第五十八話 迷宮攻略③
もう少しハラハラさせたい今日この頃です。
三階層の階層主の部屋の前で一時の休息を取る生徒会メンバーと近衛騎士達。先ほど、遅ればせながらアーネスト先生も合流し、いざ階層主に挑戦といった状況である。ここまでは至極順調。正直拍子抜けと思えるくらい、難敵にも出会わず、この三階層まで到着している。
「さて、一階層はゴブリンロード、二階層はオークロードとさして強くなかったわけだけど、この三階層目はどんな敵が出るかな」
アレックスはそう言って、エリクの意見を求める。エリクは思案した後、客観的に答える。
「そうですね、一階層、二階層共に敵はゴブリン、コボルド、オークといった亜人種タイプの魔物でした。数さえ気をつければそう遅れを取らない相手だったと思いますが、この三階層は、少なくても僕らが行動したパーティーでは、倉庫のようなスペースにスライムがいただけで、魔物自体にお目にかかっていません。これまでの傾向でいえば、亜人種タイプの上位種、ジェネラルやキングあたりが妥当だと思いますが、確実とは言えませんね」
「うむ、俺らのパーティー側は亜人種には遭遇したが、後は同じくスライムだけだな。そうすると亜人種の上位種の可能性が高いか。ジェネラルやキングというのは強いのか?」
アレックスは今度はアレスを見て、そう聞いてみる。実戦経験のあるアレスであれば、知っている可能性もあるのではと思ったのだ。ただアレスは首を横に振り、それを否定する。
「私も上位種とは戦った事が無いので、判りません。ただその体躯や身体能力は、これまでの者とは桁違いでBランク相当の魔物です。身体強化を魔法で施した近衛なら遅れは取らないでしょうが、単独の対応は避けた方がいいかと」
アレックスもそのアレスの発言に首を縦に振り、真剣な表情を見せる。
「うむ、それが妥当だろう。まあジェネラルやキングが出るとは限らないが、備えあって困る事もないだろう。アーネスト先生は何かご意見はありますか?」
「そうですね。私の立場からすれば、極力は近衛騎士の皆さんにお任せして、生徒は身の安全に注意いただくというのが基本線ですね。もしアレックス殿下に何かあれば、それこそ一大事ですし、その他の皆さんもこれからの王国を担う人材の方々です。そこはご認識下さいね」
「そうだな。とは言え貴重な実戦経験の場でもある。別に無謀で挑むつもりは無いが、何かしらの爪跡は残したいものだ。まあユーリとエリカは特に無理はしないようにな」
アレックスは女子2人に対し、優しげな笑みを見せ、安心させるように気を配る。ユーリもエリカもそのアレックスの気遣いに感謝の言葉を述べる。
「有難うございます、アレックス様」
「無理はしませんので、ご安心をアレックス様」
そしてアレックスは目の前の扉に目を向ける。これまでの階層主の部屋の前の扉よりもひと際大きい荘厳な扉である。アレックスの記憶では、この三階層階層主を倒すとそのドロップ品でアレスを強化する剣が手に入る。これまで魔物を屠ってきて、ゲームの様に実際にお金やらアイテムやらに変化する魔物はいなかったが、所持品としてお金やアイテムを持っているものがおり、その辺がゲームとリアルの違いだったりする。今回も所持品が剣なのか、それとも部屋の中の宝物を守っているのかは判らないが、恐らくゲーム通りにその武器を手に入れられるのだろう。当然、この世界はゲームでは無くリアルであり、その差異は存在する。アレックスもそれは理解しているのだが、それはあくまで些細な差異であり、ゲーム世界をリアルにするために整合性を取る為の差異であると認識している。今回も確かにゲームの時とこのイベントダンジョンの趣きが違う気もするが、あくまでその差異だと思っていた。
『まあ戦闘慣れもしたし、フルダイブ型のVRだと思えば案外楽勝かもな』
一方のもう一人の転生者はその差異を感じる事でよりゲーム世界とは違うものとの認識を強くする。なぜなら本来の彼女はモブで、何処まで行ってもストーリーに関わらない人物なのだ。ただ自身が聖女となった事で、その気持ちが一層強くなる。そして転生者ではない人物は普通に警戒する。過去の知識とここのダンジョンの難易度が、明らかに違うのだ。
『流石に此処まで楽勝過ぎよね。いくら近衛騎士がいるとはいえ、いくらなんでも相手が弱すぎるわ。これってもしかしたらボスキャラで難易度調整しているのかしらって、ゲーム世界じゃなかったわね。でも流石に弱すぎるのよね~』
