第九十五話 潜入
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セリアリスは暗がりの中意識を取り戻す。体は椅子に紐で括り付けられ身動きが取れない状況。しかも手は後ろに回され手錠らしきもので拘束されている。セリアリスは今の状況を単純に不味いと認識する。胸の奥から滲み出てくる不安と焦りを懸命に抑え込みながら、まだ目を開かず耳にだけ神経を集中する。迂闊に目を開けて意識が戻った事を知られるには面倒である。幸い直ぐに生死がどうこうという状況ではないらしい。それは近くにいるらしい人間の会話からも窺い知る事ができた。
「なぁ、これって今んところ順調だけど、この後どうなるんだ?」
「取り敢えずこの学院祭が終わるまでは、ここに拘留だな。その後は上が判断するだろう」
セリアリスは現状すぐに身の危険が及ぶ事はない事に安堵する。それであればそう遠く無いうちにレイが助けに来てくれると思えるからだ。そしてまず今の態勢で自分の左手小指に手をやる。そこにあるべき指輪を確認しもう一つ安堵する。レイから貰った精霊石の指輪。レイはセリアリスがこの指輪をつけていれば、必ず見つけられると言っていた。なので先ほどまであった不安と焦りが消えていくのがわかる。
『でもまずは誰がこんな事をしでかしたのか探る必要はあるわね』
それに今拘束されているこの状況を打破する必要もある。なので一旦魔力を貯めて拘束をどうにかしようと試みるが、上手く魔力を練る事が出来ない。
『あれ?これって魔法阻害の拘束具なの!?』
よく罪人に対し用いられる拘束具。魔力操作を阻害し、魔法を使えなくするものである。当然と言えば当然。ただこの状況ではセリアリスが何も武器を持ち得ないという事に他ならない。
『ならこっちから動くのは得策ではない?迂闊に相手を刺激すると何をされるかわからないもの』
武器のない拘束されたセリアリスには、今武器になりそうなのは、レイから貰った指輪しかない。さっきは完全に不意を突かれ風の防御は発動しなかった。今は不意を突かれる事はない為、防御自体は機能するだろう。ただそれは守るだけであって、事態の解決には寄与しない。その瞬間のその場しのぎでしかないのだ。
『やはりレイの護衛を断ったのは失敗だったかしら』
学院祭の期間中の護衛をセリアリスは断わった。ここ最近身の危険が迫るような事もなく、また学院祭という行事をレイにも楽しんで貰いたかったからだ。ただ結果はこの始末でセリアリスは少し後悔する。結局はレイに迷惑をかけてしまうからだ。
『でもレイならきっと迷惑とも言わないのでしょうけど』
そういう意味では彼は優しい。自分を心配してくれるから、自分に得の無いことでも受け入れてくれる。友人なのだから当然と彼は気軽に言うだろう。でも自分はその優しさに何を返せているだろうと不安にもなる。
「おい、セリアリスの状況は」
部屋に新たにはいってきた人物の言葉にセリアリスは思考の渦に囚われていた頭が戻される。
「相変わらず眠ったままです。まあ意識を飛ばしただけですから、じきに目は覚ますでしょうが」
「ふんっ、所詮は女、偉ぶったところで脆いものだな。まあ良い。目が覚めたら俺を呼べ。この女にはキッチリ強者、弱者、男と女の上下というやつを躾けてやる。そしたらお前らにもお裾分けしてやろう」
それは下種の驕りが混じった声だった。セリアリスは鳥肌が立つのを堪え、なんとか身動ぎせずに気を失った状態を保つ。その声には聞き覚えがある。その腐り切った性根もだ。ただその彼がここ迄の愚行を犯す程の馬鹿だとは思わなかった。或いはこの愚行を犯したとしても困らない理由があるかだが。
その人物は部屋の中の人間に言葉を二、三告げると再び部屋を出て行く。セリアリスは、その事に少し安堵しつつ相手の思惑を考えるのであった。
◇
レイとリーゼロッテはシルフィに誘導されながら、セリアリスの元へと向かっていた。場所は旧校舎の研究棟。旧校舎は現在レイ達が授業を行う校舎とは少し離れた場所にある校舎である。今はその名の通り学院の教師や研究員達が日夜実験や研究を行う場所となっており、この学院祭期間中は閉鎖されている場所でもある。そしてシルフィの誘導先がこの研究棟であるとわかったところで、悪い方の想像である可能性を確信しつつあった。
「ねえレイ君、そのセリアリスさんってレイ君とはどういう関係なの?」
「えっ、ああそうだね。幼馴染みが一番近いかな。昔うちの領に遊びにきた事があってね。その時仲良くなったんだ。まあ公爵令嬢とは知らなかったんだけどね」
「幼馴染み?公爵令嬢?なんだか良くわからない関係なのだけど?」
リーゼはそう言って目を丸くする。確かにレイにしてみれば、大事な幼馴染みという感覚でそれ以外は付帯説明に過ぎない。まああっても無くても一緒なのだ。ただ周りの人間にはその肩書こそが重要だったりするので、訳の分からない事になる。
「まあ俺とリーゼみたいなものだよ。身分の差のある友人。まあ周りはともかく当人同士は気兼ねなく付き合えるね」
