第五十一話 チートなメルテ
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今レイとセリアリス、そしてメルテの3人は、常闇の森の中を歩いている。宿場町を早朝に出て森には午前中のうちに入り、スザリンのいる家までは歩いて半日程との事なので、予定では夕方頃には着く予定だったが、それは魔物に遭遇しないで真っ直ぐ辿り着けた場合の話であり、魔物に遭遇した場合は、恐らく野営の必要がありそうだった。
森に入ると常闇の森の名に相応しく鬱蒼とした木々が生い茂り、足場も決して良くはなくと中々に歩くのに時間がかかる。
隊列はレイが先頭を歩き、メルテとセリアリスは横並びで進む。レイの場合、索敵をシルフィが勝手にやってくれるので、魔物の気配を漏らすことがないし、剣も扱える前衛向き。後ろの二人は遠距離魔法も使える事から必然的にこの配置になっている。
そんな後ろを歩く二人に対し、レイは時折気遣うように声を掛ける。
「二人とも疲れとかは大丈夫かい?」
既に森を歩き始めて1時間近く経つ。女子の場合、体力面には気を使う必要があるだろうと、レイはタイミングを見て休憩をはさむつもりだった。
「私はまだ大丈夫よ。メルテさんは?」
「ん、私も大丈夫。ここは私の庭。そうそう疲れない」
メルテはそう言って、胸を張る。確かにメルテは足場の悪い森に対し、軽い足取りで歩いている。むしろこういう悪路に慣れていないセリアリスの方が、遅れ気味になる事がある位だ。ただそのセリアリスに対しても、風の精霊シルフィの補助を入れているので、そこまで苦労している訳ではないようだった。
「うん、まあ無理はしないようにね。周囲に気を張りながらだと疲れも違うだろうから。あ、それとメルテ、なんでスザリンは常闇の森になんか住んでいるんだい?」
前々から気になっていた事をレイが聞く。何もこんな鬱蒼とした森の中に住まなくてもいいじゃないかと思っていたのだ。ただメルテの回答は、シンプルなものだった。
「人嫌いだから?」
「いや、疑問形で言われても困るけど、人嫌いなの?」
「ん、スザリンは人嫌い。滅多に森の外にはでないし、森の中には人も偶にしか来ない。大抵来るのはおじさん」
「うん?おじさんって誰?」
レイはシンプルなメルテの回答にあって、ひと際、謎の単語を思わず聞き返す。
「おじさんは、全員で3人くらい。ああ、護衛の人は毎回結構変わるから覚えていない。3人は偉い人らしい」
まあ大魔導に会いに来るくらいの人だから、偉い人というのはなんとなく理解できるが、その偉い人たちをおじさんと言ってしまうメルテに思わず引き攣った笑いを零す。
「はは……、偉い人ね。名前を言わないところを見ると、覚えていないだろ?」
「フッフッフッ、流石はレイ、正解」
やはり自慢げに胸を張るメルテ。そんな2人の会話をクスクスと笑いながら、セリアリスも会話に参加する。
「これはレイの負けね。でもメルテさん、そんな人嫌いのスザリン様に私たちが会いに行ってもいいのかしら?嫌がられない?」
「ん、大丈夫。事前に確認済み。それにスザリンが私に友達がいるのを信じていない。だから見せつけるのに丁度良い、友達がいないのはスザリンだから」
今度は酷く不満げな表情を見せるメルテ。まあスザリンも性格が変わっているメルテが王都で上手くやっているか不安なんだろうと、レイは勝手に想像する。それに大魔導の友達ってどんな人がなるのか、正直想像できない。
「あれ、メルテ、そもそも大魔導ってどんな人?」
そう言えば、大魔導自体がどんな人なのかを聞いていない事に気が付いたレイは、その事を尋ねる。するとメルテは少し考える素振りを見せた後、ポツリと呟く。
「うーん、変わった人?」
「うんそこは想像付くけど、どんな風に変わっているの?」
「うーん、凄いけど凄くないところ?」
うん、これは要領を得ないパターンだ。ただ孤児だったメルテを気まぐれかもしれないが、育てた人だ。そう悪い人ではないとレイは勝手に結論付ける。まあメルテの母親代わりという事であれば、変わっている人というのは、致し方ないだろう。
『レイ、魔物、魔物、大キイ魔物』
シルフィの声が突然頭に響き、レイは周囲の気配を探るべく一旦足を止める。すると右前方、少し離れたところに魔物の気配をわずかに感じる。そんなレイの集中した姿にセリアリスが怪訝な表情を見せて聞いてくる。
「レイ、どうしたの?魔物?」
「ああ、うん、魔物みたい。結構大型で多分動物型の魔物だと思う。上手くいけば、やり過ごせそうだけど、どうする?」
一応レイは、この森に一番詳しいだろうメルテを見て、質問する。するとメルテの目が珍しく爛々と輝き、レイに答える。
「動物型の魔物はお持ち帰り決定。これはスザリンのルール。今日の晩御飯にもなる」
「ははやっぱりね。なら魔物の方へ近づいていこうか。セリーとメルテは魔法の準備をよろしく。俺が先頭で牽制するから」
すると程なくして木々の隙間から大きな体躯のビックベアがいるのが見えてくる。
「おお、ビックベア。なら今日は熊鍋。毛皮も使える。これはいい収穫」
メルテがビックベアを見て興奮する一方で、セリアリスは、少し緊張気味な声を出す。
