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第八十七話 舞台の準備

 レイとジーク、メルテの3人は担任のミリアムの言う通りに彼女の研究室へと足を運んでいた。ミリアムの研究室は本人の豪胆な性格の割に綺麗に整頓されており、レイ達は直ぐに部屋にあるソファへと促される。そしてミリアムが3人の正面に座ると話始める。


「さて、今日この場に来てもらったのには理由がある訳だが、ジーク、察しは付いてるか?」


「いえ、全く付いてません」


 ジークはミリアムの問いに全く悪びれる様子も無く、はっきりと否定する。ミリアムはその様子を嫌そうに見ながらレイにも問いかける。


「レイお前なら分かるだろう?」


「いや色々考えたんですが、これだと言うものが中々なくて」


 レイはそう言ってジーク同様否定する。ミリアムはそんなレイを睨みつけた後、メルテを一瞥し答えは期待出来ないと判断したのか、説明をし始める。


「チッ、余計な手間かけさせやがってっ。あーまず来月学院祭があるのは知ってるな?」


 するとレイとジークは首を縦に振る。流石にこれを知らないととぼけると鉄拳制裁が来そうだ。


「ちなみにこれはクラス単位で出し物を用意する必要があるから、クラスメートとして協力はしてやれ。ただお前らには別で仕事がある。それが今日呼んだ理由って訳だ」


 レイとジークは分かっていた。今日呼び出された理由がである。ただ出来ればやりたくないのでしらばっくれたのだが、所詮は些細な抵抗だったようだ。


「はぁ、クラス対抗戦ってことですか?」


 レイは其処で観念したようにその言葉を述べる。ミリアムはその言葉を聞いてニヤリとし、満足そうに首を縦に振る。


「うむそうだ。今度のクラス対抗戦に関しては私の独断と偏見で貴様ら3人を代表と決めた。拒否は認めん、わかったな」


 ミリアムのその宣言を聞いてメルテは目を輝かせるが、ジークとレイは渋い顔をする。


「普通に嫌なんですが。学院祭の出し物を頑張るんでそっちはキャンセルしても良いですか?」


「勿論出し物も頑張ってもらう。ああそっちの責任者はアンナにもう辞令を出した。アンナの奴泣いて喜んでいたぞ」


 ミリアムはそう言ってさも当たり前のようにレイの言葉を拒否する。確かに任命権はクラス担任にあるが横暴が過ぎる。アンナも可哀想になどとレイは顔を痙攣らせる。


「ふむ、ならば俺は当日体調が悪くなるとしよう」


 すると流石は第二王子、堂々の病欠宣言だ。恐らく彼の中ではせめて宣言する事がミリアムに対しての情けなどと思っているのだろう。ただしそれはミリアムに対しては悪手だった。


「ほう、ジークは堂々の病欠宣言か?ならば貴様にはもし病気如きで休むと言うならメルテとの模擬戦を毎日執り行う事とする。メルテ、異存はないか?」


「おおうっ、ジークと毎日模擬戦!毎日全力で魔法撃ち放題!ジーク、休まなくても毎日やろう!」


「なっ、模擬戦は同一人物とは3ヶ月間を開けるルールだろうっ」


「ハッハッハッ、この対抗戦前はクラス内の対戦に限り、模擬戦のインターバルはないっ!これは個々の研鑽を積むための処置で、いわば自由という事だ。良かったなジーク、病欠などと生温い事は言わん。存分に死んで来るが良い」


 ジークは普段の余裕ある態度が一変し、悔しげな表情を見せる。勿論、ジークとて実力者なので勝つ事は出来る。ただしメルテは底無し、限られた勝負なら負けないが無尽蔵となるとジリ貧は目に見えていた。


「くっ、いや予定が変わった。体調不良などなるものか、当日は体調万全で望もうじゃないか」


 ジークは早速手の平返しをして、対抗戦への意欲を見せる。レイはそんなジークにジト目を送りつつ、ミリアムに確認する。


「ミリアム先生、因みにDクラスの目標はどの辺りでしょうか?」


「フッ、決まっておるだろう優勝だ。そうすれば優勝クラスの教員には特別手当が出る!良いか、私の手当ての為、全力で敵を叩きのめすのだぞっ」


 思いっきり私情にまみれた目標設定に再びレイは嫌な顔をするのだった。



 一方のAクラスも同様にアーネストにより生徒が集められていた。


「さてクラス対抗戦のメンバー選定ですが、皆さんのご意見は有りますか?」


 Dクラスのミリアムとは違い生徒の意見を尊重するような素振りを見せるアーネスト。因みに今この場では生徒会メンバーが揃っている。そしてこういう場を率先して仕切るのがエリクだ。


