第三十九話 体調不良
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交流会も終わり、夏休みを前にしたタイミングで学院では実力テストの期間へと移行した。ユーリ達生徒会女子の王妃の元への訪問はこの実力テストの後に行われる手はずとなっている。なのでテスト前までの期間、アレックスは積極的にユーリに対しコミュニケーションを取ろうとしていた。
「ふむ、ではユーリ嬢の聖魔法は治癒系の魔法に特化している訳だな」
「はい、元々神殿では慈善活動で治癒を担当していたので、その系統が得意になってしまいました」
「いや、その治癒魔法が凄いではないか。範囲内の負傷者を纏めて治癒するなど、聞いた事もないぞ。それに、部位欠損も完全に復元できるなど、規格外もいいところではないか。勿論、毒や麻痺なども解除できるな。治癒系という面では、まさにエキスパートだろう」
アレックスはそう言って感心する。前世の記憶のキャラ設定どおりではあるのだが、能力は十二分に育っている。これに神の託宣を得た後、彼女は聖剣付与の権能も得る。この聖剣付与は、ユーリのみの権能で、彼女をパーティーに入れる入れないでは、その後の戦闘パートの効率が全然変わるのだ。特にアレックス自身と剣技に特化したアレスとの相性は抜群で、図らずもその二人がユーリに興味を持つのは、ある意味必然だったのかもしれない。
「いいえ、まだまだできる事が少ないと感じています。本当であれば、アンデッドの浄化や呪術の類の解除もできるようにならないといけないのですが、そっちは私よりもエリカ様の方が、お得意ですし」
ユーリはそう言って、エリカの方を見る。エリカはエリカで謙遜して、ユーリを誉めそやす。
「それこそ私は部位欠損などの治癒はできませんから、ユーリ様には及びません。それに浄化に関しては、私の信仰する至高神アネマ様の御威光が大きいのだと思います。慈母神様デメルテ様は癒しに特化されてますから」
「フムフム、結論、二人とも優秀という事だな。セリアリスも雷属性という希少な属性の持ち主だし、私もうかうかしておれんな」
「アレックスはそれこそ規格外でしょう。その魔力量もその剣技も最早学院最強と言っても過言ではないでしょう。剣技だけで言えば、アレスは互角以上でしょうが、魔法もありというと、流石に勝ち目はありません」
そう言って、その会話に割って入ってきたのがエリク。エリクの評価はもっともな所で、実際にアレスと剣技のみでの勝負はややアレスに分があるが、魔法込みではアレックスは負けた事が無かったからだ。
『まあアレスの場合、武器で魔法付与の特別なものを使えば、一気に火力が上がるから、一概には言えないのだけどね』
アレックスの場合は、基本能力が高いので、そこそこの武器でも立ち回れるが、アレスの場合は、武器次第で、ハズレキャラにもなりうる。だから、卒業の前段階で、古代遺跡の攻略に赴く必要があった。
「魔法は確かに大した才能は持ち合せていませんから、そこはアレックスに及ばなくても仕方がないと諦めています。その上で、剣技は劣る事が無いよう精進するしかないと思っています」
「私としては、その剣技でもアレスに勝ちたいと思っているのだけどな」
アレックスはそう言って、ニヤリとアレスに声を掛ける。するとユーリが綻んだ笑みを見せて、その掛け合いの感想を言う。
「アレックス様もアレス様も好敵手でいらっしゃるのですね。私もエリカ様に負けないよう努力しないと」
「私はユーリ様にそう言っていただけるだけで、十分なのですが、でもユーリ様に置いていかれないよう、精進致しますわ」
アレックスはそんな風に言いながら笑みを交わす二人を見て、満足そうな表情を浮かべる。ただそんな和気藹々とした会話の中で、一人言葉を発していない人物が気になり、そっと目をやる。
「どうした、セリアリス?随分と静かではないか?」
「あっ、いえ、すいません。少しボーッとしてしまっていたみたいです」
「うん?気分でも優れないのか?なら、ユーリに治癒魔法でもかけて貰ったらどうだ?」
「いえ、大丈夫です。ただ今日はこれで、先に帰らせていただければ……」
「うん?もうテスト期間だ。無理をする事もない。今日のところは帰って休め」
アレックスは余り体調の良くなさそうなセリアリスを慮って、気遣いを見せる。アレックスは別にセリアリスを邪険にしている訳ではない。こういう時には相応の気遣いは見せる。そんなアレックスに対し、セリアリスは申し訳なさそうな表情を見せるが、やはり体調が優れないのかそれを受け入れる。
