第六十四話 誕生会へのお誘い
ブックマーク1万件突破!
更新をそれだけ多くの方々に期待されていると思うと、凄く励みになります!
誤字脱字、文章に対する指摘など、非常に有難いです。作者の力不足で恐縮ですが、引き続きご指摘頂けると有り難いです。
また温かい感想も嬉しいです。レビューもあるともっと嬉しいです!
引き続き宜しくお願いします!
ユーリはここ最近のアレックスとアレスの誘いに、正直困惑をしていた。特にその誘いの頻度が上がったのが、古代遺跡から帰ってきた後からである。元々生徒会内ではそれなりのアプローチはあったのだが、あくまで生徒会メンバーとしての距離感が保たれたアプローチだった。ユーリとしても生徒会メンバーとしての責任感もあり、それをやんわりと受け入れていたのだが、ここ最近のアプローチはその距離感を一気に縮めるもので、だからこそ困惑するのだった。
『大体、夏休み期間中になんでこんなに会おうとするのかしら?』
今日も何故か、アレックスとアレスに呼び出された。表向きは生徒会の仕事をうたっている為、無下にもできない。実際に生徒会室に足を運んでみると、生徒会の仕事などそこそこに、何やら世間話に終始するのだ。ユーリとしては、この夏休み期間に神殿の仕事を多少なりとも手伝いたいと考えていたので、セリアリスの誘いを断って王都に残っているというのに、その活動にも些か支障が出てきている。
『せめて孤児院の手伝いには、もう少し参加したいのだけど』
ユーリにしてみれば、自分を育ててくれた孤児院に対し、少しでも恩返ししたい。だから積極的にその地域の慈善活動には力を尽くしてきたのだが、現状ではそれもままならない。ユーリは生徒会室の前まで着くと、一つ溜息を吐きながら、気持ちを切り替えてその中へと足を運ぶ。
「おはようございます。アレックス様、アレス様。あれ、今日はエリク様とエリカ様はいらっしゃらないのですか?」
「おお、ユーリか。うむ、おはよう。今日はエリクもエリカも家の方の仕事で不在だ。申し訳ないが、我ら3人で仕事をこなす事になる」
そう鷹揚にアレックスは答える。ユーリは内心で溜息を吐く。これで今日は恐らく生徒会の仕事どころではなくなるのだろう。ただ表面上は笑みを見せつつ、成る程と頷いて見せる。
「然様でございますか。エリカ様も加護持ちとなられた事で、色々お忙しいのかも知れませんね。エリク様は当然、エリカ様のお供でしょうし」
ユーリはそう言ってここ最近で発覚したエリカの話題を出す。エリカが至高神の加護を授かった事の話だ。ユーリとしては、この神の加護持ちという存在が、自分以外の人間にも授けられた事に喜びがあった。これまで加護持ちという事で実力以上の期待を背負ってきたのだ。その期待が、エリカの登場により多少なりとも軽減されるのであれば、非常に喜ばしいし、何より、以前より仲間意識を強く感じられるようになったのだ。するとその話に合わせるようにアレックスが、言ってくる。
「まあな。彼女のお蔭で王に巣食っていた呪いが払われたのだ。色々、各方面から話が来ているようだしな」
「すみません、本来であれば、私がもっと早く気が付ければ良かったのですが」
「なに、同じ加護持ちとはいえ、恩恵を授けた神が違うのだ。双方で不得意な分野を補い合えばよいのだ。気にすることは無い」
そう言って少し申し訳なさそうな顔をするユーリに対し、アレックスは優しい言葉を掛ける。確かにアレックスの言う通りで、同じ加護でも得意不得意は存在する。ただ、ユーリの実力がもっと付いていれば、もっと早く見つけられたのではとは思うのだ。だからこそそれが、ユーリの発奮材料となっている。
「勿論、そうなのですが。とは言え、不得意を不得意のままで置いておくわけにも行きません。そこはこれから精進して成長をしていかなければならないと思っております。すみません、話が脱線しましたね。それで、今日はどのような仕事をされるのでしょうか?」
