第八十話 お泊まり
今回はほのぼのとした回です。
事の顛末は、セリアリスに付けた護衛を値踏みする事が目的だった様だ。どうやらカエラさんが大層レイの事を褒めていたらしく、それでより興味を抱いたらしい。
近衛騎士達は元々王太后であるヘルミナの側付きらしく、今回の芝居もヘルミナに言われ渋々受けたらしい。その為、レイは事の顛末が語られた際に彼らから謝罪もされたりしたので、かなり困った。元々は王太后が悪いので彼らには責がない。
因みにセリアリスはレイが入り口に行った際にヘルミナから告げられたらしく、私も被害者と言われたが、彼女はヘルミナとグルになったので、後日謝罪を要求しようと心に決める。
「まあ今回の件は合格だ。護衛としての単純な武力は見れなかったが、そこそこ出来そうだしね。何より裏を取ったとは言え、王太后である私にはっきりと拒否できる胆力は評価出来る。大抵は私の顔色を伺うんだ。そこは褒めても良い」
「はっ、お褒めに預かり光栄です。ただ今後はこの様な悪戯は控えられた方が良いかと」
「フフッ、苦言を呈されるのも久しぶりで悪くは無いが、断る!これは老い先短い私の楽しみだからな。特に最近は表に顔を出すと煙たがられるから尚更な」
ヘルミナはそう言って、少しも悪びれる事もなくニヤリとする。レイはそれ以上何を言っても無駄だと悟り、苦笑いを浮かべる。まあ護衛の近衛騎士達には申し訳無いが、振り回される日々はまだまだ続きそうだった。
「あら大叔母様、最近は表に出られていらっしゃらないのですか?」
「ああ、表と言っても表舞台という意味だがね。特に最近はやれ呪いだやれ暗殺者だの周囲がうるさい。私は被害者側の身内だから疑われる事は無いが、逆に過保護な位守られる。全く良い迷惑だよ」
「それは仕方がありませんわ。大叔母様に何かあれば大事ですもの」
セリアリスはそう心配そうな声を出す。そんなセリアリスを愛おしそうな目でヘルミナは見ると、優しい声を出す。
「こんな年寄りにそんな事を言ってくれるのは、セリー位のものさ。あんたには少し悪い事をしたと思っているんだよ。ロンスーシの勢いを抑える為とは言え、アレックスの許婚に勝手に選んでしまったからね」
「いえ、アレックス様は敬愛出来る方ですから、そうお気になさらずに。それに今は気を許せる友人も居りますから」
セリアリスはそう言ってレイの方へと目を向ける。レイも笑顔を見せてそれに応える。
「そうですね。確かに軍の辞令として護衛の任務は受けてますが、友人だからお受けしたので、側に居られるうちはご安心下さい」
するとそれを眺めていたヘルミナは渋い表情をして、2人に聞こえない様に言葉を零す。
「まったく……、そういうのを見せられるから、申し訳なく思うんじゃないかい。これじゃあカエラの言ってる通りになるかも知れないねぇ」
ただそんなヘルミナの様子を2人は不思議そうな顔をして、首を傾げるのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後暫くはそんな日々が続き、レイは学業に護衛にと多忙な毎日を送る。そうして久しぶり訪れた休日に、レイはニーナに会うべくドンウォーク子爵家へとやってきていた。
「レイお兄ちゃんは、今日はずっといられるの?」
そう聞いてきたのはエルフの少女ニーナである。ニーナは今、レイの膝の上でレイの顔を覗きこみながら、話しかけている。
「そうだね。今日、明日と休みだから今日はこの家に泊まるつもりだよ」
「やったっ、じゃあ今日はレイお兄ちゃんと一緒に寝るの」
そんな可愛らしい事を言ってくるニーナにレイは笑みを零す。
「ニーナは随分と甘えん坊さんなんだね。まあこんな時位しか機会はないから、別に構わないけどね」
レイは優しく膝の上のニーナの頭を撫でる。するとニーナはギュッと目をつぶって嬉しそうにする。
「あらあら本当に仲の良い兄妹みたい。でも少しはアリスも相手をしてくれないとアリスが拗ねちゃうわよ」
「ちょっ、お母様っ」
そう言って茶菓子を持ってきて話しかけてくるミリーゼさんと顔を真っ赤にして文句を言うアリス。そんな2人を不思議そうな表情でニーナは見ると、ニーナがアリスに言う。
「アリスちゃんも一緒に寝るの?」
するとアリスは更に顔を赤らめアタフタしだす。
「ニっ、ニーナちゃんっ、いや私はそのあの……」
ニーナとアリスでは年が5歳は違うだろうか。まだまだ幼いニーナと違いアリスは少しだけおませな年頃になった。レイに対し異性に対する憧れから気恥ずかしさを感じる様にもなり、でも大好きな兄として甘えたい気持ちもありとその心中は複雑なのだ。ただニーナは当然まだまだ分からない事なので、更に不思議そうに言う。
「一緒に寝たくないの?」
「だから寝たくない訳では無くて……」
「プックククッ、アリスもニーナにかかったらお手上げね。フフフッなら今日は3人で一緒に寝なさい。レイ君が良いなら私も一緒に寝るわよ」
