第五十三話 初実戦
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学院が夏休みに入って2週間が経ったその日、アレックス達生徒会メンバーと近衛騎士10名で構成された一行は、王都を旅立ち遺跡調査へと向かっている。近衛騎士達は騎馬で、アレックス達生徒会メンバーは王族の持つ馬車での移動である。
王都から常闇の森近隣の宿場町までは馬車で5日ほど。途中は全て宿での宿泊で、野営等はしない行程だった。
そんな馬車の中の旅で、アレックスは1人テンションが高い。アレックスにしてみれば、女子も含めた宿泊旅行など修学旅行しかなく、いやが応にも盛り上がってしまう。加えて、遂に魔物との実戦。勿論、日々剣や魔法の稽古は有るが、実戦は初めて。前世は当たり前だがモニター越しでの戦闘経験しかなく、自分の手で魔物を倒す機会にワクワクしか無かった。
「そうするとこの中で実際に魔物と対峙した事のあるメンバーは、アレスのみか?」
「ええ、その様ですね。私もエリカも経験は有りません。ユーリ嬢もそうなのでしょう?」
「そうですね。私は元々治療メインなので、戦闘の実戦はご縁がありませんでした。ただ最近は護身の意味も込めて棒術の鍛錬はしていますので、足手纏いにだけはならない様にと思っています」
そう言ってユーリは少し申し訳無さそうな顔をする。アレックスはそんなユーリを気遣い、励ます様に言う。
「まあユーリやエリカは雰囲気にだけ慣れてくれれば良い。今回は近衛騎士のあくまで随行員なのだからな」
「はい、お気遣い頂き有難うございます」
そもそもユーリは回復役で有り、聖剣付与の切り札でも有る。なので直接前衛の矢面に立つ必要がないのだ。
「私からもお礼申し上げますわ、アレックス様」
そう言って笑顔でお礼を言ってくるのは、エリカ・ミルフォード。
「うむ、まあ2人には指一本触れさせんから、安心いたせ。なあアレス」
「はっ、私がキチンとお守りします」
アレスは律儀に敬礼をしつつ、自信を垣間見せる。アレックスもそんなアレスを見て満足げに頷く。アレックスとて自信がないわけではない。これまでその位の研鑚は積んできたのだ。その上で、実際に相対していないという不安もある。前世は所詮、ただの高校生。その知識は役に立たないのだ。ただアレスは経験者。そこは一つの安心材料でもあった。
「フッ、勿論私も遅れを取る訳にはいかないからな。それだけの研鑚は積んできたのだ。模擬戦でアレスに負けない以上、無様は晒す訳にはいかない」
アレックスもまた、そう言って自らを振るい立たせる。スペックでは劣らない。負けない自信もある。彼は万能型プレイヤーとして最も扱いやすいキャラクターなのだ。
そんな中、傍から見ているもう一人の転生者は、少し違う感想を抱いていた。
『なんかアレックス様、少し気負い過ぎなのよね……、アレス様みたく泰然としていないというか、どこかノリが軽いというか?うーん、これなんだろう?』
エリカはそう内心で考える。多分だが真剣みが違うのだ。生き死にが少し遠いとでも言うのだろうか。まあアレックスは優秀とはいえ、王城育ちの箱入りだ。当然生き死にの場に立ち会うような機会もない。エリクでさえ狩りにも出ているので、生き物の命を奪うという行為の意味を知っているが、多分アレックスはそういう機会も無かったのだろう。
ちなみにエリカ自身はと言えば、実戦ではないものの生き死にという事に関しては、聖魔法修行の一環で神殿での奉公などもあり、死にそうな人々の治癒などで経験がない訳ではない。多分その時にゲームの世界ではあるものの、現実世界である事を理解してしまった。それは良くも悪くもいい経験だったと思うし、自分の糧となっている。
『まあ今回は特段大きなイベントでは無かったはずだから、大事にはならないと思うけど……』
エリカはそんなアレックスを見ながら、少しだけ心配そうな表情を向けるのであった。
そしてアレックス達一行は、予定通りの日程で、今古代遺跡を目指し、常闇の森を歩いていた。当然今回は徒歩での行軍。古代遺跡までは森の随分奥まで進むらしく、間に1日野営を挟んで行く予定だ。現在の隊列は先頭と殿で近衛騎士達が5名づつ分かれて学生達を取り囲むように進んでいる。
