第九十四話 御転婆な姫
最近ポイント伸び悩み。まあ4万超えて伸びまくるのも無いかと思いつつ、でももっと伸びて欲しいと思う今日この頃。
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Aクラスでセリアリス失踪が騒動になる前、セリアリスは王妃へのご挨拶で学院内の少し離れた迎賓館を訪れていた。ここは学院内でも外部の方が宿泊する際に使われる建物で学院の校舎から少し離れた場所にある為、基本一般の生徒が立ち入らない場所だった。今回は王妃警護の観点から王妃を余り市井の者も歩くような場所にとどめる訳にもいかない為、この場所をあてがわれている。
「そう、もう少しゆっくりお話したかったところだけど、演劇の準備という事であれば引き留めるのも悪いわね。セリアリスさんの演技楽しみにしてますわ」
「有難うございます、王妃様。では私はこれで失礼させて頂きます」
セリアリスはそう言って席を立つと、そのまま迎賓館を後にする。セリアリスは次期王妃候補として王妃に礼を尽くす必要がある。なのでこういう形式的な事でも卒なくこなさなければならない。
『とは言え、正直面倒なことですけどね』
今日はこれから演劇だ。ユーリのパートナーとして主役級の立場にある。セリフも振る舞いも既に頭には入っておりそう言う意味では準備は無いのだが、今来ている衣装は当然使えない。
なぜなら今回の役は男装で、今は王妃への挨拶の為ドレス姿だったからだ。なのでこれから戻って着替えなおして、気分も男子っぽく切り替えないといけない。しかも面倒臭い事に王妃の滞在場所がやや遠い。
『まあ警備上致し方ない事ですけど』
流石に国の要人だけに、市井の者たちが歩き回るような場所に滞在させる訳にもいかない。さっきも元近衛騎士団隊長でアレスの父であるグレイス伯爵が傍に控えているくらいだ。王妃周辺の警護は万全なのだろう。
セリアリスがそんな事を考えながら戻る途中、彼女の行き先を遮るように、道の脇にある木陰から得体の知れない集団が現れる。黒ずくめのフード付きマントに中の装束も全て黒。おまけに顔には全面を覆う仮面をつけている。確かに今日は学院祭という事もあり仮装をしているものも多いが、ここまで異様な集団はいない。
セリアリスは直ぐに魔法を発動出来る状態にしつつ、道を遮る黒装束達に声を掛ける。
「そんな所で道を塞がれると邪魔なのだけど。どいていただけるかしら?」
しかしそんなセリアリスに反応する事無く、黒装束達はセリアリスの道を遮り動かない。セリアリスは内心で舌打をしつつ、状況を確認する。
今目の前にいるのは3人。背格好から男性なのは間違いない。押し通ろうと思えば出来なくはない。そう思いを決めるとセリアリスは魔力を操作するため神経を集中する。
ゾクッ
突然背筋に悪寒が走る、と同時に首筋に衝撃が走り目の前が暗転する。
『伏兵っ!?』
セリアリスは薄れゆく意識の中、背後に黒装束の男がいるのを感じて、己の失態に気付くのだった。
◇
レイとリーゼロッテは大講堂内にある一般用の観客席でAクラスの演劇が始まるのを待っていた。この演劇の演目は比較的有名な話だ。それは聖女にまつわるお話。ユーリの前に慈母神の加護を受けた人の話である。
彼女はユーリ同様、貴族では無く市井の出の者だった。ある日神の加護を受け、神殿に仕えるシスターとなる。そしてその後人族の国々に赴き、数々の奇跡を起こす。
彼女の側には常に2人の男性が彼女を守護していた。1人はとある国の王子。彼は彼女に心酔し自らの王位継承権を放棄して彼女に剣を捧げて一介の騎士として付き従った。もう1人は彼女の幼馴染み。ただの村人だった彼は、彼女を大切に思い努力でその剣を磨き、戦士として彼女を守った。彼らはその後邪竜討伐に向かう。ただその戦いの果て、幼馴染みは命を落とす。その時幼馴染みは騎士に彼女を託し3人の旅は2人の旅となる。物語はそこで終わり、騎士と聖女がその後どうなったか知るものはいない。
「でもこの話って実は続きがあって、幼馴染みを想っていた聖女の気持ちを知っていた騎士は生涯騎士として彼女を守ったとか、2人になった後聖女と騎士は結ばれて何処ぞに国を起こしたとか色々有るのよね」
「ああそう言えば死んだのは実は騎士で聖女と戦士は元の村に帰って幸せに暮らしたとかもあったな」
リーゼとレイはそう言って演目の話題で感想を言い合う。この話は古すぎる為、既に真実は分からず後世の人々が其々の思いを創作していたりするのだ。なのでその結末も多岐に渡りどれが本当かは分からない。
