第八十五話 秘密の入り口
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レイとユーリは先日の約束通り秘密の入り口を探索するべく、次の休日の夕方に大聖堂へと集まる事が出来た。その日は午前中にドンウォーク子爵邸でニーナやアリスと遊び、早めに邸宅を出て大聖堂へと訪れている。ユーリの方も通常の慈善活動を経て待ち合わせ場所に来ており、今日はアレスにも出くわさなかったようだった。
「それでレイ、その入り口というのは何処にあるの?」
待ち合わせの場所で簡単に挨拶をした後、気になるのか直ぐにユーリはそう聞いてくる。レイも別に勿体ぶるつもりは無いので、素直にその場所を指さす。ただ指した場所が意外だったのか、ユーリは不思議そうな顔をする。
「えっと、あそこって主神オロネオス様の像だけど?」
そうレイが指を差したのは主神オロネオスの像だった。レイはそこでニヤリと笑ってユーリに言う。
「うん、そのオロネオスの像に仕掛けがあるみたいだよ」
レイはそう言ってユーリを先導するように礼拝堂にあるオロネオス像の方へと歩いていく。ちなみにこの夕方に関しては、一般の参拝は遠慮してもらっている。そこはアナスタシア卿経由でユーリが祈祷に使いたいという理由で本日の一般の参拝は打ち切って貰ったのだ。だから今この場にいるのはレイとユーリのみである。
レイとユーリはオロネオス像の足元まで来るとその裏手に回り周囲を見渡す。オロネオス像は高さ10メートルはあるだろうか。ここ礼拝堂にある石像は全て同じような大きさの像で圧巻なのだが、その中でも主神といわれるだけあってオロネオスの像は一回り大きい。シルフィの話だとここにその入り口があるとの事だが、レイもユーリもパッと見は全然判らない。
『主様、認識阻害ですわ』
そう忠告をくれたのがディーネ。レイは声を掛けてくれたディーネに質問を返す。
『認識阻害の魔法が掛かっているって事?という事は魔法で解呪する必要があるって事かな?』
『魔法というより解呪をする仕掛けのようなものがあるのではないでしょうか?この場所は神の魔力に満ちてますので、人の魔法では解呪できないと思います』
レイはそれを聞いて困った顔をする。これではその入り口を見つける事ができない。なのでレイはその事をユーリに素直に説明する。
「ユーリ、多分なんだけど秘密の入り口って認識阻害の魔法で確認できない様になっている。何かその認識阻害の魔法を取り除く仕掛けがあると思うんだけど、何か知らないかな?」
「認識阻害を解除する方法?うーん、何かしら、呪文?魔力?でもなんとなく私もここが当たりだって気がしているのよね」
「どうやらここは神の魔力に満ちているようで、人の魔力では駄目っぽいんだよね。ああでもユーリならいけるかも。神の加護持ちだから。となると後はキッカケか」
恐らくだが魔力に反応という事であれば、神と同等、同種の魔力を用いればその認識阻害を解除できる気がする。ただその魔力をどう使うかが問題なのだ。するとそこでユーリが思いついた事を言ってくる。
「レイ、ほらここ神殿内に書庫があるって言ってたでしょ?あそこで私が見れる範囲の古い文献の中で、一個だけ気になる伝承があったの。『……叡智宿るその神殿に我が主が道を示す。神の子たる力を我が主が瞳に注げば悠久の眠りより叡智への扉が開かれん……』伝承は昔いた賢者が記したものとされていて、我が主が誰を指しているのかも神の子というのが誰なのかもわかっていないのだけど、何か気になって」
「うーん、我が主って言うのがオロネオスって事?まあそうなると神の子が慈母神の加護を持つユーリって事になるのかな?瞳に力ってもしかしてこの像の瞳って事?まあ状況的には辻褄は合うけど、出来過ぎというか、よくその部分だけ覚えていたねというか」
レイは真剣に語るユーリの言葉をよく吟味しながら、フムフムと感心しながらも偶々覚えていたにしては出来すぎな内容に気持ち悪いものを感じる。
「うん、私もそう思う。何か導かれてるような気さえしてくる。うん、でももしそうならやってみる価値があると思わない?」
「まあこのまま考えていても埒が明かないのは間違いないのは事実だね。とは言え瞳かー」
レイはそう言って上空を見上げる。像の高さは約10メートル。4、5階建の建物と同じ位の高さだ。当然ユーリが手を伸ばして届くような高さではない。
「うっ、確かにどうしよう。そこまで考えていなかった」
ユーリも上空を見上げながら動揺を見せる。やるとすれば天井から紐でも吊るしていくか、下から何かを積み上げて上って行くか位しか思いつかない。するとレイが何か考え込むような表情でユーリに聞いてくる。
