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第九十話 学院祭の一幕

 押し寄せる人、人、人。Dクラスの出し物であるメイド喫茶は大盛況を迎えていた。店の外の入り口には列をなした人が並んでいる。教室奥に作られた簡易厨房は怒声が飛び交っている。


「おい、卵は如何した。もう残り少ないぞっ」


「ねえ、3番テーブルの飲み物まだ?お客様大分待たせちゃってるんだけど!?」


「へい、料理お待ちっ、っておい給仕!さっさと持ってってくれっ!」


 こんな厨房の喧騒とは裏腹にお客様スペースは実に優雅だ。レイは所狭しと並べられた机を縫うように料理や飲み物を運び、笑顔を振りまいている。


「お待ちどうさまでした。ロイヤルミルクティーとケーキのセットとなります。どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」


 レイがにこやかに振る舞う笑顔に客の婦人が顔を赤らめ嬉しそうにする。そう開店当初からレイのこの優雅な接客が噂を呼び、今ではレイ目当ての女性客が増えている。


『俺もそろそろ休憩に行きたいんだけどな』


 レイは内心でそう思っていたが、自分と同じく忙しく動き回るアンナの手前、中々口に出せずにいる。そしてレイと同様に人気なのが、メルテだ。はっきり言ってメルテの接客はやる気がない。でもその可愛らしい容姿とそのぶっきらぼうな接客が一部ファンに大受けで、人気を博していた。


「はい、オムライス。お店混んでるから、食べたらさっさと出て行く」


「はいーっ、メルテ様、速やかに出て行きます!」


 うん、あれは例外だなとレイは思う。ちなみにそのお客様はアンナがすかさずフォローを入れ、彼女の忙しさが一層増している。アンナが心労で倒れるんじゃ無いかとレイが心配していると可愛い声がレイの耳に届く。


「レイお兄ちゃん〜、来たよ〜」


 トテトテと音を立ててレイの足元にしがみ付いた少女はニパッと笑みを浮かべてレイを見上げる。


「ニーナ!?ええっ、なんでここに居るの?」


 レイは想定外の珍客に目を丸くしながらも、その可愛らしい客の頭を優しく撫でる。ニーナは嬉しそうに目を細めながら、得意げにレイに言う。


「うーんとね、アリスちゃんとじいじときたの〜」


 すると入り口からレイの祖父であるデニスと従姉妹のアリスが入ってくる。


「もうニーナ、1人で先に行っちゃダメでしょう、レイお兄様、すいません」


「ああ、アリスとお爺様が連れてきてくれたんですか。すいません、ご足労頂いて」


 レイはそう言って謝罪の言葉を口にする。それにデニスは首を振り、笑顔を見せる。


「なに可愛い孫達と祭りを楽しもうと思ったからきたまでじゃ。アリスもニーナも楽しみにしておったでの」


「はい、私もいつか学院に通う身ですから、楽しみにしてたんですよ」


「ニーナもーっ」


 レイはそれを聞いて思わず苦笑を漏らし、3人を席へと案内する。


「まあ折角きて頂いたのなら、もう少しで休憩に入れると思うので、一緒に見て回りましょうか。なので今暫くはお茶でも楽しんで下さい」


 レイは彼らが来たときに、アンナから休憩に入っても良いよという内容の目配せを貰ったので、そう言って一緒に見て回る約束をする。


「わーい、レイお兄ちゃんとお祭りーっ」


 ニーナははしゃいだ声を上げ、アリスも嬉しそうな顔をする。レイもそんな2人に笑顔を返して、もう一踏ん張りとばかりに給仕の仕事に戻るのだった。



 レイは休憩に入るとニーナやアリスを連れて学院内を周っていた。祖父であるデニスは流石に若者には付いていけんなどと言って、レイにニーナやアリスを預けると一人のんびりと静かな場所に向かっていった。ただそんなデニスの代わりというわけではないのだが、今ニーナと手を繋いでメルテが歩いている。メルテはレイが休憩に入る時にアンナによって一緒に休憩に入れられた。アンナ曰く、「レイ君以外メルテちゃんを預けられる人がいない」というのが理由らしい。なのでレイは今、実質3人の御守をしている気分だったりする。


