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第八十四話 学院長 オシアナ・シャルツベル

「オシアナ……学院長……先生!?」


 レイは突然現れたオシアナ・シャルツベルを見て思わず声を漏らす。確かに学院内なので居てもおかしくは無いのだが、こんな図書室の片隅でしかも声までかけられるとは思っていなかった。ユーリもレイと同様なのかビックリした表情で唖然としている。するとそんな2人を可笑しそうにオシアナが話かけてくる。


「あらあら、驚かせてしまったかしら。ごめんなさい、えーと、貴方は確かレイ・クロイツェル君だったかしら。女子の方はユーリ・アナスタシアさんね。御機嫌よう」


「あっ、いえこちらこそ驚いてしまってすみません、オシアナ学院長」


 レイは何とか気持ちを持ち直し、驚いてしまった非礼を詫びる。オシアナは特段気にする素振りを見せずに、柔和な笑みを見せる。


「いえ、気にしなくて結構よ。それより2人は此処で何をしていたのかしら、何やら冒険といった話が聞こえてきたので気になって思わず声を掛けちゃったわ」


「ああいえ、冒険といいますか過去の資料でここ王都が古代遺跡の跡地につくられた都市だというのを知りまして、夢の話に花を咲かせていたというのが正直な所なんですが」


 レイはそう言ってとっさに話を取り繕う。勿論大神殿の入り口の話はできないし、かと言って話を一部聞かれていたようなので、あからさまな誤魔化しもできないのでそれとなく事実を交えている。オシアナはそんなレイの言葉に特段疑問を感じる事もなくその話にのってくる。


「ああそうなのね、古代遺跡と聞くとロマンがあるものね。私もこう見えて若い時分は古代遺跡の探索に何度か足を運んだのよ。実際そこで魔導具も発見した事があるしね。知り合いの冒険者なんかはそれこそ一攫千金で一山あてた人もいるし」


「へぇ、そうなんですね。オシアナ学院長は魔導具開発の第一人者のイメージがありますが、古代遺跡の探索にも行ってらっしゃったんですか。凄いですね」


 オシアナの話した昔話に、今度はユーリが乗ってきて合いの手を入れる。確かにオシアナは学者肌で余り古代遺跡探索といったフィールドワークのイメージが無い。なので思わずそう感想を漏らす。


「フフフッ、確かに今の私では想像はできないでしょうけど、そうね、ユーリさんの年から2、3年経った位からフィールドワークばっかに出ていたのよ。それこそ学院を卒業をしてから暫くは冒険者登録もしてランクもAランクまで上がったしね」


「へっ、Aランク冒険者なんですか?それってかなりの高ランク冒険者じゃないですか。それなのに今は王立学院の学院長って、本当にすごい経歴ですね」


 レイは思わずそう驚きの声を漏らす。冒険者ランクでAと言えば序列でSに続く高位の冒険者だ。レイ自身もまだ成人したてで既にBランク冒険者の資格を持っているので、人の事は言えないがかなりの実績を積んでいないと成れないランクである。


「ううん、Aランクって言うのはパーティーメンバーに恵まれたっていうのもあるのよ。ほら私は魔法専門の後衛だから前衛で頑張ってくれる人がいないと役に立たないから。それに元々余り戦闘には向かない性格でもあったから、その当時作った魔導具が評判になって世間が評価してくれたタイミングで学院に戻ったって訳よ。まあでもそんな生活を送っていたから完全に婚期は逃しちゃったけどね」


 オシアナはそう言って最後に茶化すような話をする。オシアナは伯爵家の令嬢だったはずである。確かに上位貴族の令嬢ならば、既に結婚して子供がいても不思議はない年頃だろう。逆に一般の市民は貴族に比べれば結婚が遅い為、今のオシアナでも十分結婚適齢期だと言えたりする。


「いやでもAランク冒険者で魔導具の発明家で王立学院の学院長でもあるオシアナ学院長であれば、今でも十分多くの方が求愛されるに相応しい方だと思いますけどね」


 レイは本心でそう言ってオシアナに賛辞を贈る。貴族社会で年の頃二十代半ばだと確かに年を取っている方だが、オシアナはその外見の美しさだけでなく富や名声も持っているのだ。正直求愛する人は引く手数多だろう。するとレイが余りに素直に誉めそやすからか、オシアナは少し頬を染めそんなレイを注意する。


「レイ・クロイツェル、女性に賛辞を贈るのは美徳ですが、余り年上をからかうものではありませんよ。まあお世辞としては及第点ですから、これ以上は言いませんが。ああ、それと王都以前にあった古代遺跡に対して、貴方たちは興味があるのかしら?」


 レイとしてはからかう意図など微塵も無かったのだが、大人の女性にしてみれば子供が背伸びでもしているように感じたのだろうと反省しつつ言葉を返す。


「特段からかう意図は無かったのですが、そう感じられたのなら謝罪致します。それと古代遺跡に関しては、まだ興味本位ではありますが興味が無いとは言えません」


「フフフッ、そうやって素直に謝る事が出来るのも美徳の一つよ。長く貴族をしていると素直な謝罪ができなくなりますから。それと古代遺跡に関してですが、まず王都が王都となる以前に都市であった事は知っているのよね?」