「ユーリ、魔力の発動は直ぐにできる?できれば神の加護の力を高めた状態で直ぐ発動してもらいたいんだけど?」
「えっ、予め慈母神様に祈祷をして魔力を高めていれば、発動に時間はかからないけどそういう事でいいのかしら?」
「うん、じゃあそれでいこう。俺があそこまでユーリを連れてってあげるから」
「ええっ、連れて行くってレイ、それどうやってするの?」
レイはもう確信しているのか、しっかりとしてた口振りでユーリにそう説明するが、ユーリには意味が判らない。ただそんなユーリをレイは苦笑交じりに呆れた声を出す。
「ほら、ユーリは知っているはずだよ。以前ユーリが悪漢に襲われそうになった時に体験しているでしょ?」
そこでユーリは漸く合点する。レイは飛ぶ気なのだと。確かにあの時飛び上がった高さはこの像ともそう差は無いかも知れない。ユーリはその時、ああレイってこういう人だったと乾いた声が漏れる。
「あははっ……そう言う事ね。確かに飛べばいいね……」
「うん、俺はユーリを抱えてあの高さまで飛ぶから、ユーリはその魔力をオロネオスの瞳に注ぎ込んでね」
「うん、分かった」
そしてその後意識を集中し、慈母神に祈りを捧げる。ユーリのような神官職の魔力はその祈りの深さによりその精度が高まっていく。特にここ大神殿のような神力の高い場所は、その質を昇華させるのに申し分ない場所だったので、ユーリはものの5分も経たずに目を開いて立ち上がり、レイへと一つ頷く。レイはその様子を見てニコリと笑みを見せる。
「じゃあ上に飛ぶからこっちに来て貰っていい?」
「ふぇっ」
思わず変な声が出てしまったのは完全に誤算だ。今ユーリはレイにお姫様抱っこをされていた。
『れ、レイ、ちっ近い』
ユーリは内心で大いに動揺する。そう言えば前回も抱っこをされていたのを思い出したからだ。この態勢はレイの顔が近くてしかも体が密着をしていて非常に恥ずかしいのだ。勿論、こうしてレイに抱っこされるのは嫌ではない。むしろ安心感というか守られている感というか嬉しいのだ。だがそれ以上に普段こうして男性の顔近くにあって密着する事など無い為、大いに動揺する。
「んっ?おーい、ユーリ?」
「…………はっ、ああっ」
レイは動揺しているユーリに声を掛けると、動揺していたユーリから声が上がる。レイは何事かと思いユーリの表情を見るとその顔は耳まで真っ赤になっている。
「ユーリ?どうした?」
「ご、ごめん。集中が切れちゃった」
そうユーリはこの抱っこという状況に動揺しまくり思わず集中を切らしてしまったのだ。その後中々慣れないユーリは何度かその集中を切らしたが、数度試すと慣れてきたのか集中しきる。
「いいよ、レイ」
「うん、じゃあ行くよ」
レイはそこでシルフィに声を掛け、風の力を利用して一気に上へと跳躍する。そして瞳の高さまでくるとそのまま減速し、ユーリの手が届く所でふわりと一時停止する。
「ユーリ、この状態は長く続かないから急いで」
「うんっ」
今は風の力で何とか静止しているが、この状態は長く続かない。飛行魔法というわけではないのだ。だからレイはユーリを急かし、ユーリもそれに答えて手を伸ばす。そして何とかその魔力を瞳に注ぎ込むとその瞳に魔法陣が浮かび上がり、足元の方からガコンッと大きな音が出る。レイ達はそのまま下に落下していき、地面近くで再びふわりと風が起こり着地する。するとその目の前には下に向かうような階段が現れていた。
「おお、やっぱ予想通りだったねっ」
レイは素直に感嘆の声を上げるが、ユーリはさっきまでの自分の失態もあり申し訳なさそうにする。
「ごめんなさい、私が動揺したばっかりに時間をとっちゃって」
「ハハッ、もうそれはいいんじゃないか?それにテレるユーリもなんだか可愛かったしね」
「うっ……、レイの意地悪。仕方がないでしょ。あんなに男の人に密着する機会なんて無いんだから」
「そう?ダンスの時も同じくらい近いんじゃない?そう考えたらそうテレる事も無いでしょう?」
レイにして見れば、ダンスと同じ位の距離感だったので、テレも緊張も無かったのだが違うのだろうかと不思議そうな顔をする。
「ふ、ふん、恥ずかしくなっちゃったんだから、しょうがないのっ。もう、ほら行くわよっ」
ユーリはそう言ってテレを隠しながらそそくさと階段の方へ向かってしまう。勿論テレもある。それと同時に嬉しさもある。だから顔が赤らむのも仕方がないというものだ。ユーリはそう自分に言い訳しながらも何とか気分を落ちつけて顔が赤らむのを抑えようとするのだった。
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