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第七十二話 終息

明けましておめでとうございます。

次の更新は明後日予定です。


年末年始の更新はゆっくり目となりますが、長い目でお付き合いください。

 レイは取り敢えず、ノンフォーク公をこの場から移動する必要があるだろうと考える。如何やら既に誕生会という雰囲気では無い。ならばこのまましれっと居なくなっても問題ないだろうとレイは、セリアリスに話しかける。


「セリアリス様、私はカエラ様に従ってこのままノンフォーク公の付き添いをさせて頂きます。セリアリス様は如何されますか?」


「私もお父様が心配ですので、付いて行きます。少しだけ待ってくれますか?」


 セリアリスはそう言うと、その足で生徒会メンバーの方に向かう。レイは目線だけ一度追うが、直ぐに周囲にいた給仕の者に声をかけ、ノンフォーク公を連れ出す準備をする。


「カエラ様、ノンフォーク公はノンフォーク邸宅にお連れするので良いですか?」


「ええ、色々有難う。リオ君」


「いえ、職務ですから、お気遣いは無用です」


「フフフッ、ノンフォーク家にはそれは通用しないわよ。でもこれからが色々大変よね。旦那様がどう動かれるか」


 カエラさんはそう言って柔らかい笑みを浮かべた後、少し憂いを帯びた表情を見せる。レイはそれには答えず、ただ肩を竦めるのだった。



 セリアリスはその場を離れる事を主賓であるアレックスに伝える為、生徒会メンバーの方へと足を向ける。全員がセリアリスが側に来ると、居た堪れない表情を見せる。セリアリスとしては、誰が信用出来て誰が信用出来ないのか、その見極めが明確になったので、もう終わった事に興味は無いのだが、相手側はそうでは無い様だ。


「アレックス様、私は父の付き添いで今日は失礼させて頂きます。よろしいでしょうか?」


「ノンフォーク公は大丈夫なのか?」


 アレックスは一応は心配する素振りで容態を聞いてくる。セリアリスはそれに淡々と返答する。


「ええ、ユーリのお陰で大事には至らない様です。とは言え体力は落ちているとの事。もう少し早く処置出来れば良かったのですが」


「う、うむ、そうだな。今宵はこれ以上は会も続けられないだろう。致し方ない、ノンフォーク公に付き添って差し上げろ」


「はい、そうさせて頂きます。では皆様、今宵はこれにて失礼します」


 セリアリスは薄い笑みを浮かべて、律儀に礼をする。するとセリアリスの側にいたユーリが同じようにアレックスに暇を求める。


「アレックス様、私もセリーに付き従いたいと思います」


「なっ、君もか?既に処置は終わったのだろう?」


 セリアリスだけでなく、ユーリ迄もがという事で、アレックスは驚きの声を上げる。ただユーリは決然とした表情ではっきりと答える。


「はい、確かに魔は払いましたが、体調に関しては、少し様子見が必要です。いざという時、側に駆け付けられないというのでは、意味が有りませんので」


「いや、しかし逃げた賊もいる。まだ周囲に危険が無くなった訳では無いのだぞ」


 アレックスは何とかユーリを踏み止まらせようと躍起になる。セリアリスは肉親の不慮だから仕方が無いとはいえ、ユーリ迄居なくなるのは明らかに不味い事態だ。ただユーリは既に決めた事とばかりに、冷静に返答する。


「そこはご安心を。ノンフォーク公には先程賊を封じた仮面の方が付き従うとか。この場にいるよりも安全でありましょう」


「くっ、あの様な不明の輩、素顔も晒さず、不遜な態度を取る輩が信用出来るのか?そもそも奴は誰なのだ?」


 そこで先程突如現れた仮面の男に、矛先が向く。するとそれにはセリアリスが答える。


「アレックス様、恐れながら申し上げますが、彼は不明な輩ではございません。当人も言っていた通り、国軍の将校でリオ・ノーサイスと申します。ノーサイス家は我がノンフォーク家の傍流。私も幼少の頃より存じております。我が傍流ゆえ、特務の様な特殊な任務にもつくことが出来ます。少なくても此処にいる方々よりかは、我がノンフォーク家においては信用出来ますわ」


「なっ、ノンフォーク家の縁者なのか?大体あの水の魔法は何なのだ?あの様な魔法見た事ないぞ?」


「ああ、あれは水精霊の加護ですわ。彼は加護持ちですので」


 アレックスはその話を聞いて唖然とする。確かにその話だけ聞くと、ユーリを踏み止まらせる要素がないのだ。アレックスは悔しげな表情を見せて、押し黙る。


「それでアレックス様?私も失礼させて頂いて宜しいでしょうか?此処で長々時間を費やす訳には行きませんので」


 ユーリは駄目押しとばかりに、アレックスに許可を求める。アレックスは最早止める手立てもなく、絞り出す様に声を出す。


「う、うむ、仕方があるまい」


 今はどうにも旗色が悪い。結局賊が現れた時に何も出来なかったのだ。勿論、アレックス自ら動くのも立場上難しいのはある。でももう少しやりようがあったのではと思い悩む。ただそんなアレックスの逡巡を他所に、ユーリはセリアリスに笑みを向け話かける。