ユーリは話が脱線しきる前に、本来の職務へと話を戻す。今日の目的はあくまで、生徒会の仕事。コミュニケーションを取るのも大事だが、それ以上にさっさと仕事を片付けて、神殿の方へと向かいたかった。
「ふむ、まあもう少しのんびりしてもいいとは思うが、ユーリは真面目だな。ただ、今日は生徒会の仕事とは別で、ユーリに少し頼みごとがあるのだ」
「生徒会の仕事ではなく、頼みごとですか?」
ユーリは小首を傾げて、アレックスを見る。アレックスに頼まれごとをされるようなものに、心当たりが全くないのだ。するとそんなユーリの様子を見て、アレックスが苦笑を漏らす。
「フフフッ、まあそんなに難しい話ではない。それに頼みごとは私からではない。頼むのはアレスからだ」
「アレス様ですか?」
するとユーリは益々困惑する。アレックス以上にアレスに頼まれごとをされるようなものに心当たりがないのだ。するとアレスがやや緊張した面持ちで、ユーリの前に立ち、話始める。
「うむ、ああ、ちなみにユーリ嬢はアレックスが今月末に誕生会を開くのを知っているか?」
「はい?誕生会ですか?私も昨年参加させて頂きましたので、存知あげておりますが?」
ユーリは話の流れが全く見えないまま、何とかそれには返答する。アレックスの誕生会、夏の終わりに毎年開催されるパーティーである。去年、貴族になりたての頃で初めて参加した社交の場だった。アレックスに養父と共に挨拶をした後、もっぱら壁の花となって、ただ煌びやかな社交の場を眺めていた記憶しかないが。
「うむ、その誕生会なのだが、今年も当然開催される。我々生徒会メンバーは、アレックスから招待を受ける事も決まっているのだが」
「はい、以前アレックス様からも、そのような事は伺っておりますが?」
ユーリはそこでなんとなく察しをつけるが、一旦はとぼけて判らないフリをする。出来れば、今年も壁の花で居たいと考えており、無駄な注目を避けたかった。ただアレスはそんなユーリの心情には目も向けず、ユーリの聞きたくなかった言葉を言ってくる。
「そのパーティーに私のパートナーとして参加してくれないだろうか?」
やっぱりだ、ユーリは内心でガックリとする。出来れば今年も養父と一緒にアナスタシア家の一人として参加したかったのだ。ただアレスに誘われ、そのパートナーとして参加すれば、ユーリ個人として注目を浴びてしまう。特にアレックスの誕生会であれば、上位貴族の方々が大勢参加する。王妃をはじめとした王族の方々も参加するだろう。そこで個人として目立つような参加の仕方は好ましくなかった。なのでさて、どうやって断ろうかとユーリが悩んでいると、アレックスからの横槍が入る。
「ユーリよ、アレスには残念ながら、パートナーとして連れて行けるような相手がいない。私は、セリアリス、エリクにはエリカがいるが、同じ生徒会として、アレスにはパートナーがいないというのは、少し残念でな。まあ、パートナーとはいえ、あくまで誕生会での話。同じ生徒会メンバー同士という事であれば、ヘンな風聞も立たないだろう。協力してはくれないか?」
ユーリはアレックスにそこまで言われると、逃げ道がなくなる。ユーリ自身、パートナーが決まっている訳ではないし、生徒会メンバー同士だ。そこでフッとレイの顔を思い出す。いや、駄目だ、早々レイにばかり迷惑をかけるわけにはいかない。レイには約束をしてくれただけでも十分に迷惑をかけているのだ。なので、ここは自分で何とかするしかないかと、ユーリは覚悟を決める。
「私などでもよろしいのでしょうか?私は所詮、元々は平民出の娘です。アレス様のお相手に相応しいかどうか、余り自信がないのですが?」
「何を言う。同じ生徒会メンバー、しかも君は慈母神の加護を受けし存在。本来であれば、私には勿体ないような存在だ。もし受けてくれるのであれば、私は精一杯君をエスコートしよう。なので受けてはくれないか?」
