第八十二話 大神殿
はむたろうさん、レビュー有難うございます!大絶賛だったので、恐縮なのですが、これからも励みに頑張ります!
あと感想で頂いた指摘もちょこちょこ直しています。そちらも感謝です。
今日は若干短目ですが、切りの良い所迄です。
その後レイはお店で商品を受け取った後、待ち合わせをしていた馬車に乗ってドンウォーク子爵家へと戻る。思いの外時間をかけて市場を回った為、ニーナに続きアリスまでもがウツラウツラとしだす。レイもそんな2人に釣られてひと欠伸をした後、思わず苦笑する。
『まあ大分遊んじゃったけど、久しぶりにいい息抜きが出来たかな』
レイ自身、特にストレスを感じる性質ではないが、それでもニーナやアリスの無邪気な笑顔には癒される。今もレイの膝の上でぐっすり眠るニーナの寝顔や懸命に寝ないよう我慢するアリスの姿は本当に微笑ましい。レイはこういう時間もやはり大切なのだとその2人の表情を見ながらしみじみと思うのだった。
そしてその日は夕食を皆で頂いて学院の寮へと1人戻って行く。レイは大体王都内で移動の時は騎馬での移動が多い。歩いたり、走ったりでも良いのだが、当然、遠出には向かないし、馬車を用意してというのも正直手間なので、ついついそうしてしまう。今も気ままでいられるので、やはりこういうのが合っているのだろうと思う。
「流石に夜は大分涼しくなってきたな」
レイは馬上でゆっくりと歩を進めながら、涼しくなった秋の風を気持ち良く感じる。思えばここ王都に来て既に半年。慌ただしい生活の中であっという間に時間が過ぎていた。レイ自身学業を修める以外にここ王都でなし得たい事は特にない。両親は良い相手でも見つけて来いとは言うが、そのアテも今現状は見当たらない。
「まあそれはあくまで運だけどね」
そう言ってレイは自嘲する。女性との出会いがない訳ではないが、自身の伴侶となると難しい。こればかりはやはり縁なのだと思う。
夜の道は街灯こそ照らされているが、物寂しさを感じさせる。時折馬車の往来や酔っぱらいの千鳥足も見かけるが、やはり昼の往来に比べるとかなり静かだ。だからだろうか、その時偶々通りかかったその建物の静謐とした空気に思わず馬の足を止める。
「ああ、大神殿か」
ここ王都にある六神教の大神殿。六神教は人族の大陸で最も信仰されている宗教である。レイは以前、ユーリを悪漢から助けた時に一度立ち寄った事がある。その時は日中で出入りする人も多かった為、中には入らず立ち去ったが今の時間だと人もまばらで少し興味が湧く。
『ちょっと中を覗いて見ようかな』
レイは好奇心が湧くのに任せて神殿の入り口にいた神官の男性に声をかける。
「すみません、神殿内の参拝は今からでも大丈夫でしょうか?」
「そうですね、もう1時間もすると閉めてしまいますので、それまでの間でしたら大丈夫ですよ」
「有難うございます。因みに馬は何処に繋げば……」
「ああ、なら私がお預かりしましょう。帰りにあちらの詰所に寄って戴ければ、お引き渡ししますので」
レイはそう言われたので、馬をその神官に預けて、そのまま神殿奥の礼拝堂へと足を向ける。この王都の大神殿はその歴史も古くその一部は古代遺跡の上に作られていると言われている。確かに建物は古びた部分も多いがそれ以上に荘厳さがレイを圧倒する。
レイ自身は神に対し信心深いと言うわけではない。精霊との繋がりが強い為、神をそこまで身近には感じられないのだ。だがこの場に来るとどこか神々しさを感じられ、にわかながら神を敬う気持ちが強くなる。
そうして辿り着いた礼拝堂には六神教の六柱の神々の像が二体づつ三方に立ち並んでいる。幸い礼拝堂には人気がない。レイは一つ一つの像に祈りを捧げ最後に慈母神の前に来たところで見知った神官に出会う。
「神官様、私も慈母神様に祈りを捧げても宜しいでしょうか?」
「あ、はい、どうぞ……って、レイ!?」
「ははっ、いつ気付くか楽しみにしてたんだけど、案外気が付かないものだね」
そうそこで出会ったのは、昼にも見かけたレイの友人ユーリだった。
◇
礼拝堂にあるベンチに腰を掛ける1組の男女がのんびりとした空気で会話をしている。
「もう、ビックリしたわよ。この時間はいつも人が居ないから」
「ごめん、ごめん、別に意地悪しようと思った訳ではないんだよ。俺も偶々好奇心が湧いて来ちゃっただけだから。それにユーリがいるとは思わなかったしね」
