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第四十一話 呪(シュ)

「正直まだわからないのですが、国王陛下の事です」


 セリアリスが発した言葉の相手が思わぬ人物だった事で、レイは軽く目を剥く。


「国王陛下?」


「ええ、国王陛下は今病の床に伏しています。これは国の中でも上層部しか知らない事実なんですが、先日、お見舞いをする機会がありまして」


 セリアリスは、レイの言葉に首を縦に振り、飛んでもない事を言い出す。国王が病に伏している?えっ、それって聞いても良い事なのかと、レイは慌てだす。


「いや、セリー、ちょっと確認なんだけど、その話って俺が聞いても良い事?それにユーリもいるけど」


「別に今の段階では憶測に過ぎないし、ああでも国王陛下が病床に伏している事は秘密にしてもらう必要があるけど」


 セリアリスはサバサバとした表情でそれを受け止める。レイはそんなセリアリスの態度を見て、どこか違和感を感じつつも先を促す。


「うん、わかった。秘密は当然として、話は進めてくれる?」


「ええ、悩みはその国王陛下の事でなんとなくですが、国王陛下が倒れられているのは、単純な体調不良や病気などではない気がするの。ううん、何故だか判らないけど、確信しているし、そう思うと不安が広がるって言うか。ユーリの事もその後から何か不安が広がったような気がして」


 レイはなんとなく要領を得ない話だなと思う。一言で言えば、セリアリスらしくない。そもそもセリアリスにとって国王陛下がそこまで重要な人物なのかもピンとこない。まあ臣民としては心配かもしれないが、不安が広がるというほどまでになるだろうか?とレイは疑問に思う。


「うーん、いくつか質問していい?そもそもセリーって、国王陛下と親しいの?それと確信って言ったけど何かしら根拠的なものってあるの?その根拠の根拠はいらないから、単純に思いつくものでいいから教えて」


 するとセリアリスは思案する表情を見せて首を傾げる。


「国王陛下と私の関係は、親類としての付き合いでしょうか。お父様と国王陛下が従兄弟同士ですから、私も幼い頃からお会いはしております。ただ例え親類とはいえ、国王陛下ですから、おいそれとお会いできるような間柄ではありません。それと根拠?んー証拠的なものでしょうか?うーん、あれ、なんで私確信しているんでしょう?」


 すると自分の確信に不安を持ち始めてセリアリスの顔がより一層青ざめる。セリアリスの隣に座っていたユーリが慌ててセリアリスを支えて、声を掛ける。


「セリー大丈夫?さっきより顔色が悪くなったみたいだけど」


「ご、ごめんなさい。いまこの話をしたら一層不安が大きくなったみたいで、ユーリの事で不安が軽くなったから、ちょっと持ち直した気になったんだけど」


 やはりその様子を見て、レイは違和感を覚える。今日のセリアリスは確かに体調は良くなさそうであったが、本人が言う様に、少し良くなった気がした。それがこの急変ぶりである。


「セリー、取り敢えず今日はここまでにしないか?体調が悪くなったのとその理由は分かったから。ユーリ、悪いけどセリアリスを部屋に連れて行ってあげて。国王陛下の事は、俺も考えて見るから」


