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第四十三話 老紳士の訪問

 ユーリとセリアリス達が王妃の元へと訪問をしているタイミングで、レイは二人の老紳士からの訪問を受けていた。


「御爺様、アナスタシア卿、本日はご訪問頂き有難うございます」


 レイが訪問を受けていたのは、ユーリの養父であるアナスタシア枢機卿とレイの母方の祖父、ドンウォーク元子爵だった。レイの元に先触れの使者が来たのが昨日の夜。そしてその次の日の午後一番に訪問となっている。


「いや、こちらこそ急な訪問で済まないね。デニス君にもわざわざご足労願ってしまって」


「いやなに、儂は可愛い孫の顔が見れるので、問題ないがの。とは言え、サイアム君がわざわざ孫に会いに行くというのは驚いたがの」


 そう言って2人は友人らしい気さくな掛け合いで、会話を始める。レイはそんな2人の会話を眺めながら、本日の訪問の意図を想像する。


「それでアナスタシア卿、本日の訪問の目的は当然、ユーリ様の事という事で良かったでしょうか?」


「ああ、うん、先日ユーリから話を聞いてね。その事で色々と君の話を聞ければと思ったのだ。ユーリの言う『約束』の事を含めてね」


 レイはそこで首を縦に一つ振る。ただ話の成り行きが判らないデニスは、首を捻ってアナスタシア卿を見る。


「サイアム君、話の腰を折ってすまんが、そのユーリ君の話と『約束』?とは何のことじゃ」


 ただそれにはレイが返答する。


「御爺様、それは俺からご説明します。アナスタシア卿も俺の認識とユーリ様の話との齟齬が無いかを聞いていただければと思います。事の始まりは、今日ユーリ様達が王妃の元に訪問している事に起因します。端的に言うと、ユーリ様が第一王子であるアレックス様の側室候補に挙がっていて、ユーリ様は現時点では前向きに話を捉えていません。それで本人が思い悩んでいたので、俺が一つの提案を彼女にしたというのが、今回の話です」


「ふむ、パッと聞いた話だと、良い話の様にも思うが、本人が乗り気ではないのか?」


 するとそれにはアナスタシア卿が、悩ましげな表情を見せる。


「まあ、はっきり言えば、その気がなさそうじゃの。あの子は元々平民の子じゃ。今はこうして私の養女として貴族の立場にいるが、それすらも正直荷が重いと思っているようじゃの。まあ私個人としても、彼女を世間の目から守る意味でそうしたところがあるから、そこを強要する気はないのだが」


「ええ、ユーリ様はそういったアナスタシア卿の優しさに凄く感謝をしています。だからこそ、今回の側室候補の件は思い悩む訳です」


 すると少しづつ全体像の見えてきたデニスがその髭に手をやり、考えるように扱く。


「うーん、ユーリ君は乗り気ではないが、サイアム君に恩義を感じているので、アナスタシア家に迷惑をかけるような事も出来ないと思い悩んでいるという事かの?まあ相手が王家だとアナスタシア枢機卿とはいえ、中々無下にもできんか」


「私はユーリには、アナスタシア家の事は気にしなくていいと言ったんだけどね。まあ正直、王家とは言え、王妃様の意向がその方向になると、その背後のロンスーシー家の考えも考える必要があるから、悩ましいところではあるのだけどね」


 アナスタシア卿はそう言って、悩ましげな表情を見せる。するとデニスはその悩ましい状況を我が孫がどうやって解消しようというのかが、気になってくる。どう考えても子爵家嫡男程度では、どうこうできる話ではない。ただ相対する孫には気負う様子は見られないので、余計気になるのだ。


「で、その解決にあたって、レイ、お前は何を『約束』したのじゃ?正直、儂なら匙を投げている内容じゃぞ」


「ハハハッ、御爺様ならわかるかと思ったんですが、昔似たような状況にお遭いになった事があったのではないですか?」


「はて?似たような状況?」


 デニスはそう零すと、もう一度頭を悩ます。ただそう時間をかけずに、ニヤリと顔を歪ませる。


「クククッ、お前、レイネシアと同じことをするつもりか?クロイツェルに逃げるんだな?」


「はい、あくまで最悪の事態にはという前提ではありますが、彼女にはいざとなったら攫うと『約束』しました」


「ワッハハハーッ、流石は我が孫、いやカイン殿の息子か。うんうん、そうだな、それがよかろう」


 すると脇で見ていたアナスタシア卿が当惑した表情を見せる。今日彼の祖父に同席を願ったのは、そんな無茶な『約束』など反故にして構わないという話をするつもりで、その後押しをデニスには期待していたのだが、何故か友人は、孫の方に賛同してしまった。するとそのアナスタシア卿に対し、レイは、真っ直ぐな視線を送る。


「アナスタシア卿、恐らく父や母、そしてドンウォーク子爵家の方々も基本俺の考えは反対されません。何せ前例がありまして、俺の父であるカインは、母レイネシアを学校卒業と同時にクロイツェルに連れ帰っています。これは私も最近知ったのですが、どうやら母を国王の側室に迎え入れるという話を反故にしてと、聞いております。ですので、まあ俺がユーリ様と夫婦になる云々は別にして、連れていってもそう問題にはならないでしょう」


「そうじゃの、あの時のカイン殿の行動力には、儂も感心したもんじゃ。レイネシアも最初から王家に嫁ぐ気が無かったというのも大きかったんだが、卒業と同時に婚約し、さっさとクロイツェルへ連れ帰ってしまった。儂の時は、既に婚約している相手の元に行ったのだと上には説明をして、事なきを得たがの」


