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第六十一話 迷宮攻略⑥

次回で迷宮編も終わり予定。思ったより話数がかかりました。

 レイはオーガの方へ走り寄る途中、まず先に青のオーガに目を付ける。今はアレスが相対しており、五分の戦いを演じている。


『さてどうやって相手を叩き潰すかなぁ』


青いオーガは既に片腕、その腕力を武器にアレスに決定的な打撃を出させないようにしている。であれば、その腕を封じれば、アレスでも片付けられるかと冷静に判断する。


「アレス様、助太刀しますっ」


 突然現れたレイの姿にアレスは明らかに驚愕の表情を浮かべるが、レイは一旦それを無視し、細かい説明は一切省いてシンプルにそう大声をだすと、すぐさまシルフィに頼みごとをする。


『シルフィ、あの腕が動かないように抑えつけて』


 するとシルフィからはいつものように楽しげな感情が流れ込み、オーガの腕周りに渦巻状の風が巻き起こる。オーガはそれを力任せに振り払おうとするが、その風に腕が押し返され、唯一の攻撃手段が封じられる。


「はぁぁぁ……」


 気合の掛け声と共にアレスがその剣を一閃。アレスはレイが作った一瞬の隙を逃さず、見事もう一つの腕を根元から切り飛ばす。腕を飛ばされたオーガは絶叫を上げのたうち回るが、レイはそこまで目で追った後、その場はそのまま素通りし、アレックスが相対する赤いオーガの方へと走り続ける。これで目先問題となるのは、赤いオーガだけ。アレックスは既に黄金色の光も収束し、完全に防戦一方の状況となっており、且つ疲労の色も強い。


「アレックス様、ここは私が引き受けます。どうぞ後方へ御下がり下さいっ」


「はっ?お、お前は確かレイ・クロイツェル!?」


「細かいお話は後で、今、大魔導スザリンがこの魔物を倒す魔法を準備しています。ですので、一旦私が時間を稼ぎますので、アレックス様はアレス様と共に後方へ御下がり下さい」


 アレックスは状況判断が追い付いていないのか、呆然とその場に立ち尽くしている。ただレイは赤いオーガを牽制しつつ、少し強めの声をだしアレックスに指示を出す。その声で少し気を取り直したアレックスは、慌ててその場を後にしようとした時に、赤いオーガが逃がさないとばかりに、その背に背負っていた大剣で攻撃をしようと振り下ろす。


「させないよ。お前の相手は俺だっ」


 レイはアレックスとオーガの間に割り込むと、その手を掲げオーガの周りに竜巻を引き起こす。オーガは引き起こされた竜巻により一瞬その剣を押し返されそうになるが、更に力を込めてその竜巻を切り裂いた。


ドガァァンッ


 オーガによって振り下ろされた剣は、さっきまでいた筈のレイやアレックスの立っていた場所に叩きつけられ、地響きと共に土煙が巻き起こる。


「へぇ、凄い馬鹿力だなぁ。あっ、アレックス様、今の内に後方へ御下がり下さい。アレス様、アレックス様をお願いします」


 レイは振り下ろされた剣より数メートル後方に、アレックスに肩を貸しながら逃げている。シルフィのお蔭でその位の余裕があったのだ。まだ状況の理解できないアレックスは、何か言いたげな表情でレイを見つめるが、青いオーガを倒し切り、近くまで来ていたアレスがその肩を支えると、レイに一つだけ質問する。


「レイ・クロイツェル、アレを倒せるのか?」


「いえ、私では倒せません。なので倒すのはスザリンがします。私は時間を稼ぐだけですよ」


 レイは気負う事も無く、平常運転で飄々と言う。アレックスはそれを聞いて目を剥くと、後方に視線を移し納得する。膨大な魔力の気配が後方に集まって行くのが確認できたからだ。


「うむ、ならここは任せる」


 レイはそこで少しだけ感心する。アレックスが意外にも冷静に判断を下したからだ。正直、納得も理解もしていないだろう。でも判断は間違っておらず、なのでレイも笑顔でそれに答える。


