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第七十五話 罠

さて夏休みが終わり、新展開?まあ多少流れでもあります。

 長かった夏季休暇が終わり、王立学院にも日常が戻ってきた。この夏の期間で多くの学生が、学院から離れていた事もあり、夏季休暇明けの学院はいつもよりも喧騒に包まれている。その喧騒の中の話題の一つが、先日のアレックスの誕生会での出来事で、この話は大なり小なり多くの話題を提供していた。


 その話題の一つは、ノンフォーク公の一時自領静養である。ノンフォーク公はユーリのお蔭で、その場で魔を払った事から、命に別状はない。ただし、表向きはその際に体調を大きく崩した為、暫く静養が必要との判断で、王都ではなく自領であるノンフォーク領へと引き籠ってしまった。幸い現状、他国からの侵入等の大事も無い為、軍自体に大きな動揺は無いが、それでも軍のトップが引き籠ってしまったのだ。特に国政面では、ある意味、ロンスーシー派の抑えがいなくなったとの事で、陰で色々な策謀の噂が広まりつつあった。


 そしてもう一つの話題は、近衛騎士団の処遇である。王城内の迎賓館に賊の侵入を易々と許し、そこでノンフォーク公という要人に対し護衛もできず、更には賊を討ち果たす事も出来ずに第三者の協力で撃退、捕えた虜囚に逃亡を許すという失態に失態を重ねていた。幸い、現場ではノンフォーク公以外の要人に危害は無く、相手が魔法を駆使した暗殺者集団だったという事もあり、その矛先は王城内における対魔法防御を担う魔法士団にも目が向いた為、すべての責を負わされている訳ではないが、それでも騎士団長のトップである、アレスの父、ライアン・グレイスは事実上の解任で、今は自宅謹慎の処分を受けている。ただ元々彼の場合は、その場で直接の警護にあたっていたわけでは無い為、団長にこそ戻れないが、近いうちに部隊長として現場復帰が成されるだろうと言われている。


 そして最後に噂されているのが、謎の仮面の軍将官である。流石に名前はリオ・ノーサイスと名乗っていたので、素性が全く不明でという事はない。ただ、その仮面の下に隠された素顔や、近衛が手も足も出なかった暗殺者に対して見せたその圧倒的な魔法が、多くの話題の種となっていた。ノーサイス家は既に廃れてしまったとされていた、ノンフォーク家の傍流である。彼は本当にノーサイス家の生き残りなのか、それともノンフォーク家が彼の特別な能力を囲い込む為その名を語らせたのか、そもそもあの魔法はなんなのかなど、話題は尽きなかった。


 そうしてそんな話題の渦中の中心にいる人物がいる。


 一人はノンフォーク家の令嬢、セリアリス・フォン・ノンフォークその人である。セリアリスは、どうやら謎の人物と学院内では唯一接点のある人物である。そしてノンフォーク家という事もあり、今回は同情や心配する目に晒されているのだが、誰も踏み込んで彼女に話しかけるものはいない。強いてあげれば同じ生徒会メンバー達、特にユーリ・アナスタシアと良く一緒にいる機会があるようだが、それ以外は、簡単な挨拶や世間話程度で誰も触れようとはしなかった。


 そしてそのセリアリス以上に、腫物のような扱いを受けているのがアレス・グレイスだ。彼は今回の大失態の近衛騎士団隊長の息子である。普段、その武力を誇る様な所もあった為、周囲の目は同情よりも嘲笑を含んだものが多い。実際にそんな彼を侮った貴族の子息が、模擬戦をアレスに挑み完膚無きまでに叩きのめされている。それ以降は直接アレスに如何こうするような輩はめっきり減ったが、陰からの嘲りは一向に止む気配は無かった。


 そしてそんな中、比較的騒がしいAクラスとは裏腹に、Dクラスは平穏な筈なのだが、レイは一人物思いに耽っていた。何故、レイが物思いに耽っているかというと、それは学院が始まる前、ノンフォーク公の元に今回の事後報告に訪れたところまで遡る。



