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第六十話 迷宮攻略⑤

迷宮編もそろそろ佳境ですね。

 アレスはどう動くべきか迷っていた。今はユーリの傍で彼女を守る事に専念している。さっきは危機一髪で魔物を退けたが、またあのような事があると不味い。彼女は今、治療に専念しており無防備な為、迂闊に目を離せないのだ。ただそれ以上に戦況が不味い。アレックスが今オーガと交戦しているが、本来であれば、自分もそこに行ってアレックスのフォローをするべきなのだろうが、この場も離れられない。


 アレスがそんな事を考えている間にも戦況は刻一刻と変化している。近衛騎士はアレックスに余計な敵が行かないよう、雑兵を抑えるのに手一杯だ。そうなると手が空いているのは自分かエリクか。エリクはエリクで同じく治療をするエリカに付いている。とは言え、後方まで漏れ出る雑兵は余りいない為、時折支援魔法で援護をしていたりもする。ユーリも合わせて護衛する事も恐らく可能だろうが、エリカよりは優先順位が下がるだろうと、その事が不安なのだ。


『どうする?どうする?』


 動かなければいけないのに、動けない。自問自答を繰り返すアレスにエリクの叱咤が飛ぶ。


「アレスッ、何やってるんだっ?ここにお前がいる必要はないっ、さっさとアレックスをフォローしろっ。『スキルブースト』も時間制限があるんだぞっ」


「し、しかしユーリの守りが……」


「ここは俺とアーネスト先生もいるんだっ、どっちの方が戦力不足か、見ればわかるだろうっ、さっさと行けっ」


「クッ」


 エリクの檄を聞いて、アレスは苦悶の表情を浮かべる。エリクの指摘は正しい。アレスはそう分別するだけの理性はあったが、感情がユーリの傍に居たいと言って聞かないのだ。そしてフッとユーリを見ると、彼女も真摯な目でアレスを見つめて、アレスに言う。


「アレス様、ここはもう治療も終わります。もう守ってもらう必要はありませんので、存分にお力を発揮下さい」


「うむ、わかったっ」


 ユーリにそう言われて漸く踏ん切りのついたアレスは、内心で気合を入れなおすと、真っ直ぐにアレックスの元へと走りだした。



 アレックスは2体の青いオーガと対峙しつつ、時折赤のオーガからの投擲に、ジリジリと時間を削られて焦っていた。


『クッ、何とか青を先に潰したいけど、時々くる投擲が厄介すぎるっ』


 青と一対一であれば、投擲ありでも倒し切る自信があったが、2体同時の波状攻撃に時折強烈な投擲である。とどめの一撃とばかりに攻撃を繰り出そうというタイミングを見計らったようにそれが飛んできて、決め手を繰り出せないでいた。


『せめて一体を誰かが受け持ってくれたら』


 今のアレックスに周囲を気にしている余裕はない。そう願ってはいても、誰に余裕があるかさえ分からないのだ。ただそんなアレックスの窮状に聞きなれた声が届く。


「アレックス、片腕は俺に任せろっ」


「遅いぞっ、アレス!」


 漸く来た援軍。聞きなれた友人の声である。アレックスはアレスに目を向ける事も無く、口端を少し上げニヤリとする。アレスもまた獰猛な笑みを浮かべると片腕のオーガに切り込んでいく。アレックスはもう一体のオーガに集中し、一気にその差を詰め寄ると直前で跳躍する。


「チェックメイトだーっ」


 アレックスはそう叫びながらその剣を振りおろし、脳天から一直線にオーガの体を真っ二つにする。


「良しっ」


 一体はアレスが引きつけている。残り最後の一体、オーガの変異種だけなんとかすればとアレックスが視線を向けると、赤いオーガの変異種は、やはりアレックス達を小馬鹿にするような笑みを口端に浮かべて、その棍棒を投擲する。


「なっ」


 思わず身構えようとアレックスはするが、棍棒はアレックスやアレスに向けて放たれたものでは無かった。その棍棒は一直線に後方へと向かう。その棍棒の狙った先はユーリだった。



 ユーリは治療を終え、負傷者を肩に担ぎながらエリカ達の方へと向かう為、立ち上がった所だった。今、アレックス達がオーガとの交戦をしており、アレスが向こうへ行ったことで、戦況は大分有利な方向に傾きつつあるようだった。


『負傷者はいるけど、命は繋ぎ止められたしこれで何とかなるのかしら?』


 戦場においてユーリには治癒以外で大きな貢献はできていない。支援魔法は一度かければ暫くは効果も続く為、その後の貢献度は決して高くないと思っている。彼女自身がもう少し戦闘力をつけられるようになれればいいのだが、こればかりは一朝一夕にはいかない。


『もっと強力な魔法が使えるようになればいいのだけど』


 ユーリは少し立ち尽くしそんな事を考えていると、遠い先にいる赤いオーガと何故か目が合った気がして、その瞬間背筋に悪寒が走る。


「えっ、何?」


 思わず意味が判らず零れ出た言葉。その言葉を発した瞬間、オーガが棍棒を投擲した。その動作は理解できる。ただ体は全く反応しない。ユーリはただ茫然と目だけ見開いていると、突然目の前で突風が吹き荒れる。


