第七十四話 後始末
これで誕生日会編終了。
次回は新展開予定。
結局レイはその後、ニーナをドンウォーク子爵家に預けると、その足で一人王城の方へと足を向ける。この日の後始末はまだ終わっていない。その最後の後始末を終えるべく王城の近くにある礼拝堂へと来ていた。
「やあ、先ほど振りだね」
レイがマスクを被った状態で、礼拝堂の外にある王族の代々の墓付近にいた人影に話しかける。人数は6名。こんな夜中に不自然な一行だった。
「き、貴様はっ、何故ここがわかったっ」
そこにいたのは、先ほど誕生会を襲撃したダークエルフの集団。ちなみに捕まっていた筈の2人以外にも人数が3名程増えている。彼らは姿を擬態できる。となれば、仲間の手引きがあれば脱出も難しくはないのだろう。レイはその姿を見ながらも慌てる素振りを見せずに、淡々と話しかける。
「ああ、ダークエルフだから精霊の気配が判らないのか?その割にはさっきの杖を上手く使いこなせていたみたいだけど?まあそれはどうでもいいか」
レイは相手の質問に答えるような、それでも考えて的を外しているかのような回答をする。先ほどレイの前から逃れたダークエルフは忌々しい表情を見せ、怒鳴り声を上げる。
「ふざけるなっ、何故貴様はここにいるのかと聞いているんだっ。先ほどは遅れを取ったが、もう一度戦って同じ結果になると思っているのか?」
「ああ、ごめんごめん、別にからかってた訳じゃないんだ。君には精霊を見張りでつけていた。だから君がどこに行こうが、判らないという事はないんだ。それに別に無理して戦おうとも思ってないしね」
レイは別に相手をからかうつもりで回答したわけでは無く、考えていることをそのまま話したら、自然と相手を刺激してしまっただけなので、素直に謝罪する。それに目的をかなえれば、彼らに用はないので、無理に彼らと事を構えようとも思っていなかった。
「何?戦う気がないだと?それに精霊を見張りに付けるだと?貴様、一体何者で何が目的だ」
ダークエルフのリーダーらしき人物は、警戒するような視線をレイに向け、その意図を探ろうとする。レイは特段隠し立てをする必要も無い為、素直にその質問に答える。
「俺の目的は、その杖だ。その杖、闇精霊が封印されているだろう?俺はこう見えて精霊の契約者だ。ああ、流石に契約者は分かるだろう?だから、精霊の契約者としては、その杖の存在を放っておく訳にはいかないんだ」
「なっ、人族の癖に精霊の契約者だと?戯言を言うなっ」
まあそれも当然の反応だろうと、レイは手っ取り早く契約者である事を証明する。まあ厳密には寵愛者なので契約者ではないのだが、寵愛者と言えば更に信用されないし、信用されたとしても明るみにでると困るので、そこは一応の保険で契約者と名乗る事にした。
『ディーネ、出てきてくれる?』
「はい、主様。これでいいですか?」
レイはディーネを呼び出すと、ディーネは従順な態度でレイの前に現れる。そしてその姿を見てダークエルフ達は一様に驚きの声を上げる。
「なっ、本当に精霊だとっ」
「あっあれは上位精霊のウンディーネじゃないのかっ」
「クッ、まっまさか、信じられんっ」
レイはその反応を一通り見終わった後、薄く笑みを浮かべてダークエルフのリーダーを見る。
「これで信用してくれたかな?一応、彼女だけでなく、風の精霊とも契約を結んでいる精霊の契約者だ。君らとここで戦ってもいいけど、少なくとも君ら位の人数なら、無傷で倒せる自信はあるよ」
これはレイにとってハッタリではなく、本音である。そもそも彼らダークエルフは、精霊との付き合いを捨てて魔導に走った種族だ。その為、現在はエルフたちの大陸から追われ、流浪の民となっている。とは言え、元々エルフ族と同じ種族の為、知識としてその脅威は十二分に理解をしていた。
「クッ、何故貴様のような人間が、この大陸にいる?精霊の契約者などエルフ族にも数える位しかいないはずだ」
「ハハッ、そこは俺のご先祖様に文句を言って欲しいな。この力はその名と血によって受け継がれているものだから。っと、余計な話はこの辺で。さっきも言ったように俺の目的は、その杖だ。他の者にはさして興味はない。勿論、君ら暗殺者集団にもね。パッと見、さっき捕まった君の仲間も上手く助け出したようだし、俺は杖さえ手に入れば、君らに用はないから手を出さないよ」
「何故だ?貴様は軍の人間だろう?我らを殺すなり、捕えるなりした方がいいのではないか?」
ダークエルフのリーダーはレイがその杖に興味を抱くのは理解できた。ただそれなら、彼らを皆殺しにし、その上で、その杖を奪えばいいのにと考えている。なのにそれをせずに、わざわざ交渉している意味が判らなかった。