「ではアレックス様の許可もいただきましたので、セリー行きましょうか?」


 セリアリスはそんなユーリの姿を見て、思わず苦笑を浮かべつつ、生徒会面々に挨拶をする。


「そうですね、では皆様、私事でこの場を去る事をお許しください。次に会うのは学院が始まってからになるでしょうが、どうぞご機嫌よう」


 セリアリスがそう言うと、2人は連れだってその場を離れていく。そして少し離れた所でセリアリスはユーリに話かける。


「ユーリ、貴方までこの場から離れて行かなくても良かったのに」


「フフフッ、あらセリーは私が側に居なくても良いって言うの?」


「そうでは無いわ。分かっているでしょう?でも後々の事を考えると色々面倒でしょう?」


 セリアリスとしては、ユーリ迄もがこの場を離れると、アレックスのユーリに対する執着が強くなる事を危惧していた。ただユーリはそんな事を気にしている素振りを見せずに、笑みを見せる。


「仮面の方が言われたでしょう?自分で決めた事を実行できる強さを持つべきだって。私は今回のことで、それを強く感じたの。神の加護持ちとして、自分の感じた事を優先出来る気持ちの強さを持つべきだって。だから今はこれで良いのよ」


「ユーリ、仮面の方って言ってるけど、気付いていないの?」


「えっ、何が?」


 如何やらユーリは気付いていない様だ。まぁユーリが気が付かないくらいだから、他の人々が気付く事がないのは良い事だが、セリアリスは流石にユーリは気付くだろうと思っていたので、少し呆れた表情を見せる。


「そう、それならそれで良いわ。その方が面白そうですし。フフフッ、後の楽しみが1つ増えましたわ」


「えっ、何?何なの?」


 後程、仮面の方の正体を知って慌てふためくユーリの事を想像して、セリアリスは唯々その場は笑って、やり過ごすのだった。



 エリカは離れて行くユーリとセリアリスを眺めながら、この場に残された者として、気不味い思いをしていた。そっと隣にいるエリクを見ても、その表情は諦め顔で、如何やらその心情はエリカと同じ様だ。


『今回は完全に失敗よね』


 元々のゲームでこのイベントに賊が侵入するパターンは存在する。ジークのルートとセリアリスのルート、そしてアレスのルートでだ。アレックスのルートでは、賊の襲撃パターンは無いのだが、アレックスルートへの分岐はまだ先の為、此処での賊襲撃があってもアレックスルートに入るのは可能なので、大きな影響はないとは言える。但し、影響が無い訳では無い為、今後の好感度を上げるポイント稼ぎは重要となってくる。


『でもアレスルートはないか」


 そうアレスルートでは、今回の仮面の方が立ち回った行動をアレスがしなければいけなかった。でも実際はアレスはユーリの邪魔をして、その心証を損ねてしまった。あそこでユーリを守りつつ、ノンフォーク公の救済を手伝えていれば、好感度も大幅に上がったろうにと思わずにはいられない。


 エリカはそう思ってアレスを見ると、その目はずっとユーリを追っている。エリカはその様子を見て1つ溜息を吐くと隣にいるエリクに話かける。


「お兄様、取り敢えずこの場はもう解散とした方が良いのでは無いでしょうか?」


「ん……、ああそうだな」


 エリクはそう返事をすると、アレックスへと向き直る。


「アレックス、この場の解散を皆に伝えた方が良いのではないか?この度の近衛騎士の失態は、後程、我が父に諮れば良いだろう」


「ん、ああそうだな。宰相、宰相はおるか?」


 するとエリクの父である宰相のミルフォード侯が現れる。


「アレックス殿下、お呼びですか?」


「うむ、取り急ぎこの場は解散とする。まあこの状況だ。致し方あるまい。その上で後日、今回の不手際に対する検証を行う。折角の祝いの席が台無しにされたのだ。その責は重かろう」


「はっ、承りました。エリク、周囲に解散を周知してきなさい。エリカは私についてくるように。殿下も後のことは私が取り計らいますので、今日はもうご退出下さい」


「うむ、頼んだぞ」


 するとアレックスはアレスに目配せをし、連れだってその場を離れて行く。2人が居なくなったところで、エリカは側にいる義父にそっと話しかける。


「お義父様、今回の件で近衛騎士のお立場は相当悪くなるのではないですか?」


「ん、エリカか、まあ先だっての国王陛下の呪いの件もある。しかも王城内に易々と賊の侵入を許したのだ。責任無しとはいかぬだろう。とは言え、代えに当てがある訳でもない。ノンフォーク公の容態もまだわからぬから、色々調査を進めなければならないな」


 エリカはそれを聞いて難しい顔をする。近衛騎士団の弱体化は、ゲームシナリオ的にはあまり良い傾向ではない。このまま続くとよりハードなシナリオに突入しかねないのだ。そんな思い悩む娘の姿にミルフォード侯は優しい笑みを浮かべる。


「エリカ、其方がそう思い悩む事はない。それは我ら大人の領分だ。まあ幸いノンフォーク公が無事だったのだ。そう悪い結末にはさせんよ」


「はい、お義父様。それでも私の力が役に立つ事が有れば、何なりとおっしゃって下さいね」


 エリカはそう言って、ミルフォード侯に笑みを返す。エリカには与えられた役割はない。あくまでモブである。ただし力は得たのだから、きっと意味は有るはずなのだ。エリカは改めてその事を意識するのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 不浄を払え、と与えられた力を目の前にいながら行使しなかったんだから真意に背いたとして即加護剝奪でいいやろ、的な
[一言] 公爵家当主兼国軍司令官を見捨てようとした王族かぁ 独立戦争フラグヨシ!!
[良い点] レイの株がどんどん上がっていく、、、良いね!かっこいいぞ!! [一言] やめて!レイの恋愛フラグがこのまま立ち続けたら、かっこいい場面がないアレックスとアレスのヒロインとの好感度とフラグま…
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