第七十九話 誰の陰謀か?
王太后ヘルミナですが、彼女の続柄を変更しました。元々王とノンフォーク公が従兄弟とうたっていたので、そちらの設定を優先して、セリアリスから見て大叔母とさせて頂きました。なのでアレックスとセリアリスは鳩子ですね。
ヘルミナ
ノンフォーク公ーヘルミナの兄の息子
レイは相対する近衛騎士に対してどう対応すべきかを考えつつ、まずはその事実確認を取る。当然ながら口頭で言われたところで、その真偽は判らないのだ。
「すみません、王太后様へお話するにあたり命令書をいただけますでしょうか?流石に国母でいらっしゃる王太后様に対し、口頭でのお話では信憑性に欠けますので」
すると近衛騎士は後ろの人間に声を掛け、今回の命令書を差し出す。レイはその書面を受け取るとその中身を確認する。その書面には確かに先ほど言った命令内容と国王を記す印が押されている。ちなみに査問する内容に関しては、明記されておらずレイはその事を聞いてみる。
「有難うございます。確かに命令書を賜りました。一点確認をしたいのですが、今回の査問に関して特段何に対しての査問なのかが明記されておりませんが、その内容はご存知ですか?王太后様もそれでは対応の仕様がないかと思われますので」
近衛騎士はレイを一瞥すると、その問いに淡々と回答する。
「我々は細かい内容までは聞かされていない。査問官のところまで王太后様を護送するのが任務である。ただ先のアレックス第一王子殿下誕生会における賊侵入に関する事とお伝えすればわかると言われている。なお場合によっては実力行使に出ても構わんとの指示も受けている。我々としても事を穏便に済ませられるのであれば、それに越したことは無い」
「成る程、承知しました。一旦は、王太后様へお伺いを立てますのでもう少々お待ち下さい」
レイはそう言って一旦扉を閉める。これは一体どういう事だろう。今回の賊襲撃の裏で動いているのは、ロンスーシーの一派である。それは実行犯であるダークエルフ達が言っていたのだから間違いないだろう。可能性としては、ロンスーシー派が王太后様を陥れる為にわざわざ裏で手を回したかだが、王太后様を陥れるには、随分と稚拙なやり方だと正直感じていた。
ただこのまま近衛騎士達を待たせるわけにもいかない。彼らは実力行使も辞さないと言っているので、そう時間をかける訳にもいかないのだ。なのでレイは一旦、その書状をもって王太后様の元へと向かう。すると先んじて扉の様子が気になったのかヘルミナの方からレイに聞いてくる。
「レイ少佐、入り口が何やら騒がしいが何かあったか?」
「はっ、近衛騎士団の来訪により侍女の方では収まりが付かなかった為、差し出がましいようですが私の方で応対を致しました」
「ふむ、近衛騎士団と?で、用件は?」
「はっ、近衛騎士団は国王陛下の命により、王太后様への査問の為出頭頂きたいとの要請にございました。こちらが国王陛下よりの命令書となります」
レイはそう言って、先ほど近衛騎士より預かった命令書を王太后へと差し出す。王太后はそれを簡単に一瞥すると再びレイに聞いてくる。
「因みにこの命令書には査問に対する理由は記されていないが?」
「はっ、近衛騎士団にも確認しましたが、彼らも詳細は知らずとの事。ただ先のアレックス殿下の誕生会における賊襲撃に関する事とのみ聞かされているようでした」
「ふむ、成る程な。してレイ少佐、これをどう見る?」
「仮に王太后様に敵対する輩がおりましたら、そのもの達による陰謀でしょうか?それとも単純に近衛騎士団による罪の押し付けか、いや正直情報が少なすぎて憶測すら荒唐無稽で判断が付きません」
レイはそこで素直に白旗を上げる。恐らく王太后がこの賊襲撃に関してなんら関与していないというのは間違いないのでそこは除外するとしても、他の案も信憑性に欠ける内容なので正直しっくりこないのだ。それにもう一つ、王太后自身が動揺も怒りもないのも違和感があった。
「確かに荒唐無稽の話だが、私が何かしらその賊襲撃に関与している可能性には言及しないのだな」
「はっ、勿論国母でいらっしゃる王太后様に対する不敬という事もあるのですが、王太后様はノンフォーク公爵家のご出身でもいらっしゃいます。聞けば先の賊はノンフォーク公爵家を狙ったものとも噂されておりますから、王太后様が関与されている可能性は低いと考えております」
するとヘルミナは少し満足そうな表情を見せて、レイに笑みを見せる。レイはそこで再び違和感を覚える。確かに言った事は本心で語っている事なので別に問題は無いのだが、ヘルミナの方に余りにも余裕がありすぎるのだ。だからそこでレイはシルフィに頼みごとをする。
『シルフィ、外にいる近衛騎士達の声を僕に運んで』
するとレイの耳に外の近衛騎士達の声が届く。
『王太后様にも困ったものだ……』
『まあ王太后様にも色々とお考えがあるのだろう……』
『まあこれも任務だ。くれぐれもバレないようにな……』
レイは届いた声でピンッとくるとそっとセリアリスの方にも目を向ける。セリアリスは此処まで一言も声を発していない。なのでその表情を盗み見るとどこか困ったような、もどかしいような表情をしている。ああこれで確定だとレイは確信し、ヘルミナの出方を伺う。するとヘルミナは恐らく予定通りなのだろう、用意していた言葉をレイに言ってくる。