「そうなるともし最悪の事態には、レイ君はユーリと添い遂げてくれるというのかい?」


 すると一転、アナスタシア卿は鋭い視線をレイに送る。レイはそれを泰然と受け止める。


「すいませんが、現時点では、そこまでは考えていません。多分そうならないだろうと思っているのもあるのですが、彼女の持つものは血と名によって受け継がれている俺の加護とは違って、別の使命的なものを帯びているような気がするので」


 するとそこでアナスタシア卿が大きなため息を吐く。この若者は何処までもユーリの事を考え、そして彼女が背負うものを見定め理解しているのだと。


「成る程、ユーリが君を信頼する理由がわかった気がするよ。うん、もし最悪の事態になった時には、君に彼女を頼むとしよう。ああそうそう、その際には王都では婚約していたという事で言い逃れをするから、それはそれでよろしくね」


「はっ?いや、今もお話した通り、俺自身はそういうつもりで彼女を攫うと言ったわけでは無くて、それにそこは彼女の意志も尊重してもらって……」


「ハハハッ、なになに、そう慌てなさんな。あくまで最悪の事態が起こらんように、私も最大限努力はさせて貰うからの。それに本人の意志に関しては、そう心配しておらん。少なくても現時点で友人として信頼に足る相手だとは思っておるようじゃからの」


「ほほう、レイの嫁候補は、伯爵令嬢で聖女様か?レイネシアも学院随一の美女と謳われておったが、それ以上の大物じゃの。クククッ、ミリーゼあたりが聞いたら、小躍りして触れ回りそうじゃわい」


「いや、御爺様?あくまでこれは仮の話ですので、他言無用ですよ?ミリーゼさんとか、絶対に駄目ですよ?」


 なにやら二人の老紳士が嬉々として囃したて始めたので、レイは慌ててそれを諌める。仮にレイがユーリを連れ帰った後に関しては、どうしようもないのかもと薄々思い始めているが、それ以前にそのような噂がたったら、最早目もあてられない。


「わかっておる。ただ儂の老後の楽しみが一つ増えただけの事じゃ。なあサイアス君」


「フフフッ、そうだねデニス君。元々ユーリは私にとって今一番の楽しみだ。その楽しみが更に膨らんだよ」


 そう言って2人の老紳士は、更に仲良さげな会話を始める。レイは、渋い表情を見せながら、子爵嫡男には荷が重いと、心底思っていた。



 そしてその会話が一段落し、そろそろ二人が帰ろうかという段で、レイが思い出したかのように、アナスタシア卿へと質問する。


「アナスタシア卿、すいません、最後に一つだけ聞きたい事があるのですが、現神殿にて呪を浄化するのに優れた方はいらっしゃいませんか?」


「呪いかい?ユーリでは駄目なのかい?」


 レイはその返事で落胆する。ユーリは浄化はできなくはないが、得意としている訳ではない。ただアナスタシア卿が真っ先に挙げた名が、ユーリだとすると、正直望み薄だった。


「そうですね。呪の種の開花が、まだ初期の段階のようで。正直、彼女には荷が重いと思います」


「うーん、その段階の呪に良く気が付いたというのと、感知できなければ浄化できないものでもあるから、気が付けないというのであれば、難しいだろうね」


「そうですか。ちなみに呪術というのは、神殿ではどのような扱いなのですか?」


 レイは興味本位に神殿としての呪術の見方についてアナスタシア卿に聞いてみる。


「呪術自体は、害にもなるが益にもなる。なのでそれ自体は、神殿としても禁忌とするものでは無いね。ただ、やはり危険なものも多く、呪の種などはその一つだから、そう言ったものに関しては厳しい目を向けている。とは言え、ここ王都でも昔からその手の呪術を生業とするものは少なくないし、特に貴族と繋がっている存在もあるしね」


「暗殺を生業とする、ですか?」


「そう、そういう地下に潜った組織は、ここ王都では昔から存在する。何度か摘発もされているけど、結局は、下っ端を捕らえてそれっきりという事も多いから無くなる事もない。貴族もそういう需要があるから、徹底的とまではいかないんだよ」


 アナスタシア卿はそう言って難しい顔を見せる。貴族であれば、その相続権で骨肉の争いというのは少なくない。最近だとジークの暗殺未遂や今回のセリアリスもそうだ。実際にその組織を捉えたとて、その首謀者に辿り着く事さえ困難だろう。


「ちなみに王都でそう言った組織の取り締まりは、神殿でされているんですか?」


「いや、我々神殿は、救済はするが取り締まりは役割ではないね。そっちは王城内であれば近衛の役割だし、王都内であれば、国軍の仕事だ。統括はノンフォーク公が為されているね」


「どうしたレイ、何か心配事でもあるのか?」


「いえ、呪に関しては、可能性のありそうな方がいらして、ちょっと情報を集めている段階でして、すいません、アナスタシア卿。興味本位でお話をお伺いしてしまいまして」


「なんのなんの、まあもし呪術が重くなったら相談してくれるといい。場合によっては公国から上位の聖魔法使いを呼んでもいいのでの」


「はい、有難うございます。お願いする機会がありましたら、よろしくお願いします」


 レイは丁寧に頭を下げ、お礼を言う。アナスタシア卿はそんなレイを好ましい目で見ながら、友人であるデニスと連れだって、その場を後にした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんで、おじいちゃん二人とも、呪いについて詳しく聞かないんだろう? 普通、誰がかかってるの?とか聞きそうなものなんだが。。。、 [一言] 基本的に面白くてサイコーです!
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