第六十五話 リオ・ノーサイス
今回少し短め。タイトルは本編ご確認下さい!
レイがその仮面を着けた状態で警備隊に合流すると、警備隊の隊長らしき人物がレイに向かって敬礼をする。
「お初にお目に掛かります。リオ少佐。自分は王国軍王都警備隊所属、ガストン少尉であります。今回、当捜索隊の指揮を任されていますので、宜しくお願いします」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします。王国軍特務機関所属、リオ・ノーサイス少佐です。今回の捜索はあくまで補佐ですが、宜しくお願いします」
レイはそう言って、偽名を名乗る。ちなみにこのノーサイスと言う家名はノンフォーク家の傍流の血筋であり、公爵家との関係性を想起させるものである。そしてこの仮面もレイの正体を隠す目的があり、今回の任務の特異性を示すものでもある。
では何故、こんな事になっているかと言うと、話の発端は先日訪れたノンフォーク公との対談まで遡る。
◇
「成る程な、水精霊の加護による感知能力の拡大か。流石はクロイツェル。最早何でもありだな」
そう言ってノンフォーク公は自らの顎を扱き、褒めてるのか貶しているのかわからない様な事を言う。レイはそれに苦笑いで応じつつ、1つだけ懸念している事を言う。
「はっ、そこは先祖と精霊様に感謝をしております。ただ父からは、複数の加護持ちと言うのは、世間では畏怖の対象と成りかねないとの事で、水精霊の加護に関しては、口外しておりません。今回はセリアリス様の窮状ゆえ力を使いましたが、出来れば余り公にはしたく無いのですが」
レイとしては任務を受けるのは、セリアリスの事を考えると仕方がないと割り切れるが、それにより自分の力が広まるのは避けたい。なのでそこが目下の懸念材料だった。すると確認する様にノンフォーク公がレイに質問する。
「成る程の。ただ今回は水精霊の加護こそ必要だ。因みにその加護は、うちの娘以外に知るものは無いのか?」
「ここ王都では信頼できる友人と母方の親類のみでございます。勿論閣下はご存知でしたでしょうが」
レイはそう言って信頼できる人物以外、知らない旨を伝える。するとノンフォーク公はさも悪戯を思い付いたかの様に、ニヤリとする。
「ふむ、ならば別人となれば良い」
「はあ?」
レイは国軍最高権力者に対し、呆けた声を出す。ただそれは致し方ない。それ位突拍子もない事なのだ。するとノンフォーク公はニヤニヤを止めず、呆けたレイに説明をする。
「クククッ、何、そう難しい話ではない。そなたは風の精霊の加護持ちと風聞しているのだろう?なら水精霊の加護持ちという別人に成りすませば、バレる事は無いだろう。私としても秘密裏に動かせる人物がいるのは有り難い。なに、仮面でもつけて別名を名乗れば、そうそうわかるものでもあるまい」
確かに手段としては、意外にも悪い手では無いのは理解できる。理解は出来るのだが……。
「か、仮面ですか?」
「うむ、仮面だ。そうだな、仮面と軍服は私の方で用意しよう。それと名前だが……姓はノーサイスを名乗るが良い」
「ノーサイスですか?」
レイは最早言われるがままで、鸚鵡返ししか出来ない。一応はレイの意向を慮っての発言なので、拒否すら思い浮かばないのだ。
「そうだ、ノーサイスだ。ノーサイスは我がノンフォーク家の傍流の家名で現在は家名のみが残って、名乗るものがいない。謎多き人物が名乗るには丁度良いだろう。それにノンフォークに連なるものとわかれば、詮索する者もいない。名はレイ少佐に任せるが、如何する?」
ここまで来ると最早決定事項で有る。レイは仕方なく、最近耳にしたご先祖様の名前を挙げる事にする。
「うっ、ならばリオでお願いします。ご先祖様の名前を拝借させて頂きます」
「ならば、王国軍特務機関所属リオ・ノーサイス少佐だ。今回の任務に関しては、その名を名乗るが良い」
「因みにその特務機関というのは、実在するのでしょうか?」
