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 スイシャク様が見せてくれる視界は、それからも目まぐるしく入れ替わった。くるりくるり、くるりくるり。数日のうちに、その不思議さに慣れてきちゃったけど、考えてみたら、これってすごいことなんだよね?

 改めて、腕の中でふくふくしている、スイシャク様を覗き込むと、つぶらな瞳で首をかしげられた。尊い神霊さんのご分体で、わたしだって崇敬(すうけい)していて、でもとっても可愛いくて、思わず口元がむにむにしちゃったよ。


 ともあれ、次にわたしの目に映ったのは、必死に馬を走らせている騎士っぽい人だった。あの服装と顔は、はっきりと覚えている。フェルトさんを拘束しようとして、かせの神霊術を使った、悪人の一人だよ。

 いくら郊外とはいえ、まだ夕方になるかどうかっていう時間だから、それなりに歩いている人もいるし、馬車や馬だって走っているのに、騎士っぽい男は、かまわずに馬車道を疾走させている。怒ったような顔で、歯を食いしばっているから、きっと追い詰められた気分なんじゃないかな。


 しばらくすると、騎士っぽい男は、急に走る速度を落とした。前からは、中型の箱馬車が走ってくる。紋章とかのついていない、どこにでもある箱馬車だった。

 相手の馬車も、騎士っぽい男の姿を見て、速度を落としたみたい。騎士っぽい男と箱馬車は、それぞれに馬の足を止めて、近寄っていったんだ。


 箱馬車の窓を開けて、不機嫌そうな顔をのぞかせたのは、前クローゼ子爵であるオルトさんと、息子のアレンさん。その横には、ナリスさんとミランさんの姿も見えた。クローゼ子爵家の方も、悪人が一台の箱馬車に勢揃いしちゃってるよ。

 騎士っぽい男は、さっと馬を降りて、馬車へと駆け寄った。窓から顔を出したオルトさんは、声を潜めて聞いた。


「どうした。出迎えでもあるまいし、何か問題でも起こったのか?」

「残念ながら、不首尾ふしゅびです、クローゼ子爵閣下」

「不首尾とは、どういうことだ? まさか、〈白夜びゃくや〉がしくじったのか? どこが不首尾なのか、はっきりしろ。フェルトはどうした? 〈白夜〉の根城ねじろにいるのか?」

「正確には、わかりません。誘拐も放火も成功したという報告を受け、フェルトも根城に拉致されてきました。ところが、〈野ばら亭〉の娘を入れているはずの木箱には、〈白夜〉の者が詰め込まれていました」

「ということは、誘拐は失敗か。しかし、そうだとしたら、なぜ失敗したという報告が入らないんだ。〈白夜〉からは、成功したと知らせてきたんだな、アレン?」

「そうです。風の神霊術で送られてきた紙には、娘を誘拐し、〈野ばら亭〉は燃やしたと書かれていました」

「わたしも、アレンと一緒に報告を見ましたよ、伯父上。別の紙には、守備隊からフェルトを連れ出したと、はっきり書いてありました」

「〈白夜〉め、口ほどにもない。気にかかることはいくつもあるが、問題はフェルトだ。フェルトは誘い出せたのだろう? しっかりと拘束しているのだろうな?」

「それが、そちらも失敗しました。あの男、力の神霊術を使うのです、二十人以上で取り囲んだのに、あっという間に叩き伏せられました。わたしだけが、隙を見て逃げ出し、閣下に急を報告するべく、馬を走らせておりました」

「力の神霊術だと?」

「はい。それも、強力な術です。十人や二十人では、とても歯が立ちませんでした」


 騎士っぽい男の報告に、オルトさんは、すごい形相ぎょうそうで唇を噛み締めた。アレンさんも同じで、なんだか異常に悔しそうに見える。

 不思議に思って、首をかしげていると、わたしとスイシャク様を交互に見たヴェル様が、微笑みながら教えてくれた。


「ふふ。御神鳥とチェルニちゃんが、揃って首をかしげているのは、誠に愛らしいですね。いとも尊き御方には、不敬な発言ではございますが。クローゼ子爵家にとって、力の御神霊の加護は、特別な意味を持つのですよ、チェルニちゃん。歴代の英雄の一人に数えられる初代のクローゼ子爵、近衛騎士団長となったいく人かのクローゼ子爵、そしてマチアス殿が、いずれも力の神霊術の使い手だったのです」

