第五十話 家族会議
ようやく50話到達です。2万ptも達成しました!次なる目標は、3万……はまだ全然見えませんが、日々の応援ともし良ければ評価をポチッとお願いします!
セリアリスへの呪の解呪も無事に終わり、その2日後には予定通り、ノンフォーク領領都オムロへと到着する。到着後は、3日程、オムロに逗留し、その後、メルテとの約束である彼女の師匠であるスザリンの元へと向かう予定であった。そしてその3日目の夜の晩餐の後、応接の間にて今、レイとセリアリス、そしてセリアリスの母であるカエラさんとお茶を囲んでいた。
「レイ君にはホントお世話になっちゃったわね~」
カエラさんからののんびりとした言葉。ここは一応非公式の場という事で、砕けた会話が許可されている。と言ってもレイは相手が目上の方でもあるので、最低限の礼節は弁えている。
「いえ、そう大した事はしていませんよ。自分にできる事があって、ただそれをしただけですから」
「もう、レイはいつもそうなのよ。本当に感謝がしたいのに、感謝のしがいがないのだから」
謙遜するレイに対し不満顔のセリアリス。レイとしては本心からできる事をしただけと思っており、特別な事はしていない。相手がセリアリスだからこそしただけの話なのだ。ただされた側はそう簡単には納得できない。しかるべき礼というものをしたいのだ。するとそんな2人の様子をコロコロとカエラ夫人が面白がる。
「フフフッ、レイ君の欲のなさも大概よね~。でもセリーも相手が望まないものを無理強いしては駄目よ。そんなのはお礼の押し売りになっちゃうから。そうそう、それでこの件なんだけど、王都にいる旦那様にもお伝えして欲しいのだけど、レイ君お願いできるかしら?」
「ノンフォーク公爵様にですか?」
「ええ、手紙は私がしたためますから、それを届ける形で報告をして欲しいの。セリーは無事だったとはいえ、一応、呪いにかかっていたのでしょう?しかも可能性として王城内で貰った可能性が高いという事であれば、お伝えしない訳にはいかないと思うの」
カエラさんはそこで憂慮をする。確かに王城内で何かしら問題があるのであれば、ノンフォーク公爵に伝える事は必要だろう。ただその役目が自分でいいのかに疑問が残る。
「わかりました。手紙をお届けするのは構わないのですが、俺が届けるでいいのでしょうか?一応この後、俺はメルテと一緒に大魔導スザリンを訪ねる予定となっていますので、手紙をお渡しするのは、少し先になってしまいますが?」
「ええ、それでも構わないわ。どちらかというと、その王城に登城した際に色々確認してきてもらいたいというのが、もう一つの理由なのだから」
「ああ、そういう事ですか。畏まりました。それならお引き受け致します」
レイはそれで合点する。カエラが言ったのは、王城内で他に呪いの痕跡がないかを確認してこいという事だ。確かに今回の呪の痕跡であれば、レイならば判断つくだろう。ちなみにカエラさんには当然、精霊の寵愛の事は伝えていない。ただクロイツェルの事は恐らくセリーよりも詳しく、レイが解呪したの一言で素直に納得をされた。クロイツェルが抱えている遺跡も含め情報は持っているらしく、解呪程度であれば何かしらの道具や手段でやってのけて不思議はないと判断したらしい。勿論、その呪いの有無の判断もできると判断しているからこその依頼である。
「ええ、有難う。一応王城に入る時は、軍の階級を使いなさい。予備役中とはいえ少佐でしょう。私からの依頼を受けるのに不思議には思われないと思うわ」
「わかりました。では明日出立前にでも手紙をお預かりに参ります」
「フフフッ、そうして頂戴。それとスザリンのところにはどうやって行くのかしら?近くの宿場町までなら、馬車で送らせるけど?」
レイの返事に満足そうな表情でカエラは頷くと、別の話題へと話をかえてくる。
「いえ、俺とメルテの2人だけなら、俺の乗っている馬に2人で乗っていけますので、近隣の宿場町まではそうしようかと。馬をここに預けて馬車でいくとまた馬を取りに戻る必要があるので、その手間は避けたいなと思っています」
「ねえ、レイ。その事なのだけど、私も大魔導の元に行ってみたいのだけど、駄目かしら?一応メルテさんにはさっき了承は貰ったのだけど」
セリアリスがそう言って、ちょっと悪戯っ気のある笑顔を見せる。レイはその表情を見て、嫌な予感がし、カエラさんの方を見る。カエラさんはクスクスと笑ってレイとセリアリスとのやり取りに傍観を決め込んでいる。
「えーと、常闇の森ってかなり危険な場所だってことは理解しているよね?まあメルテは元々住んでいた場所だし、俺は俺で、魔境の類はそこそこ経験があるから、乗り越えられると思っているけど、セリーは危ないんじゃないかなぁ……」