流石に困りきる娘を笑いながらフォローするミリーゼは、最後にトンデモない事を言う。ただレイはそれを素直に冗談だと聞き流す。
「はいはい、ミリーゼさんは遠慮下さいね。アリスは一緒だとニーナが喜びそうだから嫌じゃなきゃ一緒に寝ようか」
「はっはい、是非ご一緒させて頂きます」
アリスとしては、レイにそう言われると断る選択肢はない。なので思わず嬉しそうに返事をする。
「はいはい、じゃあ話も纏まった事だし、みんなでお茶にしましょう」
ミリーゼはそんな娘を微笑ましく見ながらお茶の準備を進めるのであった。
◇
そしてその日の夜はレイとニーナ、アリスの3人でベッドの上で川の字になり仲良く就寝する。最初、レイを真ん中に少女2人が挟む様な位置どりで寝ていたが、2人が眠りについた後レイは1人起き上がり寝室を出て応接室へと足を向ける。
「やあレイ、お姫様達の相手ご苦労様。君もこっちにきて一杯やるかい?」
「ははっ、ニーナは特にですが甘えたいだけなので、そんな大変では無いですよ。あっ、有難うございます」
レイは話しかけてきた現ドンウォーク子爵であるアゼルに笑顔で応じながら、差し出されたワインを受け取る。
「そうそう、そのニーナだが、随分とレイには気を許しているみたいだね。ミリーゼが少し悔しがってたよ」
「ああ多分ですが、僕の周りの精霊の気配を感じ取っているからでしょうね。ニーナにしてみれば、1番馴染みのあるものですから、安心出来るのでしょうね。ただ随分とミリーゼさんにも気を許しているみたいですよ」
ニーナはエルフだけあって、精霊の気配に敏感だ。いくら自分を助けてくれた存在とはいえ、本来であればもっと警戒されるだろう。でもエルフにとって精霊は特別な存在であり、身近なものである。だからこそレイの側に居たがるのだろう。ただミリーゼさんはそういう後押しなくニーナの警戒心を解いているのだから、やはりニーナをここに預けて良かったと思う。
「フフッ、それを聞いたらミリーゼも喜ぶだろうね。……ああ、それはそうとなんだがセリアリス様の護衛なんかやってるそうじゃないか」
アゼルは手に持つワインを一口楽しげに含んだ後、そう言えばとばかりに聞いてくる。
「アゼル叔父さんにまで話は広まっているんですか?まあ隠し立てしている訳では無いので、いいと言えば良いのですが」
「いやなに、私のところには直接確認がきたのだよ。君が何者でどんな人物なのか探りを入れる為にね」
するとレイは少しだけ顔を顰めてアゼルに対し謝罪する。
「すみません、どうやら手間を取らせたみたいで」
「ははっ、別に大した事は無いよ。貴族の中では良くある事さ。因みに最近は君の婚姻事情も良く聞かれるけどね」
「はぁ、婚姻事情ですか?」
「そう、ノンフォーク家令嬢の護衛を直々に任される様な人物だからね。今下級貴族界隈では出世の可能性がある注目の存在なのさ。聞くところによると、王太后様にも目を掛けられているみたいじゃないか」
アゼルはそう言ってクツクツと笑みを零す。それはレイがその手の話に興味がない事を知っているからだ。なのでレイはアゼルに対し苦言を呈す。
「叔父さん、揶揄うのは勘弁して下さい。大体出世なんて興味がないの知ってるでしょう?王太后様も護衛の任の時に揶揄われただけですし」
「ははっ王太后様の性格ならそうなのだろうね。ああでもロンスーシー側からは、あからさまに警戒されているみたいだから、気を付けた方が良いよ」
「ロンスーシーが俺をですか?」
レイはそれを驚いた表情で聞き返す。正直、レイ自身目立った事はしていないし、警戒される様な事は無いはずなのだ。
「そうだね、レイの方はまだそこまで警戒されている訳では無いけど、ほら、君にはもう一つの顔が有るだろう?」
アゼルにそう言われて、レイはそこで得心する。ああ、彼が警戒されるなら納得である。
「リオ・ノーサイスですね。まあ彼が警戒されるのは分かりますが」
「うん、まだ彼と君を結びつけるものは無いけど、君が頭角を現すと勘繰るものも出てくるだろうからね。バレたら君に対する周囲の反応が慌ただしくなるだろうから」
確かにそうだろう。別に悪い事をしたわけではないので咎められる事は無いが、ロンスーシーからは警戒されるだろう。なのでレイは渋い表情を見せる。
「ご忠告頂き有難う御座います。確かにそこは注意した方が良いですね。まあ、そうそうトラブルなんか無いでしょうから、大丈夫だとは思いますが」
「それはどうかな。昔から英雄と言われる様な人物は、トラブルに愛されているからね。僕はレイの事を義兄上以上にそういう素質があると思っているよ」
するとレイは更に渋い表情で憮然とするのであった。
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