第四十八話 解呪
結構心配モされましたが、ようやくセリアリスが解呪されます。
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「丁度良かったってどういう事?」
セリアリスは不思議そうにレイを見る。まだ日も登らない明け方手前、セリアリスはレイの側に居たくて、そっと寝ていた馬車を抜け出していた。その夜は何やら不安が大きく、上手く寝付けず、寝たと思っても目が覚める。
ただレイの側で何気ない会話をしていると不安が薄れるので、馬車の中にも誘ったが、それは断られてしまった。なら自分から側に行けばと思って、来てみたのだ。
そして見つけたレイから言われた言葉。丁度良い? 待ってた訳では無いのだろう。偶然、来たのが都合が良いという事かしらとセリアリスは想像する。するとレイが突拍子もない事を言い始める。
「うーん、まずは何処から説明しようか? ああ取り敢えず、セリーの体調不良の原因なんだけど、それ呪いだから」
「はっ? の、呪い」
「うん、呪い。ああでも、そんなに心配しなくても良いよ。呪い自体はまだ小さいものらしいし、どっちにしろこの後浄化しちゃうから」
そう言って飄々とした顔をレイが見せる。そうレイはそう言う所がある。結果は彼が言った通りの事になるのだろうが、それだけでは納得出来ない。そもそも説明不足なのだ。
「レイ、意味が判らないので、質問して良い?」
「はは、ごめん。そうしてくれると助かるかも」
レイはそう言うと、苦笑いを浮かべる。本人も説明不足の自覚があったらしい。なので、セリアリスは取り敢えず、聞きたい事を質問して行く。
「そうね、まずはその呪いっていつわかったの?」
「ほら実力試験の期間中に会っただろう? その後直ぐに分かったよ」
「なんでレイが呪いを分かるの? 聖魔法も使えたのかしら?」
「いや俺は使えないよ。分かったのは、浄化の時に説明するよ」
試験期間というと3週間前位。何故呪いを見破れるかは不明だが、後で教えてくれる。
「呪いを知ってから間がそこそこ空いたようだけど、それは何か理由があるの?」
「セリーの呪いがまだ軽度のもので、慌てて処置する必要が無かった事。それと俺自身はあまり呪術に詳しくなかったから、それを調べてたというのが理由かな。後、浄化は2人きりでやりたかったって言うのもある」
まあ確かに、現状で生活に大きな支障を与える程の症状では無いし、事前に呪術という特殊な魔法を調べておきたいと言うのも理解できる。
「その最後の浄化を2人きりでって、またレイに何か秘密があるの?」
そう、この歩くビックリ箱は、時折想像もつかない事をさも平然とやってしまう。そのレイが2人っきりでなどと言う時は、人には言えない秘密が必ずあるのだ。
「いや秘密って、た、確かに秘密なんだけど、アレ、俺ってそんなに秘密が多い様に見える?」
「秘密が多いって言うより、秘密が有っても仕方がないとは思えるわ。だってレイ、それ位ヘンな人よ」
「へ、ヘンな人って……」
すると何やら微妙な表情にレイはなる。セリアリスは思わずそれを見て、クスクスと笑ってしまう。
「別に悪い意味じゃ無いわよ。それ位、私にとってレイは不思議な人。でもその優しさは全面的に信頼しているし、これから起こる事も楽しみでしかないわ」
そう楽しみでしか無い。きっとレイは私が思い付かない事をやってしまうのだ。
「ははっ、そうだね。確かにこれからする事は規格外だから、セリー以外に知られる訳にはいかない。セリーも約束出来るかな? 誰にも喋らないってことを」
「うん、勿論よ。だって喋るとレイが困るのでしょう? なのにわざわざ私を治す為に秘密を打ち明けてくれるのでしょう?ならノンフォークの名に誓って秘密にするわ」
するとレイが優しい笑顔を見せて嬉しそうにする。
「うん、セリーならそう言ってくれると思ってたよ。有難う、自分の事より、俺の事を気にしてくれて」
「と、当然でしょ。友人なんだから……」
レイが余りにも素直にお礼を言うから、思わずセリアリスは、言い淀んでしまった。ただレイはセリアリスが戸惑っているのも気にせず、話を進める。
「うん、だから有難う。これは俺がクロイツェルでも特別な事だから、世間には極力、知られてはいけない事なんだ」
「う、うん。それで具体的にはどう言う事なの?」
セリアリスはレイが戸惑った事を気にしなかったので少しホッとしつつ、話を進める。
「俺には精霊の加護があると言ったけど、少し違って、あるのは加護じゃなくて、寵愛なんだ」
「精霊の寵愛?」
「そう、精霊の寵愛。だから加護よりも少し特別な事が出来る。例えば、こんなふうに」
レイがそう言うと、目の前に突然、一体の精霊が現れる。とは言っても、精霊を見た事が無いので、精霊かどうかは分からないが、魔力の塊だというのは感じる事ができ、その真っ青な髪と水色の瞳の美しい姿が精霊だと想起させたのだ。
『お初にお目にかかります。水の精霊のウィンディーネと申します』
「なっ」
セリアリスは突然頭に響いた声に思わず絶句する。レイはそんなセリアリスを面白そうに眺め、笑みを溢す。