「承りました。なら精々時間を稼ぐとしましょう」


 レイはそう言うと、意識を赤いオーガに集中し、静かにその剣を赤いオーガへと向けた。



 後方ではメルテとセリアリス、それにエリクとアーネストも加わり、雑兵の殲滅戦が開始された。と言っても後方より魔法をぶっ放すだけである。ただそれまでは2つの砲門しかなかったのが、その数が倍になり、しかもその威力さえも数倍強力になったのだ。特に圧倒的だったのが、メルテの魔法だ。メルテはとにかく威力が凄い。その一つの魔法の着弾で、必ず2体は殲滅され、他に数体も必ずダメージを与える。近衛騎士は弱った敵を仕留めにかかればいいだけで、確実にその数が減っていく。もう一方のセリアリスは、雷魔法を駆使する。その雷撃は、威力こそメルテに劣るが、手数はメルテ以上でその雷撃を食らう魔物は、短い間だが行動不能に陥る。そこを近くにいる近衛騎士達が、止めを差しに行く。やはりこちらも雑兵を確実に削っていき、気付けばエリクもアーネストもその魔法を放つ手を止め、呆然と眺めていた。


「はは……、やはり火力というのは、重要ですね。それに精度も」


そう呆れたように零すのはエリク。エリクの自己評価はあくまで器用貧乏。剣にしろ魔法にしろ、そこそこの実力はある。ただ属性の兼ね合いもあり、威力という部分においては力不足の感は否めない。だからこそその最大の武器を知略に定め、その点においてはアレックス以上に磨いてきたのだ。ただそれは戦場において、絶大な効果を発揮するものではない。大規模な戦場であればまた別だが、こと魔物に対し有益なものでは無い。だから呆れると同時に、警戒の色も滲ませるのだ。


『セリアリスは兎も角、メルテ・スザリンのあの魔法は脅威だな。クラス別対抗戦では、星を一つ渡す事も想定しないといけないかもな』


 クラス別対抗戦は、毎年秋に行われる学年代表を決める各学年4クラスによるトーナメント戦。各クラス代表者3名が選出され、その武勇を競う大会である。これは現状の戦力でいえばAクラスが圧倒的と思われているが、Dクラスも案外侮れない。Dクラスには王族のジーク、風精霊の加護を持つレイ・クロイツェル、それにメルテまでいる。アレックスとジークであれば、アレックスの方が能力が上だろう。レイとアレスをあてても剣技でいえば、アレスが勝る。となるとメルテが唯一クラス内で対抗しうる存在がいない。自分かセリアリスか、どちらかが対戦相手となるが、どちらにしても荷が重い気がする。


『まあそこまで先の事を考えても仕方がないか』


 エリクはそう考えを切り替えて、再びメルテ達の方を見る。気が付けば残り数体といったところまで、雑兵は数を減らし、やはり火力というのは重要だなと只々感心するのだった。



「アレックス様、お身体は大丈夫ですか?」


 アレスに肩を貸され後方に下がってきたアレックスはユーリとエリカの出迎えを受ける。本当ならば、自分がすべてを終わらせてこの出迎えを受けたかった。ただ劣勢の中、自分が思った以上に動けた事に満足も覚えていたので、2人の出迎えには自然と笑みが零れる。


「ふむ、多少疲れは残るがまあ怪我がある訳ではないので、大丈夫だ。それより2人は大丈夫か?」


「はい、ご心配いただき有難うございます。私はアレス様や勿論、アレックス様や近衛騎士の方々のお蔭で大事なく過ごせております」


 まずユーリがそう言って、可憐な笑みを綻ばせる。続くエリカも同様に笑みを浮かべながら、アレックスに感謝する。


「私も同じでございます。アレックス様の獅子奮迅のご活躍のお蔭で、危険はありませんでした。有難うございます」


「フッ、まあ無事なら僥倖。それよりも、何故、あ奴らが?何がどうなってる?」


 アレックスは当然の様に気になっている疑問を2人にぶつける。ただ2人とも少し困った顔で互いに首を傾げる。


「今は戦闘中という事もあり、細かいお話はできておりません。ただ正直助けられたのは間違いないかと」


「ふむ、まあ致し方ないか。後は赤いオーガさえ何とかなればなのだが……」


 そう言ってアレックスも仕方がないという表情で、目線を赤いオーガへと向ける。そこにはオーガの攻撃をまるで舞うかのようにヒラヒラと躱すレイ・クロイツェルがいる。どういう原理かは判らないが、オーガが大剣を振るう度にファッと浮き上がると、その剣はレイを捉えることなく通り過ぎる。レイ自身も攻撃は時折繰り出すが、オーガの強靭な肉体に対し薄皮一枚傷つけるのがやっとの状態だった。