「ノンフォーク閣下、お身体はもう宜しいのですか?」


 レイは通された応接室のソファーでノンフォーク公と対峙する。これは先日セリアリスにきつく言い渡された面会の場だ。いまこの応接室には、レイとノンフォーク公の他、カエラ夫人とセリアリスまでいる。ちなみにカエラ夫人はノンフォーク公の隣に座り、レイの隣にはセリアリスが座っている。


「うむ、まあ全快とまではいかないが、政務に戻っても差し支えないくらいには回復しておるよ。医師にも診断を仰いだが、もう2、3日も静養すれば、全快になるだろうとの事だ」


 そう言ってノンフォーク公は笑顔を見せる。確かにレイの見る限り、顔色も戻り体調も良さそうに見える。念のため、ディーネにも闇精霊の怨嗟の兆候を探ってもらったが痕跡はないとの事だったので、その言葉に嘘はないのだろうと安心する。


「それは良かったですね。まあユーリ様が魔を払ったのですから当然と言えば当然なのだと思いますが、本当に良かったです」


「あらレイ君、私は少し不満なのよ。折角旦那様と暫くはのんびりできるのだと思っていたのに、こんなに早く元気になっちゃうんだもの。大体、旦那様は働き過ぎなのよね」


 そう言って愚痴り始めるのはカエラ夫人である。レイはそれを苦笑いで返す。


「カエラさん、そうは言いますがやはりノンフォーク公は軍のトップな訳ですから、いて貰わないと困りますので、そこは我慢していただかないと」


「あら、レイ君は私の味方だと思っていたのだけれど、軍の立場を優先するの?そう言えば、裏でコソコソ旦那様のお手伝いをしていたみたいだし、領主志望の可愛いレイ君は何処へいってしまったのかしら?」


「いや、そこの志は一切変わっていないですよっ?手伝いも無理のない範囲ですしっ」


 レイは慌ててカエラの言葉を否定する。そもそも軍の仕事を手伝ったのも、セリアリスの呪の件があったからだ。それが無ければ、この件は断っていただろう。


「ほらほら、カエラ、そうレイ少佐をいじめるな。それに君の言っていた暫くのんびりというのは、私も賛成だしね」


「あら、旦那様、どういう事ですか?」


 ノンフォーク公はレイに助け船を出したかと思ったら、何やら変な事を言い始める。カエラさんも言っている意味が判らず、思わず話を聞き返す。するとノンフォーク公は何やら含みのある笑みを浮かべて、カエラさんに話しかける。


「いや、いま君が言った通りの意味さ。私は暫らくの間、静養と称して自領へ戻ろうと思っているんだ。幸い私の体調が回復したのを知っているのは、ここにいる者達だけだからね」


「いや、閣下、流石にそれは……」


 レイが流石に軍のトップが簡単にいなくなれば、問題があるだろうと口を挟もうとするが、それをノンフォーク公は目線で押しとどめ、続きを話始める。


「ハハッ、流石に軍務をすべて投げ出す訳じゃないよ?そっちは元々自領でもできるからね。今回の静養はどちらかというと国政向きの対応さ。言ってはなんだけど、私はこれで結構な発言力がある。国政においてもそれなりの影響力があると自負している。今回の件は、その事もあって私自身に身の危険があったのだろう。まあ身の危険云々は、今回に限らず上位貴族の宿命として常に孕んでいるものだから、良いんだが、このタイミングというのが気になってね。何故このタイミングで私を害しようとしたのか、その目論みを知りたくて、一旦それを外から眺めようと思ったのさ」


 ノンフォーク公はそこまで話すとしたり顔を見せる。確かに話している事は理解できる。相手がノンフォーク公不在に乗じて何か動き出す可能性を考えての行動という事であれば、むしろいい作戦かもしれない。するとそれに嬉しそうにカエラが話にのってくる。


