第五十九話 迷宮攻略④
アレックスも偶にはチートっぽい所を見せないと、転生者らしくないので、今回は頑張ってもらいました。
扉を開けて中に入るとそこはドーム状の広大なスペースだった。近衛騎士を先頭に、アレックス達はその後方で、中の様子を伺う。
「なんだ、こりゃぁ……」
近衛騎士の誰かがそう零す。部屋の奥にには身の丈3メートルはあろうかという赤黒い魔物とその前にはその魔物よりは一回りは小さいが、それでも筋骨隆々とした青黒い2体の魔物。そして、何よりゴブリン、オーク、コボルドといった個体が50体はその場で待ち構えていた。
「オーガ!?そ、それも変異種まで……」
そう零したのは近衛騎士の隊長ミゲルである。恐らく最奥にいる赤黒い個体がオーガの変異種なのだろう。アレックスはそう判断すると、周囲の者たちに凛とした声を出す。
「気後れするなっ、ゴブリン達は所詮雑魚だっ。奥にいるオーガさえ注意すれば、十分対処できる。ユーリ、エリカは支援魔法、エリクとアーネスト先生は攻撃魔法をお願いします。騎士隊とアレスは、我に続けっ」
「「「おうっ」」」
アレックスの檄に答えるようにその剣と盾を掲げ、近衛騎士達は前に踏込む。すると全員が淡い光に包まれるとその力が漲ってくる。ユーリとエリカの支援魔法だ。そしてアーネストとエリクの水属性魔法とアーネストの光属性魔法が敵の先陣に炸裂したところで、前衛陣が突入を図る。
◇
アレックスはまず確実に屠れるゴブリンやオーク達の群れへと切り込む。対峙した個体と数合切り結ぶと、対する個体はその場で息絶える。周囲も同じように数体の魔物を倒しているが、そこに火球が飛んできて、慌ててその盾を構えて難を逃れようとするが間に合わず、着弾してしまう。
「ぐわぁっ」
アレックスは倒れた騎士を尻目にその火球が飛んできた方向に目をやる。
『ゴブリンシャーマン!?』
フードを着たそのゴブリンは杖を掲げ、再び魔法を放とうとしている。アレックスは慌てて、周囲に呼びかける。
「ゴブリンシャーマンがいるっ、魔法が来るぞ、気を付けろっ」
周囲の者は盾を掲げて、何とかその攻撃を凌ぐが、完全に出鼻をくじかれてしまう。
『チッ、これまで魔法を使う奴なんて出てきていなかったのに、厄介だぜっ、これでオーガが動き出すとちょっと不味いかも』
奥を見るとまだオーガは泰然として動き出す素振りを見せていない。いや、青い奴が一体いない!?そう気づいた時には、遅かった。
「うわぁぁぁーっ」
一体だけ前方に出ていていた青いオーガはその手に持つ棍棒を振り回し、近衛騎士の一人がまるでピンポン玉かのように後方へ吹っ飛んだ。
「なっ」
思わずアレックスは驚きの声を上げると、その青いオーガは一人、また一人と後方へ騎士達を吹っ飛ばしていく。今は乱戦で、オーガ一体にかかり切りになっている訳にはいかない。アレックスはオーガと距離を取りつつも、目の前の雑兵を屠っていくが、火球やら棍棒が入り乱れ、明らかに状況が悪化していく。
『くっ、まだ早いけど、力の解放をしてしまうか?』
これ以上の劣勢は致命的になりかねない。アレックスは逸る気持ちを抑えつつ、そっと詠唱を始めた。
◇
一方の後方組はというと、魔法による援護と、負傷者の治療に追われていた。
「ううっ……、い痛てぇっ……」
今ユーリの目の前にいるのは、先ほどオーガに吹き飛ばされていた騎士である。手と足が完全にあらぬ方向に折れ曲がり、鎧もひしゃげ口からも血を流している。ユーリはその顔を青白くさせながらも、気丈に鎧を脱がせ、治癒魔法を施していく。ユーリの掲げた両手の平からは、淡い光が立ち上り、少しづつ傷が癒えていく。負傷者の方も、その光に包まれると穏やかな表情になり、その意識を鎮めていく。
「これでこの方は何とか大丈夫ね、ってまだ他にもたくさんいるじゃない。早く治療しないと」
ユーリはそう言って、他の負傷者へと近付いていく。するとそこに一体のオークが踊り出る。
「グァァーッ」
「キャッ」
完全に不意を打たれたユーリは思わず、その場にへたり込み、醜悪なオークのその顔に恐怖する。するとそこにアレスが現れ、そのオークの首を一閃し、そのオークは崩れ落ちる。
「ユーリ嬢、大丈夫か?」
「は、はい、アレス様。助けて頂き有難うございました」
ユーリは、アレスにその手を差し出されてそれを掴んで立ち上がると、震える足が思うように動かず思わずよろけてしまう。するとそれをアレスが優しく抱き留める。
「ふむ、まだ力が入らないのではないか?暫くはこのまま支えようか?」
