第八十一話 英雄?
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翌日になりレイはニーナとアリスを連れて王都にある市場へとやって来ていた。
ニーナはエルフの為、これまでは外に出すと確実に注目を浴びてしまうので、外出は避けていた。ここ王都ではそれだけ異種族というのは珍しい存在であり、闇では奴隷として非常に高額な取引がされていたりする。特にニーナのようなまだ幼い異種族というのは貴重でまず市場では出回らない。
だからこそ外出を控えていたのだが、いつまでも家の中に篭りきりというのも可哀そうなので、こうして外に連れ出していた。
ただ勿論、エルフとわかるような姿で外に出す訳にはいかないので、ニーナの頭には耳が隠れるような毛糸で編まれた帽子が被さっている。これはミリーゼさんのお手製でアリスもお揃いで同じような帽子を被っており、今2人は仲良く手を繋ぎながら歩いている。
「レイお兄ちゃん、人が一杯だね〜」
ニーナはアリスに手を引かれながら、周りをキョロキョロと眺めて、少し危なっかしい。
「ほらニーナ、ちゃんと前を見て歩きな。キョロキョロしてると人にぶつかって危ないぞ」
「レイお兄様、大丈夫ですわ。私がちゃんと手を引いてますから」
そう言ってアリスがここぞとばかりにお姉さん風を吹かす。そんなアリスに苦笑しながらレイも周囲に気を配る。
市場はまだ午前中だというのに結構な賑わいだ。路上にところ狭しと店が立ち並び、様々な商品が並んでいる。そのうちのアクセサリー屋で2人は店を覗き込むように立ち止まり、2人が気になったものを手に取りながら何やら楽しそうに戯れあっている。
「うん?その髪飾りが気に入ったのかい?」
「うん、キラキラして綺麗なの」
「これならニーナちゃんに付けてあげたらきっと可愛いと思って」
「ならニーナにプレゼントしようか。アリスにも買ってあげるから、今度は自分の分を選ぶといいよ」
レイはそう言ってアリスにも選ばせる。アリスも嬉しそうにすぐ商品を物色し始める。
「おや優しいお兄ちゃんだね。折角だからオマケしてあげるよ」
店員のおばちゃんがレイにウインクをして、そう言ってくれる。レイは素直に感謝してお礼を言う。
「有難う御座います。おばちゃんはいつも此処で店を出しているんですか?」
「そうだね、市の立つ日は大体店を出すかね。うちは裏通りに店も有るんだけど、人通りが多くないから、市場の出店は大事な収入源なんだよ」
市場は四六時中開かれている訳ではなく、月に数回開かれるだけだ。ただ通常の店で買うより割安でものが提供されたりするので、人が多く集まる分売上も上がるのだろう。ただレイはその店自体にも興味を持ち、店員のおばちゃんに聞いてみる。
「おばちゃんの店では精霊石の扱いはあるのかい?風か水の精霊石があると嬉しいんだけど」
「精霊石かい?扱いは有るには有るが結構値が張るよ。その割にさした効果はないし、お守りみたいなもんだしね」
まあ確かに精霊を扱う様な人間でなければ、お守り程度のものだけに、値段の割にというのは正直な所だろう。ただレイの場合は、シルフィやディーネが力を込めてくれるのでその限りでは無い。
「ああお金は問題無いよ。それよりこの髪飾りにその精霊石をあしらいたいんだけど。後、この娘の選んだブローチにも」
「あらそれは毎度あり。ただ石は店の方に有るから、後で取りに来て貰っても良いかい?午後には仕上げておくよ」
「ああそれで構わない。お代は先に払っておくから」
レイはそう言って、おばちゃんの提示した金額を支払い店の場所を確認する。おばちゃんからは商品の引き渡し用の伝票を貰いその場を後にする。
その後も市場の中を練り歩き、時に買い食いをし、時に買い物をして3人は楽しいひと時を過ごす。そしてそろそろ商品引き渡しの時間という事で先程のおばちゃんの店に向かおうとすると、怒鳴り声がレイ達の耳に届く。因みにニーナははしゃぎ疲れたのか今はレイに抱っこされ、ぐっすりと眠っている。