 オシアナはレイの謝罪にフッと柔らかい笑みを零した後、教師らしい利発な表情になって確認する。


「はい、知っています」


「うん、ちなみにその前身となる都市は元々今の王族の祖先が治めていた都市である事も知っているかしら?」


「ああ、そうなんですね。そうすると王家の血筋はかなり古くまで遡れるっていう事ですか」


 レイは薄々そうなんだろうとは思っていたので、驚くことなくその説明を受け入れる。オシアナは理解の早い生徒に満足そうな笑みを見せ説明を続ける。


「ええ、王家には様々な言い伝えがあるわ。元々ここに有った古代遺跡を治めていた人達の末裔であるとか、その古代遺跡が龍に襲われた時に救った英雄の末裔だったとか、この古代遺跡内にある神殿に魔の眷属を封印した為、その守り人になったとかね。まあただ言える事はこの王都にあった古代遺跡は現王家と何かしらの関係があるって事ね」


「へえ、王家ですか。そう言えば王家には特別な魔法がありますよね」


 レイは古代遺跡との関連があるかもと、以前アレックスが見せた特別な魔法を思いつく。オシアナもその事は知っていたのか、動じる事もなくそれに答える。


「ああ『スキルブースト』ね。私は直接見たことが無いけど、自身の能力を何倍にも引き上げるって奴よね。どういう原理なのかは判らないけど王家の血筋にしか使えないって、魔法研究者泣かせよね」


 流石に学院長だけあって博識なのか、スキルブーストの細かい所まで知っている。しかもそれは今だ解明されない特別な魔法らしく、それもやはり古代遺跡と何かしらリンクされるものなのかとレイは考える。するとこれまで黙っていたユーリが、オシアナに質問をする。


「学院長先生、古代遺跡とはそもそも何なんでしょうか?勿論、正史以前に栄えた何かしらの文明で、現代では再現のできない高等な文明の名残だとは理解しているんですが、正史以前で記録にあるのは神代の話だけで、勿論、神代の話が古代遺跡と何かしら関わりがあるのだとも思うのですが……」


「そうね、ユーリさんの疑問は当然でこれまで多くの学者や研究者達が考察や議論を交わしてきましたが、結論としては判らないが現時点の答えよ。勿論、様々な仮説や検証はなされているしその仮説の一部が真実を孕んでいるという可能性も否定できません。ただ今を生きる私達が理解していなければいけない事は、それは多大なる恩恵をもたらし、時に害を及ぼすものだという事よ。そうそれが場合によっては世界を揺るがすような大きなものになるかも知れない位にね」


 古代遺跡とは確かに利益にもなり、害にもなる。それだけ未知なものであり危険も孕んでいる。レイも一番大事なのはそこであり、オシアナのその意見には素直に同意する。どこの誰が何の為にというのは重要な事だが、一番大事なことではないという事だ。ユーリもそこは同じ意見なのか、オシアナの方を向きながら、しっかりと頷く。


「貴重なご意見有難うございます。そうですね。地に足を付けて慎重にですね」


「あら今にもどこかの古代遺跡にチャレンジするような口振りね。そんな宛てでもあるのかしら?」


 オシアナはそう言ってどこか探る様な視線をユーリに向ける。ユーリは慌ててそれを否定する。


「ハハ、そんな事ある訳ないじゃないですか、ただいざそうなった時にそう言う心構えは大事だなぁという話です……ハハ」


「まあそんな探索をいつかはしてみたいという思いはありますけどね。なのでいい勉強になりましたオシアナ学院長」


 すかさずレイもフォローを入れるべく、オシアナに礼を言う。オシアナは少しだけ含んだような表情を見せるが、それ以上は追及せずに話を終わらせる。


「フフフッ私も久しぶりに生徒と長くお話ができて楽しかったわ。やはり時々はこうして生徒と接する機会を設けないと駄目よね。とは言えちょっと長く話すぎたかしら。続きの話はまた今度という事で、私はこれで失礼するわね」


 オシアナはそう言って颯爽とその場を立ち去る。レイとユーリはそんなオシアナを見送りながら、顔を見合わせるとホッと息を吐く。


「それにしてもビックリしたね。まさか話しかけられるとは思わなかった」


「ホント、ビックリしたわ。でも学院長先生、ここに何しに来てたんだろう?」


「さあ、まあでも研究の資料とかを探しに来てたんじゃないのかな?良く分からないけど」


「フフフッ、そうね。気にしても仕方がないわね」


レイとユーリはそんな会話を交わした後、オシアナが現れた理由も何をしに来たのかもわからないまま、再び資料探しへと没頭し始めるのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 領地の島に遺跡有る事・・・・話す意味無いか
[一言] まさか、学院長も嫁候補なのか?
[気になる点] セリーの護衛の仕事がレイに迷惑すぎるでしょ…… セリーがレイの都合にある程度合わせるべきじゃないんですかね。 さっさと婚約破棄に動かないのも違和感。 [一言] 学園長、なんか怪しいなあ…
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