「ふむ、レイ・クロイツェル少佐。貴君の忠誠には感謝しよう。正直私もその件に関しては全くいわれの無い事で正直戸惑っている。なので、直接国王の元へ赴きその真偽を詳らかにしようではないか。なのでレイ少佐、君には国王の元へと私を届ける先駆けとなってもらいたい。頼めるな」
「いえ、お断りします」
レイはそう平然と断りの言葉を伝える。それに唖然とするのは王太后だ。この流れで流石に断られるとは思っていなかったのだろう。ましてや王太后相手にだ。ただ相手もかつて姫将軍とまで言われた人物だ。直ぐに気持ちを立て直すとレイを睨みつけながら言う。
「ほほう、この私の言葉を拒否すると。先ほど見せた忠誠は虚偽であったという事か?」
「いえ、王太后様に不敬を行うつもりはありません。まず第一に私の任務はセリアリス様の護衛であり王太后様の護衛ではありません。なので原則ご指示に従う必要は無いのですが、非常時であればその場での判断も尊重されます。ただ今はその非常時ではないので拒否をさせて頂きました」
「今まさに誰かしらの陰謀に身を貶められようとしている、この時が非常時ではないと?」
「そうですね、誰の陰謀なのかが分かりましたので非常時ではないと判断しました」
すると2人のやり取りを脇で聞いていたセリアリスから声が掛かる。
「大叔母様、レイはもう気が付いておりますわ。残念ながら魔法行使はお預けですわね」
するとヘルミナは少しだけ悔しそうな表情を見せて、先ほどからレイへ見せていた威圧した雰囲気を霧散させる。
「ホント、折角上手くいっていたと思ったのだけど、こんなに早くバレるとは思わなかったわ。レイ少佐、貴方の勝ちよ。あーもう、全くどこで気付かれたのやら」
「フフフッ、ほら大叔母様、私の言った通りでしょう?レイは優秀なのですよ。ただ私も予想以上に早く感づいたので正直驚きましたけど。ねえレイ、いつから気が付いたの?」
そう言ってセリアリスは完全にグルだったことを明かす。レイはそんなセリアリスに軽く咎めるような視線を向けた後、肩を竦めて簡単に説明を始める。
「さっきも言ったように元々賊襲撃の件に関しては、王太后様の関与の可能性はないと思っていたのでそんな内容で査問がある事自体がおかしいと思ったのと、王太后様の反応に違和感を感じてね」
「違和感?」
「そう、本当であれば実の息子でもある国王陛下直々の書面を見た時点で怒るなり、嘆くなりが普通の反応だと思うんだ。でも王太后様は怒りも嘆きもしなかった。それを堪えているような素振りも無かったしね。なんて言うのかな、余裕がありすぎたんだ」
それを聞いてセリアリスが納得した表情を見せる。確かに国母でもある王太后であれば、感情を表に出すことを抑える事も出来るだろう。ただそこに余裕は生まれない。だからこそその余裕が違和感なのだろう。すると今度は、ヘルミナの方がレイへと噛みついてくる。
「ふむ、ただそれだと証拠不十分ではないのか?そなたが胆力に優れているとはいえ違和感だけで私の言葉を拒否するのは無謀な賭けにも等しいだろう?」
「いえ、ちゃんと裏は取りましたよ。外にいる近衛騎士達の会話を拾わせて頂きましたから。彼らが王太后様の命令に従っている事はその会話でされていましたので。それにセリアリス様の表情も参考にさせて頂き、確信させて頂きました」
「は?なぜここにいるお前が外の声を聞けるのだ?」
思わず驚きの声を上げるヘルミナは、レイを問い詰める。レイはそれを飄々とした表情で答える。
「風魔法で外の声が耳に届くようにしました。ああ、これは加護持ちだからできる事ですが」
「ちょっと、レイ、私、表情に出てた?」
「セリアリス様はまず一言も会話に参加してこようとしなかった点と表情も心配する気持ちが王太后様を心配というよりも俺の方を心配する方向に向いていたからね。あの場で心配されるべきは俺ではなく王太后様だから」
するとヘルミナとセリアリスは両方とも唖然とした表情をしたかと思うと、2人してタイミングを合わせたかのように笑い出す。
「クククッ、レイ・クロイツェル、貴様、中々面白い、確かにカエラが気に入るだけはあるっ」
「フフフッ、確かにあの時レイを心配する方に気が向いてたわ、それは私の失敗ね」
そんな2人の笑い合う姿を見て、レイは一つ溜息を吐く。どうやら王太后ヘルミナのレイに対する護衛としての品定めは漸く終わったようだ。するとそんな部屋にノックの音と近衛騎士の芝居がかった声が届く。
「おい、王太后様の返事はまだが。場合によっては実力行使も辞さんぞっ」
するとその声を聞いて、ヘルミナとセリアリスがまた顔を見合わせて笑いだす。彼らも仕事としてやらされているのだから、少しは気遣ってやって欲しいとレイは思わず同情する。なので、仕方がなくレイは扉に向かい、この茶番劇が終了したのを告げに行くのだった。
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