第九十九話 仲裁?
ようやく対抗戦まできました……。
この対抗戦、何話くらいになるだろう。
事態は混迷を極めていた。王妃の元に元近衛騎士隊長が立ち、王太后の元には賊を一網打尽にした仮面の軍人が立つ。アレックスはその異様な状況からどう行動して良いか、さっぱり分からずただ母を押し留めるだけで精一杯だった。
『いや何これ!?母上も王太子白紙でめっちゃ切れてるし、流血沙汰とか嫌なんだけど!』
因みにアレックス自身、王太子白紙に関しては余り動揺がない。そもそもその事実を知らなかったし、何によりユーリルートではそれは現時点では足枷にしかならない。なので、結果に不満はないのだ。
「母上、取り敢えず落ち着いて、お婆様を害するなどあってはなりませんっ」
ただヴィクトリアはアレックスがいくら声を掛けても落ち着く気配を見せない。ついでにアレスの父のグレイス卿はリオ・ノーサイスに対する殺気を隠そうともしない。逆恨みだが、彼の存在が近衛騎士信用失墜の要因に他ならないからだ。対するリオ・ノーサイスはと言うとそんな殺気を気にする素振りも見せずに悠然と構えている。まるでこの状況にもさして興味がないような面持ちだ。
ただこの混迷もそこに現れた新たな人物により霧散する。
「あのー、此処に王妃様や王太后様がいらっしゃると聞いて、ご挨拶に来たのですが……?」
この場に現れたのは水色の髪に水色の瞳の少女である。彼女はその場にいる様々な視線を受け、思わずギョッと目を剥きながらしどろもどろになる。
「あっ、あれ!?お取り込み中だったでしょうか?」
そんな少女に声を掛けたのは、何故かリオ・ノーサイスだった。リオ・ノーサイスは展開していた水の防壁を直ぐに霧散させ丁寧な礼を取りながら話しかける。
「これはリーゼロッテ王女殿下、こちらにはどのようなご用件で?」
そしてその名前を聞いて一番先に反応したのは王妃ヴィクトリアだった。なぜなら彼女をこの学院祭に招待したのはヴィクトリア自身であり、まして国内のいざこざを他国の姫に見せる訳にはいかなかった。なので先ほどまで取り乱していたヴィクトリアはすぐさま体裁を整えると、冷静にリーゼロッテへと声を掛ける。
「これはリーゼロッテ様、大変お見苦しいところをお見せして申しわけありません。わざわざご挨拶に来ていただいて、大変失礼をいたしました」
「いえ、私は気にしてなどいませんので、お気遣いなく。それよりも、こちらには王太后様もいらっしゃると聞いていましたが」
リーゼロッテは直ぐに笑顔を作り、気にしていないという素振りを見せる。すると座っていたヘルミナもそれに合わせて笑顔を見せる。
「私は此処にいるよ。わざわざ足を運んで貰って、すまなかったね。アンタとはそれこそ物心つく前に会ったきりだから、私の事なんか覚えていないだろう?ハミルトン国王にも久しくお会いしていないが、お元気かい?」
「はい、父も元気にしております。王太后様にはその節は大変お世話になったと申しておりました。くれぐれもよろしくとの言伝も賜っております。改めてリーゼロッテ・ド・ハミルトンと申します。よろしくお願いします」
リーゼロッテはヘルミナの方を向きながら、楚々とした礼をする。そして再びヴィクトリアの方に向き直り何やら不思議そうな表情を見せる。
「それで皆様、お話というのは御済みになられたのでしょうか?でしたら、そろそろクラス対抗戦の会場の方へと向かわれた方がいいのではないかと思うのですが?」
するとヴィクトリアはそれを聞いて、ヘルミナに一瞬忌々しい目線を送るが、直ぐに本来の毅然とした態度を見せてそれに答える。
「リーゼロッテ様の仰る通りですわね。アレックスも、貴方も選手の一人なのでしょう。こうなったからには、その力を大いに示す必要があります。分かってますね?」
「はっ、最善の結果を示せるよう努力してまいります」
アレックスもそう言われては、その返事以外に答えようがない。元より今回の対抗戦は優勝が前提である。少なくともその力を示すことが、次へのステップへと繋がる以上手抜きは許されないのだ。
「さて、なら私もお暇するとしようかね。ああリーゼロッテや、あんたは会場のどこで観戦をするつもりなのかね?」
「はい、学院側より貴賓席をご用意いただいていると聞いておりますが」
「ふむ、ならあんた私に用意された席で一緒に観戦するかい?」
ヘルミナはそう言って気軽にリーゼロッテを自身の観戦席へと誘う。それに目を丸くしたヴィクトリアは慌てて口を挟もうとするが、リーゼロッテの方が先に返事をしてしまう。
「よろしいのですか?王太后様がよろしいとおっしゃるのであれば、是非お願いします」
「勿論、私が誘っているんだから是非もないよ。それじゃあ会場へと向かおうかい」
ヘルミナはそう言って立ち上がると、リーゼロッテを伴って出て行ってしまう。ヴィクトリアはそれを忌々しく見ながらも、ただ見送る事しかできなかった。
◇
クラス別対抗戦。これは例年では学年別で行われるトーナメント方式のクラス別の対抗戦だ。各クラスより3名の選手が選ばれ武勇を競う。ただし今年に限り学年別という形は取り除かれ、3学年の各クラスによるトーナメント形式となり、学院全体のトップを決める形となっている。