「あら素敵な考えね。私は旦那様と一緒に過ごせるし、敵対勢力もここで一気にあぶりだせるし、一石二鳥じゃない。流石は旦那様ね」


 ただレイはここで素直に感心できない。この話、別にレイがいる前でされなければいけない会話ではないのだ。むしろ一介の将校風情が聞いていい話ではないように思う。となると自分がいる場でこの話をされた意味があるはずなのだ。レイはその可能性に思い至り、警戒するような表情を見せる。ただ相手は海千山千の手練れであれるノンフォーク夫妻だ。そんなレイの警戒が見事的中する。


「うん、我ながらいい案だと思うよ。ただね、一つだけ不安もあるんだ」


「ああ、そうね旦那様。私も一つだけ不安に思い至りましたわ」


 本来であれば、この話の流れで合いの手など入れたくはないのだが、セリアリスは最初から終始すまし顔で、ただ会話の流れを見守っているので、レイは仕方がなく合いの手を入れる。


「ええっと、それはどのような不安でしょうか?」


「勿論、セリアリスの事だよ。少なからず私の不在で対抗勢力が活性化するだろう。当然、セリアリスに対して、害を為そうとする人間が現れる可能性が出てくる。ただその事が心配でねぇ」


「そうね、もうじき夏季休暇も終わりになるでしょう?学院内も含めてセリーを守ってくれるようなお相手がいれば良いのだけど?流石に近衛騎士団は当てになりませんしねぇ」


 レイはここに至って、ああこれは予定調和だと思い至る。最初からこの流れで話が進む事を予定していたのだ。その証拠に、先程まですまし顔であったセリアリスがクスクスと笑いだす。


「さて、レイ・クロイツェル。私は暫らくの間、身の危険に晒される可能性が増えるのだけど、友人のあなたはどうしてくれるの?」


「うっ、いや、えっ、どうするって……」


 流石のレイも回答に窮する。レイのスタンスは基本友人として助けられる範囲で助けるといったものだが、どうやらノンフォーク家の面々はそれ以上を求めているようだ。ただそれをレイとしてもはいそうですかと受け入れる訳にはいかないので、回答に窮してしまう。するとそんなレイにカエラ夫人が助け舟を出す。


「セリー、貴方は一応アレックス様の許嫁なのだから、レイ君が私人としてあなたを守るとは言えないわ。流石にそこはわかってあげなさい。旦那様、そうなると公人としてセリーの護衛を命令する必要があるのだけど、それで良いかしら?」


「ふむ、まあそうだな。レイ少佐、君には軍としてセリアリスの護衛の任を与える。辞令は後程正式に出すが、まあ私がノンフォーク領から戻るまでの期間で構わない。学業の差支えにならない範囲で、セリアリスの傍に付いていてやってくれ」


 レイの立場上今は予備役の為、断ろうと思えば出来なくもないのだが、隣のセリアリスが断るのは許さないわよと言った目線を送ってくるので、思わず顔を引き攣らせる。


「は、はいっ、謹んでお受けいたします。……はぁ、まあ暫くの間、よろしくね、セリー」


「ええよろしくね、レイ少佐。フフフッ、レイが傍に居てくれるのであれば、何処に行くのも安心だわ」


 レイはそう言って嬉しそうに顔を綻ばせるセリアリスを見て、まあ仕様がないかと諦めるのであった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さすがに対価も示さずに扱き使いすぎだろ。 使用人相手にしてるみたい。 公爵家と子爵家の力関係といっても実際は独立国みたいな子爵領という設定からしてモヤる。
[気になる点] 当たり前のように一方的に利益を差し出させている状況が続いているなのに 友人友人と言っているのは、たかっているようにしか見えなくてとても不快だな
[一言] 娘の護衛を頼むんだからノンフォーク夫妻もうちょっと誠意を見せた対応したほうがよくないですかね?これだと厄介事持ち込む人扱いされそうです。
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