「今本人が名乗ったけど、彼女はウィンディーネ。水の精霊で、セリーの呪の存在を感知したのも彼女のお陰さ。じゃあディーネ、早速だけど、セリーの呪を払ってくれないかい?」
『畏まりました、主様、では準備をしましょうか』
呆然とするセリアリスを尻目に、2人はさっさと話しを進める。ウィンディーネと呼ばれた精霊は、何事か言葉を呟きその手の平を合わせると、そこに魔力が集中し、青い光が立ち昇ると綺麗な透き通った水を生み出した。
『では、こちらの水をお飲み下さい。そうすれば、水の精霊が中から呪を浄化していきます』
「えっ、えーっ」
動揺が収まらないセリアリスは、思わずヘンな声を溢す。するとレイが優しくセリアリスをフォローする。
「セリー、驚くのはその辺にして水を飲んで。勿論毒とかでは無いし、セリーを治してくれるものだから」
セリアリスはその言葉でなんとか気持ちを持ち直すと、おずおずとその水を貰うべく、自分の手の平を合わせて水を注いで貰い、一気にその水をゴクゴクと飲み干す。
『うわっ、何これ暖かくて優しい』
そして水を飲み干したセリアリスを見て、精霊ウィンディーネが微笑ましい表情を浮かべるとやはり何事か呪文らしきものを唱える。するとこれまで頭の中にかかっていたモヤが晴れていくのがハッキリとしてくる。
『ああ、気持ちいい』
セリアリスは自分の中で悪いものが無くなっていく感覚に、思わず酔いしれる。
『あら主様、この子水属性の資質も眠ってますわ。ついでに掘り起こしておきましょうか?』
「あっ、そうなの? ならついでに掘り起こしておいちゃって」
とレイと精霊の何気ない会話。セリアリスは慌ててレイに言う。
「ええっ、レイ? 魔法の資質って、そんなに簡単に掘り起こしちゃって良いものなの?」
ただレイはのんびりとそれに答える。
「ん? 別に良いんじゃないか?眠っているって事は、元々持ってる資質なんだし、雷に雨は付き物でしょ?」
セリアリスは唖然とした後、何やら笑いがこみ上げる。もう色々凄い事があり過ぎて、理解が全然追いつかない。もう笑うしかないのだ。
「クスクスッ、もうレイ、酷いとしか言いようがないわ。もう好きにして頂戴。驚く事に疲れちゃったわ」
「いや酷いと言われるのは酷いんだが……、けどディーネ、呪いの方はどうだい?」
レイは少し不満顔ながら、セリアリスらしい笑顔が見れて内心ホッとする。
『はい、もう大丈夫ですよ。水属性の掘り起こしも済ませておきました』
確かに自分の中にあったモヤは綺麗に払われている。セリアリスはウィンディーネに笑顔を見せる。
「ウィンディーネ様、有難うございます。気持ちがすっかり晴れています。水属性も、その、何から何まで」
『お礼ならば主様に。私は主様の願いに応えただけですので』
「うん、勿論レイにもお礼は言いますが、貴方にも感謝を。心優しき精霊様」
『フフフッ、水の資質を持つ貴方なら感謝も受け入れましょう。主様のご友人』
セリアリスはそれを聞いた後、レイにも向き直り、お礼を言う。
「レイ、有難う。私の為に大切な秘密を明かしてくれて。このお礼はいつか必ず自分の手で返します」
「別に感謝の言葉だけで良いよ。だって友達だろ?セリーが元気になって、笑顔を見せてくれるだけでいいから」
レイはそう言って笑顔を返してくれる。でもセリアリスはレイがそう言うのはわかっていたので、心の中でいつかお礼をしようと心に決める。どうせ言ったって聞かないのだ、レイは。
「でも精霊をこの目で見られるなんて思わなかったわ。レイもこんな凄い事、隠してたなんて」
セリアリスはそう言ってジト目をレイに送る。凄い力だからこそ、公に出来ないのは分かる。けど少し水臭いとも思ってしまうのだ。
「ははっ、そこは勘弁して欲しいな。あっ、そうだ。折角だから、シルフィも会わせてあげるよ、シルフィ」
すると水の精霊ウィンディーネとは違い、可愛い少年の様な精霊が現れる。シルフィは自分も呼んで貰えて嬉しいのか、空に浮かんで楽しげに踊る。
『レイ、遊ブ? 遊ブ? ソレニセリーモ遊ブ? セリー、シルフィト遊ボ?』
「ははっ、シルフィ、まずはご挨拶からだよ。セリー、彼がシルフィード、風の精霊だよ」
「ハハ、風の精霊シルフィード……」
また驚きが増えた。セリアリスは、乾いた笑いが漏れるが、すぐに受け入れる。あの美しいウィンディーネもこの可愛いらしいシルフィードもレイに寵愛を注ぐ精霊達なのだ。
「うん、とは言えそろそろ夜も明けるから、今日はこの辺までだね。ディーネ、今日は色々有難う。シルフィ、悪いけど、遊ぶのはまた今度な」
『畏まりました。主様』
『ウウ……、マタ今度遊ブ』
そう言って2体の精霊はその姿を消す。そしてレイはセリアリスに向き直ると、優しく言葉をかける。
「これで取り敢えずは、大丈夫かな。セリーもお疲れ様」
「フフフッ、本当に驚き疲れたわ。でも凄く楽しかった。また内緒で精霊達に会わせてね」
「ハハッ、セリーと2人っきりになる機会があればね。こんな機会は滅多にないから」
するとセリアリスは不満顔になる。そしてはっきりと宣言する。
「ムウッ、なら絶対に機会は作るから、その時は会わせてもらうから、約束よ」
そう言って自慢げに胸を張り、そしてセリアリスらしい凛とした笑顔を見せるのだった。