「うわぁ。すごいんですね、クローゼ子爵家。もしかすると、マチアス様が後継になったのも、その関係だったりします?」

「本当に聡明ですね、チェルニちゃんは。先先代の近衛騎士団長だったクローゼ子爵は、ご自分も力の御神霊の印を持った方で、同じ〈印持ち〉のマチアス殿を、高く評価していたのです。けれども、それ以外の者は……」

「もらえなかったんですか、印を?」

「ええ。〈神去かんさり〉になる前は、それなりに神霊術の使い手であったオルト・セル・クローゼも、嫡男のアレン・セル・クローゼも、それ以外の一族の者も、誰も力の御神霊から印を許されてはいないのです。ずいぶんと悔しがり、不平不満を溜めていたようですよ、オルトは。力の御神霊の印は、近衛騎士団長の象徴ともいえるものですから」


 うわぁ。お祖父さんやお父さんが持っていている、〈近衛騎士団長の象徴〉の神霊術を、自分たちは使うことができないのに、フェルトさんが使っちゃったんだよね? 何というか、それって、すごく腹が立つんじゃないかな?


 わたしが、不安を感じて目を凝らすと、怒りの形相を浮かべていたオルトさんの顔が、見る間に変わっていった。額に〈瞋恚しんに〉の文字がくっきりと浮かんできたかと思うと、どんどんひび割れていったんだ。

 〈瞋恚〉の言葉の意味って、人をねたんで、憎んで、怒り狂うことだったよね? 今のオルトさんには、ぴったり過ぎるんじゃないの?


 視界を共有しているヴェル様も、冷たくて厳しい視線で、オルトさんを見つめている。スイシャク様とアマツ様は、わたしを紅白の光でぐるぐる巻きにしながら、交互にメッセージを送ってきた。

 〈益体やくたいもなき者共也〉〈またしても《鬼成きなり》とは、罪深きこと〉〈娘の初手は三岐みまた。父なる者は如何いかが成也なるや〉〈手に負えぬは《瞋恚》の炎。己が魂魄こんぱくこそを焼き尽くす、哀れなる炎〉って。オルトさんってば、〈鬼成り〉しちゃうみたいだね……。


 オルトさんは、今までの余裕っぽい態度を捨てちゃって、血走った目を大きく見開くと、こういった。


「フェルトが力の神霊術だと? ふざけるな! 力の神霊の印は、クローゼ子爵家の正当な後継にこそ相応ふさわしいものだ。ただの騎士爵の息子のくせに、わたしの父親を名乗るマチアス。どこの馬の骨が生んだとも知れない不義の子、クルトの息子。そんな下賤げせんな者が、どうして印を許されるんだ!」


 叩きつけるみたいな勢いで、オルトさんは叫んだけど……あれ? オルトさんってば、今、どさくさにまぎれてなんていったの? フェルトさんのお父さんであるクルトさんを、〈誰が産んだかわからない〉っていった? クローゼ子爵夫人だった、〈毒念どくねん〉のエリナさんが、お母さんじゃないの? えぇ?


 わたしが、びっくりして口を開けている間に、額で光る〈瞋恚〉の文字は、ばらばらばらばら、はがれ落ちていく。そして、噛み締めた唇に血がにじんだところで、スイシャク様とアマツ様が、揃って強い警告のメッセージを送ってきた。〈来た〉〈いとも浅ましき、鬼成り也〉って。

 オルトさんの額の文字は、剥がれ落ちたと思った途端、どろりとけた。そして、オルトさんの喉元の皮膚が、ぼこりぼこりと波打ったかと思うと、いきなり大きな蛇が飛び出してきたんだ!