「ん?っていう事は私のライバルになるのかしら?」
「いや、リーゼは断ってるでしょ?それにセリーは第一王子の許婚。そういう意味では縁がないよ」
レイはリーゼロッテの諦めの悪さに少し辟易としつつ、セリーの事を説明する。リーゼは成る程とばかりに頷き納得する。
「まあ公爵令嬢ならそういう相手は決まっているか。うん、そこは私が有利な点だね」
「はいはい、ほら目的地ってあからさまに怪しい奴がいるな」
レイは軽くリーゼをあしらいながら、目的地の場所へと目を向ける。研究棟の出入り口、その付近には貴族らしい風貌の学生が門番宜しく周囲を警戒している。レイ達は彼らに気付かれないように木陰からその様子を窺う。
「うーん、見張りかな?出来れば先にセリアリスと接触したいなぁ」
レイは見張りの動向を気にしながらそう呟く。セリアリスが彼らに誘拐されている場合、見張りに接触すれば人質として危険な目に遭わせるかも知れない。出来れば事は穏便に済ませたい。
「ならここは私に任せてっ」
「あっこらリーゼっ」
リーゼはニコっと笑顔を見せるとレイの制止も聞かずにスタスタと見張りらしき生徒達の方へ歩いて行ってしまう。流石にレイまで出て行く訳には行かず、そのまま木陰で様子を窺う。
「すいませーん、あのー」
リーゼロッテはそう言ってその生徒達に話しかける。その生徒達は最初突然現れたリーゼを訝しい目で見るが、その少女の可愛らしさに思わず顔を赤らめる。リーゼロッテはそんな彼らに困ったような表情で質問する。
「すいません、私方向音痴で道に迷っちゃったみたいで、学院祭の会場に戻りたいのですけど道を教えて頂けませんか?」
「が、学院祭の会場っていうと本校舎で良いのか?」
そう答えたのは門番二人組のうちの一人。リーゼはホッと安心したように笑顔を見せる。
「あっ、はい。本校舎で大丈夫です。私この辺歩いた事が無くて本当一人で心細くて、お二人をお見かけした時、優しそうな方だと思って話しかけて本当に良かったです」
「い、いやー」
「困っている時はお互い様だよね」
見張りの二人はお互いに良いところを見せようと、リーゼロッテに対して良い顔をする。すると彼らの首筋に手刀が入り、二人は白目を剥く。
そして崩れ落ちるその二人を両脇に抱え、その背後からレイが現れる。
「いや助かったけど、あんまり無茶しないでよ」
レイはリーゼロッテが動き出したと同時に彼らの背後に移動をし、リーゼロッテが彼らの注意を引きつけている所で気絶させたのだ。
「フフッ、彼ら学生だったし女子学生一人なら警戒しないと思ったから大丈夫よ。それにしても無用心が過ぎるとも思うけど」
そう言って何処か呆れにも似た声をリーゼロッテは溢す。正直レイもそれには同感で、何処か真剣味が足りない気がしていた。
「まあ取り敢えず、先を急ごう。相手が何を考えているかは知らないけど、あまり良い状況じゃ無さそうだしね」
まあ相手の思惑は分からない。少なくてもセリアリスの危機なのは間違い無さそうなので、先ずは助けてからとレイは言い聞かせ、神妙な面持ちで研究棟へと入っていった。
◇
「ああ成る程、寝たふりか。起きているのはわかっているぞ、セリアリス嬢」
新たに入ってきた男の声により、セリアリスの狸寝入りがバレてしまう。最初それはカマ掛けなのかとも思ったが、その口調は確信じみておりセリアリスは早々にその事実を認める事にする。
「はぁ、会心の演技だと思っていましたが、バレる物なのですね」
セリアリスはそう言うと顔を上げて声の主へと目を向ける。相手は黒装束に仮面姿で他の者たちと同じ格好ながら、1人異彩を放っていた。
「まあ、気絶しているものの息遣いでは無かったからな」
そう言ってその男は簡単に種明かしをする。そしてその時セリアリスは直感する。この感じは誕生日会と同等のものだと。
「成る程、本物が混じっていたと言う事でしょうか。道理で私が一瞬で意識を刈り取られる訳です」
「噂通りの才女だな。その御慧眼は素晴らしい。此処にいるボンクラどもよりは、よっぽど価値がある」
そう言ってその男は周囲にいる黒装束達に気を遣う事もなく、横柄な口振りでセリアリスを称賛する。するとそれに黒装束のリーダーらしき人物が噛みつく。
「貴様っ、暗殺者風情がでしゃばるなっ、少し下がっておれっ」
「へいへい、まあ精々頑張りな」
その男はそう言って部屋の壁際へと移動してやる気無さそうにソファに身を沈める。
「チッ、どいつもこいつも馬鹿にしやがってっ」
「まあ馬鹿にされる様な事をしているからでしょう?フラガ」
悪態吐くそのリーダーらしき男に対し、セリアリスは平然とその名を呼ぶ。そのリーダーらしき男は動揺する事なく、むしろ嬉しそうにセリアリスの目の前でその仮面を取る。
「ご名答。良くわかったな。いや良くわかってくれたなと言うべきか。セリアリスっ」
フラガはそう言って嬉しげに顔を歪ませる。セリアリスはその顔を平然と眺めつつ、内心では少しずつ込み上げてくる焦燥を抑え込むのだった。
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