第七十六話 昼食会
大変すいません、別の作品に投稿してしまいました。両作品のファンの方、ご迷惑をおかけしまた。
◇
ぼっけんさんレビュー頂き有難う御座います。主人公格は主人公じゃないはこの作品のポイントの1つです。それにゲームでも失敗すれば、BADENDもある訳で、物語が何処に進んでいるかは引き続き楽しんでみて頂ければと思います!
そんな一幕を経ての学院初日、レイはやや気乗りのしない足取りで昼食時にAクラスの教室へと入って行く。一応護衛は、この昼休み時と放課後、放課後は校内のみならず王城への同行までが任務のうちとなっている。なので初めての護衛任務の為に、このAクラスに訪れたのだ。
そしてレイがAクラスに入るとセリアリスは直ぐに見つかり、その周囲にはアレックスやエリクと言った生徒会メンバーも揃っていた。レイはその面子を見て、内心で溜息を吐くがこれも任務なので致し方ない。そのまま進み出て、セリアリスへと話しかける。
「セリアリス様、レイ・クロイツェル、ノンフォーク閣下の命により、護衛の任にて参りました」
「あらレイ、ご苦労様。早速ですが、これからユーリと昼食に参りますので同席なさい」
するとそんなやり取りを見ていたアレックスが、何事かと横槍を入れてくる。
「ん、待て。そいつはDクラスのレイ・クロイツェルではないか?セリアリス、これは一体どう言う事だ?」
まあアレックスにしてみれば当然の疑問であり、セリアリスも聞かれると思っていた事なので平然と言葉を返す。
「はい、今レイも言ってましたが、先日の件も踏まえて私に対して父が護衛を付けたのです。彼は予備役中なのですが階級は少佐。しかも私と同じ学院に通う生徒でもあるので丁度良いと仰いまして」
セリアリスはそう言って、さも自分の本意ではない風な雰囲気をさせる。
「ふん、学院内で有れば私もいる。生徒会メンバーのエリクやアレスもいるのだ。護衛など不要ではないのか?」
「はい、勿論アレックス様のことは信頼しております。とは申しましてもアレックス様自身も護衛される側の身、エリクやアレスもアレックス様こそ優先されますでしょう?父はやはりその事も先日の件で痛感した様でして」
セリアリスはそう言って、困った素振りを見せる。ただ言っている事は先日の事を考えるとかなり痛い所をついているので、アレックスは渋い顔をする。すると隣にいたユーリが仲裁をする様にフォローを入れる。
「アレックス様、ノンフォーク公爵様も娘のセリー可愛さで仰られている事ですわ。確かにアレックス様や生徒会メンバーの方々がいれば、そう大事は無いのかもしれませんが、そう四六時中側にいる訳にもいきませんもの。今回は致し方無いのでは無いですか?」
「ムウッ、まあユーリがそういうので有ればそうなのかもしれん。セリアリス、済まなかった。老婆心が過ぎた様だ」
「いえ、こちらこそご心配いただき有難う御座います」
セリアリスはそう言って笑みを見せて、アレックスに感謝の言葉を述べる。レイは此処まで面倒な事になるので有れば、放課後だけで良いのではと思わずにはいられないのだが、その場はジッと静観する。すると今度はもう1人の聖女であるエリカが話しかけてくる。
「セリアリス様、それでしたら今日の昼食は、私達も同行させてもらえませんか?レイ様も暫くは顔を合わす機会も増えるのでしょう?ならぜひ食事をご一緒させて頂いて、懇親をはかりたいですわ」
そのエリカの発言には、セリアリスも面くらうが、内容が内容なので無碍にする事も出来無い為、笑顔を取り繕う。
「え、ええ。そう言う事でしたら是非、皆様で食事を共にしましょう。レイも良いかしら」
当然その話の流れでレイに拒否権はなく、表向き平然と了承する。
「はい、生徒会メンバーの皆様とご一緒出来るのは光栄ですので、喜んでお受けいたします」
すると生徒会メンバーもそれぞれが首を縦に振りそれに同意する。レイはこの様子を眺めながら、ああ面倒くさいと内心で溜息を吐くのであった。
◇
そして一同は学内にある貴族御用達のレストランへと赴き、臨時の昼食会が開かれる。レイは護衛対象であるセリアリスの隣に座り、その反対側の隣にはユーリが座る。その正面にはエリカが座りエリク、アレスと並んでいる。そしてアレックスはユーリとエリカを両脇に最奥の席に座っている。本来の席次はユーリのところにセリアリスが座るのだが、そうするとレイは護衛対象の隣に座るとユーリとの間に挟まれる形となる為、セリアリスが気を使った格好だった。
