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第八十六話 余波

 レイとユーリは薄暗い真っ直ぐ下へと続く階段を降りていた。先程見つけた入り口から入る事のできる階段である。最初階段を降りるまでは普通の石で作られた階段で、途中踊り場がありそこからは材質のわからない階段となっている。


 レイは壁面をコンコンとノックする様に叩きながら不思議そうな顔をする。


「うーん、これって石なのかな?それとも金属なのか?」


 不思議な材質のそれは艶やかな青白い素材で傷どころか経年劣化さえも感じさせない。質感からかなり重そうな印象を受けるが、正直削り取ることも出来なそうなので、合っているかもわからなかった。


「なんか凄い所に来ちゃった感があるけど、これってやっぱ古代遺跡に繋がる道って事だよね?」


「そうだな。多分間違いないっと、そこに扉がある。その先を見れば分かるんじゃないかな?」


 レイはそう言って扉のある踊り場まで足を進めると、ジックリその扉を観察する。扉もまた階段や壁と同じ材質で作られたものだが、その扉に施された意匠は細かくそして優美である。


「この扉の意匠、どっかで見た事があるけど何だっけ?」


 レイが中々思い出せず首を捻ると、ユーリが隣に来てクスクスと笑い出す。


「フフフッ、レイこれはさっきも見たじゃない。主神オロネオス様の持ってた盾の紋章よ。こうなるといよいよ神殿との関わりが気になってきちゃうわね」


「ああそうか、盾に描かれていたものか。あまり盾には意識を向けて無かったから、思い出せなかったよ。流石は神官殿、お見それしました」


 レイはそう言って、少しだけ茶化すように礼をとる。ユーリはそれを満更でもない顔で、乗ってくる。


「全ては神の御心のままにですわ、フフフ、ほらそんな事より、この扉を開けるんでしょ?」


「ああ、そうだね。えっと、罠の類も魔法による細工も無さそうだね。うん、じゃあ開けるよ」


 レイは一通り扉を確認した後、ゆっくりと扉に力を入れてる。扉はそれに呼応するようにゆっくりと開き、そしてレイたちの前の視界が開ける。


 視界の先は広いドーム状の空間だった。ドームの奥には神殿の入り口のような石柱が立ち並び、また大きな扉が一つ存在する。


『主様、あの扉も認識阻害と同じ魔力で封印されてますわ』


 その空間も入った所でディーネがそう告げてくる。レイはいよいよ面倒臭い事になりそうな予感を感じながら、ディーネに確認する。


『そうするとまたユーリなら開けられるパターンかな?』


『わかりません。もう少し複雑な印象も受けますが』


 ディーネはそう曖昧な回答をしてくる。レイは取り敢えず今日の所は扉を確認して終了かなとユーリにその事を伝える。


「ユーリ、どうやらあそこの扉は魔法による封印がされてるみたいだ。もしかしたらまたユーリの力で解放出来るかも知れないけど、ちょっとやばそうだから、今日の所は扉を確認するまでにしないか?」


 既にここに来るまでにそれなりの時間が経っている。ユーリもこれ以上の成果は身に余ると感じたのか、素直に首を縦に振る。


「そうね、流石にこの事をお養父様にもお伝えしなくてはいけないし、レイの言う通りにしましょ」


 そうこれは正直身近な冒険で収まる範囲を超えている。レイとユーリはお互いに顔を見合わせながら、後は大人の領分などと気軽に考えていた。



 それは非常に重大な出来事だった。王都にある大神殿にて、古くから伝承で語られていた謎の古代遺跡が発見されたのだ。正直、ここ王都では何度もその存在の探索が行われてきたが、一向に成果は上がらず最早眉唾の御伽話とされてきたのだ。それが神殿の神官により()()見つかったらしい。


 レイが教室に入るとその話題でクラスは持ちきりであった。


「おい、レイ聞いたか?大神殿にある古代遺跡の話?未踏破の遺跡で最大級の規模らしいぞ」


「いや俺の聞いた話だと伝説の宝具が眠っていて、冒険者ギルドが高ランク冒険者を集めているって話だぜ」


「いや探索には近衛が出るって話だぞ、民間からの受け入れはなしって話だ」


 席についたレイの周りには、既に尾ひれのついた噂話を楽しそうに話す級友が様々な情報を話し出す。


『いや最大級も何もまだ入り口が開いてさえ無いんだけど』


 どうやらユーリがアナスタシア卿に報告をして、アナスタシア卿経由で国に報告が行ったところまでは事実だが、その後はまだ昨日の話だ。流石に何も決まって無いはずだった。


「あーっ、お前らうるさいっ、ほらミリアム先生が来たぞ。席に戻れ、席にっ」


 レイはそう言ってクラスメイトたちを席へと戻す。そもそも学院の生徒には縁の無い話だろうとレイは呆れつつ、教室に入ってきたミリアムに目を向ける。すると徐に何故かミリアムと目が合う。レイは嫌な予感がし慌てて目を逸らすが無情にもミリアムはそれを無視するかのように告げてくる。