「レイお兄様、揉め事でしょうか?」
「うーん、どうだろうね?」
今は抱っこしていない左手をアリスと繋いで歩いており、そのアリスから不安げな声が届く。レイはまだそこまで近くで揉め事がある訳では無いので、落ち着いた表情で淡々と返事をする。すると女性のハッキリとした声が聞こえてくる。
「貴方の様な行いを慈母神様はきっと許しません。今すぐその手を離しなさいっ」
「なんだとっ、さっきから黙って聞いてりゃ調子に乗りやがってっ。俺らが奴隷をどう扱おうが、貴様には関係無いだろうっ」
どうやら奴隷商と六神教の神官によるトラブルの様だ。確かに奴隷商は正式な商売として国より認められている。基本的には彼らが扱うのは犯罪奴隷や借金奴隷で、前者は犯罪に身を犯したもの達の苦役の一つで奴隷紋を刻まれ、後者は経済的に立ち行かず自らを借金の形として差し出すものである。ただそれ以外にもニーナのケースの様な人攫いで出回る様な奴隷もいるが、これはこの王国では非合法で闇オークションでしか出回らない存在である。
そしてその揉め事というのは、奴隷に対する奴隷商の扱いなのだろう。遠目に見る限り、女性の奴隷が鞭を打たれたのか倒れている。確かに奴隷商の言い分通り商品をどう扱うかは彼らの裁量なのだが、慈母神の信者に対しては相性が悪い。彼らは特に女性に対して慈愛を持って接することが教義だからだ。
「アリス、ちょっとここは物騒だから収まるまで待ってようか」
「は、はい」
レイは周り道をしようかとも考えたが、それはそれで、トラブルに巻き込まれかねないと思いその場で熱りが覚めるのを待つことにする。するとその渦中の人々のやり取りは更にヒートアップしていく。
「貴方が鞭を持って行わなければ、私も何も言いません。しかし彼女のような女性に対し恐怖によって支配するやり方は断じて受け入れられません」
「うるせえぇ、あんまりゴチャゴチャ抜かすなら、テメエも同じ目に合わせてやろうか?」
奴隷商はそう言って鞭をかざし、その神官を脅しにかかる。神官は怯える事もせずにキッと奴隷商を睨みつける。
『あれっ、あれってもしかしてユーリ?』
ユーリは休日には神殿の仕事を手伝っていると聞いている。だからこうして街で出会っても不思議はないのだが、流石にトラブルに巻き込まれているとは思わなかった。すると彼女の背後から1人の剣士が彼女の前に立ちその奴隷商の前に立ち塞がる。
『ええっ?あれはアレス?』
ちなみにアレスが前に立った時、ユーリもまた驚いた表情を見せた為、アレスが側にいる事に気付いていなかったようだ。
「貴様、神官様に武器をかざすとは随分と不埒な奴だな。そのような下種なら俺が相手をしてやろうか?」
アレスは腰に帯びた剣を抜き放ち、その目で奴隷商を威圧する。奴隷商は明かに怯んで、喚き散らす。
「おっ、おい、なんだテメエはっ、か、関係無いだろうがっ」
「関係のある無しなど興味はない。貴様が婦女子を脅すような輩である事実さえあれば、幾らでもお前の前に立ちはだかってやる」
「くっ、覚えていろ〜」
そう言って奴隷商は悪態を吐きつつ、慌てて倒れてていた奴隷を起こし、その場から逃げ去っていく。その光景に周囲で人垣を作っていた民衆は拍手喝采である。ただユーリは倒れた奴隷を治癒したかったのに逃げ去られてしまい残念そうな顔をしているが、直ぐにアレスに向き直り感謝の言葉を述べる。
「アレス様、先程は危ない所を助けて貰いありがとう御座いました」
「いやなに、偶然通りかかった所で助けられて良かった。怪我とかは大丈夫か?」
「はい特段私が何かされた訳では有りませんので」
ユーリはそう言って肩を竦める。するとアレスはそうするのが当然とばかりに、ユーリに提案をしてくる。
「ユーリ、君はこの後どうするんだい?神殿に戻るのか?それとも学院かい?」