「えーとそれではまず、レイ様に簡単に自己紹介をしていただきましょうか?申し訳無いのですが、私達は貴方の事をあまり存じ上げないので……」
そう言って少し申し訳なさそうにエリカは言ってくる。確かにユーリやセリアリスは兎も角、他のメンバーには名前位しか知られて無いのだろう。なのでレイは、微笑を浮かべて快くそれに応じる。
「いえ、他のクラスですし身分も違いますから、当然だと思いますのでお気になさらずに。私はクロイツェル子爵の嫡男でレイ・クロイツェルと申します。領地はノンフォーク公爵領から山脈を隔ててその先にある海沿いの土地がクロイツェル領となります。父はそこで王国軍の少将の地位にもついており、自分もそれのついでで運良く功を上げ、少佐の地位をいただいております。ノンフォーク公爵とは寄子では有りませんが、父が上司部下の関係で名前を覚えていただいております。それで今回護衛の任を指示されたのでしょう」
レイはこの場でノンフォーク家との関係を明確にした方が良いだろうとその説明がし易い様に話をする。するとエリクが最初に質問の声を上げる。
「すると君は成人前から軍務を行なっていたと言うのか?」
「そうですね、私は以前にもお話ししたかも知れませんが、風の精霊の加護持ちになります。クロイツェル領は海に面した土地なので船を使うのですが、これに風の精霊の加護は有用なので父に駆り出されました」
レイはそう言って苦笑する。これは事実で風の精霊の力は海では非常に役に立つ。だからこそその力を遊ばせるわけにはいかなかった。
「ほう、そう言えばそんな事を言っていたか。確かに船であれば風の力は助けになるな。それで若くして少佐なのか」
「まあ父が海軍の責任者ですから、その力もあるのだと思いますよ」
レイはそう言って恐縮する。すると今度はその隣のエリカから声が上がる。
「そうすると領地が隣合わせであれば、セリアリス様ともご縁があるのですか?」
「いえ、セリアリス様とは学院に入ってから紹介頂きました。ノンフォークとクロイツェルは隣り合わせと言っても山脈が隔てていますので、行き来に1ヶ月近くかかってしまうのですよ。ですので、私はこの学院に通うまではクロイツェルを離れた事が無いのです」
此処では少し嘘を交える。レイとセリアリスが子供の頃に会った事があるのは、予め内緒にしようと話し合っていたのだ。すると今度はアレックスからの質問が飛んでくる。
「ふむ、そういえばユーリとも面識があったのではないか?」
「ユーリ様ですか?ユーリ様は母方の祖父が彼女の養父であるアナスタシア卿と学生来の友人でして、そのご縁でご紹介頂きました。先の新入生歓迎パーティーの際はその縁でパートナーをさせて頂いたのですよ」
レイはアレックスからセリアリスの事ではなくユーリの事を質問され、少し驚くが回答は既に決まっていたのですんなりと返答する。するとレイの目の前に座るアレスから値踏みをするような視線を送られ、質問が飛んでくる。
「ふむ、それなら貴公はユーリ嬢とは只の顔見知り程度の付き合いという事で相違ないな?」
「うーん、そうですね。ユーリ様がどう思われているかは判りませんが、アナスタシア卿からは良き友人として接して欲しいと言われておりますし、祖父からも困った事があれば助けてあげなさいとも言われてますので、私自身は友人としてお付き合いさせていただいておりますよ」
レイは何故アレスに変な念押しをされているのか分からないが、まあ只の顔見知りというのには多少の抵抗もあり、自分の思っている事をそのまま伝える。するとその言葉に嬉しそうにユーリが反応する。
「アレス様、私もレイ様の事は友人としてお付き合いさせていただいておりますわ。勿論、養父からの紹介でもありますし、何よりレイ様は信頼できる方ですので」
するとその言葉を聞いたアレスの視線がより厳しさを増す。ただレイはそれに気が付かぬフリをしてユーリに礼を言う。
「有難うございます、ユーリ様。ユーリ様にそのような評価を頂き大変光栄です。まあ私としてはその信頼を損ねぬよう、ボロを出さない様にしませんとね」