「あら、私はこう見えて複数属性持ちの魔法使いでもあるのよ。剣技も軍人の娘として護身程度であれば嗜んでいるのだから、その点でいえば、メルテさんよりも上だと思うのよね」
レイは、ああこれは確信犯だと、内心で嘆息する。大体、この手の話の流れの中で、レイがセリアリスを言い負かした事は無い。なので内心は無駄だと思いつつも最後の抵抗を試みる。
「いや、セリーはつい先日まで体調を崩していたじゃない? そう直ぐに外を動き回ったら外聞が悪いんじゃないかな? うん、やっぱもう少し療養が必要だと思うんだよね」
「あら体はもう大丈夫よ。大体治したのはレイなんだから、知らない訳ないでしょう? それに家に閉じこもっている方が心配されちゃうわよ」
「うっ、あっ、でもほら、メルテの話だと運が悪ければ、森の中で野営しないといけなくなるかもって言ってたし、ほら貴族の令嬢としては、野営なんて経験した事が無いでしょ? そういうのって色々厳しいんだと思うんだよね」
「でも残念、私、軍の演習に参加させて貰った事もあって、野営も経験済なの。流石に森の中での野営は経験ないけど、テントで寝るのも大丈夫よ」
レイはその答えを聞いて、思わず顔を引き攣らせる。やっぱりこうなった。そこで戦いの趨勢に決着がついたのを見越して、カエラさんが声を掛けてくる。
「あらあら、やっぱりレイ君の負けね。まあ私としては、レイ君が護衛役をやってくれるなら別に行ってきてもいいと言ったから、連れて行ってあげなさい。守りきれない自信がない訳でもないのでしょう?」
「クッ、カエラさんまで……、はぁ、了解しました。ならセリーも連れて行くよ。とはいえ移動は本当に危険な事もあるから、俺の指示には従って貰うよ、セリー。それとカエラさん、やはり馬車の手配をお願いしてもいいでしょうか? 俺は馬で護衛をしますが、流石に馬の三人乗りはできませんので」
「ええ、私の騎士様のいう事には従いますわ」
「はいはい、馬車の手配はしておくわ。まあ娘が迷惑をかけるけど、よろしくね」
レイは、セリアリスには騎士ではなく領主だと、カエラさんには迷惑とわかっているなら止めて下さいと内心でツッコミを入れつつ、苦笑いで応えるしかなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方の王都にあるミルフォード家の応接室では、家族会議が開かれていた。中々宰相であるミルフォード侯爵の時間が取れず、夏休みも既に1週間がたった時分まで時間がかかってしまったのだ。ちなみに参加者は当主であるミルフォード侯爵、その妹でありエリカの実母でもある、メリダ・シークレイ伯爵夫人、それにエリク・エリカの義兄妹、エリクの母でミルフォード侯爵の夫人であるクレア・ミルフォードの5人が集まっていた。まず開口一番、当主であるミルフォード侯爵が発言をする。
「それでエリカが加護を賜ったというのは、本当なのかい?」
そう、この家族会議の主目的はエリカが至高神アネマから加護を賜った事とその後の対応をどうするかを家族間で話し合うための会議である。実母であるメリダが呼ばれたのは、至高神に関する見識と神殿側の対応がどうなるかを確認する為であり、クレア夫人に関しては、社交界への影響を考察する為の参加でもある。
エリカは義父に言われて、その右手を差し出すと、アネマ神を示す聖印がそこに刻まれているのを見せる。ミルフォード侯爵は思わずその眼を見張り、そしてフーッっと息を吐く。
「うむ、どうやら本物のようだね。我が娘となったエリカが、こうして加護を授かったのは大変喜ばしい事だ。本来であれば、ただ素直に喜びたい話なのだが……」
ミルフォード侯爵がそう話をして押し黙ると、クレア夫人が不思議そうな顔をする。
「あら貴方、素直に喜べばいいのではないかしら?正直、この加護という存在でエリカさんの社交界における価値は、計り知れないものになりますわ。国内の王族や上位貴族は勿論、国外にも良縁を求める事ができます。勿論、エリカさんの意向も加味しますが、正直よりどりみどりですわよ」
「ふむ、確かにそうなのだが、まず1点、この事が公になると王妃様が目を付ける可能性が高い。私の派閥は中立。ノンフォーク公爵側にもロンスーシー側にもどちらにも付かず、上手く立ち回る立ち位置になる。次期王がアレックス様となった場合、エリクがその補佐役を受けるべく努力をしておるが、その上エリカまでもとなると、ロンスーシーに近くなりすぎる。そしてもう一点が問題なのだが、エリカ、説明をしてくれ」