『あの軽業はスゲーけど、攻撃力は大したことないな。ムッ、ユーリがなんだか嬉しげに見てるじゃねーか。チッ、本当なら俺があの視線を釘づけにするつもりだったのにっ』


 アレックスは表面上は冷静さを見せながらも、内心少しムッとする。それはそうだろう。本来『スキルブースト』を使えば、あの赤いオーガと言えども倒せない相手では無かった。あのタイミングで出した事はそう悪い判断では無かったと自分では思っているが、せめてアレスの到着がもっと早ければ相手の数的有利を覆せていた筈なので、そこでチラッと恨みがましい目をアレスに向ける。するとアレスもアレックスと同様の内心なのか、レイに向けて愛らしい表情を見せるユーリを見て、悔しげな表情を見せている。


『いやアレス、お前がもう少し柔軟な判断ができていれば、お前も俺もその表情を向けられる側だったんだけど?』


 アレックスは思わず内心でアレスに突っ込みを入れつつ、この後のユーリへの好感度アップをどうするかを悩み始めた。



 一方の赤いオーガと対峙しているレイはというと、そこまで余裕綽々という訳ではない。その赤いオーガはそのスピードもパワーも圧倒的であり、油断して掠りでもしたら、軽く肉が抉れるくらいの威力がある。なので細心の注意を払いつつ、その赤いオーガを挑発し続ける。


『うーん、割に合わないな。そもそも俺、なんでこんな事をしているんだろう?』


 レイは冷静に敵の攻撃に対応しつつも、少しばかり不満げな表情を見せる。自分の最終的な目標はクロイツェルでいい領主になる事だ。勿論、冒険は楽しいし、祖先の血なのか、こういった遺跡に来るとワクワクする。ただその中でも優先順位は存在し、危険を冒す必要がある場面とない場面が存在する。今で言えば、ユーリが居なければそこまでの危険を冒す理由は無かった。


『いや本当、ユーリって巻き込まれ体質だよね』


 さっきの投擲も間一髪だった。確実にレイでなければ間に合わなかっただろう。そもそも初めての出会いが、誘拐直前なのだ。フラガの時の模擬戦といい巻き込まれ過ぎなのだ。ただレイはそれにも何かしらの意図が働いているのではと、勘ぐっている。慈母神であるデメルテの加護、この神の恩恵に何かしらの意図があり、彼女に対し窮状に導く試練を与えているのではと感じるのだ。ただ本当の試練はまだ先。その時にレイが傍に居るかは分からないが、いる時くらいは、彼女の友人としてやはり多少の危険は仕方がないかと溜息を吐く。


 そんな事をオーガの攻撃をいなしつつ考えていると、シルフィ達と同様、直接頭に声が届く。


『我ガ契約者ヨリ、準備ガデキタノデ退避シロトノ伝言ダ』


 声の主は、スザリンの契約精霊イフリートだろう。野太い重厚感を感じさせる声である。レイはそれを聞いてシルフィに声を掛ける。


『シルフィ、少しの間だけでいいから、アイツの動きを封じてくれ』


『フフフッ、グルグルスル、グルグルスル』


 やはり楽しげな声音がシルフィから返ってくる。レイはグルグルに巻き込まれないように後方へ大きく離れると、一瞬のタイミングでオーガの周囲に竜巻が起こり、その行動が拘束される。


 すると後方にいたスザリンが詠唱を終え、上空に魔法陣を展開させる。


「極炎魔法『エクスプロージョン』」


 魔法陣から創出された強大な火球が、リンゴ程度のサイズに凝縮されると赤いオーガに向けて放たれる。そしてその凝縮された火球がシルフィの拘束で動けなくなった赤いオーガの胸に着弾すると、真っ白い光が広がった後、大音響が響き渡る。


ピカッ……ドガガガガガ……ッ


 そして程なくして音と白煙が収まると、そこには胸にポッカリと穴をあけた赤いオーガの姿が現れる。本当に一撃で変異種である赤いオーガを屠った魔法に、レイは思わず苦笑いをしつつ、「さてさてむしろこの後の方が大変か?」などと思いつつ、のんびり後方へと歩き始めた。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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