「そうですね、アレックスとアレスは決定で良いでしょう。問題はもう1人を誰にするかですね」


 エリクはそう切り出してくる。するとてっきりもう1人もエリクで決まりだろうと思っていたアレックスが不思議そうな顔をする。


「ん?もう1人もエリク、お前で決まりだろう」


「ええ、私も当初そう思っていたのですが、Dクラスの存在が不気味でして」


 エリクはそう言って神妙な顔をする。エリクの分析ではDクラスのメンバーは、ジークとメルテは確定、もう1人もレイ・クロイツェルが有力と睨んでいる。フラガの線も無くはないが、模擬戦でレイ・クロイツェルとは勝負付けが済んでいるので、ほぼ間違い無いだろう。そうすると、ジークにはアレックス、レイ・クロイツェルにはアレスを当てるのが無難な選択だが、メルテに誰を当てるかが問題になる。勿論、エリクが当たっても良いのだが、火力という点ではメルテに劣る為他の選択肢も睨んでいた。


「ふむ、まあジークとクロイツェルは俺とアレスで何とかするが、問題はメルテと言う事か?」


「御意にございます」


 アレックスもエリクの言葉で成る程と頷く。エリクはどちらかと言うと知能特化型だ。剣も魔法もそこそこだが、知略こそストロングポイントである。火力満点の魔法特化のメルテとでは相性が悪いだろう。


「まあ確かに話はわかるが、他に誰がいる?流石にユーリやエリカでは荷が重いだろう?」


「そうですね、なのでセリアリス嬢に出てもらうのはいかがかと思うのですが」


「えっ、私がですか?」


 突然名前を挙げられたセリアリスは思わず目を剥く。まさか対抗戦メンバーとして名前を呼ばれるとは思っておらず、完全に油断していた。ただエリクも闇雲にセリアリスを指名した訳ではないようで、その理由を説明しだす。


「ええ、まず第一に対メルテに関しては、魔法の発動速度が重要です。彼女なら無詠唱も出来るでしょうが、威力過多の為発動に時間がかかります。ただ剣で攻撃するのは悪手で恐らく防御魔法を準備するでしょうから、剣は届かないでしょう。するとメルテ以上に早く魔法を行使する必要があるのですが、私の手持の魔法では間に合いません。ただセリアリス嬢であれば、最速である雷魔法があります。それが当たって動きを止める事が出来れば、此方の勝ちでしょう」


 確かに説明は理に適っている。ただ雷魔法は早く発動させると威力が落ちる。それをメルテに耐えられると此方がジリ貧となる。


「成る程、確かに可能性はありそうですわね。フフッ、メルテとの対戦なんて面白そう。エリク、私の方には異存ありませんわ」


 ただ其処は軍閥の長の娘である。大抵であれば恐れを抱く場面でも、勝気な性格が顔を覗かせる。臆して後ずさる様なタイプではないのだ。するとそれを周りで聞いていたアーネストが、他のメンバーにも確認を取る。


「セリアリスさんはそう言ってますが、他の皆さんには異存は有りませんか?まあそうなるならエリク君にはクラスの出し物の総括をお願いして、その補佐にユーリさんとエリカさんと言った形にしましょうか?」


「うむ、私に異論は無いな。ただセリアリス、無理はするなよ」


「はい、アレックス様、ご心配ありがとうございます」


 アレックスは珍しくセリアリスに気配りを見せて、セリアリスもそれを平然と受ける。他のメンバーも特に否は無いようで対抗戦のメンバーが確定する。


「ではこのメンバーでクラス対抗戦を戦う事にしましょう。現時点ではDクラス以外の敵は無さそうですが、それも強いて挙げればでしょう。今年は我らAクラスが優勝を攫いましょう!」


 アーネストがそう話を締めて、全員に発破をかける。全員が頷き気合いを込める中、1人ユーリだけが、不思議そうな顔をする。


『でもセリーが負けちゃうと優勝出来ないんじゃ無いかしら?』


 そう、どうやらメンバーの星勘定が間違っている。アレックスが勝つのはまあ大丈夫のような気がする。ただアレスにレイが負ける姿が想像出来ない。ただ目立ちたく無い彼の事だ。もしかしたら出場しないかも知れないなどと楽観的に考えて、場の雰囲気を乱す様な発言はしないのだった。



 各クラスのメンバーが決まってから数日後の事である。学院の中にある大会議室。其処に学院の教職員が集められ、会議が行われていた。会議の議題は学院祭について。この会議は毎年この時期に行われるもので、その進行や注意点、来賓者の数やその対応などが協議される。特段珍しいものではなく教職員にしてみれば、毎年の恒例のものなのだが、今回のこの会議には珍しい人物が参加していた。


