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第六十二話 迷宮攻略⑦

迷宮編が思ったより長くなりました。

 レイはそのままのんびりとした足取りで、後方待機組の元へと向かう。既にメルテ達雑兵殲滅組も合流し、近衛騎士達も安堵の表情を浮かべている。レイは取り敢えずセリアリスの元に向かい今後の話し合いの段取りをまとめようと声をかける。


「セリー、ちょっと良い?」


 レイはセリアリスにだけ聞こえるような音量で声を掛ける。セリアリスも事態をどう収拾するかを考えている様で、素早くそれに応じる。


「うん、分かってる。此処は私に任せて頂戴」


 セリアリスは、キッパリとした口調で凛とした笑顔を見せると、そのまま生徒会メンバーの方へと足を向ける。レイもフォローが必要な場面に備えて、その後方について行くと、セリアリスが生徒会メンバーへと話しかける。


「取り敢えず皆さん、ご機嫌よう。まず何故皆さんがこの古代遺跡にいらっしゃるのか、経緯をお教え頂けないでしょうか?この古代遺跡は、父セアド・フォン・ノンフォークが管轄する国軍により、封印されていた筈なのですが?」


 セリアリスは機先を制すべく、シッカリとした口調で先程知ったばかりの事実をさも平然と述べる。対する生徒会側はその事実を知らず、軽く目を剥くと、今回の学院からの引率で有るアーネストへと目を向ける。アーネストはそれを不思議そうな表情で答える。


「軍の管轄ですか?初めて聞きました。私達学院側は、近衛騎士の方々が、新規で発見された遺跡だという事で、この遺跡の調査に乗り出したのですが?そうですよね?ミゲル隊長?」


 ミゲルもまたそれを受けて、同じように不思議な表情を見せる。


「はい、我々近衛も近隣の村人からの情報を元に捜査に乗り出しています。軍云々は確認を取っておりませんが、ここいらは王家直轄領の為、王妃様に裁可を頂き赴いております。わざわざ学院経由で王子殿下にご参加頂いたのも、王家直轄領の為なのですが」


 その話を聞いて、セリアリスは何と無く嫌なものを感じる。言っている事は事実で、確かに近衞としては正しい手順を踏んでいる。しかし、最初から軍を蔑ろにするような意図も感じるのだ。なので、セリアリスは一つ釘を刺す。


「成る程、皆さまが此処にいる理由は分かりました。この事はお父様にお話をして、軍としての見解を仰ぐ事にしましょう」


 セリアリスとしては、これが精一杯だろうと思う。なのでこの話はそれで終わらせ、再び生徒会メンバーへと目を向ける。すると今度は生徒会メンバー側のアレックスから声が上がる。


「ふむ、まあこちらの状況は至って公にされたものだが、そもそもセリアリス、何故お前が此処にいる?お前は自領へと帰ったのでは無かったのか?」


 ただセリアリスにしてみればそれは想定範囲内の質問だ。なので慌てる事もなく、粛々と返答する。


「はい、確かに一度は自領へと戻りました。お陰さまで体調も良くなったので、旅の同行をしていたメルテさん達にお願いをして、この常闇の森に居を構える大魔道スザリン様の元へと足を運んだのです。そしたら、森を揺るがすような大きな地震。それでこの遺跡の封印が解かれたのだと察して、様子を見に参りました」


 するとやや不満げな表情でアレックスはレイを見て、セリアリスに冷たく言う。


「フンッ、まあそれは良かろう。ただ此処に何故その男がいる?そなたとその男にはさした接点もなかろう?」


 するとセリアリスは口元を押さえて、クスクスと笑い出す。


「すみません、アレックス様は何か勘違いをされている様ですが、レイ様は私の同行者ではございません。元々メルテさんと同行のお約束をしていたのですよ。そのメルテさんを私が向かう方向が一緒だからとお誘いしたのです。勿論、この道中、お話しする機会もありましたが、お気になさるような事は何もありませんよ?」


 アレックスは余りにも堂々としているセリアリスに二の句が継げなくなる。確かにメルテとレイはDクラス同士で、新入生歓迎会パーティーの時も平然とメルテの怒りを宥めていた位の関係だ。その2人の関係はそれはそれで気になるが、現状、攻略の可能性の低い相手でもある。アレックスとしては、より攻略の可能性の高いセリアリスを優先するべきで、その発言が後ろめたさのないものだったので、内心少しホッとする。