ユーリも最早、ここまで言われたら逃げられない。なので覚悟を決めて、笑顔を見せて返事をする。
「そこまでおっしゃっていただけて、光栄です。私で良ければ、喜んでお受けさせて頂きます」
するとアレスは喜んで、その手を取ってお礼を言う。
「うむ、ありがとう。当日が楽しみだ。精一杯エスコートさせて貰おう」
ユーリはそんなアレスを見ながら、内心でこの日何度目かの溜息を吐くのだった。
◇
そしてその数日後、ユーリは学院の構内で、偶然にもレイに出会う。
レイが学院に戻っている事は知っていたが、ユーリは生徒会と神殿の往復で中々ゆっくりできる時間も取れず、その日会ったのも偶々、生徒会に赴く際の校舎前で出会ったに過ぎない。ユーリは何やらレイが急いでいる様子だったので声を掛けるか迷うが、ただレイの恰好が軍服のそれで、初めて見る見慣れない恰好の為、思わず声が出てしまう。
「えっ、レイ、どうしたの?その恰好?」
「げっ、ユーリ?」
レイの珍しい動揺っぷりに、ユーリは思わず訝しく目を細める。
「ちょっと、流石にその反応はないんじゃないかしら?折角久しぶりに友人にあったというのに?」
「アハハ……、ごめん、ごめん。余りに偶然会って、驚いちゃってね。えーと、ユーリはこれから生徒会かい?」
レイはぎこちない表情でユーリを見て、なんだか白々しい会話を始める。ユーリは益々不信感を募らせるが、一旦はその話に応じる。
「むーっ、まあいいわ。そう、私はこれから生徒会。もう、夏休みなのになんだってこう頻繁に学院に来なくちゃいけないのよ。あっ、それよりレイ、その恰好は何?」
「えっ、いや、その、軍服だけど?」
ユーリもそれは見ればわかる。なぜ、レイがこの夏休みに軍服を着て出かけようとしているのかが知りたいのだ。
「それは見れば判るのだけど。何で軍服を着ているのかしら?」
「うっ、いや、一応軍の仕事でね。だからそこは機密事項という事なんだけど」
「じーっ」
ユーリはレイの挙動が明らかにおかしいので、その眼をじっと眺め、その真意を探ろうとする。ただレイはレイで、それ以上話すつもりは無いようで、苦笑いを浮かべつつも、それ以上は話そうとはしなかった。なのでユーリは大仰に溜息を吐くと、一つだけレイに確認する。
「レイ、危険な事はしてないのよね?」
レイはその言葉に目を丸くするが、直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべ首肯する。
「ああ、大丈夫。ユーリに心配をかけるような事はないよ」
するとユーリは少しだけ安心したのか、ふわりとした笑みを零す。結局、レイが何か危険な事に首を突っ込んでいないかが、心配になっただけなのだ。ただ今レイが返してくれた言葉には、真実と自信の双方が感じられるものだった。
「ならいいわ。今度、時間がある時にお茶をしましょう。私レイに聞いて貰いたい愚痴が一杯あるんだから」
「うん、有難う。今度時間がある時にお姫様のお相手をさせて頂くよ。じゃあ、またね」
レイはそう言って、その場から離れ、学校の校門の方へと歩いて行く。ユーリはその後ろ姿を見ながら、自分も踵を返し、校舎の中へと入って行った。
◇
レイは、校門を出て軍の警備隊との合流場所へ向かう途中、偶然会ったユーリの事を振り返る。
『いやー、まさかユーリに会うとは思わなかった。流石に校門の外で会ったらアウトだったけど、学院の構内で良かったよ。この格好を見られたら、なんて言われるか。ユーリとセリーには、絶対に会わない様にしないと』
レイがそう思うには理由がある。なぜならレイの姿には、ユーリと会った時の軍服の姿に何故かその顔の上半分を隠すような仮面が着けられていたからだった。
面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!
よろしくお願いします!