「キャッ」
よろけるユーリをサッと支えるように手を貸すのはアレス。森の中の足場は悪く、歩き慣れていないユーリやエリカは時折、足を取られ転びそうになるところをユーリに関しては、アレスが、エリカに関してはエリクがフォローをしている。アレックスはというと、彼自身も不慣れな為、アレス程反応良く対応できていないのが実情だ。
「アレス様、すみません。不慣れなものでご迷惑をかけてしまって」
ユーリが申し訳なさそうにアレスに謝罪する。ただアレスは少し顔を赤らめテレた素振りをするものの、口ぶりは平静を装う。
「いえ、ご婦人を支えるのも騎士の務めです。謝罪は結構ですよ」
「あ、はい。でも有難うございます。せめて感謝はお受け取り下さい」
「ハハッ、なら感謝はお受けしましょう。美女に感謝されるのは、騎士の誉れですから」
最近アレスは時折、こういった歯の浮くようなセリフを伝える。勿論、冗談も含んだ軽い口調ではあるが、とは言え、お世辞でも美女と言われればユーリも悪い気はしない。なので少し頬を染めつつはにかんだ笑顔を見せる。
「お受け頂き嬉しいです。優しい騎士様」
そんなやり取りをその反対側にいるアレックスは少し羨ましげな表情で見ている。本当であればその役は自分がやりたかった所なのだ。ただアレスの方が反応が早くアレックスは出遅れたので、自分が悪いのだが。
『ただユーリはやっぱ可愛いよなぁ。優しいし、何より明るいし。もしこの先ハーレムエンドでは無く、トゥルーエンドだったら誰か一人を選ぶ必要があるけど、やっぱユーリが最有力だよなーっ。セリアリスでもいいんだけど、好みとしてはやっぱユーリだよ』
アレックスにとってこの事は重要だ。ハーレムを目指してはいるし、この前の王妃訪問で、セリアリスとユーリ、エリカまでも連れて行けた。メルテは流石に縁遠い状況なので、中々メンバーに加える事は難しそうだが、まだ先に出てくるNPCキャラもいる。この秋の最大イベントであるクラス別交流戦までにそれぞれのキャラとの好感度を上げる必要があるのだ。
『まあそうなるとこのイベントで何とかポイントを稼がないとな』
そう、この手の展開でヒロインの窮地を主人公が助けて好感度を上げるというのは、ある意味お約束である。アレックスは、このお約束を何とか成し遂げたいと思っていたので、ここでの細かいポイント稼ぎはアレスに譲っても仕方がないと思っている。
『まずは環境に慣れる事。本番でこけないように、まずは慣れないと』
アレックスはこの辺は比較的冷静だ。ゲーム感でフィールドの特性を把握する事は重要なのをわかっている。だから今は慣れる事を優先する。いざという時に、動けなければ意味がない。アレックスはそう内心に言い聞かせ、それでも羨ましげにアレスを見るのだった。
そしてアレックス一行は、更に森を奥に進んだ所で、遂に魔物と遭遇する。相手は森ゴブリンの集団で、数は約10体。森ゴブリンは森を住処とする亜人種のゴブリンだ。通常のゴブリン同様に小柄で性格は残忍。良く人里の集落を襲っては、女を攫い、その女性の生が果てるまで繁殖道具として利用する。ただ一個体の強さは然程でもなく、本来10体程度であれば、近衛騎士が前衛で5名もいたなら瞬時に壊滅させる事も可能である。しかも今回は、まだゴブリン達もこちら側に気付いておらず、不意が打てる状況。そこで近衛騎士の隊長であるミゲルが、アレックスに提案してくる。
「アレックス様、今回学生の皆様には、戦闘における演習目的という側面がございます。現在確認できるゴブリン共はおよそ10体。我々がすべてを殲滅してもいいのですが、折角ですので、我々の方で半数を打ち取り、残りをアレックス様達の方へ誘導しますので、その残りの半数を学生メンバーで討ち果たしてはいかがでしょうか?勿論、殿にいる5名も直ぐフォローに動けるように準備させておきます。いかがでしょうか?」
アレックスにしてみれば、余りに過保護な提案だったが、まずは素人集団という事も加味して快くそれに応じる。
「うむ、我々は経験が浅い集団だ。少し慎重すぎるきらいもあるが、その申し出有難く受けよう。皆もそれで良いな?」
「ええ、問題ありません」
