第七十話 緊迫
Nel様、レビュー頂き有難うございます。
余りにべた褒めで正直テレ臭いですが、引き続き期待に応えられるよう、頑張ります!
それと今年もあとわずか。恐らく明日から4日位までは更新が不定期となります。とは言え、誕生会編も佳境が近付いて来ましたので、早め更新ができるよう頑張りますので、応援、宜しくお願いします!
誕生日会の会場は騒然としている。舞台の中央部分には、ノンフォーク公爵親子が固まっており、その周囲に巻き起こった風により、1人の男がその姿を曝け出していた。
「ダークエルフ!?」
誰かがその曝け出した姿を見てそう溢す。そのダークエルフは、自身の姿が曝け出されたことに対して苛立ちを見せる。すると直ぐに人垣の中へと潜り込み、気が付けばその姿が居なくなる。
「ひっ」
「キャーッ」
周囲の者達から悲鳴が上がる。如何やらまた暗殺者達は、その姿を擬態し、混乱に乗じてその身を眩ませた様だ。会場には、この国の有力者達が複数存在する。それらに会場を警備していた近衛騎士が張り付き、今回の主賓であるアレックス達の周囲にも複数名で取り囲んでいる。
ただノンフォーク公の周囲には、暗殺者を恐れて近付くものはなく、この会場内で完全に孤立していた。
「離して下さいっ、セリーの側に行かせて下さいっ」
そう騒ぎ立てるのは、ユーリ・アナスタシア伯爵令嬢。ただそれをアレックスとアレスの2人が押し留める。
「馬鹿を言うなっ、今この場であそこが最も危険な場所なのだぞっ、君にもしもの事が有れば如何するっ」
「そうだ、ユーリ大人しく此処で待機しておれっ、この場は近衛騎士が何とかするっ、近衛、賊の討伐はまだかっ」
アレックスはそう言って、近くにいた近衛に激を飛ばす。すると近衛からは、動揺した返答が返ってくる。
「殿下、なにぶん賊は姿を魔法で擬態している模様。申し訳無いが、狙いがノンフォーク公爵の様ですので、彼らを狙い表立った時に討ち果たすしか手がなく……」
「馬鹿なっ、セリアリス達をおとりに使えというのかっ!?」
なにぶん相手はその姿を擬態している。誰が暗殺者なのか判らない状況で、近衛としても動くに動けない。ただそのおとりとなる対象者が、よりにもよってセリアリスとノンフォーク公である事実にアレックスは愕然とする。ただ事態を収束するにあたって、他の手段が思いつかない。そんな王子にAクラス担任であるアーネストが近寄ってきて、アレックスに口添えをする。
「アレックス殿下、今は近衛騎士に任せるほかないかと。いたずらに殿下や他の方が動けば、より被害が大きくなるやもしれません。今は、何卒、ご自重なさってください」
「クッ」
アレックスはそこで忌々しげな表情を見せるが、動くに動けない。するとセリアリスの方は、何やら雷魔法を発動し、周囲への警戒を露わにする。孤立無援、そんな彼女を見て自分がどう行動すべきかをアレックスは思い悩む。アーネストは、そんなアレックスや他の生徒がいたずらに行動を起こさない様に注意しつつ、内心でほくそ笑む。
『ここでユーリ嬢とエリカ嬢を抑えれているのは上出来ですね。後は、セリアリス嬢さえ何とかできれば、この国は大きく変わります。ですので、アレックス様には、聖女達ともどもここで大人しくして貰わなければいけません』
状況は確実にセリアリス達を追い詰めている。アーネストは聖女2人に目を光らせながら、近衛騎士達がせいぜい頑張ってくれる事を期待もせずに見守っていた。
◇
レイはセリアリスにあげた指輪の魔力を感じとり、馬車の中で眉をひそめる。今は、貴族街に入り母方の親族であるドンウォーク家を目指していたが、目的を変更しなくてはいけないと御者に声を掛ける。
「すまないが、目的を変更し王城へ向かってくれ。なるべく急ぎで頼む」
「はっ」
ここから王城までの距離だと馬車を急がせても30分程度はかかる。それでも急ぎ向かう必要があると判断したのだ。
『シルフィ、今のってセリーの指輪の魔力だよね?』
『セリー危ナイ、危険ガ一杯』
