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第九十二話 学院祭2日目

ようやく2日目。どんどん混迷していきます。うん、大丈夫か!?

 結局、学院祭初日はその後暫くユーリ達と学院祭を巡り楽しんだ。最初ニーナはフラガ達の件もあり少し怖がったのだが、帰る頃にはすっかり機嫌も直りユーリやセリーとも仲良くなってアリス共々可愛がられた。特にメルテがニーナを気に入っており、お姉さん風を吹かせて可愛がっていたのが印象的だった。あんな風にしっかり出来るのなら、アンナに迷惑をかけずに過ごせるだろうにと思わずにはいられない。


 そして2日目、レイはこの日もクラスの出し物を手伝いつつ、Aクラスの演劇を観に行くつもりだった。ただそんな予定を組んでいたレイに対し、ミリアムが声を掛けてくる。


「レイ、ちょっと来い」


 レイはすかさず嫌な顔をするが、そんなことはお構いなしにミリアムが言ってくる。


「なんだその嬉しそうな顔は?まあ良い。お前は今日暇か?」


「いやこの格好を見てもらえればわかると思いますが、忙しいですね」


 レイはそう言って執事の格好をした自分の姿をミリアムに見せつける。現在Dクラスの喫茶店ではレイはエース級の戦力である。するとミリアムはむしろその格好を見てニヤリとする。


「フムフム、執事っぽい格好だな。うん、好都合だ。実はこの学院にお忍びでさるやんごとなきお方が来場される。そこでホスト役が必要なのだが、本来であればその手の役割は生徒会メンバーが対応する。ただ第一王子のアレックスは王妃様のホスト役で対応出来ず、それ以外のメンバーもクラスの演劇で生憎対応出来るものがいなくてな。なので第二王子であるジークに白羽の矢が立ったのだが、アイツ逃げやがった。なので代打の代打でお前に目を付けた。これからそのやんごとなき方のホスト役をやれ」


「は!?」


 レイは思わず唖然とする。話の内容はミリアムには良くある無茶振りだ。最近特にその傾向が強くなっており、評価されていると思う反面、無茶が過ぎると思わず文句を言う。


「いやミリアム先生、流石に無茶振りでしょう?相手が何方なのかは知りませんが、やんごとなき方って、厄介そうな臭いしかしないじゃないですか?勘弁して下さいっ」


 するとミリアムは諭すようにレイに言ってくる。


「ふむ、確かにお前の言い分はわかる。がしかし、こんな事が出来る奴が他にいるか?しいてあげればフラガだが、あれはホスト役にはむかん。なんせ無駄にプライドが高いからな。他クラスにもそんな奴はいない。そうなると消去法でホスト役に慣れたお前が適任となる。ジークがいれば良かったが、あれは王族だから、強制も出来ん。良かったなレイ、お前の家が子爵家で」


「くっ」


 レイはそこで膝から崩れ落ちる。確かにレイ自身ホスト役が出来ないとは言わない。むしろ経験は多い方だろう。レイは逃げたジークに今度何か奢らせようと心に誓いつつ、溜息を吐く。


「はぁ、仕方が無いですね、わかりました。やれば良いんでしょ、やれば。あ、アンナには俺が抜ける事言って下さいね。彼女も多分膝から崩れ落ちると思いますから」


 そう言ってレイは観念する。そして案の定、レイと同様にアンナはその事実をミリアムから告げられ、膝から崩れ落ちるのだった。



 そんなDクラスの一悶着と同じ頃、Aクラスでは演劇の準備に大忙しだった。


「ほら大道具を大講堂に運んでっ」


「ちょっとこっち衣装が足りないんだけど!?」


「あーあー、う、うんっ、なんか喉の調子悪いな。誰か喉飴持ってねーかっ?」


 クラス内では演劇に出るものも裏方もどこか緊張感が漂っており、今回の主役もまたその緊張に煽られて動揺を見せる。


「セ、セリー、私の衣装、変じゃ無い?大丈夫かな?」


「はいはいユーリ、落ち着きなさい。大丈夫。十分可愛らしいわ」


 ユーリに話しかけられたセリアリスは苦笑を浮かべつつ、ユーリに落ち着く様にと諭す。ユーリは自分とは違い落ち着き払ったセリアリスを見て、文句を言う。


「もう、なんでセリーはそんなに落ち着いていられるのよ。私なんて昨日の夜から緊張して、何度も台本を読み返したって言うのに」


「フフッ、それは場数よ。私はこう見えて人前に出る機会は少なくないしね。ユーリだってそう言う機会はあるでしょう?」


「うっ、それは無いとは言わないけど、今日はお養父様も見に来るっていうし、さっきアレックス様が王妃様もいらっしゃるって言うから、余計に緊張しちゃって。しかも態々挨拶したいって言うのよ」