「あっいえ、大丈夫です。もう自分の足で立てますので。支えて頂き、有難うございました」
抱き締める力を強めようとするアレスの胸をそっと両手で押し返し、ユーリは少し離れて、そうお礼を言う。アレスは少しだけ残念そうな表情を見せるが、ユーリはそれに気が付かない振りをし、少し困った笑顔を見せる。
「う、うむ、そうか。大丈夫なら問題ない。まだ負傷者も多いから、君の力で助けてやってくれ。周囲の敵は私が倒す」
「はい、よろしくお願いします」
ユーリはそう言ってアレスにお辞儀をすると、別の負傷者の元へと急ぐ途中、フッと疑問が頭に浮かぶ。
『凄く助かったけど、どうしてアレス様はあそこにいたんだろう?前線に行ってたはずなのに?』
とはいえ助けて貰ったのは事実なので、それ以上は深く考えず、目の前の負傷者の治療にユーリは集中するのだった。
◇
もう一方の聖女で有るエリカもまた治療に追われる。彼女の周囲にはエリクがいる為、雑兵程度では身に危険が迫る事はなく、意外に冷静に戦況を見守っていた。
『これって余りいい状況じゃないわね』
まだオーガが一体しか前線に出ていないのにも関わらず、戦況は劣勢。雑兵の数こそ減らしているが、近衛騎士は既に半数まで数を減らしていた。
「お義兄様、せめてあの魔法を使うゴブリンだけでも何とかなりませんか?」
そう戦況を乱しているのは、確実にあの魔法を使うゴブリンだ。その防御に気を取られる事で、オーガの攻撃を食らってしまう。ただエリクは首を横に振る。
「そうしたいのは山々だけど、僕の攻撃魔法だと火力不足だ。近接に持ち込めれば倒せるけど、遠距離だと倒しきれない。アーネスト先生は如何ですか?」
「1体なら倒せない事は無いけど、3体同時は厳しいね。1体倒した所で、こちらに目を付けられたら一溜りも無い」
現状前衛が手薄になって来た事で、こちらに迫る雑兵も増えてきている。戦力分散も考えられるが、エリク1人だと持ち堪えられないだろう。ユーリの方はというと、気が付けばアレスが張り付きで見張っている。
『彼こそ遊撃で魔法を使うゴブリンに当たるべきじゃないの?』
ユーリは治癒役で後方にいる。ここならエリクでも十分に間に合うのだ。ただ彼はユーリの騎士役よろしく、彼女の側を離れない。
そんな時、前方のアレックスに目をやるとその体が黄金色に輝き始める。
『ええーっ、も、もう出しちゃうの!?まだ赤い奴が出てきてないのに!?」
驚愕に見開くエリカのその目が、アレックスに注がれる中、彼は颯爽と動き出した。
◇
アレックスはその光に包まれた時、言い知れない高揚感に包まれる。王家直系の血筋にのみ使用できる魔法「スキルブースト」。己の力を何倍にも引き上げるいわば必殺技だ。この「スキルブースト」は数分間という限られた時間では有るが、腕力もスピードもそして魔力さえも底上げされる。ただし時間経過後は、少なくとも1時間はインターバルを空ける必要がある為、正直、出すタイミングが難しい。
ただアレックスはこのタイミングで出したのは、ゴブリンシャーマンとオーガだけに絞れば間に合うと踏んだからだ。なので真っ先にゴブリンシャーマンを目指して突進する。
ザンッ、ザンッ、ザンッ
突進後の華麗なステップで、その一振り毎にゴブリンシャーマンを切り飛ばす。アレックスはイメージ通りの身体制御に思わずニヤリと笑みを溢す。アレックスの周囲にいた近衛騎士達もその光景に息を吹き返す。
『よし、イケる!後はオーガだっ』
勢いに乗るアレックスは、前方に出ているオーガを視界に捉えると、やはり爆発的なスピードでその距離を縮める。ただそこはオーガだけあって、ゴブリン程簡単にはいかない。何とかアレックスに反応を見せ、その棍棒を振り下ろしにかかる。
『遅いっ』
アレックスはその攻撃に素早く反応し、棍棒を持つ腕を根元から切り飛ばす。
ザンッ
グギャァァッ
そしてアレックスは絶叫を上げるオーガに対し止めを刺そうと剣を掲げる。と視界の端に飛来するものを捉えると、慌てて剣でそれを弾く。
「なっ」
弾いたのは、オーガの持つ棍棒。アレックスは数歩下がり体勢を整えると棍棒が飛んできた方に目をやる。
「チッ」
アレックスはそれを見た瞬間、思わず舌打ちをする。棍棒を投げつけてきたのは、赤黒いオーガの変異種。オーガの変異種はその口端を歪ませ、アレックスにはそれが、自分を嘲っている様に見えた。
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