「フフフッ、君の為に即興で作った。カッコいいだろう?」
ノンフォーク公は顔を痙攣らせるレイを見て、高らかに笑い声を上げるのだった。
◇
そんなやり取りを経て、このリオ・ノーサイスは誕生した。元はと言えば、自分の要望を受けての話である。なので、レイとしては受け入れざるを得ないのだが、道化を演じている様で正直居た堪れない。
『くそっ、暗殺組織のせいで余計な目にあったじゃ無いかっ。絶対に根絶やしにしてやるっ』
暗殺組織にしてみれば、完全に八つ当たりである。しかしこのレイのやる気が暗殺組織を震撼させるのに、そう時間は掛からなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
レイがリオとして暗殺組織の壊滅に勤しんでいる傍ら、まだその事実を知らないとある組織の構成員は、ロンスーシー公爵邸の1室で王立学院の教師アーネスト・フォン・ロンスーシーと密かな会談を行なっていた。
「これが貴様らが言っていた杖か?」
その訪問者は、ロンスーシー家の者に対しても傲岸不遜だ。ただアーネストはそれを咎める事もせずに、苦笑いだけを零す。
「ええ、これこそが王家の秘宝の1つの闇精霊を封じた杖ですよ。いつ何処で誰が封じたのかも分からない古代遺跡の産物です。今代では誰も扱うことの出来ない非常に危険な物です」
そう今、2人の前にあるこの杖こそ、先日の古代遺跡でアーネストが回収した杖である。ケースの中から滲み出る闇精霊の気配は、憤怒とも憎悪とも取れる気配を感じさせ、一目で禍禍しい気配を感じさせる。
「フンッ、これだから人間は度し難い。いっそ破壊して、精霊を解放してやればいいものを」
「いやいや、それは勘弁して下さい。こんなもの解放などしたら、王都がどんな目に合うか、分かったもんじゃ有りませんよ。それに貴方なら制御できると聞いて、今回危ない橋を渡ったんですから」
アーネストはとんでもない事を言い出すその訪問者に対し、慌てて口を挟む。この杖には言い伝えによると上位の闇精霊が封印されていると聞く。こんなものが世に解放されたら、どれだけの惨事になるか、計り知れないのだ。
「フンッ、分かっている。約束は守る。我らは人間とは違って、寛大だからな。ただしそちらが約束を守らなかった場合、如何なるか分かっているだろうな?」
「ええ勿論です。私共ロンスーシーの名に掛けて、お約束は果たしますよ。我らはあくまでビジネスパートナーですから」
アーネストはそう言って、嫌らしい笑みを浮かべる。そうこれは取引なのだ。ロンスーシがこの国で最大の権力を得る為の取引。当然、それに対しての対価は必要だが、それに関しては、さした手間は掛からない。
「ならば我らもその期待に応えようではないか。我らとて一族の宿願の為には、力が必要だ。その為の取引、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「勿論ですよ。此方こそ宜しくお願いしますね」
そう言ってアーネストはフード越しに見えるその肌と耳を見る。浅黒い肌に長い耳を持つ種族。人族の土地には珍しい風貌を持つその種族は、ダークエルフである。森の民エルフ族に追われ、闇を生業とする世界に身を沈めた流浪の一族。アーネストはとある神具を取引材料として、今回の計画を依頼している。そして後は舞台が始まるまで待つのみの状況だ。
『まあ新たな聖女の誕生は想定外でしたが、あそこまで衰弱した国王陛下が回復するのは無理でしょう。ここはもう遅かれ早かれ、となると後はやはりあそこの一族。セリアリス嬢の種も新たな聖女の誕生で無くなったと聞きますし、やはりあそこは一筋縄ではいきません。まあ流石に今回は逃れる術がないでしょうがね、クククッ』
アーネストは内心でそうほくそ笑むと、次なる舞台へと気持ちを馳せるのだった。
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