「でもそうやって好きな人と結ばれると言うのは憧れちゃうけどね。だからお父様に無理言って縁談の話を押し通した訳だし」
「はいはい、好意は嬉しいけど無理を通しちゃ駄目でしょ。俺がその話断わった時使者の方から泣いて感謝されたんだよ。なんでも国王からやんわり断られるように仕向けろって言われてたみたいで」
その時の使者の喜びようは相当の物だった。国王から相当なプレッシャーをかけられていたのだろう。国王からしたら当然で余所の国の貴族とは言え子爵家である。婿に迎えるにも相応の格というものがあって然るべきで、レイにしてみれば当然の事だと思っている。しかしリーゼロッテにしてみれば話が違う。彼女は父親と話し合い、快く了解を得ていたと思っていたのだ。なのでその表情は至極不満げだ。
「お父様とは今度キッチリ膝を合わせて話し合う必要がありますね。ええ、キッチリと」
レイはその怨嗟に似た言葉を聞かなかった事にする。ここでこれ以上傷口を広げてもレイ自身にメリットがないからだ。そして舞台が始まるのをじっと待つ。すると少しして観客席の照明が落とされ、舞台のみにスポットライトが当たる。まずは冒頭、主要登場人物である聖女、騎士、戦士の出会いからストーリーが始まるのだが、1人知っている人物と違う人物が配役されているのに気付く。
『あれ?騎士役が違う?』
聖女役はユーリ。幼馴染みは男装のエリカが扮している。そこにもう1人男装のセリアリスが騎士役として配されている筈なのだが、そこには何故かアレスがいた。今回はアレックスが王妃のホスト役という事もあり、それならばAクラスが誇る3人の美女を主役に並べようという企画だと聞いていたのだが、何故かアレスがそこにいる。会場も事前にそのような宣伝がなされていた為、違う配役に少し騒ついているが、勿論劇中の為、大きな声を上げるものはいない。
ただレイはそこでおかしさを感じて少し考える。
『セリー体調不良かな?でも昨日見た限りではそんな事をなさそうだったし、セリーの性格から緊張で体調を崩すっていうのも無いよなぁ』
レイは取り敢えずセリーの居場所を探るべく、友人に声を掛ける。
『シルフィ、今セリーが何処にいるがわかるかい?』
『セリー?何処ニイルカワカル、ワカルヨ』
シルフィはそう言って自慢げに返事をしてくる。どうやら居場所はわかるみたいだ。という事はそう遠くには行っていないらしい。流石にシルフィといえども遠くに連れ去られたとかだと見つける事は不可能なので、そこは安心する。そしてレイは隣の少女に話しかける。
「リーゼ、悪いけどちょっと用ができた。申し訳無いけど、演劇を1人で観ててくれる?」
「えっ、レイ君何処いくの?どっか行くなら付いてくよ。レイ君がいないんじゃ、演劇なんて観ても意味ないし」
リーゼロッテはそう言って、何処か楽しそうに言ってくる。レイは何処か勘繰られている気がするが、一応拒否を試みる。
「いや大した用じゃないし、付き合わせるのも不味いからさ。ここは大人しく演劇を観てて欲しいんだけど」
「ふふーん、そんな事を言ったってダメよ。そもそも今日のホスト役兼護衛でしょう、レイ君は。そんな人が私から目を離したら駄目じゃないの?そうは思わない?」
「くっ、いやリーゼには水の精霊の守りを付けているから、そうそう間違いが……」
「駄目っ、そういう問題じゃないの。それにどうせまたトラブルなんでしょう?レイ君、いっつも巻き込まれるんですもの。私はそれが楽しみっ……う、うん、兎に角一緒に行きますから、そのつもりでね」
一部怪しい言葉もあったが、そう言われて結局レイは押し切られてしまう。ただそれは想定内。そもそもリーゼロッテは揉め事に首を突っ込むのが大好きだ。このお姫様はただのお姫様じゃないのだ。そもそもそんなお淑やかな女性だったらレイに婚約を迫ったりはしないのだ。
「まあそう言うと思った。じゃあ連れて行くけど、もしかしたら危険な目に合うかもしれない。だから俺の側から離れちゃ駄目だよ。まあそうならない可能性もあるけどね」
現時点ではセリアリスの状況はわからないので、レイはそう言う。ただリーゼロッテはさして気にしてないように平然と言う。
「大丈夫。私こう見えて結構強いのよ。それにレイ君が居るんだもの。そう危険な事にはならないわ」
全くどうしてそう簡単に信用するのだろうとレイは苦笑を浮かべる。そしてレイ達はひっそりと席を立ち、セリアリスの元へと向かうのであった。