「すいません、ではそうさせて頂きます」
セリアリスは席を立ち、生徒会室から外に出ようとしたところで、立ちくらみがしたのか軽くよろける。それを慌ててユーリが支えると、そのままの姿勢で、アレックスに言う。
「アレックス様、すいません。私もセリアリス様にお付添いしますので、今日はこれで失礼します」
「ユ、ユーリ様、貴方は……」
「駄目です。そんなセリアリス様を放っておくことはできません。ほら手をお取りになって」
ユーリは半ば強引にその手を取って、セリアリスを支える。アレックスも流石にその状態で、ユーリを引き留める事は出来ず、二人は連れ添いながら生徒会室を後にする。
『セリアリスが体調不良なんて珍しいな。まあ、この辺で発生するイベントはないはずだ。なら、多分大丈夫だろう』
アレックスはそんな2人を見送りながら、比較的呑気な事を考えていた。ただこれが今後発生するイベントの兆しであるとは、露にも思っていなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ねえセリー、本当に大丈夫?」
生徒会室を出た後、そのまま寮に向かう途中で、ユーリは心配になりセリアリスに声を掛ける。
「ごめんなさい、迷惑を掛けちゃって。でもここ最近、なんだか体調がおかしくて」
心配するユーリに対し、素直に体調不良を告白するセリアリス。親身になって心配してくれる相手に対し嘘はつけない。そんなセリアリスに対し、ユーリは親身になって言う。
「アレックス様じゃないけど、一度治癒魔法をかけようか?正直、病気の類だと効果はないのだけど、やらないよりはマシでしょ?」
勿論それは気休めだ。治癒魔法と言っても万能ではない。自然発生した病気には効果はないし、病気による体力損耗にも治癒効果はない。そこは薬草なりの薬に頼る分野なのだ。そんな事もわかっているのか、セリアリスは首を横に振る。
「ううん、それはいいわ。その気遣いだけで十分。実はもうお医者様にも見て貰っているのだけど、過労だろうとは言われているの。だからそんなに心配しなくても大丈夫よ」
セリアリスはそう言って、少し気丈に笑顔を見せる。ただそんな弱々しい笑顔を見せられても、正直、心配は減らない。それに先ほどからセリアリスの表情に違和感も感じる。ユーリはこれまで、慈善活動で様々な病の人々を見てきた。そんな人達の中には、悩み事や心配事など心に負荷がかかって体調を崩すものも多かった。そこでユーリはピンとくる。
「ちなみにこの事って、レイは知っているの?」
「ううん、知らないわ。レイには交流会が終わった後から会っていないし、それに体調が悪いのを教えても変な心配をさせるだけだし」
セリアリスは首を振ってそれを否定すると、ユーリが両手を腰にやり、その考えを拒否する。
「駄目よ、病は気からって言うもの。セリーが心の中で抱えているものがあるんでしょ?ならそれを吐き出す必要があるんだから、レイのところに行きましょ」
「えっ、私は別に溜め込んでいるものなんて」
「あるでしょ。溜め込んでいるもの。もしかしたら私も関係している事。体調が悪いのも本当なのだろうけど、原因もセリーはきっとわかってる。でも私も関係しているのなら、私には話しにくいのかも知れない。だからレイのところに行くの」
ユーリには途中からそう確信めいたものを感じていた。体調不良の原因、それは気に病んでのものだ。ただ何に対して気に病んでいるのかは判らない。ユーリ自身で解決できるものなのかも不明だ。だからこそ、助っ人を呼ぶ。セリアリスも信頼していて、その荷物を一緒に背負ってくれる人物をだ。
「はぁ、ユーリは本当に強引ね。でもこれちょっと重い話だから、レイにもどうする事も出来ないと思うの」
セリアリスはそう観念しつつも、まだ戸惑っている。それはそうだろう。体調を崩すまで、思い悩んでいたのだ。そう簡単に話せる事ではない。でもユーリはきっぱりとした表情でセリアリスを諭す。
「気持ちは分かるけど、話せば気が楽になる事もあるし、それにレイよ?きっと嫌々ながらも助けてくれるわ」
「フフフッ、確かに嫌がりそう。でもそうね。レイだもんね」
2人は、そう言い合うと顔を合わせて思わず笑いだす。レイが聞いたら顔を顰める事間違いないやり取りで、謎の信頼を寄せるのであった。




