魔王の帰還
魔王城に帰ってきたリュクスは遥か昔から使っている自室に向かっていた。
「外は廃墟の見た目なのに、中はちゃんと掃除されてるんだな」
「はい。それは、私が説明したしますわ」
パールはリュクスの前に跪いて説明をしようとした。
それをリュクスはパールの腕を掴んで立たせた。
「これからは、そういった行動は控えてくれ。……立場は平等でいたい」
「……リュクス様!!」
昔との変わりようにパールとセバスが口を開けて驚いていた。
昔のリュクスだったら、リュクスの目の前に膝まづいただけで、進路を塞いだとしてそのままリュクスに蹴られていただろう。その所為で、全治三か月ほどの怪我を負って魔王と勇者の戦いに参加できなかった猛者がいたことは珍しくなかった。
「ほら、歩きながら話を聞く。話してくれ」
「は、はい! 分かりました」
パールの説明だと、少し前までフォレスたちが倒した魔王軍が占拠していたが、魔王軍敗北の報告を受けて解散したらしい。その後、直ぐにセバスとパールが見た目を固定したまま中と外を綺麗にしたらしい。
この、魔王城の見た目は今すぐにでも廃墟の見た目を掃除した魔王城に戻す子が出来る。
「そして、リュクス様が返ってきたことは、転移門の衛兵たちからの報告で民たちは知っています。この後、リュクス様さえよければ、帰還の式を行いたいと思っています。それと同時に見た目も変えようと考えています」
「分かった。それじゃ、今すぐ……と言いたいが、セバスにやって欲しいことがある。それの確認と準備がどのくらいで終わるかを聞きたい」
帰還の式はリュクスにとってとても大事なものになる。
そこで、魔王軍の設置の旨と兵士の募集を掛けるからだ。
そして、募集をした後に必要な準備はそう簡単に終わるものじゃない、それを、急にセバスに頼もうとしているのだ。
だが、それを言った後のセバスの反応にリュクスは驚かされた。
「もう、終わっています」
「終わってるのか!?」
ついつい、魔王の威厳を脱ぎ捨てた素で反応してしまった。
「はい。勇者にしろほかの敵にしろ、兵士がいないと意味が無いのは変わりませんから」
「にしても、早すぎないか? まぁ良いか、ありがとうな」
面倒な準備が終わっているのなら、今すぐにでも帰還の式を行わなければいけない。
魔王城の高欄付き廻縁の様な場所から顔を出した。
魔王城のすぐ下には何十万もの魔族が集まっている。そいつらに向かってリュクスは口を開いた。
「お前ら、久しぶりだな。魔王リュクスだ」
その声を、言葉を聞いた魔族たちは一瞬の時を止め、盛大な歓喜の声を上げた。
「俺が返ってきたという事は、勇者との戦争が始まると思っている奴らもいると思う。だが、今回戦うのは勇者じゃない。では、何と戦うのか、答えは一つ。神だ」
最後の言葉を聞いた魔族たちは固唾をのんでリュクスの言葉を聞いている。
「この世界を創った神がいた。その神は、自分が作った世界を愛し、俺たちが成長する姿を母親のように見守っていた。けれど、その神は異界から来た神によって追放され幽閉された。その時からだ、この世界に魔王と勇者という絶対に争わなければならない存在が現れた。そして、異界から来た神はその光景を見て楽しんでいる。俺たちが戦い愛するものを亡くし、大切な家族を亡くすその姿を見て、その神は笑っている。お前たちはそれを許せるか? 否だ。俺は絶対に許せない。だからこそ、その神を倒し以前の神を再びこの世界の神にする。その戦いの為に俺たちは準備をしなければいけない」
そこで、一息入れてリュクスは下で見ている魔族たちを見た。
「そこで、ここに再び魔王軍の設立を宣言する。魔王軍に入りたい勇敢な魔族たちはこれから入軍試験を行う。大切な家族を大事な恋人をこれからの未来のために戦いたいものは俺の元に集まれ」
そして、リュクスは大きく息を吸った。
「魔王!! リュクスの帰還だ!!!!!」
それと同時に、魔王城から浮き出た黒い光の粒子が弾け、魔王城は昔の姿を取り戻した。
帰還の式が終えると、リュクスは一人ある場所に訪れた。魔王城から南に向かって二千キロも離れた最南端。そこにある洞窟に脚を運んだ。
「久しぶりだな。元神」
「やぁ、久しぶりだね。異界から来た神、いや、今は追放されて魔王をやっているのか」