指輪に込められた自身の魔力を感じ取ってか、シルフィも警告してくる。状況は判らないが、セリアリスの身に何か危険が迫っているようだ。運よく王城近辺まで来ていたから良かったものの、今だ城壁外のスラムにいたら、到底間に合わない所だった。とは言え、今現時点でセリアリスに危険が迫っているという。30分は短いとはいえ、十分間に合うとも言い切れない。なので、レイはシルフィにお願いする。
『シルフィ、悪いけどセリーの傍に行ってくれる?俺も直ぐに追いつくけど、それまでの間、彼女と彼女の守っているものを助けてあげて欲しい、お願いできるかい?』
するとシルフィは自信満々のやる気に満ちた感情を返してくる。
『大丈夫、セリーヲ守ルヨ、僕ガ守ル、約束スルヨ』
するとシルフィの気配が傍から消えてなくなる。レイはそこで一つ溜息を吐く。今日は確か第一王子であるアレックス殿下の誕生会だったはずだ。当然、王城内であり近衛騎士達の警備もしっかりしているはずだ。そう易々と襲われたりしないはずだが、内部の人間の犯行だろうか?指輪がある以上、セリアリス自身の身は守られているはずだ。シルフィがいる以上、この後身の危険にさらされる事もまず考えられない。するとそんな事を考えていたレイに、ディーネが、声を掛けてくる。
『主様、先ほどその少女に巣食っていた闇精霊の怨嗟と同じ気配を、この先向かう先より感じますわ』
ディーネの言うその少女とは今、レイの膝の上で、スヤスヤと寝息を立てているエルフの少女。この少女に巣食っていた怨嗟は既にディーネが払っている。だとすると、この少女にその怨嗟を巣食わせた人物が会場にいるという事だ。
『それは随分と厄介だね。誰かこの子と同じような状況になっているかも知れない。とは言え、衆人の前で、ディーネを顕現させるわけにもいかないし』
『でもそこは、神の加護の子がいらっしゃるでしょう?私だけでなく、神の加護の子であれば、払う事は可能ですわ』
確かにその方が確実か。その会場には生徒会メンバーとして、ユーリも新たな加護持ちであるエリカ嬢もいた筈だ。ならばとレイはホッとする。
『うん、なら大丈夫かな。となると問題はその闇精霊の方かな』
『ええ、ただそこはどうしてそのような怨嗟をまき散らすような状況になっているかが、問題ですわ。ただ手がない訳でもありません。そこは状況を見て、主様にお伝えしますわ』
『ああ、ならそれでよろしくね』
レイはそう言って、覚悟を決める。まあディーネが手があるという以上、こと精霊に関してはそれに従うので間違いはない。なので、後は早く現場に行ってセリーを安心させないとと、逸る気持ちを抑えつつ馬車が王城に到着するのを待つのだった。
◇
セリアリスはある時から、風が自分の周りをやさしく舞って守ってくれているような感覚を感じる。そうそれはレイとダンスをしたときにも感じた風の感覚である。
『風の精霊?レイが近くにいるのかしら?』
セリアリスは周囲を警戒しつつ、その姿を探すがまだそれらしき人物は見当たらない。今日の誕生会には、下位貴族であり、地方領主の息子でもある彼は、呼ばれていない。だから王城にはいるはずがないのだが、その気配を感じた時に、不思議とそう言う風に思えたのだ。
『ならば、今はジッと耐えるだけ。レイが来れば、きっとお父様の事も何とかしてくれる』
それは今現状で唯一考えられる希望である。指輪の力で、彼は自分を守ってくれた。今も精霊を使って、私と私の守りたいものを守ってくれる。セリアリスは再び周囲を警戒する。
チリッ
再び姿がぶれるような感覚。セリアリスはすかさず雷魔法を準備する。するとその姿を歪ませた人物は忌々しげに再び人ごみの中へと姿を眩ます。やはりあれが、暗殺者なのだろう。さっき一瞬見た姿はダークエルフの姿だった。セリアリスは異種族というのを自身の目で見たことがない。この人族の大陸には、異種族の者は滅多にいないからだ。レイはそのあたり良く見ていたらしいが、それはクロイツェルという海洋貿易の盛んな土地柄だからだ。ただ彼らは何故かセリアリスに対して、強い殺意を持っている。敵意ではない。相手を殺そうという殺意である。
