獣人族
馬車で2日、僕たちは『ギラーフ』に到着した。
「……ここが、ギラーフ」
「なんて言うか……」
「想像と全く違う」
「わーい! 森だ!!」
僕たちが想像していたギラーフはメッツァルやボルケイノみたいな見た目を想像していた。
けれど、実際はエルフの森の様な場所だった。
別に、気を落としたとかではない、決して。
いや、確かに、気を落とした訳では無いという訳でも無い。
だが、この森はエルフの森とは決定的な違いがあった。
それは・・・
「外側は霧が深いな」
自然に発生したこの霧だった。
エルフが人口の結界だとするならば、獣人族は自然の結界だ。
「皆様、くれぐれも獣人族の連れ無しで外に出ないでくださいね」
獣人族の御者は最後にそれを言って去ろうとしたが、一人の人族が手を挙げた。
「質問です。もし、獣人族の連れ無しで外に出たらどうなるんですか?」
その質問は僕も気になっていたものだった。
そして、それに対しての答えは端的で恐ろしいものだった。
「死にます」
「……え、死、ですか?」
「はい。この森は自然に発生した霧が大半です。そして、この霧はこの大陸が出来たころからありました。それに、適応した魔物、動物がこの森にはうろうろしています。そして、その魔物たちはとても強いです。そこら辺にいる冒険者では太刀打ちできないでしょう。獣人族ですら手をこまねいていますから」
獣人族の特徴として、五感が人族や魔族より優れている。魔法が使えない代わりに物理的な動きがどの種族よりも最強。
そういった情報が昔孤児院にいる時に読んだ本に書いてあった。
「それでは、皆さん。このまま、街の中に入りますよ」
街の中は、エルフの森とはまた違う。エルフの森は木を彫り抜いてそこに家具などを置いていたが、ギラーフは木の枝の根元に木が建てられ、その間を釣り橋が渡っていた。
「それでは、皆様、先ほど言った言葉を忘れないでくださいね」
それだけ言って、獣人族の御者はお店の中に戻って行った。
僕たちは、新たな街に着いた時に行うルーティーン、宿探しを行った。
そして、問題なく宿を見つけ終わった。
「い、いらっしゃいませ!!!」
僕たちが泊った宿には犬の獣人族の子供がいる宿に決まった。
宿の前で、小さな声で宣伝を行っていた。その姿に、女性3人が惹かれた。
「可愛いわね~。貴女、この宿屋の子?」
レイさんがそう聞くと、その子は無言で怯えながら小さく頷いた。
その姿に、ノルメとカリーナも胸を打たれていた。
「お~、よしよし、お菓子食べる?」
カリーナの子供にお菓子をあげながら頭を撫でるその姿は、犯罪者そのものだった。
ノルメは、カリーナからお菓子を貰って振っている尻尾に心を打たれていた。
「カリーナ、この子の尻尾凄くモフモフだよ」
「え!? 私も触る」
「ちょ、ちょっと、私にも触らせなさいよ」
そろそろ止めないと、と思って、その子の顔を見るとまんざらでもなさそうな顔で喜んでいた。
これじゃあ、止めることも出来ない。なので、先に中に入って部屋を取って置いた。
「はい。3人部屋と一人部屋でお願いします」
「はいよ。それにしても、あの人たち、私たちの娘を気に入ってくれたのね。嬉しいわ」
「そう言えば、あの子の名前って何ですか?」
「『イヌヤマ ミレイ』よ」
「!?!? そ、そうですか、ありがとうございます」
なんだよ、その名前。まるで日本じゃないか。
多分、漢字は使っていないが、それに似たものを感じる。
まぁ、それは置いておいて、そろそろあの3人を連れてこないと。
そう思って、表の方を見に行くと、ミレイちゃんは既にカリーナたちに溶け込んでいた。
まんざらでも無い笑顔が、普通の嬉しそうな笑顔に変わっていた。
「3人とも、ミレイちゃんのことそろそろ離してあげて」
「「「ミレイちゃん?」」」
「う、うん」
「「「名前も、か、可愛い!!」」」
「えへへ~」
それからも、3人はミレイちゃんに付きっきりだった。
翌日、冒険者ギルドに向かって獣人族を一人雇うことにした。