そして転生者ではないユーリは、普通に違和感を覚える。勿論、この古代遺跡に関する事前情報など知らない、只の少女である彼女は、現状がおかしいとは比較できないが、それでも警戒する。
『アレックス様は警戒すると言ってたけど、大丈夫かしら?なんか壁の向こう側、やな感じが強いんだよね。はぁ、アレックス様やアレス様がなんだか張り切っているから、私は自由に行動できないし、こんなことなら、セリーについて行って、ノンフォーク領に行けば良かったわ』
そして暫く休憩を取ったのち、その扉が開かれる。前衛と殿は近衛騎士が担当し、中央で守るように学生達を取り囲みながら、一同は階層主の部屋へと入って行くのであった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アレックス達が三階層の主の部屋に入って行った時と同じタイミングで、レイ達4人は1階層の階層主の部屋にいた。そこにはガーディアンであるゴブリンロードがおり、その周囲には数十匹にも及ぶゴブリンの群れがいる。ただしその戦闘の結果だけ言えば、圧勝である。まず周囲にいるゴブリン共はメルテの火球魔法で、大多数が黒こげになり、ゴブリンロードに至っては、スザリンが無詠唱でその胸に空洞を空け瞬殺している。レイとセリアリスは粛々とメルテの取りこぼしたゴブリン共を屠っていき、その部屋の攻略に30分もかからなかった。
「ねえレイ、正直あの師弟凄いわね」
そう呆れたように零すのはセリアリス。セリアリスもまた強力な魔法使いなのだが、流石にゴブリンロードの胸に穴をあけるほどの濃縮した威力を出すことはできない。レイもそれに同調するように、苦笑いを浮かべる。
「はは……、これなら僕の必要ないんじゃないかな」
「うーん、でもおかしいな?ちょっと敵が弱すぎる」
レイとセリアリスが呆れた声を出す傍らで、神妙な面持ちでスザリンがそう零す。
「あらスザリンさん、ここのダンジョンの魔物は弱いのでしょうか?確かに個体自体は弱いかも知れませんが、群れをなす魔物ですので、個体の強さは二の次ではないのでしょうか?」
「あー、うん、そういう見方もできるんだが、それにしても弱い。そもそもこの程度の魔物なら、常闇の森では確実に生きていけないからな」
するとレイもうんうんと頷き、納得する。
「そうですね、確かに他の古代遺跡と比べても弱すぎる部類でしょう。それにわざわざスザリンさんが結界を張ってまで封印していたダンジョンなのに、この程度だと必要ないですよね?」
「そうなんだよなー、となると可能性が2つか。どこかに更に下層へとつながる入口があるか、この古代遺跡の最下層である三階層の主がべらぼうに強いかだな」
「どっちの方が可能性高いのでしょうか?どちらにしても踏み込まなければ大事にはならないと思いますが」
セリアリスが尤もな事を言うが、スザリンが肩を竦めて、それを否定する。
「確かにそうなのかも知れないが、遺跡というのは入ったら成果が欲しくなるものだからな。となるとその成果を上げる為に、人はどんどん深みにはまってしまう。まあ、冒険者で生き残るものは、そこで自制が効くんだが、大抵は無謀な挑戦に踏み込んでしまうのさ。それとこのダンジョンの場合は、多分後者だ。規模感的に見てもな」
確かにこの古代遺跡は然程の規模ではない。レイもそこには納得顔を見せ、セリアリスをからかう。
「まあ今回は様子見だろ?流石に相手がべらぼうに強いのなら、大抵は逃げ帰るだろうし、僕らは戦わなければいいだけだから。セリーもお宝に目を眩ませないようにね」
「もう、そんなものに目は眩みません。ただレイがどうしても私にプレゼントしたいというのであれば、喜んで受け取るけど」
からかわれたセリアリスは、それを受け止め、ニヤリとして同じように冗談で返す。ただその冗談に、メルテとスザリンが乗ってくる。この二人は明らかに悪ノリだ。
「ほう、レイがそこまで体を張るのか?なら私が全力で支援しよう。後方支援は任せておけ!」
「うん、お宝山分け、私も魔法をぶっ放すっ、レイ頑張れっ」
特にメルテは意外にマジで、両手の平を握りしめグッとレイに詰め寄っている。流石にレイはそれに対して苦い顔を見せ、呆れた声を出す。
「いや、一言も宝が欲しいなんて言っていないんだけど。大体スザリンさんが全力で支援するなら大抵はやられちゃうでしょ?」
ただレイはそう弁明しつつも、結果的に突っ込まなければいけない状況になりそうだななどと溜息を吐いていた。
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