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第七十三話 エルフの少女

今回はほのぼのな感じです。

『予定より結果は良く有りませんね』


 此処まで状況を静観していたアーネストは、思いの外得られなかった結果に不満げな感想を抱く。出来れば、ノンフォーク公を死に追いやり、セリアリス嬢も何らかの不遇な状況に追い込みたかったが、結果、その両方とも果たされる事はなかった。


 そう全ての計算外は、あの仮面の男が現れてからだ。外見を擬態したダークエルフ達を見分け、あの杖の効果も無効化した。正直ああなっては手の施し様が無い。


『ノンフォーク公側にあんな隠し玉がいたとは……』


 そこは正に想定外である。軍の内部にも諜報の目は光らせていたつもりだったが、まさかノンフォーク公の縁者にあそこまでの実力者がいたとは、唯々脱帽である。とは言え、直ぐにはノンフォーク公も動けまい。幸いに怨嗟が祓われるのに、相応の時間稼ぎは出来た。ならばこの空白のタイミングをどう活かすべきかを考える必要がある。


『まずは情報戦ですね。復帰までの期間とこの状況での他貴族の動き。特に失態を重ねた近衛騎士団の動きこそ狙い目ですか』


 アーネストは会場の奥で1人の青年に目を向ける。その青年は暗い目をしながら、ジッと何かを耐えている様だ。得てしてこういう人物こそ、動かし易い。アーネストは、口の端だけ少し吊り上げ、ニヤリとすると、その人物にそっと話しかけた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 誕生日会場を後にして、レイはノンフォーク公爵邸宅まで付き添った後、1人馬車を走らせその場を後にする。セリアリスは随分とレイがその場から立ち去るのに不満げな態度を見せたが、レイとしては、まだやる事がいくつか残っており、そのままノンフォーク公爵邸に居座る訳にはいかなかった。なので後日改めて挨拶に来る事を念押しされ、何とかその場を離れる。


 そしてレイがまず向かった先は、母方の親類であるドンウォーク子爵邸である。


「すいません、遅くにやって来てしまって」


 レイは子爵邸の応接に通された後、子爵邸の面々の前で、頭を下げる。ただ子爵邸の面々はその事には大して興味を示さず、レイが抱き抱える少女にこそ興味津々であった。


「うん、それはどうでも良いわ、で、その子はどうしたの?その子ってエルフよね?」


 そう切り出してきたのは、ドンウォーク子爵夫人であるミリーゼさんだ。レイは思わず苦笑を浮かべながら、それに答える。


「ええ、この子の事を説明すると長くなるのですが……」


 そう言ってレイは此処までの経緯を説明しだす。まず暗殺組織の壊滅から始まり、王城での誕生日会の出来事に至るまでだ。


 そして一通り説明を終えた後、出された紅茶を一口含み、レイはホッと息を吐く。自分で説明してみても、結構大変な出来事だったなと改めて思う。ただ話を聞かされた方は、それ以上に目を丸くしていた。そんな中、流石に現役の外交官であるアゼルは立ち直りが早い。早速とばかりにレイに質問を投げかける。


「取り敢えずその子をここに連れてきたという事は、当座の保護という事で良いのかな?」


「ええ、流石にエルフですから、軍や孤児院に保護というわけにはいかないですし、俺が寮で匿うというのも現実的では有りませんので」


「うん、まあそうだろうね。ただずっと置いておく訳にもいかないよ?その子も屋敷の中に篭りっきりという訳にもいかないだろう」


「はい、ゆくゆくはクロイツェルに連れて行く必要があります。現実的なのは、父が王都に来るタイミングが良いのですが、難しい様で有れば、俺が連れて帰ります。その際は一時期学校を離れる必要がありますが」


 レイはそう言って、淡々とした表情を見せる。父は何だかんだ2、3年に1度は王都にも足を運ぶ。大抵はノンフォーク公爵領の領都オムロで済ませてしまう為、王都まで来ないケースもあるのだが。なのでそれまでの間、ドンウォーク子爵邸で保護して貰えればと考えていた。


「うん、そういう事なら僕の方からもカイン殿に書状を出しておこう。まあ今なら秋頃にはこちらに間に合うからね。流石に冬だと山脈越えは厳しいだろうから」


「そうして頂けると助かります。俺の方からも手紙は出そうと思ってましたので、流石に父も動くでしょう」


 これでこの少女の処遇も確定した。レイは抱き抱えた少女の頭をそっと撫でる。するとそれまで寝ていた少女が身動ぎをして、その目を開ける。レイは少女に優しく微笑み、気遣う様に話かける。