「メルテ、ニーナ、あんまり離れちゃ駄目だぞ」


「うん、大丈夫っ、メルテお姉ちゃんが一緒だからっ」


 そう言ってすっかりメルテに懐いたニーナが嬉しそうに返事をする。どうやらニーナは容姿の近いメルテに対し、親近感を抱いているようで比較的懐くのも早かった。


「ニーナ、可愛い。レイ、お姉ちゃんに任せる」


 メルテもそんな懐いてくるニーナにお姉さん風を吹かせて甲斐甲斐しく世話をする。メルテは普段どちらかというと世話を焼かれる方なので、世話を焼く対象がいるのが嬉しいようだ。レイはそんな2人を微笑ましく見ながら、自分と手を繋ぐアリスへ話しかける。


「そう言えば、アリスは学院祭に遊びに来たことはあるのか?」


「はい、去年はお父様とお母様の三人で遊びに来ました。その前はお爺様も一緒で。お父様もお母様もお爺様でさえこの学院の卒業生ですから、愛着もあるみたいで」


「まあエゼルバイト王国の貴族だったらそうか。近い将来アリスもここに通うようになるだろうしね」


 まあこの国の貴族の場合、ここに通わなければその後の仕事にありつけない事まであるから仕方がない。女性もここで出会った貴族の男子と婚約、結婚というのが通例だ。レイの両親の様に家格や家柄にこだわらない両親でもない限り、貴族はやはり貴族と結ばれる事にこだわるのだ。


「はい、レイお兄様のような素敵な男性と出会えればと思ってます」


 アリスはそう言ってニッコリと笑みを見せる。レイはそんなお世辞どこで覚えたんだと思いつつ苦笑いを浮かべる。そうして4人で各クラスの出し物を眺めていると、聞き覚えのある声が耳に届く。


「レイ、そんな所で何をしているの?」


 レイが声のした方に振り向くとそこには見知った2人の女性が、見慣れない恰好でそこにいた。一人はセリアリス。彼女の恰好は男物の騎士の礼服を着て彼女の薄藤色の髪を一つに纏めて男装の装い。もう一人の友人はユーリで彼女は頭に頭巾を被り礼拝堂にいるシスター達の装いだった。


「いや俺は親戚の子が遊びに来たので、一緒に学院祭を見て回ってるんだけど……、2人のその恰好は何?」


 すると話しかけたセリアリスがテレた様な困った様な顔で弁明する。


「えっ、ああ、あのこの恰好は、私達のクラスは演劇だから、その衣装でその宣伝?」


「クスクスッ、セリーったらそんな恥ずかしがる事無いじゃない。凄くその恰好もカッコいいわよ」


 そんなセリアリスを茶化す様にユーリがからかう。どうやらセリアリスとは違いユーリは自分の恰好を余り恥ずかしいとは思ってい無い様だ。そしてそんなユーリにセリアリスは不満顔で文句を言う。


「もう、ユーリは着慣れている格好だから恥ずかしくないのよ。私はこんな男子の恰好なんてした事が無いんだから、仕様がないでしょっ」


「フフフッ、ごめんごめん、でもレイもセリーの恰好、カッコいいと思うわよね?」


 そう言ってユーリはレイに無茶振りをする。レイとしてはこれは褒めていいのか思わず悩み、言葉を詰まらせる。するとそのフォローが別の所から入る。


「レ、レイお兄様っ、こんな素敵な方、私初めて見ました。こ、こちらの方はどなたなのですかっ」


 アリスはセリアリスを見て顔を赤らめながら食い気味にレイを問い詰める。レイはそんなアリスに仰け反りながら、何とか返答する。


「こ、こらっアリス、説明、いま説明するから、……っと、こちらはセリアリス様。ノンフォーク公爵家のご令嬢。でその隣が、アナスタシア伯爵家のご令嬢でユーリ様。あっ、この子は俺の母方の従妹でアリス。ドンウォーク子爵家のご令嬢だよ。よろしくね」