「うーん、そうしても良いんだけど、後々の処理が面倒だからね。ああ、君らには精霊の見張りを全員に付けるから、俺や俺に関係する人間を害しようとした場合は、確実に殺すよ。ただ君らには特別恨みはないからね。なら無理して捕えたり殺したりは必要ないだろう」
そうそれは完全に強者としての理論である。ダークエルフ達は彼にとって、邪魔でも脅威でもなんでもないのだ。勿論、彼に類する人間が害された場合は、確実に消す自信もあるのだろう。だからこそダークエルフ達は捨て置かれるのだ。ダークエルフのリーダーはその事に思い至り、冷や汗を流す。目の前にいるのは獰猛な虎だ。決してその尾を踏んではいけない。
「クッ……、分かった。この杖は渡す。この収納の腕輪ごとな。ただこの杖と腕輪は借り物だ。俺達の雇い主からのな。そしてその腕輪は、相手の所在が分かるようになっている。つまり俺が貴様にこの腕輪ごと渡すと、その杖がお前に渡った事がすぐばれるから、そこの点は注意しろ」
「へぇ、そうなんだ。親切に教えてくれてありがとう。でも黙っていれば、君の雇い主が僕の所に刺客をはなって、僕の身も危なくなると思うんだけど、何故そうしなかったの?」
レイは余りに従順に注意点まで教えてくれるダークエルフに、困惑した表情を浮かべる。
「ふん、貴様に刺客など放っても返り討ちに合うのが精々だろう。それに、貴様がそれを上手く隠せば、我らの逃亡までの時間をより稼げるというもの。後は、刺客が我らとは関係のない所で送られたものであると証明すれば、我らの身も安全だからな」
「ああ、確かに。うん、まあ所在が分かる云々は、上手くやろう。あっ、それと君ら、エルフの少女を実験台にしなかった?」
レイは所在云々は、結局魔力に反応するものなのでディーネに頼んで上手くやろうと考えていた。なので、一旦それは棚上げし、そう言えばと先ほどまで一緒にいた少女の事を思い出す。
「アジトに置いてきたあの娘か?そう言えば、魔力暴走の気配がないが、もしかしてそれも貴様が何かしたのか?」
「まあ結論から言うと、俺が保護をした。俺は種族間の問題は知っているから如何こう言うつもりは無いけど、彼女は何処で手に入れた?」
レイは、エルフとダークエルフ間の種族間における対立は、話として知ってはいたので、そこを如何こう言うつもりは無い。例えこれが人族であっても国と国で争うのだ。ニーナ自身の不幸は同情するし、保護した以上、今後はレイの責任として彼女を匿おうと思っているが、そこまでの経緯を咎めたてるつもりは無かった。
「ふむ、貴様は我らがアレを道具として使った事も咎めんのか?まあいい、アレは皇国にいたおり、奴隷商から買い取ったものだ。エルフは敵とはいえ、有用性は認めているからな。アレが奴隷商に渡った経緯は知らん。大方、人攫いにでもあったんだろうさ」
「うーん、そうか。ああ、彼女はもう俺の保護下だから、手出しとかしたら殺すよ。今は貴族街のドンウォーク子爵邸で匿って貰っている。ああ、そこにも近付いたら、粛清対象になるから気を付けてね」
レイは笑顔でそう言っているが、ダークエルフのリーダーは、その眼が笑っていない事に気が付いているので、神妙に頷く。
「ああ、分かった。差当り我々はこの地を離れる。どの道依頼は失敗だからな。幸い、最近暗殺者組織が致命的なダメージを受けているから、我らに対する追手も来ないだろう」
「うん、ならこれで交渉完了だね。ああ、これは君らが言えるか判らないんだけど、今回の依頼主は誰なのかな?」
レイは正直、今回の一連の計画の首謀者にはあらかた当たりをつけているので、聞けたら僥倖位の気持ちで、聞いてみる。するとダークエルフのリーダーは、さして考えるでもなく、その名を語る。
「まあ、貴様も概ね察しているのだろう?……ロンスーシー。これ以上が必要か?」
「いや、想像通りだったので、それ以上はいいや。具体名を聞いても、逆に対応に困りそうだしね」
レイはそう言って肩を竦める。まあ予想通りの名前だった。これが、当主であれ、それ以外の人間であれ、難しさはさして変わらない。それに明確な証拠がある訳でもない。なので、やはり聞いても聞かなくてもどっちでも良かったと思わざるを得ない。
レイは、その場から夜闇にまぎれて消えていく、ダークエルフ達を眺めながら、さて、今後どうするべきかを考えると、憂鬱な気分になるのであった。
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