アレックスの確認にエリクが代表するように答えると、他のメンバーも真剣な眼差しで頷く。そしてそのやり取りを見ていたミゲルも安心した素振りでそのやり取りを眺め、了解する。
「問題ないようですな。では我々は準備に入りますので、アレックス様もお気をつけて」
「うむ、頼む」
そういってミゲルがその場を立ち去る。そして予定通り作戦が実行され、近衛騎士達は敵を分断し、半数がアレックス達の方へと向かってくる。
「アレスは右側の2体、私は左側の2体をやる。エリクは中央の1体を頼む。ユーリとエリカは魔法で援護を頼むっ」
するとまずエリカが聖魔法の「バトルソング」を詠唱する。これは戦闘に対するの意気高揚と軽度の身体能力向上に効果がある。そしてユーリも同じく聖魔法の「ディフレクト」を唱える。こちらは不可視の盾で敵の攻撃を軽減させる効果がある。
そしてその魔法を受けた後で、三人はそれぞれで受け持った敵に対し、向かっていく。
まずアレスの場合は、単純にその剣は豪剣だ。一振り一振りが重く鋭い。それに反応速度も速い為、一合も打ち合えば相手に綻びが出る。それを逃すアレスではない。
「遅いっ」
ズババッ
横一閃の一薙ぎで、2体の森ゴブリンが同時にその胸から血が吹き出し、あっけなく絶命する。
そしてエリクの場合は、理詰めの剣だ。一体の相手の動きを観察し、相手の弱点を突くスタイルである。そしてその生命線はスピード。エリクはいつも通りに相手の動きを予測し、森ゴブリンが棍棒を振り上げ迫りくるタイミングで、細身の剣を目にもとまらぬ速さで刺突する。
グサッ
エリクの繰り出した剣は、ゴブリンの喉元を貫通し、ゴブリンは口から血を溢れさせ、あっけなくこと切れる。
「フーッ、何とか上手くいきましたね」
エリクはそう言って肩の力を抜き、血糊を払って颯爽とエリカ達の方へと歩いていく。
そして最後のアレックスは、思いのほか苦戦している。最初の1体を難なく切り伏せたまでは良かった。ただ初めての魔物退治、しかも人型で切り伏せた手には、肉の嫌な感触が残っている。人を切ればそうなるのは当然なのだが、ただそれが気持ち悪い。とはいえ、いま目の前には窮鼠とかした森ゴブリンが醜悪な表情で迫ってくる。怖い訳ではない。多分先ほどのエリカのバトルソングの効果だろう、恐怖心はないが、ただ気持ち悪いだけ。アレックスは自分に活を入れて、その感触を振り払おうと努力する。
『クッ、ゴブリンなんか最弱だっ。こんなことで躓いてやれるかっ』
そして相手の剣に力一杯己の剣を叩きつける。
バキンッ
鈍い音と共にゴブリンの剣が砕け散ると、そのゴブリンはその場を逃げようと背中を見せる。アレックスは嫌な感触を何とか飲み下しながら、その背後から思いっきり剣を突き立てた。
グサッ
やはり手に残るのは嫌な感触。前世では味わう事の無かった生々しい感触だ。アレックスは胃からこみ上げそうになるものを何とか飲み下し、その場に立ち尽くす。するとアレックスの元に生徒会メンバーがやってくるとエリクが真っ先に話しかける。
「アレックス、お疲れ様でした、って顔が真っ青ですよ?攻撃でも受けたのかい?大丈夫か?」
エリクは話しかけたアレックスの顔が真っ青になっていることに気付き、心配してくる。アレックスは弱々しくながらも笑みを見せ、心配無用と話を返す。
「なに、攻撃とかは受けていない。ただ初めて魔物を切った。その感触が慣れないものだったのでな。少し戸惑っただけだ」
そこでユーリがアレックスの前に立ち、その胃の付近に手をかざし癒しの魔法を掛けてくる。
「アレックス様、今癒しの魔法を掛けました。これで少しは楽になるかと思います。誰にも初めてはつきもの。無理はなさらないで下さい」
アレックスはその胃がスーッと軽くなるのと同時に、優しさの混じった暖かさを感じ気持ちが楽になる様な感覚を受ける。
「うむ、少し楽になったようだ。ユーリ、有難う。君は優しいのだな」
「そうでしょうか?弱っている方がいて、癒せる手段があるのであれば、当然の事をしているだけですよ」
ユーリはそう言って不思議そうな顔をする。アレックスはこの無自覚な聖女の姿を見て、
『やべ、何この子良い子すぎるんだけど!?しかもそのキョトンっとした表情、かわいすぎるじゃんっ』
などと考え、青ざめた顔に違った意味にで生気が戻るのであった。