「おはよう、エルフのお嬢さん。気分はどうだい?」


 少女は焦った様に周囲を見渡し、再びレイの顔を見る。さっきまで暗殺組織のアジトに居たはずなのに、何やら小綺麗な部屋にいて、抱き抱えられているのだ。そんな少女を見てレイは、どうやら全く理解が及んでいなそうなので、簡単に状況を説明する。


「えっと、そうだね。君はダークエルフの暗殺組織に捕われていたんだよね?一応、彼らは俺が潰したんだ。そこで君を見つけて助けた、此処までは良い?」


 すると少女も何となく覚えているのか、頭をコクコクと縦に振る。そこまで覚えていれば、その後の説明はそう難しく無い。なのでレイは説明を続ける。


「それで君を助けたは良いけど、ここ王都では、君の様なエルフは珍しい。迂闊に人に預けるとどうなるか分からない。なので、一旦、俺が信用出来る人の家に匿って貰おうと此処に連れてきたんだ」


 そこで少女は再び周囲に目をやる。そこには人族の大人の男女と老人の男性が座っていて、優しげな表情を見せている。ただ少女はビクッとしたかと思うとレイにしがみ付く。


「ハハハッ、ここにいる人は皆良い人だから、怯える必要は無いよ。あっそうだ、俺の名前はレイ。レイ・クロイツェルって言うんだ。えーと、君の名前を聞いても良いかな?」


「……んと、ニーナ。オルレアの森のニーナ……です」


 少女は辿々しくも何とかそう答える。レイはその答えを聞いて目を細める。エルフ達の住む大陸にはいくつかのエルフの部落が存在する。因みにクロイツェルが交流するエルフの部落はランドルの森と言っていたので、少女とは違う部族らしい。なので一応、少女にその事を聞いてみる。


「そうか、ニーナはオルレアの森の部族の子なのか。因みにランドルの森の部族は知っているかい?」


 ただそこは残念な事に少女は首を横に振る。


「ごめん……なさい。知らないです……」


「ああ、そうかもしれないと思っていたから、気にしなくて良いよ」


 レイはそう言ってニーナの頭を優しく撫でる。まあ彼女はまだ小さいので、そう言うこともあるのだろうとは思っていたのだ。すると先程から話しかけたくてうずうずしていた、ミリーゼが声を掛けてくる。


「レイ君、そっちばかりで話を進めないで、私たちの事も紹介して頂戴」


 レイはそこで苦笑を浮かべ、ニーナにドンウォーク子爵家の面々を紹介していく。


「ニーナ、今の女性がミリーゼ叔母さん、その隣がアゼル叔父さん。そして1番の年長者がデニスお爺さん。後、今はここに居ないけど2人の娘さんのアリスがいる」


「今晩は、ニーナちゃん。今、レイ君が言った様に、私のことはミリーゼ叔母さんで良いわ。宜しくね」


 そう言ってミリーゼは、自ら少女に近づいてその両手を取って、膝立ちになりながら目線を合わせてニッコリする。ニーナは最初少しだけ警戒する素振りを見せるが、相手の表情を見て信用出来ると思ったのか、ホッと表情を緩める。


「あのニーナです。よろしくお願いします」


「あら偉い、ちゃんと挨拶出来るのね。あっそうだ。お腹空いて無い?」


 するとタイミング良くニーナのお腹がクーッと鳴る。ニーナは顔を赤め慌てる素振りを見せるが、ミリーゼは気にせず笑顔を見せる。


「そうよね、もう夜だしお腹空いちゃったわよね。うん、じゃあ簡単なものでもすぐ用意しちゃおうか」


 そう言って立ち上がり、ミリーゼは奥へと引っ込んでしまう。ニーナはどうしていいか分からず、レイの方をジッと見る。


「大丈夫。ミリーゼさんが直ぐに食べれるものを用意してくれるみたいだから、ちょっとだけ待ってようか。それと暫くは此処でお世話になるから、遠慮しなくて良いよ」


「……うん、あ、あの」


「ん?どうした?」


「助けてくれて、ありがとうなの。あ、あの……お礼……」


 ニーナはそう言って、身を竦める。レイは優しく抱き上げると目線を合わせて、ニーナに言う。


「うん、どういたしまして。後の事は俺やこの家の人達が上手くやるから、安心して良いよ」


 多分此処まで小さいながらに、ずっと不安と闘っていたのだろう。だからこそレイは安心できる場所だと言う事を、気持ちを込めて伝えてあげる。するとニーナは、その気持ちが伝わったのか、初めて年相応の可愛らしい笑顔を見せるのだった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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