第四十五話 セリアリスの時間
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セリアリスは自身の体調不良に大きな動揺を抱えていた。これまでの生活の中でこのような体調の不良を抱えたことは無く、むしろ健康に育ったと自負している。生まれた時から病弱という事も無く、勿論、風邪などはひいた事は有ったが、むしろ大きい病気はその程度で、どちらかというと病気よりも怪我の方が心配されるような幼少期だった。
ユーリの話では心因性との話もあったが、ユーリの事を心配する気持ちは既に解決した。現状、ユーリ自体が思い悩んでいないし、レイの言葉も信じるに足りる。なら何故こんなにも国王陛下のご病床に心を痛めるのかが、自分の中でも謎であり、さりとてその心配が心の中から拭えない現状に違和感を感じていた。
『何か頭にモヤがかかったような感じなのよね』
そういつの間にか頭の中を覆ったこのモヤが中々晴れる事が無い。現状睡眠はとれており、夢見で悪夢に襲われるような事もない。たた朝起きると何故か頭の中でモヤがかかる。そんな生活をここ数週間味わっていた。
『まあ取りあえず、もうじき夏期休暇に入ります。ノンフォーク領に戻れば気分も晴れますでしょう』
実力試験も終わり、学院は長い夏期休暇を迎える。7月の中旬から8月の終わりまでの約1ヶ月半、この長い期間、学校に残るもの自領に帰るものと様々だが、セリアリスはここ最近の体調も考慮し、自領に帰る事を決断している。
セリアリス以外の生徒会メンバーは、皆王都に家もある事から、王都に居残り。セリアリスはユーリを誘ってみたのだが、彼女は彼女で神殿の職務があるらしく、その間は神殿と実家を行ったり来たりと比較的忙しいらしい。
『そう言えば、レイはどうするのかしら?』
セリアリスはもう一人の友人の顔を思い浮かべ、その行動を想像する。
『レイは、実家には帰れないでしょうね。往復で夏休みが終わっちゃうし。なら寮に居残りかしら。もし予定がないのなら、家に遊びに来てくれると嬉しいのだけど。そうだ、今度の機会に、声を掛けて見ましょう。また護衛って事でいいわね。そうしましょう』
セリアリスはそう考えると少しだけモヤが薄くなる気がする。そして既に心の中で決定事項として、レイに会うのを楽しみにするのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方のレイは困っていた。既に方々から情報を集め、セリアリスの呪を解除する方法が自身でなんとかするしかないとの結論に至っていた。だからこそ困るのである。
『いつどうやって解除するか』
そう、問題はその一点に尽きる。この際、セリアリスに自分が精霊の寵愛者である事がバレても致し方ないという部分までは、納得していた。ただその他の人間にそれをバラす事までは考えておらず、その機会が中々取れない事に悩んでいたのだ。
まず第一にセリアリスが一人でいる時間が圧倒的に少ない。基本、学校外では侍女のレミアさんがついている。レミアは、ノンフォーク領からセリアリスの世話をしている侍女の女性だ。セリアリスとレイが友人関係である事は認識してもらっているが、お茶会にしても近くに彼女が控えている。勿論、セリアリスが人払いとして、彼女を遠ざける事は可能なのだが、ここ学院内でレミアさんを遠ざけて、そのように二人っきりで会うとなると狭い世界だ、どんな醜聞が立つか判らない。それでなくても先の交流会で、セリアリスとダンスをしたことが意外にも知れ渡っている。勿論、関係を疑われるような噂ではないが、怪しい行動をすればそれこそ火に油を注ぐような勢いで、噂が広がりそうである。
では、学院中はどうかと言うと、それこそ一人での行動はまずない。休み時間は勿論、放課後に関しても生徒会面々や学友がセリアリスの周りには、少なからずいる。ユーリに協力をして貰ってとも思うが、彼女は彼女で王妃訪問後、より積極的に話しかけてくるアレックスによって中々話せる機会がないのだ。
『新学期までには解決したいんだけどな』
もうすぐ夏休みになる。夏休みに入るとそれこそセリアリスとの接触する機会が無くなる。人伝の話だが、彼女はノンフォーク領に戻るらしい。となると王都に残るつもりのレイとしては、会う機会はなくなる。彼女の体調面を考えると夏休み前の決着しかなく、だからこそ困るのだった。
『はあ、まあ今日の経営学の講義の前後で、時間を作ってもらうしかないか』