そう言ってミルフォード侯爵は、エリカに発言を促す。エリカはそこで、もう一つの問題を説明する。
「はい、お義父様、もう一つの問題が、現国王陛下が呪いによって病床に伏している事です。それとこちらはまだ火急ではありませんが、アレックス様の許嫁のセリアリス様も国王陛下と同様の呪いを受けられています」
ちなみにこの事実を知らなかったクレアのみ驚いた表情を見せる。エリカはまず兄であるエリク、そして実母であり、神殿と繋がりのあるメリダに相談をしている。ミルフォード侯爵にはエリクから話をして貰っており、クレアは今日この場で説明をすると言われて、細かい話を聞いてはいなかった。ただ社交界の曲者たちを相手にしているだけあって、察しは悪くない。その情報だけでおおよその見当はつけ、難しい顔を見せる。
「ああ成る程。旦那様はロンスーシー側の方々が怪しいとお思いなのですね。だとすると王妃様は厄介かもしれませんね」
するとここまで黙っていたエリクが、一つの提案を投げかけてくる。
「例えば、このまま秘匿しておくというのは、駄目なのでしょうか?公にすれば少なからず波紋が広がります。であれば、黙して語らずも手段なのでは?」
「いえ、それは駄目です。至高神様の神託に『この世に揺蕩うすべての不浄を祓いなさい』というお言葉があったと聞いています。しかも場所が王城内であった事から、間違いなく一つは国王陛下のそれを差しています。これを実行しないのは、神への冒涜。なので近いうちにそれを祓う必要があるのです」
そうなのだ。神の神託が何故あのタイミングだったのかを考えると、間違いなくそれを祓う事を目的の一つとしているのである。それをしないのならば、どんな神罰が下るか分からないのだ。だからこそエリカは、実母にも相談をしたのだった。
「だとすると、王妃様に目を付けられる前に、どこか相手を決める必要があるという事かしら。とはいえ、家格的なつり合いとならば、そう多くは選択肢がないように思いますし、流石にエリカさんの意向もあるでしょう?」
するとエリカはここでは殊勝な態度に終始する。年長者が集まる場だ。貴族の娘として、己の主義主張は抑える必要がある。
「お義母様、私は貴族の娘ですから、家の為とあらば良縁であれば喜んで従いますわ。勿論、神の御意向も重要な事なのでそれは執り行いつつとなりますが」
「ふむ、まあ、王妃云々は別としても取りあえずは公表するしかあるまい。その上で国王陛下の呪を祓って貰う。その後の状況は臨機応変とするしかないであろう。クレア、すまんが社交界の反応は探り続けてくれ。それとメリダ」
「はいお兄様」
「そなたには神殿がどう動くかを見て貰いたい。現神殿勢力はアナスタシア卿が頭一つ抜けている。私としては野心のない彼であれば、国内の神殿勢力の頂点に相応しいと考えているが、エリカを抱えてその座を欲する者も出てこよう」
ミルフォード侯爵は貴族側の動きは妻であるクレアに探らせ、神殿側の動きはメリダに探らせる。今後は情報戦が重要になってくるのを良く理解しているのだ。そして最期にエリクとエリカの方に向き直り、エリクには指示を、エリカには優しい言葉を掛ける。
「エリク、お前は暫らくはエリカと行動を共にしなさい。エリカの身辺は慌ただしくなる。言い寄る、擦り寄る人々を選別し取捨選択する必要がある。その眼を養う事はお前の為にもなる。頼んだぞ。それとエリカ。まずはおめでとう。きちんと褒めてやれてなかったから、ちゃんと伝えておきたかった。私は君の事を本当の娘の様に思っている。その娘が神に選ばれたのだ、本当に誇らしい。色々大変なことも多いが、君ならやれる。頑張りたまえ」
「はい判りました、父上」
「うっ、お義父様、有難うございます……、精一杯勤めさせて頂きます……」
エリクは父の目を見据えしっかりした返事を返し、エリカは義父の思いがけない優しい言葉に、思わず声を詰まらせ、涙ぐむ。ミルフォード侯爵はそんな二人を微笑ましく思いながら、再び為政者の顔をみせる。
「エリク、この後はアレックス様と同行して、遺跡調査の予定だったな?」
「はい、そうです。父上。エリカもそれに同行予定です」
「では公表は、その同行から戻って直ぐに執り行う。その後国王陛下の解呪も同じタイミングで行う。アレックス様の誕生会が8月の末にあるからその前までに終わらせるのが良かろう。エリカもそのつもりでいておいてくれ」
「はい、お義父様。よろしくお願いします」
エリカもまた決意を滲ませて、しっかりと頷く。ミルフォード侯爵はやはりそんな時には為政者ではなく父の顔となり、満足げに頷くのだった。