第六十七話 エルフの少女
三本指様、レビュー2件目有難うございます!
感想やレビューはしっかり拝見してますので、この場を借りてお礼を!
今回はレイサイドのお話。主人公を堪能下さい!
そんな華やかな誕生日会の裏では、王国軍王都警備隊による暗殺組織の摘発が行われていた。既に2つの組織の壊滅が完了している。そしてその日は3つ目。当然、そこにはレイが扮するリオ・ノーサイス少佐の姿もあった。
「リオ少佐、敵組織の本部襲撃にあたり、人員配置が完了しました」
そう報告をあげるのはこの警備隊の指揮を取るガストン少尉である。立場上、協力者である筈のリオ少佐は、いつの間にか暗殺組織を摘発する部隊の指揮官に祭り上げられていた。
何故なら実際の捕り物の際に、1番活躍しているのがレイ自身だったからである。相手は百戦錬磨の暗殺者。数に勝る国軍とは言え、本来であれば、相応の被害があって然るべきなのだが、過去2回、レイが先陣を切る事で負傷者こそいるが、死者は0、正に圧倒的な成果だった。
そして気付けば、国軍の将兵達はレイに心酔しきっており、必然と陣頭指揮を取るような結果となっている。
『うーん、流石にやり過ぎたかな?』
正直この仮面のお陰で普段なら自制してしないような事も、気兼ねなく出来ることもあり、八つ当たり気味に組織を壊滅していった。何より普段力を使われないディーネが頼られるのが嬉しいのか、妙に張り切っているのが大きい。
「うん、ならいつも通り俺が1人で潜入するから、漏れた奴を捕縛してくれる?」
「はっ、畏まりました。御武運を祈っておりますっ」
ガストンはそう言って直立不動で敬礼をする。レイは、苦笑いを浮かべながら、建物の内部に平然と入っていく。
此処は王都城壁外のスラムという事もあり、建物も古く所々崩れ落ちた箇所も見られる。空気も何処となく淀んでおり、少し異臭も感じられる。レイはそこでシルフィに声を掛ける。
『シルフィ、周囲に人はいるかい?』
『レイ?周リノ人?イルイルソノ先、隠レテル隠レテル』
案の定、待ち伏せされているようだ。ただ索敵に関して、空気の流れがわかるシルフィに見つからないものはいない。しいてあげれば、不動のゴーレム位だろう。息をするもので有れば、分からない筈がないのだ。
『じゃあ隠れたところから追い出してくれる?』
『ウン、追イ出ス、追イ出ス』
すると壁の向こう側で突然突風が巻き起こる。
「うわぁ、な、何だ?」
「ヒェッ、風がっ」
「く、くそ、どうなってやがるっ」
壁の奥から飛び出してきたのは、数名の構成員。身のこなしが軽く、いかにも隠密行動に長けたような人物達だった。レイは動き回られると面倒なので、さっさとこれを処理する事にする。
『ディーネっ』
今度はディーネに声をかけ、頭の中で自分の意図を伝える。すると突然水柱が立ち昇ると一本一本の水柱の中に構成員がすっぽりと収まる。
ゴボッ、ゴボボボ……
水柱の中でもがく構成員達は柱の中から逃れようとするが、柱も相手の動きに合わせて動く為、水の中から逃れる事が出来ない。暫くすると構成員達は水を飲み込み、溺れて動かなくなると、そこで漸く水柱が消えてなくなる。レイは完全に白目を剥いて動かなくなったそれを、ロープでまとめ上げて一息つく。
「うん、やっぱこれが一番安全だな」
暗殺者相手の場合、不意を突かれる事、動き回られる事、そして主導権を握られる事が何より危険だ。ただレイには不意打ちが効かないし、水の中なら動きも封じれて、何より自分が主導権を握れる。これは盗賊や海賊の類いと戦った時も利用した手だが、やはり効率がいいのだ。
そんな戦闘をその後も数度繰り返し、その都度、相手戦力を無力化していく。既にこの界隈の暗殺組織では、仮面の男の噂は広まっているのか、構成員もそう多くなく、レイはこの部屋で最後かなと白目を剥いた男たちを縛りあげながら思っていると、そこにシルフィから声がかかる。
『見ツケタ、見ツケタ、レイ、見ツケタ』
どうやらシルフィが何か見つけたらしい。レイは周囲を見ながら、シルフィに質問をする。
『シルフィ、何を見つけたの?』
『見ツケタ、見ツケタ、秘密ノオ部屋、見ツケタ』
どうやらシルフィは隠し部屋の存在を見つけたらしい。相も変わらぬ優秀さを見せつける友人に、レイは笑顔を見せながら、感謝の言葉を伝える。
『流石だね、シルフィ。有難う』
レイは風が指し示す本棚の前に立ち、その本棚を横にずらしてみる。すると、シルフィの言っていた通り、更に奥へと進むことのできる横穴があり、レイは荷物から松明を取り出して明かりをともすと、その中へと進んでみる。ほどなくするとそこには下へと続く階段があり、更に進むと鉄格子に遮られた部屋が複数存在した。
「牢屋かな?」
ちなみに周囲に人気はない。ここは既にもぬけの殻のようだった。牢屋の中には白骨化した死体こそあったが生きた人間はいない。レイはそのまま奥へと進む。そこには扉が一つあり、レイはさてどうしたものかと一つ思案する。
「うーん、あんまり良い感じがしないんだよな~。どうしよう?」
どうやら扉には鍵がかかっている。木製の扉の為、蹴破れない事はないと思うが、嫌な予感が先ほどから警鐘を鳴らしている。するとディーネが何かを感じたのか、レイに話しかけてくる。
『主様、扉の向こうより精霊の気配を感じますわ。闇?いや人なのかしら?うーんここからだと分かりませんわね』