「うん、分かった」


 レイはセリアリスの体調を優先し、今日は打ち切りを提案し、ユーリも素直に同意する。セリアリスも体調が悪いのか、申し訳無さそうにはするが、それを否定しない。


「レイ、ごめんなさい。そうしてくれると助かるわ。ただ、今日は話せて嬉しかった。ありがとう」


 弱々しく語られるその言葉にレイは笑顔を見せる。


「俺の事は気にしないで良いよ。友人を気にかけるのは、当然だから。それと出来るなら、国王陛下の事は考えない事。セリアリスが考えても答えは出ないからね」


「ええ、そうしたいのだけど、何故かその想いが湧いてきちゃうの。でもそう出来るように努力するわ」


 そう言って、その場は解散となる。セリアリスとユーリは、そのまま寮の部屋へと連れ立って歩いていく。レイはそれを見送った後、考えながら男子寮へと戻る。


『やっぱ変だな。そもそも国王陛下の体調不良の理由にセリアリスが思い悩む理由が薄い。これがノンフォーク公ならまだわかるけど、うーん、やっぱピンとこないな?』


 そうセリアリスが体調を崩すほどの内容ではないのだ。それならユーリの事の方が、よっぽど思い悩むべきなのだ。するとそんなレイの思考を読むように、水の精霊ウィンディーネが話しかけてくる。


『主様?』


『うん?ディーネ、如何したの?』


『先程のシルフィのお気に入りのことです』


『セリアリスが如何したの?』


 レイはディーネから話しかけられた事にも驚いたが、それがセリアリスの事だと聞いて、もっとビックリする。


『かの者、(シュ)がかかってます』


『へっ?呪って、呪いかい?』


 ディーネの突然の指摘に思わず、実際の声が出そうになる。それぐらい驚きの指摘だった。


『私は液体の中にあるものを見る事が出来ます。その中に呪が混じっているのを感じました。恐らく体調の不良もそれが原因でしょう』


 レイは液体という事は、その血に呪いが混じっているのかと想像する。


『それって結構不味いもの?』


『呪自体は軽いものでしょう。ただゆっくりと育ち重くなります。その(かて)は不安や焦燥、そして恐怖といった類でしょうか。恐らく呪を大きくする言霊があるのではないかと』


 その話を聞いて、レイは少しづつパズルのピースが埋まっていくのを感じる。


『ディーネは何で呪が分かるの?』


『呪自体は魔力を含むものですから。恐らく呪の含むものを食べるか飲むか、私が感じれるという事は、恐らくは飲み物を摂取しています』


 ここまで聞いて、レイは思い悩む。セリアリスを狙っての事なのか?それともそれ以外の要素か、それと誰がいつというのも問題だ。


『ディーネ、それは君で祓える?』


『出来ますが、現界する必要があります』


 ああそうか。やっぱそうなるか、とレイは溜息を吐く。うん、そうなると事は厄介だ。例え加護持ちとはいえ、精霊を現界させる事は出来ない。それが出来るのは、契約者か寵愛者だけだ。


「ああ、やっぱ面倒事だったか」


 レイはそこで遂に声を漏らす。幸い周囲には人がいないので問題無いが、一人でブツブツ言っていたら怪しまれる。ただそう言わなければいけないくらいの面倒事だった。すぐ解決すべき事と干渉すべきか考える事、またその背後関係や目的まで、考えるべき事は一杯だ。


『何も試験期間でなくてもいいのに』


 レイはそう思いつつ、重い足取りで自室へと戻るのであった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 呪術と言うのは、広義では魔法の一種である。魔力を使い、その体内を侵食する。そう言う意味では毒であり、病気に近いものなのかもしれない。一般的には受けた呪いは聖魔法で浄化出来る。但しその呪を感じ取れる事が条件であり、感じ取れなければ浄化出来ない。つまり呪いがかかっていると感じなければ、浄化出来ないのだ。そして厄介な事に微量の呪いであれば、感知する事が難しい。呪いが育って大きくなるまで、浄化出来ないのだ。


 セリアリスの側には、神の加護持ちのユーリがいるが、得手不得手はあるにしても感知出来ていない。普通の聖魔法使いでは感知出来ない事を意味している。


 ただここに関しては、手段は有る。ディーネを現界させ、その呪を浄化する。ディーネが出来るという以上、問題無く解決出来るだろう。ただその場合、隠し事を明かす必要があるのだが。


