第八話 とある子爵嫡男のプロローグ①
ここから少しずつ物語が動きます。
その日は入学式に相応しい快晴だった。レイは部屋のカーテンを開け、部屋から外の景色を眺め見る。
「ふぁー、やっと学校が始まるのか。まあ、これから3年間、頑張んないとな」
なんとなく漏れ出たやる気を口にしながら、のんびりと支度を始める。制服は新品で、袖を通すとパリッとした感じがして気持ちがいい。良い意味で新鮮な気持ちを味わいながら、食堂へと向かう。朝食をとり、一度部屋に戻って、用意を済ませた後、のんびりと部屋を出る。
まだ人影はさほど多くない。レイは余り周囲が混雑する前に行動したいと思っていたので、時間的にはまだ大分早いと思われるタイミングで行動している。取りあえずは、自分のクラスを校舎正面にある掲示板で確認し、教室へと移動。その後は講堂に新入生全員で向かい、入学式というのが、今日の段取りだ。レイは、寮を出るとやはりのんびり校舎正面へと向かう。
『主様、主様、いよいよ始まりますね』
道すがらに水の精霊であるウィンディーネが話かけてくる。その歌うような声に耳を傾けて、同じく心の中で、返事をする。
『うん、クロイツェルをでて、1ヶ月。ようやくだね』
『主様はその学院で何をなされるのですか?』
『一に勉強、二に勉強、三四がなくて五に交友かな。ディーネにわかるか判んないけど、学生は勉強が本分だからね』
レイはそう心で返事をして、肩を竦める。それに対して水の精霊は少し拗ねたように返事をする。判らないかもと言われた事に、ちょっとだけ不服なようだ。
『あら、それくらいは判りますわよ。レイの母親のレイネシアを見つけた時にこの学校にも来てますから』
『えっ?精霊の導きって、ディーネの事だったの?』
『ええ、水精霊の加護持ちの様子を見た時に、相性の良さそうな娘がいたので、それとなく教えてあげたの。まさか本当に結ばれるとは思っていなかったけど』
そんな驚愕の事実をディーネはあっけらかんと言ってくる。まあ精霊にしてみれば、恋愛云々は判らないだろうが、その縁で生まれたレイにしてみれば、驚愕の事実だったりするのだ。
『だから父上も母上も精霊の導きとか言うのか。まあ、僕もディーネやシルフィと相性のいい子が相手だと嬉しいけどね』
『フフフッ、なら主様の為に、そういう方を探しておいてあげます。ああ、紫の髪の子はシルフィと相性が良さそうですね。この前会った子は、精霊とは相性云々以上に、強い力を持ってますけど』
紫の髪の子とは、セリアリスの事だろう。彼女の属性は雷。雷は風と同じく天候に起因する属性だから、相性がいいというのもなんとなく判る。まあ、セリアリスと相性が良いと言われても、相手は公爵令嬢で婚約者持ちなので、論外なのだが。ただ彼女の周りに風の精霊の庇護を付けるのは良いかもと思う。
この前会った子というのはユーリかな?彼女は、慈母神の加護があるので、強い力があるのも納得だ。ただこちらも聖女で且つ伯爵令嬢なので、論外だろう。
『ハハ・・・・・・。その二人は、正直僕には縁のない人だから、他に探しておいてね。それよりディーネが相性が良さそうな人はいないの?』
『あら、主様。私が相性が良いといった方は、以前、お断りになっていたじゃないですか。今のところあの方以上の方はおりません』
『ああ、彼女ね。彼女も残念ながら論外だから。でもまだ庇護は続けてくれているんでしょ?』
『ええ、勿論。主様の言いつけもありますし、水の精達も傍に居る事を喜んでいますもの』
ディーネはそう言って、優しげな雰囲気を醸し出す。まあ彼女には、ここ王都で会う事はまずない。ディーネに言ったように論外でもあるのだから、そこは気にしてもしょうがないのだ。
そんなやり取りをディーネと続けていると、気が付けば掲示板前にまで到着していた。人も少しずつ増えてきているみたいなので、急ぎ掲示板へと目をやる。
レイは、まずはAクラスから順に自分の名前を探していく。ただそのAクラスには見知った名前が、集まっている。アレックス・フォン・エゼルバルト、エリク・ミルフォード、アレス・グレイス、セリアリス・フォン・ノンフォーク、ユーリ・アナスタシア。王子やら宰相息子、近衛騎士団隊長の息子、公爵令嬢に聖女にして伯爵令嬢。なにこれ、集まり過ぎじゃないかと思わずにはいられない。ちなみにこれらの情報源はセリアリスだ。
幸いにして、自分の名前がないのは良かった。流石にこのクラスだと、のんびり気ままにとは行きそうにない。レイは心の中で、ユーリに合掌をする。セリアリスは、婚約者と同じクラスなので、そこまで悲観する事はないだろうが、ユーリは、元々平民の子だ。貴族になってまだ1年。うーん、大変だろう。頑張ってほしい。
レイは他人事のように、実際に他人事なのだが、Bクラス、Cクラスと眺めていく。両クラスともさほど目立ったメンバーはいなかった。できれば自分の名前がそこにあって欲しかったが、ないものは仕方がない。そして最後、Dクラスを確認したところで、漸く自分の名前を見つける。Aクラスとは一番離れたDクラス。レイは内心で軽くガッツポーズを作り、クラスメイトも確認していく。
ただそこに2人の有名人を確認して、少し思い悩む。1人はジークフリード・フォン・エゼルバルト。もう一人は、メリテ・スザリン。1人は王族で第二王子、もう1人は平民ではあるが、大魔導の弟子である。レイは簡単に2人の話をセリアリスから聞かされたに過ぎないが、まあAクラスよりましかと諦め、その場を離れようとしたところで、掲示板前の人だかりに怒声が響き渡るのであった。
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