「うっ、うん……、まあその件は良いだろう。それよりもそちらの女性が、あのスザリンなのか?」


「はい、メルテさんの師匠でもあります大魔導スザリン様ですわ」


 アレックスが露骨に話を逸らすのをセリアリスは気にも止めず、素直にスザリンを紹介する。逆にスザリンは嫌そうな顔を隠しもせずに、素っ気なく挨拶をする。


「ああ……、私がスザリンだ。ああ、此処の遺跡の管理をノンフォーク公から任されている。正直、お前らが此処にいるのは迷惑だから、さっさと出て行ってくれ」


 するとその露骨な言い回しに周囲が剣呑とするが、アレックスはそれを手で制し、丁寧な挨拶をする。


「これは大魔導スザリン殿、この度はご迷惑をお掛けしました。また危うい所を助けて頂きありがとうございます。我々も今回は己らの実力不足を痛感いたしました。これより王都へ戻り、研鑽を積んで参ります」


「チッ、まあ帰るって言うならこれ以上の文句は言わないよ」


 そう言ってスザリンはその場から離れてしまう。そしてお互いの間に気不味い空気が流れたところで、セリアリスの元にユーリがやってくる。


「セリー、体の具合はもう大丈夫なの?あれ?確かにもう大丈夫そう?うん、それは良かったんだけど……」


 ユーリはセリアリスを見て何か違和感めいたものを感じたのだが、それを上手く言語化出来ない。そんなユーリをセリアリスは可笑しそうにクスクス笑う。


「体はもうすっかり大丈夫ですよ、ユーリ。心配してくれてありがとう。それより慣れない遺跡探索で疲れているのでは無くて?」


「フフフッ、なんかセリーの元気な顔を見たら疲れてるのもどっか行っちゃったわ」


 そう言って心の底から楽しそうな笑顔をユーリは見せる。するとそこにテクテクとメルテが近付いてくる。


「セリアリス、これ拾ったからあげる。結構な業物?っぽい感じ」


「あら、これは剣ね?でも私も普段は使わないわ。これどうしましょう?」


「なっ、その剣は?」


 そう言ってアレックスはその剣を見て、目を見開く。そうそれはアレス強化用に探していたレアアイテムだ。ボスモンスターのドロップ品であったのだろう。うっかり探すのを後回しにしていたのだった。セリアリスは、驚くアレックスを見て不思議そうな表情を浮かべる。


「あら?アレックス様はこの剣の事をご存知なのですか?」


 アレックスはギクリとするが、表面上はなんとか取り繕う。此処で前世の知識をひけらかす訳にはいかない。


「うっ……いや、知らない剣だが、中々に見事な剣なのでついな。その剣をセリアリスは如何するのだ?」


「はぁ……、取り敢えずは軍にでも預けようかと思うのですが?此処が軍の管轄でそこで見つかった剣と言うので有れば、それが妥当かと?」


 セリアリスは一瞬、この剣をアレックスが欲しいのではと思ったが、この遺跡が軍の判断として封印すべきと考えていたので、何かしらのリスクがある剣なのかもと心配したのだ。ただアレックスにしてみれば、そんな配慮は有り難くない。苦労して攻略したのに、収穫なしは不満なのだ。なので、何とかその剣を確保しようと試みる。


「ふむ、ならばその剣、私が預かろう。我らはこれから王都へ戻る。しからば私から軍へ口利きをした方が早いだろう」


 セリアリスはそこで少し悩む。やはりアレックスはこの剣を欲しいようだ。ただ今回の彼らの行動を踏まえると、そのまま引き渡して良いものかと悩むのだ。するとレイが気を利かせてセリアリスのフォローをしてくれる。


「恐れながら、宜しいでしょうか?私はこの後、ノンフォーク公爵夫人からのご依頼でノンフォーク閣下にお会いする機会がございます。その際に剣の方はお引き渡しすることも可能です。流石にアレックス様に荷物運びの様な事はさせられません。私で良ければ、責任を持ってお届けしますが、如何でしょうか?」