 だから今、レイは魔法体系学の講師であるミリアムのところに来ている。その呪の事に一応の知識と理解がある為、教えを乞うているのだ。


「……と言った所が、一般的な知識だな。まあ私は体系の一つとして呪術は理解しているが、専門家には敵わない。より深い内容となると、専門家に教えを乞うのも一つだぞ」


 ミリアムはそう言って、話に一区切りをつける。レイは聞いた話を吟味しつつ、おさらいの意味も込めて確認する。


「浄化は聖魔法の方でも誰でも出来るという訳では無いという事ですか?」


「聖魔法と一括りにはしているが、信仰する神により若干差異が生じる。浄化を得意とするのは、至高神アネマの信者が多いな」


 因みにユーリの加護を授けた慈母神は、癒しに特化しており、浄化に特化はしていないようだった。


「アネマですか。神聖オロネス公国あたりでは信者も多いと聞きますが、ここエゼルバイトではあまり聞きませんよね」


「お前のその知り合いを浄化云々なら、学院だとエリカ・ミルフォードあたりなら可能性があるかも知れんぞ。アレはアレで優秀な聖魔法使いだからな」


 実は既にその可能性も選択肢には入っている。ただ事を大事にはしたく無いし、現時点で生徒会内で一緒にいるのに気付いて無さそうなので、期待薄とは思っていた。


「有難うございます。そちらはそちらで、視野には入れさせて頂きます。それとその術者の特定なのですが」


 レイは浄化は既に解決方法があるので、そこまで執着はしていない。問題は事の真相の究明であり、よりここが重要なのだ。


「呪術の術者は、その魔力の質で特定出来ると言われておる。浄化出来る術者がその魔力の質を理解し、特定するという話だ。だが、それは些か乱暴なもので、その相手と断定するには弱いものだ。まあ嘘を言われて冤罪というのは十分有り得るからな」


「でもそれだと犯罪には凄く有用な手段になりませんか?」


「ははっ、それはその呪の種が育てばの話だ。大抵は育たず朽ち果てる。呪の種とはその程度のものだ。但し育てば厄介極まりない。何故なら誰も呪いとは気が付かずに、蝕まれていくからな」


 レイは何故セリアリスの呪の種が育ってしまったかを考える。セリアリスの心は決して弱くない。むしろ強い部類だろう。でも強くあろうとするのには、多少の無理もあるものだ。その無理につけ込まれたと言われれば、その可能性も否定は出来ない。まあ誰がについては検討の余地は有るのだろうが。


「ああそれと呪というのは厄介で、種自体は対象を指定するものではない。誰に植えても構わないし、比較的簡単に植え付ける事が出来る。狙った相手から他の誰かが貰い受ける事もある。まあその場合、より一層育つ確率は下がるがな」


「ならそれこそ術者の特定は困難ですね。そっちは諦めるしか無いのかな」


「まあその呪を浄化出来れば、御の字だろう。それはそうとレイ・クロイツェル、お前試験は大丈夫なのか?まあ我がDクラスで一番の優等生のお前だ。抜かりは無いと思うが」


 レイはその言葉に顔を顰める。何故かミリアムのレイに対する評価は高い。まあ成績もそれなりの結果を出しているので、仕方がないが、ジークやメルテなどの優秀者もいる。自分としては、目立ってないと思いたいのだ。


「そちらはボチボチ頑張ります。ほら、子爵家嫡男程度で首席卒業とか必要ないので。そう言うのはジークに期待して下さい」


「あれはダメだ。お前以上にやる気が無い。ちなみにメルテも魔法以外はダメだし、座学ならアンナが優秀なんだが、引っ込み思案だしな。Dクラスはその辺、個性が強くて困る」


「まあミリアム先生、そこがDクラスの良い所ですよ。優秀なのはAクラスに任せましょう」


「チッ、クラス成績で私の査定も変わるんだ。手を抜いたら地獄を見せてやるから、覚えておけよ」


 そう言ってミリアムは獰猛な表情でレイを睨みつける。レイは愛想笑いを浮かべ慌てて礼を言いつつ、その場を逃げ去った。


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