 オルトさんの喉元の蛇は、カリナさんみたいに腐ってはいなかった。ただ、毒々しい色の炎に巻かれて、轟々(ごうごう)と燃え盛っていた。

 首元の蛇は、くるっと一周、オルトさんの首に巻きついてから、威嚇(いかく)するみたいに伸び上がった。オルトさんの首と同じくらいの太さのある、どす黒い炎に包まれた胴体は、途中から四匹の蛇に分かれている。赤黒い炎の蛇と、青黒い炎の蛇と、灰色に血管みたいな赤い色が走る炎の蛇と、黒ずんだ黄色い炎の蛇。

 四匹の蛇は、口からねばねばした液体をしたたらせながら、気持ちの悪い鳴き声を上げていた。ギシャーギシャーって。


 スイシャク様が、すぐに〈怨嗟えんさ〉〈妬心としん〉〈傲岸ごうがん〉〈憤怒ふんど〉の蛇だって教えてくれた。〈嫉妬と怒りに身を焼く四岐よまた〉なんだって。うん。なんとなく、そんな感じがする。すごくする。


 オルト・セル・クローゼという人は、子供たちの誘拐事件に加担して、〈神去り〉になって、マチアスさんを馬鹿にして、使者ABを利用しようとして、遂にはフェルトさんや、わたしたちまで殺そうとした。神霊さんにだって救いようのない、救う価値のない、最低最悪の罪人に違いない。

 でも、ほんの少しだけ、髪の毛一本の分くらいだけ、わたしはオルトさんを可哀想に思った。オルトさんの逆上ぶりを見ていたら、魂の底の底から、力の神霊さんの印がほしくって、ずっと妬んで苦しんできたんだって、わかっちゃったから……。


 もちろん、そんなことは言い訳にもならなくて、厳しい罰が必要なことには、全然、まったく変わりはないんだけどね!


     ◆


 四匹の蛇は、ギシャーギシャーって、勢いよく鳴きながら燃えているけど、オルトさん自身は、なんとか平静を取りつくろうことはできたんだろう。唇に滲んだ血を、手のこうで乱暴にぬぐってから、騎士っぽい男にいった。


「誘拐が失敗だというなら、我々はいったん屋敷に戻る。おまえは、大公閣下に事情を御説明して、御指示を仰げ。騎士の増員も必要だぞ」

「承知しました。わたしの同僚が三名、〈白夜〉の根城に取り残されているのですが、やつらはどうしますか?」

「捨てておけ。キュレルの守備隊に連行されたところで、平民ごときが大公家の私設騎士団に手出しできるものか。閣下に手を回していただくしかないだろう」

「さすがに露見しますよ、〈白夜〉への依頼は」

「我がクローゼ子爵家は、関与していない。〈白夜〉に依頼したのは、ロマンとギョームの二人だ。主家しゅけの後継を案じた二人が、勝手に依頼をしただけのこと。クローゼ子爵家の罪は、臣下の管理不行き届きだけだ。そして、その責任を取るのは、当代のクローゼ子爵だろうさ」

「なかなか、苦しい釈明ですな。通りますか、そんな話が? 宰相は納得しないでしょう」

「大公閣下が、無理にも通してくださるさ。いくら宰相でも、この程度のことで、正面から大公閣下に敵対はしない。平民の殺人未遂くらい、目をつぶるだろう」

「そう簡単に収まりますかね。まあ、議論していても仕方ない。行ってきますよ」


 そういうと、騎士っぽい男は、箱馬車を置いて馬に乗り、王城の方角に一気に走り出した。オルトさんたちの乗った馬車も、急いで方向転換して、元の道を引き返していく。

 わたしは、その様子を見ながら、けっこう混乱しちゃってた。だって、新しい情報が多過ぎたからね。


 オルトさんと、騎士っぽい男の会話を思い返して、わたしがうなっていると、ヴェル様が優しく話しかけてくれた。


「可愛らしい顔に、大きな疑問符が浮かんでいますよ、チェルニちゃん。驚きましたか?」

「はい! はい!」

「ふふ。何でしょう、チェルニちゃん?」

「オルトさんってば、さっきの会話の中で、フェルトさんのお父さんのことを話してましたよね? お父さんのクルトさんって、クローゼ子爵家の三男じゃなかったんですか? わたしの聞き間違いですか?」