レイとしては既に自分一人で解決する事を諦め、もう一人の当事者であるセリアリスに相談する事を決める。夏休みまで残り3日。経営学の授業も今日が最後である。セリアリスと同じ授業はこの一コマしかなく、何とかここで渡りをつけようと決意した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして迎えた経営学の授業。ただしここでセリアリスに積極的に話しかける真似はできない。彼女の前の席には、アレックスとエリクがいるからだ。そしてその隣にはエリクの妹エリカもいる。ユーリはこの講義を受けておらず、この場にはいない。レイは、できれば講義が始まる前にセリアリスに連絡をつけたいと思い、さてセリアリスにどう連絡を取るかと考える。
『シルフィ、ちょっとお使いをお願いできる?』
『レイ、何?オ使イ?』
『そう、お使い。セリアリスにだけ僕の声を届けてくれる。それとセリアリスの返事を僕に届けて』
『ウン、オ使イ、オ使イ、セリーニオ使イ』
レイは少しだけ無邪気なシルフィに笑みを零すと、小声でセリアリスへの伝言を伝える。
するとセリアリスの肩がビクッと震え、彼女は慌てて周囲を見渡す。ちなみに隣にいるエリカは、何事かと思い、何やらセリアリスに話しかけているが、セリアリスは苦笑しながらなんとか誤魔化しているようだ。そしてそれが一段落して、彼女はボーッと外の景色を眺めているようなフリをして、暫くするとレイの耳に彼女の綺麗な声が届けられる。
『ちょっとレイ、いきなり変な方法で声かけないで頂戴。思わず声がでそうになったし、エリカ様に誤魔化すの、苦労しちゃったじゃないっ。それと私もレイと話したい事があるから、お誘いはOK。殿下たちとは上手く別れるから、いつものところで待ってて。レミアがいると思うから』
レイはその返事を聞いて一つ笑みを零すと端的に、『了解』の返事をシルフィに届けて貰い、ホッと一息付く。セリアリスも一瞬だけレイに向けて笑みを見せた後、授業が始まるまでの僅かな間、静かに時間が過ぎるのを待っていた。
そして授業が終わり、レイは一人一足早く教室を離れる。向かうのはレミアが待機しているはずの侍女たちの控室。レイはそこでレミアを呼んで貰い、この後セリアリスとのお茶会をする旨を伝える。レミアさんは年の頃25歳前後の綺麗な女性だ。元々男爵家の三女でノンフォーク公の寄子の家系らしく、随分前からセリアリスの侍女として仕えているらしい。レイとは学院への護衛同行の際に知り合い、今では普通に事情を察して動いてくれるまでには信頼を得ている。
「畏まりました、レイ様。いつもお嬢様の我儘にお付き合い頂き、有難うございますね」
「いえ、学友として、それにカエラ様からもお声をいただいていますので、この程度は全然問題ないですよ」
レイはそう言って、ニコリと笑顔を零す。ただレミアは少しだけ憂慮の表情を浮かべ、小さく嘆息する。
「とはいえ、私も男爵家の娘ですからわかりますが、上位貴族の方とのお付き合い、まして異性の友人ともなると色々お気遣いされますでしょう?ましてお嬢様は第一王子の許嫁なのですから、レイ様のご苦労は良く判りますわ。ああ、それとこのような愚痴はお嬢様には内緒でお願いしますね」
ちなみに彼女はそうは言うが、セリアリスを慮っての発言だ。それがレイもわかるからこそ、軽く笑い飛ばす。
「ははっ、判ってますよ。セリーも立場がなければ気安く付き合えるのですけど、流石にその立場が立場ですから。レミアさんにも苦労をおかけしますが、友人として、これからも彼女をお願いしますね」
「はい、それは勿論。ああいう方だからこそ、私も気兼ねなく接する事ができますもの」
「そうですね、それがセリーの良いところでもありますから。あっそうそう、夏の期間は、ノンフォーク領に戻られるのですよね?」
「はい、ここ最近お嬢様のご体調が優れませんので、やはり王都で気苦労もあるのだと思います。ですので、この夏期休暇は自領に戻って、のんびりと静養なさるおつもりです」
レミアは柔らかい笑顔でそれに答える。やはり彼女もセリアリスの体調不良を心配していたらしい。勿論、それで事態が解決するなら問題ないのだが、原因がそこではない事を知っているレイは、苦笑いを浮かべる。
「それで体調が戻られればいいですよね。彼女は凛としている姿が似合う女性ですから」
「はい、きっと大丈夫ですわ。お嬢様ならきっと元気になられますわ」
そうすることで良くなると疑ってないレミアは、溌剌とした笑みを零す。レイもまたそうできるようにと、改めて決意をするのだった。