「この後は今日の活動の報告に神殿へ戻ります。そこからは家の馬車が迎えに来ますので、学院に戻ります」
「ふむ、ならば神殿までは私が送って行こう。先程の輩が襲って来ないとも限らないからな」
「えっ流石にそこまでご迷惑は……」
ユーリは慌ててそれを断ろうとするが、アレスは気にした素振りを見せずに、半ば強引に言葉を遮る。
「いや気にする事はない。私も稽古帰りでこの後の予定はない。神殿に連れて行くくらいはさしたる手間でもない」
ユーリはそこまで断言されてしまうと断る事も出来ずに、仕方がなく頷く。
「……有難う御座います。ではお願い出来ますでしょうか?」
「うむ、では参ろうか」
そう言って2人は神殿の方へと向かって行く。2人が居なくなった事で周囲の人垣もバラバラとなり、再び人が往来出来るようになる。レイ達もそこでようやく歩き出すと、アリスが不満そうな声で言ってくる。
「レイお兄様、なんか英雄っぽく無かったです」
「英雄っぽい?」
レイはその感想に不思議そうな顔をする。周囲はどちらかというとアレスをもてはやす声が多い。まあ悪漢から美女を救ったのだ。民衆から見たら英雄っぽいのだろう。でもアリスの印象は違ったらしい。
「だってあの人、奴隷の女性には見向きもしなかったんですもの」
「ああ、成る程ね」
それでレイはアリスの言いたい事が分かった気がする。ユーリが怒ったのもそれが起因であるのに、それは何一つ解決していなかった。確かにそう考えると、ユーリだけを助けたかったみたいで、アリスとしては不満が残るのだろう。
「どうせ助けるなら全部助けるのが英雄様ですもの。やっぱり英雄では有りませんわ」
そう憤慨するアリスにレイは苦笑を溢しつつ、その頭を優しく撫でて宥めるのであった。
◇
「旦那〜、中々の勇者っぷりじゃあないですか」
暗い路地裏にいる男2人組。それは先程市場近くで相対した2人だった。
「ふん、周りの奴らが騒ごうが関係ない。とは言え、いい働きだった。ほら今回の成功報酬だ」
そう言って金貨をその男に投げたのはアレスだ。そしてそれを受け取り下種な笑みを零すのが、先程逃げ去った奴隷商だった。
「へっ、こりゃ毎度どうも。でも旦那、なぜこんな周りくどい事しなさるんです?」
「貴様には関係ない事だ。ただ最終的には俺は彼女を手に入れねばならん。今回もその為の布石といった所だ」
そう今回の一件は、アレスが仕組んだ事だ。ここまでユーリには、アレスの良さを見せる機会がなかった。だからこそ、その良さを見せる機会を作りたかった。ただそんな機会は偶然で得られるものではないので、あえて自作したのだ。
「へぇ、貴族って言うのはやっぱ面倒くさいものなんですねぇ。私らなら拐って手篭めにしちゃえば、どうとでもなるって思っちまいますが。いざとなったら奴隷紋刻んじまえばいい話ですし」
「ふん、そんな卑怯な真似が出来るかっ」
「ははっ、まあそこはその気になったらで構いませんぜっ。あっしらも無理に危ない橋を渡ろうとは思いやせんから」
奴隷商はそう言って、ニヤリと顔を歪める。アレスはそんな奴隷商に凄んで見せる。
「今回の事は勿論他言無用だ。それと俺の知らぬ所で勝手に動くのもな。何かあればその首が体と離れ離れになると思え。わかってるな?」
「へいへい、そこは勿論分かってまさぁ。たださっきの嬢ちゃんはかなりの上物。もし奴隷にされるってんなら、幾らでも協力しまっせ」
「チッ、下種がっ」
アレスは最後にそう悪態を吐くとその場を立ち去って行く。ただそんなアレスを眺めながら、奴隷商は1人呟く。
「ふんっ、その下種使って下種いことしてんだ。あんたも同類だろうに。まあ、またの機会もありそうな御仁だし、精々いい顔しておくけどね」
奴隷商はクククッと忍び笑いを漏らしつつ、路地裏の暗がりの方へと消えて行った。
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