「聞き間違いではありません。オルト・セル・クローゼは、力の御神霊から印を賜った、フェルト殿への嫉妬のあまり、つい口を滑らせたのでしょう」

「フェルトさんの生まれのこと、何か知っているんですか、ヴェル様?」

「古い噂としては、以前にも流れていたのですよ。貴族社会のたしなみとして、誰も追及したりはしませんでしたが。詳しいことがわかったのは、つい先日です。我が主人のお力で、マチアス殿が不当な契約から解放されたときに、話してくれました」

「わたしが教えてもらってもいいことですか、ヴェル様?」

「もちろんですよ、チェルニちゃん。〈野ばら亭〉の皆さんは、フェルト殿の家族になるのですから。ただし、今はまだ、フェルト殿ご自身も知らないことなので、先にお教えすることはできません。この事件が解決し、関係者の処分と処遇が確定するまで、待ってもらえますか? 形としては、フェルト殿もマチアス殿も、クローゼ子爵家に連なっていますし、関係各所との調整も必要ですので」


 なるほど。ヴェル様の話は、今ひとつわからないけど、フェルトさん自身が知らないことなら、わたしも聞かなかったことにしよう。聞き分けのいい少女なのだ、わたしは。


「了解です。わたしの大好きなお父さんが、〈父親が誰であれ、アリアナの幸福とは関係ない〉って、前にいってたので、大丈夫です!」

「娘と呼ばれる存在が、すべてチェルニちゃんのようであったら、この現世うつしよの父親たちは、さぞ幸福なことでしょうね」


 にっこりと微笑んで、そういったヴェル様は、代わりにいろいろなことを教えてくれた。子爵家くらいの貴族だったら、護衛騎士は二人か三人が普通で、クローゼ子爵家の人数は、明らかに多過ぎること。不審に思った〈黒夜こくや〉の調べで、その護衛騎士たちは、大公家からの貸し出しだって判明したこと。大公家は、五十人まで私設騎士団を持っていいって、王国の法律で認められていること。今の大公閣下は、何かと悪い噂のある人で、エリナさんとの関係も有名だったこと……。

 事情がわかって、納得できたのは確かだけど、平民の十四歳の少女が耳にするには、やっぱり重たい話だったと思う。


 そして、ちょうどヴェル様の説明が終わったとき、スイシャク様が視点を切り替えてくれた。くるくるっと動いて、わたしの目に入ってきたのは、王都の街の高級店、葉巻を扱っているはずの、〈白夜〉の本拠地だった。

 豪華な応接室みたいな部屋には、五人の男の人がいた。三人は、以前、スイシャク様が見せてくれたときと同じ、上品な商人に見える人たちで、〈白夜〉の首謀者と幹部たち。二人は、どことなく呆然とした顔をした、普通っぽい人たち。

 ヴェル様が、〈あの二人のこんは、《虜囚の鏡》の中で、神の業火に焼かれていますよ〉って教えてくれたから、〈野ばら亭〉を放火するための下準備に来た、悪人たちなんだろう。


 人の魂には、精神を司るこんと、肉体を司るはくがあって、そのこんだけを虜囚にしたんだって、ヴェル様がいってた。こんのない状態で、〈黒夜〉の〈人形〉にするんだって。

 二人の悪人の、抜けがらみたいな顔を見ていると、それが本当に怖いことなんだって、わたしにもよくわかったよ。


 〈白夜〉の長らしい、穏やかで上品な顔をしたおじいさんが、瞳だけを刃物みたいに光らせて、二人の〈人形〉に聞いた。


「今、何といったんだ、お前たち?」

「風の神霊術で、次々に連絡が来ました。〈野ばら亭〉の娘の誘拐に失敗。〈野ばら亭〉の放火に失敗。フェルト・ハルキスの拘束に失敗。今回の仕事に当たった者のうち、二十人が捕縛された模様です」