「何?何故お前がノンフォーク公と会うのだ?夫人の依頼とは如何言う事だ?」


 アレックスは完全な横槍にイラッとした表情でレイを問い詰める。レイはそこまでご執心になる理由を不思議に思いながらも冷静に対応する。


「はっ、私はこう見えて現在予備役ながら、軍属で少佐の階級を持っております。ノンフォーク公爵夫人はその事をご存知でしたので、私に手紙を運ぶご依頼をされたのでしょう。こちらが公爵夫人よりのお手紙です」


 レイはそう言って、カエラからの手紙をアレックスへと見せる。確かにノンフォーク公爵家の家紋が入った封蝋である。そうなるとアレックスとしては、それ以上の追求は難しい。彼は軍人としてその職責を果たすと言っているに過ぎないのだ。むしろレイが言った様に王子自らが荷物運びを所望する方が不自然なのだ。


「フンッ、ならばその方が責任を持ってその任を果たすが良い。確かに私の手間も省けるのでな」


「はっ、承知しました。責任を持ってその任、承ります」


レイが軍属の礼を以ってアレックスに敬礼すると、アレックスはその場からスタスタと立ち去ってしまう。レイはその姿を目で追いながらも、セリアリスにだけ聞こえる様にそっと声を掛ける。


「セリー、あれで良かった?一応は正論で通しちゃったけど?」


 するとセリアリスも小首を傾げ、同じように言葉を返す。


「ええ、対応は間違って無いけど、何でそこまでこの剣に固執するのかがわかりません?」


 アレックスの思惑が理解出来ないセリアリスとレイは、顔を見合わせて頭を捻るのだった。



 そんなやり取りを外野で見守っていたエリカは、その場を離れていったアレックスを見て、レイ達と同じ様に頭を捻っていた。


『セリアリス様、あれ?呪いが無くなってる!?あれ、変ね?まあでもある事なのかしら?それにアレックス様、私はあの剣がレアなアイテムだと分かってるから勿体無いとは思うけど、何であんなに固執するのかしら?まるでレアアイテムだってわかっているみたい。まさか、いや、有り得ないわね。もしそうなら立ち回り悪過ぎるもの』


 エリカは一瞬、アレックスが自分と同じ転生者ではないか、と疑うが直ぐその考えを否定する。自分と同じ転生者なら、人間関係の構築が下手過ぎるのだ。するとそんな事を考えているエリカの元にエリクが心配そうに声を掛ける。


「エリカ、如何した?何か気になる事があるのか?」


「ええ、実は……」


 エリカはそれを受けて、転生云々は伏せた形で、疑問に思った事とセリアリスの呪いの件を話す。するとエリクは何でもない事の様に淡々と答える。


「ああ、アレックスのあれは、要は遺跡にまで来たのに、何の収穫もなしは惜しいと思ったのだろう。まあ、俺も少なからずそう言う気持ちがあるから、分からないでもないな。それよりセリアリスの方が気になるが、まあこれも悪い話ではないから、良いと言えば良いが」


 エリカもその説明で一応は納得をする。まあ王子なのだから、そんなに功を惜しまなくてもとは思うが、そこは男子と女子の捉え方なのだろう。


「成る程、セリアリス様の呪いは、まだまだ小さいものでしたから、独力で払拭なされたのかも知れません。アレックス様の件は納得しましたわ。流石はお兄様ですね」


 エリカはそう言って、親しみの篭った笑みを向ける。エリクもそれに微笑で返すと、別のところに目を向けて渋い表情を見せる。


「まあ、お世辞はその辺にしてくれ。それよりもあっちの方が問題かも知れんぞ」


「あちらですか?……まぁ、確かに」


 エリクが向けた視線の先にはアレスがいる。アレスの目はセリアリスとユーリ、そしてレイが談笑する場に注がれており、その表情には不満の色がありありと見てとれるのであった。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >>するとセリアリスは口元を押さえて、クスクスと笑い出す。 何か感じ悪いと思う。一応婚約者なんですよね? 相手の嫉妬ぐらいの機微なら分かりそうなものだが…。 というか普通に婚約者の傍…
[一言] いまさらだけど次期王候補が自治領みたいな領主の息子知らないってやばいよな
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