フォーティス大陸
5日の船の旅を経験し、僕たちはフォーティス大陸に降り立った。
「着いた! ここが、フォーティス大陸か!!」
「初めての船、楽しかった! また乗りたいね、ノルメ!」
「はい! 絶対に乗りましょうね。でも、レイさん……」
「わ、私は……うっ……吐きそう……」
「ノルメ! 回復!」
レイさんは乗った瞬間はそう言った症状は全くと言っていいほど発症していなかった、僕を誘惑するほどの体力もあった。しかし、数時間が経過すると、レイさんが僕の元に顔色を悪くして近寄って来た。
「フォレスちゃん……吐きそう」
レイさんをデッキまで連れてきて、海の中に吐かせた。
その後、直ぐにノルメを呼んで回復を使って貰った。
それで、少しはマシになったが、レイさんはそこから地獄を見ていた。
次、大陸間を渡るときは何か別の渡り方を考えていたほうが良いだろう。
回復を使って数分後、レイさんは復活した。
「うん、大地、落ち着く!!」
そう言って、レイさん土の上に顔を擦り付けた。
「ちょ、ちょっと! レイさん! やめてくださいよ!」
周りからの視線が物凄く痛い。
「ねぇ、お母さん。あれは、何してるの?」
「こら、見ちゃいけません! 行きますよ」
「はーい」
その親子のやり取りが聞こえて、物凄く恥ずかしくなった。
「レイさん! 恥ずかしいので、今すぐにそれを止めてください!」
「も、もう少しだけ」
「ダメです!」
力ずくでレイさんを立たせ近くのレストランに入った。
「にしても、この街は獣人族が多いですね」
「確かに、そうですね」
そう、この街は獣人族が多い。と言うか、獣人族しかいない。人族は僕しかいないかもしれない。
そのことに疑問を持っているとウェイトレスさんが教えてくれた。
「お客様はこの大陸は初めてですか?」
「そうですね、初めてです」
「やっぱり、この大陸は、獣人族が9割を占めています。なので、必然的に獣人族が街に多くなるんですよ」
という事らしい。
獣人族、街に入ってからその姿を見ていたが、僕は物凄く興奮していた。
興奮はしていたが、それをレイさんに知られていけない。それを知られてしまったら、一生弄られてしまう。それが、分かっていながら表面上に出す馬鹿ではない。
「なるほど、ありがとうございます」
「いえいえ、それでは、注文が決まり次第お呼びください」
「さて、3人は何食べる?」
レストランで腹ごしらえをして、僕たちは馬車に乗って目的地の街に向かった。
僕たちが目指す街は近くに魔王と勇者の遺跡がある街『ギラーフ』という場所だ。
ギラーフは、この大陸に存在している街で一番大きい街で、一番発展しているらしい。
そうなると、遺跡が観光名所になっている可能性が出てくる。
「それだけは、止めて欲しいな」
「? どうかした?」
「う、ううん、何でもないよ」
心の声が漏れてしまった。
馬車に乗って移動中の僕たちは、暇を持て余していた。
カリーナとノルメは魔力をボール状にして、レシーブのようなことして床に落としたら負けというゲームで遊んでいる。
レイさんは、一人静かに外を眺めていた。
「レイさん、カリーナたちと遊ばないんですか?」
「そうね、でも、今はこの景色を見ていたい気分なの……」
レイさんが見ている景色は木々が生える唯の森……。
そうか、僕にとって唯の森だとしても、レイさんにとってはこの森はエルフの森に近い場所なのかもしれない。
「レイさんは、エルフの森に戻りたいですか?」
「え?」
「レイさんにはこの森がエルフの森に見えるのかと思って、ホームシックなのかと思って……」
「……あ、ふふふ、違うわよ。エルフの森しか見てこなかった私は他の森に憧れを持っていたんです。だから、こうやってエルフの森以外の森が新鮮なんですよ」
「何か、違うんですか?」
「えぇ、エルフの森とは全く違うわ。例えば、魔力の豊富さに、生えてる植物、生きてる動物、全く違うわ」
確かに、地球でもアメリカと日本じゃ生きている動植物は違う。
それは、異世界でも変わらない。
そうなると、一つ気になってしまう。
「レイさんは、エルフの森とこの森どっちが好きですか?」
レイさんは僕の質問に少し驚いた表情をして、直ぐに笑った。
「もちろん、エルフの森よ。確かに、こっちの森は魔力がエルフの森よりも多くて、使った魔力の自然回復の速度がエルフの森よりも早くて、生活水準がエルフの森よりも高くなるだろうけど、エルフの森の雰囲気が私は好き。これから、どんなにすばらしい森と出会ったとしてもこれは変わらないわ」
そう言って、レイさんは森から目を外して、カリーナとノルメと一緒に遊びだした。
それから、2日後。
目的地の『ギラーフ』に到着した。