「すみませんね、オシアナ学院長。突然参加させて貰って」


「いえ、それは全然構いませんわ。毎年来賓者の方々のご調整に国の方が参加されるのは通例ですから。ただそれに宰相閣下自らが参加されるのは予想外でしたが」


 オシアナがそう言って今回の国側代表の参加者に話しかける。そう今回の国側の代表者はエリクやエリカの父でもある宰相のミルフォード侯爵だった。ミルフォード侯爵はそんなオシアナの返答に苦笑しながら、今度は全体に向けて話始める。


「さて皆さん。今回、宰相である私自らこの会議に参加させて貰ったのは理由が有ります。報告は2つ。まず1つ目は今回の来賓者に王太后様と王妃様が参加されます」


 すると教職員からどよめきが起こる。毎年国王陛下が学院祭のメインイベントであるクラス別対抗戦を観戦するが、ここ数年は病気療養中であり宰相や元老院の方々が代行してきた。今年もそうなるだろうと誰もが思っていたのだが、よもや王太后様と王妃様が揃い踏みとは誰もが想像していなかった。


「宰相閣下、どちらかでは無く、双方という事ですか?」


 流石のオシアナも想像していなかったのか、そう念押しで確認してくる。ミルフォード侯爵はそれにも苦笑で応じて首肯する。


「ええ、双方から個別で依頼を頂きました。今年は第一王子様、第二王子様、それに第一王子の許婚殿まで参加されるとか。其処に興味を抱いたようでしてな。片方だけ断る訳にもいかないので、そのようなご報告になります」


 するとオシアナは少し考えこみながら質問を追加する。


「因みに2人並べてとはいきませんよね」


「警備上、お手数をお掛けするが分けて頂いた方が宜しいでしょうな」


「やはりそうですか……。承知しました。其処は学院側でも対応を考えましょう。それでもう一つのご報告とは?」


 オシアナは想定内の回答だったのかそこは素直に了承し次を促す。ミルフォード侯爵はそれを受けてまた全体へ伝えるように前を向く。


「うむ、配慮感謝する。ではもう一つのご報告だが、先般大神殿にて古代遺跡の入口が発見されたのはご存知だろう。実は国としてはこの探索の人材に頭を悩ませている。昨今の近衛騎士団の失態で彼らだけでは力不足ではないかとの声も上がっていてな。そこで今回のクラス別対抗戦の優勝者をその古代遺跡の探索者メンバーに加える事になった。これは元老院での会議の決定事項である。オシアナ学院長、宜しいかな?」


 そのミルフォード侯爵の発言に教職員達は再び盛り上がる。未踏破の古代遺跡は学術的に名声的にも価値のあるものだ。それの探索メンバーになれる事は、非常に価値ある事なのだ。そんな盛り上がる教職員達をオシアナは一旦手で制止して、ミルフォード侯爵に確認をとる。


「そのような栄誉を賜れる事は光栄なのですが、彼らは学生。出来れば引率する者も付けたいのですが、それは可能ですか?」


「ええ勿論、むしろ学院からも調査に複数名参加頂きたいと考えております」


「成る程、因みにこの事を生徒達に公言する事も問題有りませんか?」


「ええ、これは既に決定事項。むしろ大いに広めて下さい。生徒達のモチベーションにもなるでしょう」


「成る程、なら私には異存はありませんわ。教職員の皆さん、今年の学院祭はかつてない程の盛り上がりを見せるでしょう、だからこそ皆さんの下支えが必要です。どうか全員でこの学院祭を成功へと導きましょう!」


 オシアナの堂々とした宣言により教職員達は心を一つにして、学院祭成功を心に誓う。そんな盛り上がるその場を見ながらオシアナは満足そうに頷く。


『さて舞台の準備は順調ですわね。これからが楽しみですわ』


 オシアナは内心でそう呟きながら、優雅に席につくのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ミリアムの、クラス対抗戦選抜に拒否は認めないとかいう物言い、何様なんだろうか。 たかが学校主催の余興でしょうに。 そんな余興よりも軍属のレイは公爵家の姫君の護衛という公務があるのですし…
[良い点] いつも楽しく読ませていただいてます。 [気になる点] 読み返していて気になったのですが、 クラス対抗戦の代表人数について 第六十一話 迷宮攻略⑥:5名 第八十七話 舞台の準備:3名
[良い点] たまたま感想で書いたら久しぶりに出てきてくれたジーク君 相変わらずやる気がないようで何より [一言] Dクラスには是非頑張ってもらって生徒会(笑)にして頂きたい 後が大変かもだから今の時点…
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