「ふぇっ、ごっご令嬢?嘘、こんな素敵な方が女性なのです……か?ふぇ、こ、公爵家っ!?」


 アリスは男性と女性を間違え、加えて公爵家と聞いてアワアワと動揺をし始める。するとそんなアリスを可愛らしく思ったのか、さっきまでテレていたセリアリスがいつもの落ち着きを取り戻し、少し腰を屈めながらアリスに話しかける。


「フフッ、私の変装も大成功という事かしら。初めましてアリスさん。私はレイの友人のセリアリス・フォン・ノンフォーク。よろしくね」


 アリスは優しげなセリアリスに見つめられて、直立不動で顔を真っ赤にし固まるが、ポンポンとレイに背中を後押しされ、再起動すると慌てて挨拶する。


「はっはい、私はドンウォーク子爵の娘でアリス・ドンウォークと申します。セリアリスお姉様、よろしくお願いしますっ」


「はい、よろしくお願いします。でも私の事はセリーでいいわよ。私そう呼ばれる方が好きだから」


「セリーお姉様?」


「うん、良くできました」


 セリアリスは満足そうに頷くと、優しくアリスの頭を撫でる。レイはそんな2人のやり取りを聞きながら、隣にいるユーリに話しかける。


「そう言えば2人は演劇だって言っていたけど、何の役をやるの?」


「ああ、私は見ての通りシスター役。でも只のシスターではなく聖女の力があるシスターなんだけどね。セリーはそのシスターを守る騎士の役。本当はアレックス様やアレス様がやるという話が有ったんだけどアレックス様は王妃様の方の用で参加できなくて、アレス様はアーネスト先生が用事を頼んでるそうでやっぱ参加できなくて、それでセリーに白羽の矢が立ったって訳。私も気心が知れたセリーなら劇もしやすいからそうお願いしたの」


「へぇ、ちなみにその劇って有名なお話なの?」


「うん、初代の慈母神様の加護を持っていた聖女様のお話。絵本とかにもなっていたんじゃないかしら?」


 ユーリはそう言って説明してくれる。レイはその絵本とやらもその初代聖女の話も知らなかったので、その劇を見ればわかるかなと思い、その上演のタイミングを聞いてみる。


「そうなんだ。ならそれは是非見ないといけないね?その劇はいつどこで見られるの?」


 するとユーリが嫌そうな顔をして、はぐらかそうとする。


「えっ、いや私は別に知っている話なら見なくてもいいと思うけど……」


「ははっ、安心していいよ。俺はその話知らないから、むしろ興味が湧いた。ユーリもセリーも出るなら友人として見ないといけないからね」


「くっ、それ絶対に見て笑おうと思っているでしょ?……はぁ、劇は明日の昼、場所は大講堂。でも笑ったら絶対に許さないからねっ」


 ユーリは隠したところでレイは絶対に見に来ると思い、溜息交じりで釘を刺す。レイはそんなユーリに良い笑顔を見せて頷く。


「勿論、精一杯楽しませて貰うよ。なんてったって二人の友人が出るんだからね」


 そしてそんなやり取りをしている所で、レイ達から少し離れた所でニーナの悲鳴が上がる。


「キャーッ」


 レイは慌てて声のした方に向き直ると、しゃがみこんで悲鳴を上げたニーナを庇うように魔力を揺らめかせたメルテが立ちはだかっていた。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] アリス、いいわぁ。 ただレイとアリスが結ばれてもドラマとして成立しないから妹枠で終わりそうなのが残念。 アリスは洞察力といいとっさの判断力といい性格や容姿ふくめてヒロイン勢に優るとも劣らない…
[良い点] あ、悲鳴が…続きが早く読みたいです~
[一言] え?もうトラブルなの?早いよ。どれだけ無法地帯なんだよ。
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