「ふわっ、大きいわ、レイ、大きいわよ」
そんな2人にレイは、苦笑しながら注意する。
「はいはい、2人とも、それぞれ違った意味で落ち着いて。ビックベアなら攻撃を食らわなければ動きも単調だし、そう怖い相手じゃないから。ああ、メルテ、素材をお持ち帰りするなら、その魔法だと毛皮が駄目になる。セリーは、少し落ち着いて深呼吸して。取りあえず俺が一当てするから危なくなったら魔法をお願い」
メルテは大きい火球の魔法を唱えていたが、慌ててそれを止めさせ、セリアリスには必要以上に気負わないよう注意する。
そしてレイはそう言った後、鋭い足運びで気が付かれる事なくビックベアの背後を取る。そしてそのまま風をまとわせた剣を振り払いその足にダメージを与える。
『うーん、思ったより硬い?』
レイのイメージでは足を切り飛ばす位の剣の振りだったが、そう上手くはいかない。恐らく表面の毛皮が思いのほか硬いのと森で足場が悪いのが原因のようだ。するとその攻撃でレイの存在に気が付いたビックベアは、レイの方に振り返ると怒りの咆哮と共に、その凶悪な右手の鉤爪を振り下ろす。
グオォォォーッ、ガシャンッ
ただその攻撃は、近くの木々はなぎ倒すがレイには当たらない。レイはその攻撃を難なくバックステップで躱し、無防備になったビックベアの首元に剣を払う。
ズバッ
ただその攻撃も首を落とすまでには至らず、大量の血が噴き出すが、ビックベアの戦意が衰えることは無く、今度は左右交互にその爪を振り払い手数を上げてくる。レイはそれも華麗なステップと体捌きで躱していくが、そう安定した足場では無い為、長引けば不利になると思うと、シルフィに声を掛ける。
『シルフィ上に飛ぶから、手伝って』
すると一陣の風が巻き上がり、まるで消えたかのようにレイがビックベアの前からいなくなる。ビックベアは突然自分の獲物が目の前からいなくなった事で、左右をキョロキョロ見回しはじめたその時に、真上からビックベアの頭上に落ちてきたレイが、その剣を脳天から突き立てる。
グサッ
レイは剣を突き立てたままビックベアの頭から飛び退くと、ビックベアが前のめりになって倒れていき、その生命活動を停止させる。レイは動かなくなったビックベアを見ながら、フーッと息を吐き、茂みに隠れていたメルテ達に大きく手を振る。
「おーい、片付いたぞー」
そしてレイがビッグベアに刺さった剣を引き抜き、血糊を払って鞘に納めたところで、2人がレイの元へとやってくる。
「レイ、ズルい。私の魔法を打つチャンスが無くなった。次は私の番」
と不満げなメルテに対し、セリアリスは呆れ顔でレイに言う。
「この魔物って、普通一人でどうにかしちゃうような魔物じゃない気がするのだけど?しかも魔法も使わず、剣だけなんて」
するとレイはそんな2人に言い訳がましく弁明する。
「いや、ほらあの巨体を足止めとかって、結構大変でしょ?ここ足場悪いし。最初足を切り落として動きを止めようと思ったんだけど、思ったより表皮が硬くて切り落とせなかったんだよ。だったら一思いに倒しちゃったほうが、楽かなと。ああセリー、魔法も使ってない訳じゃないんだよ?風魔法は要所で利用しているからね」
「でもズルい、次は私の番」
「はは、はいはい、次はメルテの出番があるようにするよ。ああ、そうそう、このビックベア、持ち帰りするなら解体しなきゃだけど、必要な部位は何処?」
レイはそれでも文句を言うメルテを宥めつつ、ビックベアの解体を進めようとメルテに確認する。ただメルテは首を傾げ、不思議そうな顔をする。
「ん?持ち帰るのは全部」
「は?いや、流石にこの巨体は持ち運べないでしょ?いくらなんでも大きすぎる」
勿論これを持ち運ぶのにメルテもセリアリスも戦力にはならない。あくまで運ぶのはレイの仕事となる為、思わず慌てて突っ込みを入れる。ただそこでメルテが納得した顔を見せる。
「ああ、流石に手では持っていけない。それは無理。その代り魔法を使う」
「へ?魔法?」
レイはさっぱり意味が分からず、思わず呆けてしまう。ただセリアリスは何をしようとしているのか理解したのか、感心した視線をメルテへ送る。
「メルテさん、もしかして異空間収納の魔法?」
「おお、セリアリス、正解。異空間収納の魔法で、異空間にビックベアを保管する。家に帰ったら、異空間からビックベアを出す」
レイはそこで漸く意味を理解する。異空間収納の魔法は非常に高度な魔法であり、現在のこの世界で使える人間など二桁いないのではないかと言われるくらい、希少な魔法だ。勿論レイには使えないし、偶に遺跡内で発掘された魔導具でそういう機能を持つものが出土されるくらいだ。ただそのアイテムや魔法を使える人間たちは、物流の面で苦労がいらず、多大な利益を上げる事さえ可能らしい。
「ああ、こういう事を聞くと、メルテって大魔導スザリンの弟子ってのがわかるよね」
「うん、そこは素直に同感よ。レイが一人でビックベアを倒してしまったのが霞むくらい、衝撃的だわ」
只々、感嘆するしかないレイとセリーは、呆然とメルテを眺め、そんな2人の視線をメルテは不思議に思いながら首を傾げるのだった。