そして今回そのような形式になった最大の要因はこの大会優勝者に与えられる賞品の為である。その賞品とは、先般発見された古代遺跡の探索権という栄誉である。未踏破の古代遺跡にはそれだけの価値があり、仮にそこで貴重な古代遺物が発見された場合、発見者にその所有権が認められる。そしてそれらの学術的経済的価値は計り知れず、富も名声も思うがままというのが最大の魅力となる。
なので会場には既に多くの観客がその開催をいまかいまかと待ち構えており、どこそこが強い、いやあそこは侮れないなどとその応援合戦にも熱が入っていた。そして下馬評では既にいくつかのクラスが優勝候補として名を連ねている。昨年の学年別クラス対抗戦で優勝した3年B組、2年C組は今年も優勝候補の一角とされている。しかしそれ以上に注目度を集めているのが1年A組である。ここには第一王子アレックスがいて、現役最強の呼び声高い元近衛騎士団長の息子であるアレスがいる。そして女子ながら多彩な攻撃手段を誇るセリアリスとかなりハイレベルなメンバーとなっている。各学年の前年度優勝クラスを差し置いて優勝候補筆頭と謳われていても不思議では無かった。
そしてレイの所属するDクラスはというと上記3チームの次にくる4番手という見られ方だ。これは単純にジークが普段余りやる気を出していない為その評価が分かれている点と、レイに関しては知名度が低い為それほど警戒をされていないという部分が大きい。ただそれを加味してもメルテの評価は高く、メルテがいるからこそ4番手という評価を受けていると言っても過言では無かった。
そしてその第一試合。レイ達は3年のAクラスとの対戦である。ちなみに順番はメルテ、レイ、ジークの順であり、メルテが勝ち続ければ次のメンバーには回らない算段でその順番が採用されている。なのでレイとジークは初戦から既に観戦モードだった。
グアーーーッ
メルテの爆炎魔法が唸りをあげ対戦相手の絶叫が響く中、ジークがのんびりとした口調で話しかける。
「なあレイ、フラガの件、お前はどの程度関係している?」
「うん?それってどういう意味だ?フラガを捕まえたのは俺だけどそういう事か?」
するとジークは首を横に振り、もう少し詳しく説明をしてくる。
「ほらレイ、お前はセリアリス嬢の護衛役だろう。そっち方面からより細かい情報がないかと思ってな」
「ああ、そう言う事。珍しいな、ジークがその手の事に興味を示すなんて」
レイは時折会場の方へと目を向けメルテの様子を見ながら、ジークに相槌を打つ。ちなみに既に敵は2番手の対戦相手が出ている。
「まあ本来であればそうなんだが、実はこの大会後、御婆様に呼ばれていてな。どうやら色々きな臭い雰囲気になってきたので、出来るだけ情報が欲しいんだ。面倒な厄介事は避けたい」
「うーん、俺が知っている事といえば、フラガがセリアリス様の事を吹聴して迷惑をかけている事位だぞ」
他に婚約破棄の可能性があるかもというのもあるが、それはこの状況を理解していればジークも辿り着く答えだろうとあえて口にはしない。するとジークはやはりその答えに辿りついたのか、考え込みながらぼそぼそと呟く。
「うーん……、そうなると周囲の突き上げ……婚約破棄、でも……、いやそうなればそうなる可能性もある?」
そしてレイは再びメルテに目をやると、最近覚えたと自慢していた土魔法の石礫の雨を降らし2番手をも下していた。向こうの大将が半ば涙目だ。
「しかし王太后様がジークを呼び出しとはね。あの人優秀すぎて俺苦手なんだよね」
「ん……、レイお前御婆様に会った事……ああ、セリアリス嬢のお供か。まあ確かにあの人は優秀だからな。苦手というのも判らなくはない。ただ俺がこうして生きていて、俺の母が王妃一派に殺されずに済んでいるのは御婆様のお蔭でもある。俺としては感謝してもしきれん人だよ」
ジークは妾腹の息子という立場から特に王妃から疎んじられている。本人もそれがわかっており決して目立とうとはしなかった。そんな立場の危いジークの後ろ盾になっていたのが王太后様であるのならジークも感謝しきれないだろう。なのでレイは素直に感心する。
「ほう、俺はジークは王族でありながら王族嫌いだと思ってたよ。でもそんな王族の中でも信頼できる人はいるのか、それは良かったな」
するとジークはテレたように顔を赤らめ、レイに文句を言う。
「うるさい、俺は別に王族嫌いなわけじゃない。ロンスーシー絡みが嫌いなだけだ。変に勘ぐるなっ」
するとそこで会場が一気に湧く。あっ、メルテが3人抜きを達成したらしい。メルテはそこで満足そうな顔をしながら、レイ達の元へとやってくる。
「メルテ、お疲れ様。初戦で3人抜き、おめでとう」
「フッフッフッ、土属性も試す余裕の勝利。まあ当然……、ん?ジークどうした?顔赤い?」
メルテは最初鼻高々に自慢してきたが、フッとジークを見て不思議そうな顔をする。なのでレイはそんなジークをフォローするようにメルテに説明する。
「メルテ、そこは触れないで上げて。ジークはああ見えてテレやだからさ」
「クッ、レイ、殺すっ。俺をおちょくって生きて帰れると思うなよっ」
そして完全に切れたジークはレイに剣を振り回す。レイはそれを上手く躱しつつ、ジークをからかい過ぎるのは危ないなどと思っていた。
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