 ゴオォォォォォ―ッ…………、カランッカランッ


 吹き荒れた突風の壁にその投擲された棍棒が巻き上げられ、音を立てて床に転がる。


「なんかユーリって、いつも危ない目に合っている気がするなぁ」


 それはユーリにとって聞き慣れた声である。優しい気持ちにさせてくれる暖かい声。突然の死の恐怖すら忘れてしまう平常運転の声である。ユーリは恐る恐る声の聞こえた方に振り返ると、やはり彼女が信頼する友人がそこにいた。


「へっ、レイ?……えっセリーも?……はぁ?メ、メルテさんまで!?」


「やあ、ユーリ。なんだか良いんだか悪いんだかのタイミングだったみたいだね。って、これってどう言う状況?ん?あれって……アレックス様!?遺跡荒らしがアレックス様ってどういう事?」


 ユーリもレイもお互いがお互いの状況を理解できず、双方がクエスチョンマークを頭に浮かべて、会話が全くの並行線を辿る。するとそんなユーリ達の元に、他の生徒会メンバーとアーネストが近付いてくる。そしてまず一番最初にエリカがユーリの心配をする。


「ユー、ユーリ様、御怪我は大丈夫ですか?」


「あ、え、はい。体は大丈夫です。多分レイが風の魔法で護ってくれたみたいなので」


 ユーリがそう言ってエリカに笑顔を見せると、エリカの後ろにいたエリクがレイ達に話かける。


「君はクロイツェルか、っとそれにセリアリス嬢に、メルテ嬢か?君たちは一体どうしてここに?というかセリアリス嬢の体は大丈夫なのか?」


「えーと、話せば色々長くなりそうなのですが、今はそれどころでは無いのでは?」


 レイは状況を冷静に俯瞰して、一旦回答を保留にする。まあ別に積極的に助ける必要はないのだが、なぜかユーリもいるので、そう邪険にもできない。状況的にはこの階層の主っぽいあの赤いオーガをどうにかする方が、先だろうと既にあたりをつけていた。


「ええ、そうですわ、お兄様。今はこの戦闘を終わらせる方が先です。取り急ぎ援軍が来たとだけ思っていればいいでしょう。えっと、レイ様、セリアリス様、援軍という事で宜しかったですよね」


「ええ、そうですね。同じ学院の学友ですから。あっ、ただ援軍という事であれば、僕らよりもそれに相応しい方がいますけどね。ああご紹介します。こちらがメルテの師匠で大魔導スザリンさんです」


 そう言って飄々とスザリンを紹介するレイに嫌な顔をするスザリンだが、無愛想ながら一応は名前を名乗る。


「レイ、勝手に援軍にするなっ、チッ、まあ、しゃあねぇえか。ああ私がスザリンだ。世間では大魔導とか大層な通り名をつけられているがな。っと、ほら、お前らの連れ、そろそろヤバイんじゃねーか?ん?ありゃ、『スキルブースト』か?ああそろそろ切れかかってんのか?そうするとあの赤い奴は抑えられねーんじゃねぇか?」


 スザリンがさもどうでもいいがといった雰囲気で、そう指摘をする。確かに何やらアレックスを包んでいた黄金色の光が弱まっていて、アレックス自体も苦悶の表情を見せ始める。レイはそこでスザリンに向き直り質問する。


「スザリンさん、あの赤い奴仕留められる魔法あります?」


「ん?まあ、あるっちゃあるが、少し時間がかかるぞ?」


「ああなら、それまでは俺が時間を繋ぐので、そいつで一思いにやっちゃって下さい」


「クククッ、ああそういう事か。なんか懐かしいなぁ。そういう役割分担。リオの奴とも良くしたなぁ、ま、じゃあそれでいくか」


 そう言ってスザリンは嬉しそうに気軽に乗ってくる。レイは一つ笑みを零してエリカとエリクに話しかける。


「取りあえず段取りも決まったんで、そういう形で処理してきます。あっ、メルテとセリアリス様は、向こうの雑兵の相手をして下さい。」


 メルテは目を輝かせニッコリとした笑顔で頷き、セリアリスは愛称で呼ばれなかった事に少し不満げな表情になるが、それでも首は縦に振る。そんなレイ達にエリクが少し慌てたように言う。


「おっおい、クロイツェル?本当に大丈夫なのか?あの赤いオーガは変異種だぞっ?生半可な実力じゃ吹っ飛ばされるのがおちだぞっ」


「ハハッ、まあ倒せと言われれば逃げるかも知れませんが、時間を稼ぐ位なら何とかなると思いますよ。ほら、今は五体満足ですし、それに俺は風の精霊の加護を持っていますから。風は踊るんですよ」


 そう言ってレイは苦笑しつつも、軽い調子でエリクに言う。別に倒せと言われれば倒す方法も思いつくが、そこまで派手に実力を見せる必要もない。躱すだけなら、案外軽装の身軽な人間ならできそうなものなので、その位なら見せてもいいだろうと考える。


 そして最後に再びスザリンと目を合わせ頷き合い、ユーリやセリアリス、メルテに対し優しく笑みを浮かべた後、レイは赤いオーガに向けて走り出した。


面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] おいしい所は、主人公が、全てかっさらう(笑)最高でした。
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