レイは多少友人っぽさは出しつつも、立場は伯爵家令嬢と子爵家嫡男という上下関係を明確にする事で、その場を収めようとする。アレスもそれ以上は何も言ってこず、値踏みをするような視線をレイに送るだけでその場を収める。
そんな微妙な空気を感じ取ったのか、そこでエリカが明るい声を出す。
「フフフッ、レイ様は不思議な方ですのね。本当に王都に来たのが初めてとは思えない位、洗練されていて落ち着いていらっしゃいますわ。そう言えばダンスも非常にお上手ですし。ねえ、お兄様?」
「ああ、そうだな。確かに場馴れしている感じがするな。それにダンスは誰と踊っても相手を非常に引立てる。その辺は何処で学んだのだ?」
レイはやはりこの義兄妹は優秀だなと感心する。場の雰囲気を察してすぐさま話題を違う方へと変えてくる。レイはその機転に素直に乗る事にして返答する。
「先ほども申したように、クロイツェル領は海に面していますので海洋貿易が盛んなのですよ。ですので、国外からのお客様の歓待の手伝いをさせられる機会も多かったので、そこで慣れたのでしょう」
「ふむ、そう言えば海に面していると言っていたな。海洋貿易というと我が国ではラルビクの港があるがそう言えばあそこは誰の所領だったかな?」
するとアレックスが思い出したかのようにそう言ってくる。レイはそれを聞いて笑みを浮かべる。
「ええそのラルビクこそ我がクロイツェル領の領都でございますよ、アレックス様」
「ほう、我が国は内陸故、海洋に面した土地は非常に少ないがその方はその土地の領主という事か?」
「いえ、厳密には父がですが。ただ私は嫡男ですので、ゆくゆくはそこを治めさせていただくつもりです」
レイはそう言って嬉しそうに宣言する。レイにとってやはり最終目標はクロイツェルに戻り、父の後を継いでその地を治める事だ。それだけその地を愛しているし、その土地を支える人々を愛している。
するとそんなレイを詰まらなそうに、アレックスは見る。アレックスにしてみればその見据える範囲は国である。一所領には興味がなく、国を引いては世界を舞台に活躍する事が目標なのだ。ここにいる生徒会メンバーはそんな舞台でこそ映える存在なので、一所領で満足するレイが小さい存在に思えてしまった。
『まあ下級貴族だとこんなものか』
彼は所詮モブなのだ。アレックスはそういう意味でモブらしい考えだと思い至る。主人公に成り得るキャラである自分達とは気にしたところで舞台が違うのだ。なのでアレックスはレイに対する警戒心を弱めてしまう。
一方でそんなレイを羨ましく思う人物もいる。それはアレスだ。アレスの家は法服貴族であり、国より俸給を貰っている身である。勿論、自宅屋敷は伯爵家のものだが自身が管理する所領はない。だからこそ自分の所領を自慢するレイにいけ好かない思いを募らせる。
『下級貴族の分際で、ユーリに近づきその上所領まで持っているだと?気に入らん、気に入らん奴だっ』
アレスが出世する道は己が武を磨きあげる事だけである。その努力を怠った事はないし、今も努力し続けている。そんな彼にはレイがただ先祖代々が築き上げた物を受け継いでいるボンボンにしか見えない。だからこそその存在が許せなかった。
そしてもう一人、その2人とは異なる感想を持つ人物もいた。
『彼って、モブキャラなのに案外優良物件じゃないかしら?所領持ちの貴族なら生活には困らないし、この国で唯一の港も持っているなら、それどころか利権満載じゃないの?お兄様本命、彼を保険にしておけば、私も安泰じゃないかしら』
そう考えたのはエリカ。彼女は神の加護を得たのでモブの立場としては規格外だ。そして彼もまた同じモブなのに精霊の加護を持つ規格外。にも拘わらずこれから訪れる激動に巻き込まれる事のないモブである。しかも海洋貿易を独占する所領の嫡男で、経済面なら下手な法服貴族の伯爵位よりも上だろう。見た目も優しげで格好良く、聖女ユーリが好感を抱く性格である。自分の定めがモブとしてしか生きられないのであれば、彼のような優良物件と結ばれたら幸せな人生を送れるかも知れない。
この臨時の昼食会は、それぞれがレイに対し異なった評価を下す。ただレイはそんな事は気にもせず、ただこの面倒臭い昼食が早く終わらないかと願うのであった。