レイは不満げなユーリを宥める様に謝罪しながらも、偶然である事を強調する。するとそんなレイをユーリは不思議そうに眺める。ただレイとしては昼間に見かけているだけに、ついそんな事を言ってしまったのだ。
「別にここで会えたのは偶々だって疑っていないわよ。それにレイに会えた事自体は嬉しいしね」
「確かにこうしてユーリとのんびり話す機会は最近無かったかもね。俺が忙しいのもあるし、ユーリもその大変そうだしね」
レイは昼間の事を思い出しつつ、ユーリにそう言う。ユーリもレイの言わんとしている事がわかったのか、苦笑いを見せる。
「アレス様の事でしょ?今日も偶々だけど会っちゃったし。それこそ見張られているんじゃないかって疑っちゃうわ」
「ああ、昼間の事かな」
「へっ、レイなんで知ってるの?」
ユーリが驚いて聞き返すのを苦笑で答えながら、レイは昼間の事を説明する。
「今日は偶々従姉妹の子達と市場を散歩してたんだよ。それでそこで揉め事っぽい事があったので、遠巻きに見てたんだ。で、よく見たらユーリがいてそこにアレスが現れてって感じかな。まあ直ぐに揉め事も収まったし声掛ける機会がなかったけど」
するとユーリが少し不満げな声を漏らす。
「ううっ、ならレイが助けてくれても良かったのに」
ユーリはそう言って少し恨みがましい目でレイを見る。レイはそれを困った表情で返す。
「はは、そうする前にアレスが現れたのと俺も小さい子達と一緒だったからね。荒事は避けたいというのもあったから許して欲しいな」
「まあ元はと言えば、奴隷の女性に対する仕打ちが許せなくて声を上げた私が悪いんだけどね。でもせめてあの女性に治癒だけでもしたかったなぁ」
ユーリは元々レイを責める気があまり無かったのか、そう言って肩を落とす。レイはそんなユーリに申し訳ない気持ちになりながらも、気分を変えて明るい声を出す。
「それはそうとここに来たのは初めてだけど、凄い場所だね。あまり信心深くない僕でも神々しさを感じるよ」
「フフフッ、そうね。ここは王都で一番神力が感じられる場所かも。慈母神様の神力もそうだけど、他の神々の神力も感じられる。神聖オロネス公国の大聖堂にも同じような神力が感じられる場所があるみたいだから一度は行って見たいな」
「へぇ、そうなんだ。ここもそうだけど大聖堂も古代遺跡跡に作られた場所なんだろ?俺はそっちのほうに興味が湧くけどね」
「ふーん、そうなの?男の子ってそう言う冒険とかって好きだよね。ここの神殿にも地下迷宮があるって聞いたことがあるわ。でも誰もその入り口が分からなくて、未踏破だって話だけど」
ユーリはレイの興味には然程関心を示さず、そう言えばとばかりに神殿の噂話を口にする。レイはそんな事を気軽に言っても良いのかとビックリする。
「えっ、そんな重大な秘密っぽい事気軽に言っちゃって良いの?未踏破の古代遺跡なんて垂涎の的だよ!?」
「ああ、いいのいいの。さっきも言ったように入り口もわからない眉唾の話だもの。ここの神殿が建って数百年、誰にも見つかった事のない入り口。まあ正直有るかもわからないものだから、誰も信じていないわ」
ユーリは慌てるレイを可笑しそうに見ながら、淡々と答える。まあそう言われれば、御伽話のようなものかとレイもホッとする。
「なんだ、心配して損したよ。まあでもそう言うのが男子にとってはロマンだけどね。まあ実際にその入り口を見つけたら、面倒で仕方がないだろうけどね」
「フフフッ、確かにね」
そう言ってユーリとレイが笑い合うとレイの友人が無邪気な声を響かせる。
『見ツケタッ、見ツケタッ、秘密ノ入リ口ッ』
「ええーっ」
「えっ何、レイどうしたの!?」
レイはシルフィの衝撃的な発言に思わず声上げ、ユーリは何事かとレイを見る。レイはなんとユーリに説明したものかと一瞬悩むが、隠し立てする事でもないので、苦笑いを浮かべつつ、ユーリにその事を話す。
「はは……、もしかしたら秘密の入り口が分かったかもしれない……」
「ええーっ」
人気のない礼拝堂にユーリの驚きの声が木霊する。そして2人は顔を見合わせて、どうしようと思い悩むのであった。
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