『何故、私やお父様が狙われるのっ?他国の間者というわけでもないのでしょうし?』
そのダークエルフたちが他国に雇われた暗殺者ならば、国を乱すためとはいえセリアリス達だけを狙う必要がない。ここには王族を始め、数多くの貴族がいるのだ。それらを殺めるだけでも国を乱すのには十分なはずである。ただここに至って、勿論、アレックスら王族の周りには厳重な警備が敷かれ、狙いにくいという事もあるのだろうが、それにしても、こちらに集中しすぎだ。ふと自身の周囲を見て、それにも合点がいく。自分達の周りに護衛に付くべき近衛騎士の姿がないのだ。
『私たちを囮に使っているのかしら。の割には近衛の動きも悪いし、もしかして見捨てられようとしている!?』
それは明確に感じられる意図ではないが、可能性の一つとして十分にあり得る。セリアリスはそこで反骨心を見せる。誰がこのような状況に追い込んだのかは判らない。ただそれをただ甘んじて受け入れるような、弱々しい存在であるとは認められない。
『何としてもこの状況を抜けきらないとっ』
ゾクリッ
再びセリアリスに襲う背筋への悪寒。そして再びセリアリスの身を守るように風が巻き起こる。セリアリスは、その風が起きるその瞬間に、自らが用意していた雷魔法を発動させる。
バリバリバリッ
セリアリスに近付いた暗殺者が、その雷撃を受け再びその姿を現す。
「チッ、忌々しい風と厄介な魔法だっ」
目の前に現れたダークエルフは、苛立ちを感じさせる表情を見せた後、自身が着ける腕輪に魔力を通し、目の前に一本の杖を取り出す。セリアリスは先日メルテと旅をした際に見せて貰った収納魔法に類似したその動作に驚愕の表情を浮かべる。
「えっ、嘘、収納魔法!?」
「フッ、物知りな嬢ちゃんだな。だがこれは収納魔法が使えるアイテムだ。それにお嬢ちゃんが驚くべきはこの魔法ではなく、この杖の力だがな」
すると漸く姿を現したダークエルフを打ち倒そうと近付いてきた近衛騎士にダークエルフがその杖を掲げる。杖からは黒い靄が吐き出されたかと思うと、近衛騎士に降りかかり近衛騎士は剣を掲げたまま、ピタリと止まり、その場から前のめりに倒れ込む。
「キャーッ」
「こ、近衛騎士があっさりとやられたっ」
「駄目だ、あれには勝てないっ」
周囲にいた貴族からの悲鳴や怒声。近衛騎士もその惨状にピタリと足が止まる。ダークエルフもその光景にニヤリと笑みを浮かべ、セリアリスに冷然と言い放つ。
「クククッどうやら助けはもう終わりのようだな。フンッ、可哀そうなことだ。大貴族のご令嬢であってもわが身可愛さで、誰も助けようとしない。さて、後はその風の護身でどこまで、この杖の力に対抗できるかな」
ダークエルフはそう言うと、その杖に魔力を込め、黒い靄の塊を一気に凝縮させる。セリアリスは、思わずその光景に気圧され、半歩後ずさる。あれは不味い。セリアリス自身は風の精霊が守ってくれるから、何とか耐えきれると思うが、その余波が父や母に影響を与えないとも限らない。特に父はずっと昏睡状態だ。やはり周囲は、誰も助けに入ろうとさえしない。
『ああ、レイ……』
セリアリスが最後に助けを求めたのは、信頼できる友人の姿だ。アレックスでも他の誰でもない。幼少の頃に遊んだことのある男の子の友人。彼ならこんな時どうする?そう思うと自然と体の恐怖が和らいでくる。そしてセリアリスは毅然とした態度でダークエルフを見据えると、はっきりとした口調で言い放つ。
「その程度で私が倒れるとでもお思いですか?ならやってみるがいい。例え私が倒れたとしても、私の友人がきっとあなたを許さないわっ」
その威厳ある態度にダークエルフが好ましいものを見るように、顔を綻ばせる。
「フッ、そこいらのクズな貴族よりはよっぽどいいがな。ただこれは仕事だ。悪く思うなよっ」
そうしてそのダークエルフはその杖を振り下ろした。
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