「あーまず以下の3人は今日の午後一で私の研究室へ来るように。ジークフリード、メルテ、そしてレイ。これは絶対であり拒否は許さん。わかったなっ」


 ミリアムからのいきなりの呼び出し。しかもジークとメルテを交えた3人でだ。レイはやはりやな予感というのはよく当たるものだと、そっと溜息を吐いた。



 ここAクラスでもレイ達Dクラス同様に大神殿の古代遺跡発見で大いに盛り上がっていた。ただそんな中、いつもであればこんな話題に興味を示すアレックスが大人しい。彼はどこか思い悩むように噂話の喧騒を眺めていた。


『神殿地下の古代遺跡ってこんなタイミングでわかるんだ』


 アレックスは周囲の喧騒を他所に1人そんな事を考えていた。アレックスはゲーム知識からこの遺跡がある事は前々から知っている。むしろこの古代遺跡こそ先々にも影響が出るものなので、知らないはずが無かった。ただこの古代遺跡がどのタイミングで明るみに出るかはゲーム内でも細かな説明が無いので、今このタイミングで出てきたのを感心していた。


『まあでもタイミング的には妥当っちゃあ妥当か』


 この古代遺跡はこの後に控える学院祭のメインイベントであるクラス対抗戦に関係してくる。なので今のタイミングは早過ぎず遅過ぎずで良いタイミングなんだろうと思う。


『いよいよ学院パートも盛り上がってくるな』


 この学院祭からは、イベントが盛り沢山である。アレックスはそう思うとワクワクした気持ちが湧いてくる。それをいつもの様に王子然とした雰囲気で押さえ込み内心で気合を入れるのだった。


 その教室にいるもう一方の転生者であるエリカもその喧騒の中頭を悩ませていた。


『ああ、共通イベントの予兆がまた出てきた』


 エリカが頭を悩ませていたのは、物語の進行具合だった。今回の古代遺跡の発見は次なる共通イベントへの序章である。それはモブなのに神の加護を受けてしまったエリカが今後どう動くべきかを考える決断の時が迫っている事に他ならなかった。


『私はどうしたいんでしょう?』


 転生した当初はメインキャラでない事に失望し、近しい属性のユーリの立場を取って代われたらと望んでいた。ただ実際に登場人物達に接するうちにそれが良いのかと悩むようになる。いっそ神の加護が無ければ悩む事も無かったのだろうが、何故かモブの自分に神の加護が授けられたのだ。


『アレックス様を選ぶとハーレムの1人が関の山。でも他の方を選ぶと神の加護がネックになる。何とか加護の使命を果たしつつ、私だけを好きでいてくれる人と付き合いたいわ』


 幸いエリカに対するアレックスの興味はユーリ程ではない。だからこそハーレム要員でしかないとも思うのだが、それが女性としての幸せには繋がらないとも思う。やはり女性ならば自分が好きでその人に好かれてが1番だと思うのだ。


 もう時間の猶予はない。噂話に花を咲かせる周囲の声がそう自分に言っている様で、エリカの表情は憂いを帯びるのだった。


 そしてもう1人この騒動に困っている人物がいた。勿論この騒動の原因の1人であるユーリ・アナスタシアその人だ。


 ユーリは古代遺跡の入口から戻った後、直ぐに養父であるアナスタシア卿の元へと駆けつけて説明をした。結果、アナスタシア卿はユーリのことを慮って発見者はぼかされたが神殿内で処理しきれないだろうと、直ぐに国に対して報告をあげている。


 ユーリはアナスタシア卿の判断には特段不満はない。神殿内での人員では古代遺跡の探索に関しては完全に人材不足だからだ。そうなると手段としては神殿が独自で人材確保に当たるか、国に頼るかだが、独自での人材確保は規模的にも現実的では無いだろう。


 ただこの噂が流れて広まるのが、予想以上に早い。昨日の今日でここまで広まるのかと正直驚いていた。


『何処から話が漏れたのかしら?』


 ユーリやレイ、養父から広まることはあり得ない。寧ろこのメンバーは広めたく無いメンバーだ。なので広めたのは国。養父はロンスーシー卿へ話を通すと言っていたので、其処から話が広まったのだろう。では何の為というのがわからない。


『アーネスト先生に聞けば分かるのかしら?』


 いやそういう政治が絡みそうな話は生徒には教えないだろうとその考えを否定する。


『まあ分からないものを考えても仕方がない。今は噂が収まるのを待つのと、変に目を向けられないように気をつけるだけだわ』


ユーリもまた今は大人しくをモットーに周囲の喧騒をやり過ごすのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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