「……。誰に捕縛されたというんだ?」

「キュレルの街の守備隊です」

「田舎街の守備隊ごときが、なぜ我らを止められる? 事前に情報が漏れていたのか? そうでもなければ、捕縛など不可能だろう」

「クローゼ子爵家に売られたんじゃありませんか、かしら?」

「馬鹿馬鹿しい。奴らがそんなことをして、何の得があるんだ?」

「しかし、そうとでも考えないと、説明がつきませんよ。おい、おまえたち。放火の下準備は、問題なく実行したといったな。間違いないんだろうな?」

「はい。間違いありません」

「捕縛された者たちは、もう連行されたのか?」

「王都郊外の根城から、キュレルの街までは、それなりの距離がありますから。時間的にいって、連行している途中だと思われます」

「どうします、頭? このまま身を隠しますか?」


 〈頭〉って呼ばれたおじいさんは、少しの間、厳しい顔で考え込んでから、〈人形〉の二人と幹部たちに命令した。


「二十人もの人間を連行するんだ。どうしても足は遅くなる。〈白夜〉を総動員して、キュレルに向かう道筋で襲撃しろ。何人くらい集められる?」

「今すぐとなると、二十人には欠けますな」

「十分だ。飛び道具と神霊術を使って、全員殺せ」

「まさか、拘束されている仲間もですか?」

「そうだ。二十人で二十人を助けることなど、王国騎士団でもなければ不可能だ。口をふさげば、それでいい」

「わかりました。すぐに準備にかかります」

「急げ」


 〈白夜〉ってば、拘束された仲間を、口封じのために殺そうとしているよ! 〈野ばら亭〉を放火しようとしていたことでも、わかってはいたけど、本当に悪人なんだね。

 フェルトさんたちが心配になって、思わずヴェル様を見たら、大丈夫だよって、笑ってくれた。うん。ヴェル様たちが、それを予測していないはずがないし、〈黒夜〉にはすべての情報が流れているんだから、きっと大丈夫なんだろう。


 信頼の気持ちを込めて、ヴェル様に笑い返したところで、くるくるっと視界が動いた。目に飛び込んできたのは、もうおなじみのクローゼ子爵家だった。

 お屋敷の奥にある図書室の、さらに奥にある隠し扉の向こう。使者ABと一緒に、戸棚を確かめているマチアスさんの手元に、薄っすらと光る紙が現れた。風の神霊術を使った、連絡なんだろう。マチアスさんは、その紙を開いてから、こういった。


「〈黒夜〉からの連絡だ。もうしばらくしたら、オルトたちが逃げ帰ってくるらしい」

「目当てのものも見つかりましたし、離れに戻りますか、閣下?」

「いや、証拠さえ手に入れば、隠れる必要などないからな。別れの挨拶に、この場でオルトたちを迎えてやろう。仮にも、父と呼び、息子と呼んだ間柄だったんだ。長過ぎる因縁いんねんに、そろそろけじめをつけたい」


 そういって、マチアスさんは、微かに笑った。マチアスさんの気持ちが透けて見える、哀しそうな微笑みだった。


 こうして、わたしが家でのんびりと紅茶を飲んでいる間に、あっちでもこっちでも、事態は目まぐるしく動き続けていくんだね……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 往復書簡がとうとう本編にたどり着いたので、またもやこちら本編を通して読み直し、改めてこの怒涛の展開に唸らされております。 ガンガン真相が明かされていくのにさらに謎も上乗せされていく……状況が…
[一言] マチアスさんに対する過剰なまでのマウントは、この力の御神霊の印を自分たちはもらえなかったというコンプレックスもあってのことなのかな。 やたら血筋とかこだわって、プライド高そうだもんね。 つい…
[良い点] スイシャク様とチェル二ちゃんがそろって首をかしげてる姿……尊い [一言] なるほど、子爵家にとって力の神霊術ってそういう意味があったんですね。 それが、子爵家の正当な血を引き、かつ大公家の…
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