 そう先程態々ユーリ達の元にきて、アレックスが激励をした際に、王妃来場の話もしてきたのだ。セリアリスも勿論王妃様が来るのは知っていたが、クラス別対抗戦だけだと思っていた。なので態々2日目から来ることにビックリしたのだ。


「まあそれは気にしてもしょうがないわよ。今日の演劇はそれ以外にも多くの来賓者が集まるみたいだし。私達は私達に出来る事だけすれば良いと思うわ」


「うう……、そうなんだけど」


 ユーリもセリアリスの言う事は分かっている。分かってはいるのだが、緊張するしないはそれとは別なので思わず口籠る。


「大丈夫よ。始まってしまえば、緊張どころじゃ無くなるから。それに私もついているしね」


 そんなユーリを見てセリアリスが優しい笑顔で励ます。そしてそんなやり取りをする2人を尻目に演劇開演の時間は刻一刻と迫っていくのであった。



「おいそっちの準備はどうなんだ?」


 学院祭の喧騒から離れた研究棟の一室。そこには複数の貴族子息が集まっていた。この学院は実力主義。実力のないものは例え貴族であったとしても、軽く見られる。むしろ平民と違い貴族子息だからこそその蔑視が我慢出来ない人間は多い。レイとかに言わせれば、ならば実力をつければ良いと言われかねないのだが、彼らはその努力の方向性を間違えていた。


「はっ、準備は抜かりなく。予定通り目標が1人になるチャンスは用意できました。代役も予定通り調整済みです」


「ふん、ならば後は実行するだけだな。ああ、奴の方も大丈夫だろうな?」


「ええ、そっちはミリアムの奴が勝手に仕事を押し付けたみたいで、身動きは取れないでしょう。下手に我々が動くより、余程都合が良い状況です」


 その首謀者らしき人物はその報告に満足そうな笑みを浮かべる。奴は目標と最近近い関係にある。その奴が手出しが出来ず目標が引き裂かれたとすれば、どんな顔をするか楽しみで仕方がない。


「クククッ、下級貴族の分際で上位貴族である俺に逆らえばどんなことになるか、身をもって味わうが良い」


 その首謀者らしき人物はそう言葉を溢し、顔を歪める。と利害が一致し協力者となった人物の顔を思い浮かべる。今回の件、その協力者の助力が大きい。勿論、あれはただの協力者であり、味方とまでは言えないがアレも抱える闇は大きそうだ。


「まあどっちでも良い。もし歯向かうなら潰すまでだ」


 今ではその協力者の家など敵では無い。その首謀者はそう思うと再び慢心した笑みを浮かべるのであった。



 レイはミリアムの無茶振りを受けて要人のホスト役という大役を務めることになった。そしてその要人との引き合わせという事で、今ミリアムに連れられて、学院長室に来ている。


「ミリアム・スタンフォードです。ホスト役の生徒をお連れしました」


 ミリアムは部屋に入ってそう告げると応接用のソファに座ったオシアナが立ち上がり、ミリアムとレイを出迎えてくれる。


「ごめんなさいね、急遽の参加決定でしたので、無理をお願いして。来賓の方は今別室で待たせておりますので、そちらへ向かいましょうか」


「では私はクラス担任の職務があるので、後は学院長にお任せしても良いでしょうか?レイは優秀な生徒ですから、態々私が同席しなくても問題無いでしょうから」


 そして早速とばかりに来賓者の元へ移動しようとするオシアナに対し、ミリアムは平然と逃亡を企てる。


「んー、そうね。ならミリアム先生はお戻りになっても良いですわ。レイくん、私に付いてきてくれるかしら?」


 オシアナもそこにさして重きを置いていないようで、素直に了承する。レイはそんな担任教師を咎めるように眺めながら、ここで文句を言っても仕方がないので、オシアナについて行く。連れて行かれた部屋は来賓者用の応接室で入る前にオシアナから軽く声が掛かる。