レイはそこで一つ溜息を吐く。精霊絡みとなると一般の人間では手が負えない。となるとレイが自ら処理をする必要がある。それが加護持ちの家系であり、寵愛者たるレイの責務だと思っている。なのでレイはそこで意を決して思いっきりドアを蹴破る。そして慎重に部屋の中をのぞき見ると部屋の中は何かしらの実験室のようで、実験用の器具や棚の中には様々な薬品が置いてある。するとその奥に四方を鉄格子で囲まれた箱のようなものが見える。
『ん?なんかいる?』
レイが鉄格子の中をのぞき見ると、そこにはまだ年端もいかない一人の少女が座っている。虚ろな瞳で粗末な服を着た少女。レイが目の前に現れても一言もしゃべらず、ただ目の前の虚空を見つめている。
「エ、エルフ?」
一目見ただけでその特徴は分かる。長い耳、銀色の瞳に銀色の髪、透き通るような白い肌。その少女は間違いなく、エルフ族の特徴を十全に備えている。幸い見た目で打撲痕などはないが、さした食事も与えられていないのだろう、体は痩せ細っていた。レイは慌ててその少女を助けようとしたところで、ディーネから声がかかる。
『主様、その少女、闇精霊の怨嗟がかかっております』
『へ?それってどういう事?』
『詳しくは分かりませんが、恐らくは闇精霊の憤怒や憎悪が魔力となって、その少女の体に巣食っております。恐らくは、外部より刺激を与えるとその感情が暴発します』
レイはそれを聞いて、冷や汗を垂らす。少女を助けようと迂闊に手を出すと、その魔力が暴発するのだ。エルフの魔力は膨大だ。例え目の前にいるのが少女だろうとその例外ではない。むしろ少女だからこそ、その暴発を制御する事などできないだろう。そうすると周囲一帯、どこまでの被害が出るのか、想像が付かない。正に人間爆弾である。
『えっと、ディーネでどうにかできる事かな?』
そうなるとレイの頼みの綱は、上位精霊たるウィンディーネの力しかない。ディーネは響くような声で返事をする。
『可能です。闇精霊本体の怨嗟となると難しいのでしょうが、闇精霊より吐き出された怨嗟であれば十分に対応できます。ただ主様……』
『うん、顕現する必要があるんだよね?おいで、ディーネ』
すると青い瞳に青い髪をした妙齢の美しい女性の姿をした精霊が、その場に舞い降りる。
「フフフッ、ここ最近で2度目ですわね、こうして主様に直接お目にかかれるのは」
「まあディーネに直接会えるのは嬉しいんだけど、面倒事が付いてくるのがね」
レイはそう言って肩を竦める。ここ最近は面倒事の時にしかディーネを呼べてないので、申し訳ないのだ。ただディーネはそれでも嬉しそうに、声を響かせる。
「お気になさらずとも結構ですよ。私は主様の為にあります。お力になれるのが幸せ。存分に我が力をお使い下さいませ」
「うん、有難う。ならその子の怨嗟とやらを払っちゃおうか?ちなみに俺に手伝える事はあるかい?」
「ならば、その子を抱きかかえてあげて下さい。恐らく怨嗟を払う時は相応の苦しみを伴うはずです。魔力の暴走は私の方で食い止めますが、暴れた事で体を傷つける事もあります。ですので、それだけお願いできますか?」
本来であれば、魔力暴走による大規模破壊も可能性としてはあるのにも関わらず、レイは笑顔で首を縦に振る。そこはディーネとの長年の信頼関係の賜物である。
「うん分かった。じゃあ始めようか」
レイがそう言うと、まずその鉄格子の檻から少女を出すべく、シルフィに風の刃を剣に纏わせて、少女を傷つけないようにその鉄格子を切り裂く。そして、その少女を檻から出して、レイは胡坐をかいてその膝の上に少女を乗せると、その体をそっと優しく抱き留める。
「もう少しの辛抱だから、頑張ってね」
レイはその少女が怨嗟に飲まれ暴走しない様に、懸命に耐えているのを途中から感じていた。その少女は一切の反応を見せない。感情を切り離していないと直ぐに飲み込まれる事を本能的に悟っているのだろう。
だからこそ、レイもそれ以上は何も言わずディーネへと目配せをする。ディーネは屈む様に少女の前に座り、その少女の唇に自らの唇を合わせ、そこから自身の魔力を少女へと注ぎ込む。すると、少女の目が見開かれ、その口からは叫び声が上がり暴れ出す。レイは少女を力強く抱きしめながら、暴れる少女が傷つかない様に細心の注意を払う。
ほんの5分にも満たない時間、少女は暴れ回り、叫び声を張り上げる。ただ突如、糸が切れた人形のように力を抜いたかと思うと、びっしょりと汗を掻きながらもスースーと静かな寝息をたて始める。
「ふぅ、ディーネ、もう大丈夫かい?」
「はい、主様。体内の怨嗟はすべて払われました。もう大丈夫ですよ」
レイはそれを聞いて笑顔でディーネに礼を言うと、胡坐の上で寝息をたてるエルフの少女を見て、溜息を吐く。エルフという種族は特殊だ。この人族の大陸でしかも王都のような内陸部で見かけることなどまずない。当然、この少女も訳ありなのだろうと思うと、溜息が出るのも仕方がないというものだ。
「それにしても闇精霊?一体どういう事なんだろうな?」
少女に巣食った闇精霊の怨嗟、その事を考えるとまだまだ話は解決していないのだと、レイは忸怩とした思いを抱かずにはいられなかった。
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