴかぴかぴかぴか。上機嫌で発光する、紅白の鳥を横目で見ながら、わたしはまたまた考えた。神事の場合、よく歌や舞を奉納するよね? 舞の方は、まったくわからないけど、歌だったら、祝詞のりとふしをつけたらいいんじゃないだろうか?

 とっても恥ずかしいけど、スイシャク様とアマツ様が喜んでくれるかもしれないから、やってみようかな?


 わたしが、視線でお伺いを立てると、スイシャク様もアマツ様も、勢い良く首を振って、期待のこもった目を向けてくれた。

 スイシャク様とアマツ様に、深い感謝を伝えるための祝詞……。そう考えたとき、わたしの頭に浮かんできたのは、なぜかこんな一説だった。


〈四方万里に轟弥 垂迹神の弥栄 神代の威光輝かし 別天津神天津神〉

(しほうばんりにとどろきわたる すいしゃくしんのいやさかえ かみよのいこうかがやかし ことあまつかみあまつかみ)


 どうして、こんな祝詞が浮かんできたのか、自分でもわからない。習った覚えもないし、何だったらまったく意味もわからない。わたしは文学少女だから、むずかしい祝詞でも、大抵の内容はわかるんだけど、これはお手上げだった。


 でも、途中で祈祷を止めるのは、とっても失礼なことだから、わからないなりに、心を込めてやってみよう。そう決めて、〈四方万里に〉あたりまで歌ったところで、両肩に軽い衝撃がきた。

 集中していたから、びっくりして目を開けると、ものすごく困った表情のスイシャク様と、ものすごく笑いをこらえているアマツ様が、左右からわたしの肩を揺さぶっていたんだよ。


 微妙に視線を逸らして、わたしの目を見ないようにしているアマツ様からのメッセージは、こんな感じだった。〈面妖めんようなる節の面白きこと〉〈人の子には、向き不向きのありければ、無理はせぬが良き〉〈其は、非常なる音痴也〉〈其の心情は届きたる〉〈愛し愛し〉だって!

 そうなんだよ。うっかり忘れていたけど、わたしってば、あのアリアナお姉ちゃんが吹き出したことがあるくらいの、すっごい音痴だった……。


 ふすううううって、深い溜息をついたスイシャク様からのメッセージは、こんな感じだった。〈其の天稟てんぴんは、歌舞音曲かぶおんきょくにはあらぬらし〉〈人の子は、完璧にはならぬもの〉〈其が言霊ことだまにて、祈祷を成すが吉〉だって!

 つまり、わたしには歌や踊りの才能は皆無だから、その方面は諦めろってことだよね? いたわりと慰めに満ちた、スイシャク様の黒曜石の瞳が、余計に心に刺さる気がする……。


 スイシャク様とアマツ様は、わたしの頭に浮かんできた、不思議な祝詞の内容については、何もいわなかった。むしろ、話題を逸らす感じで、音痴をからかわれていたことに気づかないまま、このときのわたしは、がくんと肩を落としたんだ。


 優しいスイシャク様は、くつくつと笑っているアマツ様を、軽く羽根先で叩いてから、いってくれた。〈其が未だ知らぬ神に、祈祷にて出会いをわん〉って。

 なるほど。スイシャク様やアマツ様とは、かなりメッセージのやり取りができるようになっているから、わたしの知らない神霊さんに、言葉を届ける練習をするんだね?


 素直な少女であるわたしは、さっきの祝詞のことはすっかり忘れて、真剣に考え込んだ。知らない神霊さんっていわれても、漠然とお祈りするだけだと、多分、何もメッセージを届けられない。ほんの少しでもいいから、何かの〈縁〉のある神霊さんか、お願いしたいことのある神霊さんじゃないと、イメージが湧かないんだよね。


 壁に向かって座礼を取るのをやめて、わたしは、何となく部屋の中を見回した。ふかふかで可愛い、水色のじゅうたん。ほんのちょっとだけ、小さなサクラの花びらの模様が入っている、お気に入りの家具類。ぎっちぎちに本が詰まった、大切な本棚。二柱の神霊さんと一緒に寝るようになった、わたし好みの堅めのベッド。お姉ちゃんが買ってくれた、猫足の文箱を置いているのは、深い茶色の色合いが綺麗な飾り棚で、一番目立つ場所には、ネイラ様の編んでくれたショートマフラーを飾ってあって……。

 おお! ぴんときちゃった! あの畏れ多いマフラーには、アマツ様の羽根が編み込まれていて、羽根を毛糸にするために、羊を司る神霊さんに、協力してもらったんじゃなかったっけ? だったら、羊を司る神霊さんに、わたしからもお礼をしよう!


 スイシャク様もアマツ様も、満足そうな感じだったから、わたしは早速、精神を集中させることにした。もう歌うなっていわれたから、言葉として祈祷するんだ。


 アマツ様の羽根を毛糸にしてもらったので、グレーのショートマフラーの中に、チカチカって、紅いきらめきが入っていて、本当に綺麗です。ありがとうございましたって、心を込めてお祈りをしたら……来ちゃったよ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 月の銀橋での逢瀬ロマンチックですな〜 そして音痴すぎて神様にフォローされるチェルニちゃん可愛い さてさて羊の神霊様はどんなタイプなのかなー
[一言] いつも楽しく拝読してます! 昨夜は少し体調が悪く、感想コメントしようと思ってたのが遅れました…。 いつもながらワクワクしながら読みました! チェルニちゃんの微睡みからの目覚めも近そうで益々続…
[一言] かなり尊い存在なのに、チェルニちゃんを通すと一気に親しみやすくなるスイシャク様とアマツ様。 パリって音はほんとどこからさせてるの!? 祝詞を歌にのせる発想はきっとよかったんだろうね…御二柱も…
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