「今回の来賓の方はレイ君と同年代の女性だから、そう緊張する事は無いわ。先方もそう余り堅苦しいものをお望みではないから、気軽に応対してくれていいわ」


 そしてレイはオシアナの先導で扉を開けて中へと入って行く。そこには来賓者らしい人物はおらず一人の学生服を着た少女が座っていた。水色の髪に水色の瞳、柔和な印象を与える綺麗な女性だ。恐らくオシアナもレイが訝しそうにしているのが分かったのだろう、すぐさま彼女の前に立ちお互いを紹介し始める。


「レイ君もこちらへいらっしゃい。まず彼女の説明をさせて頂きますね。彼女はリーゼロッテ・ド・ハミルトン様。セルブルグ連邦の加盟国の一つであるハミルトン王国の第一王女であらせられます。殿下は『水の乙女』などとも言われて水魔法にも高い適正を誇る才女なんですよ。ただ今回はお忍びという事で来場していただいております。なので恰好同様、普通の生徒としてエスコートして上げて下さいね。そして王女殿下、こちらが本日王女殿下のホスト役を担当しますレイ・クロイツェルです。家格こそ子爵ですが、明日の対抗戦で選手に選ばれる程の実力者です。護衛も兼ねてとなりますが、何なりとお申し付け下さい」


 するとその水色の少女は朗らかな笑顔を見せて優雅に挨拶する。


「御機嫌よう、レイ様。ハミルトン王国第一王女のリーゼロッテ・ド・ハミルトンです。今オシアナ学院長よりご紹介頂きましたが、今回のこの学院への訪問はお忍びですので、そのように接していただけると助かります」


()()()お目にかかります。レイ・クロイツェルと申します。ご下命確かに賜りました。ここより出たところでは学友としてエスコートさせていただく事をお許し下さい。ちなみに今回のご来訪で何か()()()()のものなどございますか?」


 レイは流石にオシアナのいる前から学友のような振る舞いをするわけにはいかないので、ここは丁寧な応対に徹する。リーゼロッテもそれが分っているのか、今現時点では咎めるような素振りは無い。


「そうですね。学院に通われている聖女様が今日演劇をなさると聞いております。ですので、その演劇は是非拝見したいです。後は学院の雰囲気を味わえれば、是非我が国の学園にも取り入れたく思っております」


「承知しました。では演劇までは今しばらく時間がありますので、校内を少し回りましょうか?学院長、そのような段取りで構いませんか?」


「ええ、王女様のご意向に沿う形であれば、問題ありません」


 レイは王女の意見を尊重した形で、その後の行動をオシアナに説明する。オシアナも問題ないと了承すると、レイはリーゼロッテを誘って応接室を後にする。そしてオシアナと別れてその人影が見えなくなったところで、リーゼロッテが先ほどまでの口調から一転くだけた口調で話しかけてくる。


「まさか()()()がホスト役になってくれるなんて、思ってなかったわ」


 するとレイも相手に合せるようにくだけた口調になって言葉を返す。


「いや、それはこっちのセリフで、なんで()()()がエゼルバイトの王都にいるのさ?さっきは取り繕うのに本当に苦労したんだぞっ」


「それは勿論レイ君をビックリさせようと思ったからに決まってるじゃない。そう言う意味では大成功、わざわざエゼルバイトにまで来たかいがあったってものだわっ」


 そう言ってリーゼロッテは満面に笑みを浮かべると、嬉しそうにレイの腕へとしがみ付いた。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ジークが目立たなくなってきた てか、存在ある?
[気になる点] お忍びだろうが何だろうが一国の第一王女に護衛もつけずに不特定多数の人間が密集する学園祭なんか行かせる訳がないと思うのですが。 たまたま偶然?軍属で有能なレイが指名されたにしてもたった一…
[一言] 学校行事中とはいえ公爵令嬢の護衛を担っている士官に別の要人のエスコートをさせる。他国の王女と自国の公爵令嬢では立場は違うとはいえなんだかなあ。学院長もしっかりジークが逃げないように来る要人を…
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