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第三話 公爵令嬢 セリアリス・フォン・ノンフォーク

ヒロイン候補その1ようやく登場です。

 突然のお願いという事で困惑するレイを尻目に、夫人は優雅な視線をレイに送る。


「フフフッ、変なお願いをするわけではないのよ、丁度、家の娘もそろそろ学院に向かわせるところだから、その間の話相手になって欲しいの?」


「はっ?私がセリアリス様のお相手ですか?」


「ええ、娘には学院で身の回りの世話をする侍女はつけようと思うのだけれど、近衛までつけるとなると、流石に1人に対して2人は多すぎると思うの。でも娘の事も心配だから、傍に居る方で、娘の事を気に掛けてくれるような方がいると嬉しいのだけど」


 夫人は手前で腕を組んで、右手だけを持ちあげて、その人差し指を頬に充てるとわざとらしく悩むような素振りを見せる。レイは慌てて、逃げ道を作ろうとする。


「勿論、私の目の届く範囲であれば、お助けできる時にお助けするのは、(やぶさ)かではございません。ただそれと話相手とは正直結びつかないのですが」


「あら、流石に娘も全く知らないような相手だと、いざという時に頼れないでしょ?だから、娘とは王都までの道中で、多少なりとも話をしてもらって、親睦を深めてもらいたいのよ」


「いや、流石に婚約者がいらっしゃるような方と親睦を深めろとおっしゃられても」


 レイは第一王子の婚約者であるセリアリスに対し、流石に不敬を働く気はないが、それこそ先ほど言った社交界の噂話のネタになるのも御免なので、何とか逃れようとする。


「そのくらいなら問題ないわよ。流石に襲われでもしたら、大問題ですけど。護衛や近衛といった関係ならば、現実的にありそうな話ですし、家格的にもある意味妥当だと思うの。まあ正直、打算的な意味合いであの子に近づこうとする者も多いと思うから。それに実際問題、あの子には敵となる様なものも多くなると思うの。だから信頼できる味方を付けてあげたいのよね」


 まあ、正直それは理解できる。味方になって、庇護や恩恵を受けたいと思うもの、逆に反対派閥にしてみたら、目の上のたんこぶなのかも知れない。信頼できる人物が身の周りにできるかどうかは重要なのかも知れない。とは言え、その役目をレイが担う理由はないし、そこまで夫人の御眼鏡にかなうようなことをした自覚もなかった。


「おっしゃりたい事は判りました。ただその役目は私でなくてもいいのではないでしょうか?勿論、護衛程度であれば、お手伝いするのは吝かではありませんが、信頼できる存在として評価頂けるほどのものを私は持ち合わせていないのですが……」


「そうかしら、少なくてもレイ殿は公爵家に対して媚びる事はないのでしょう?あなたの御父上もそうですが、クロイツェルの方々は、長いものに巻かれるといった気風を持ちえない方々ですから。媚びず、そして叛意を持たず、少なくとも私は、そう言う気風を好ましく思います。勿論、あの子が好まなかったり、その逆にあなたが、好まなかった場合には、お断りして結構です。その為の、旅の同行の依頼ですから。ただ願わくば、あの子の学友として、多少なり、手助けをしてあげて欲しいとは思っていますけどね」


「はぁ、過分なご評価、痛み入ります。では、セリアリス様が王都に行くまでの護衛として、参加させていただければと思います。又、その際に、多少なりともお話をさせて頂き、そのお人となりを拝見できればと存じます」


 現状では、これが精一杯だろう。勿論、レイが嫌われない限りは、学友として接すれば良いだけの話だ。


「フフフッ、レイ殿、有難う。なら早速だけど、これから娘に会って貰おうかしら」


 夫人はそう言うと近くにいた侍女に声をかけて、娘を呼びにいかせる。レイはこうなっては仕方がないので、まあなるようになるかと投げ遣りな気持ちになる。そして待つこと数十分、扉がノックされると、1人の少女が目の前に現れる。母親と同じ、薄藤色の髪をした可憐な少女。母であるカエラはもう少し柔らかいおおらかな印象を与える美人だが、目の前の少女はそれよりも勝気さと言おうか、少しお転婆なところを感じさせる少女だった。そしてその印象は次のやり取りで、間違いないものとはっきりする。


「初めまして、クロイツェル子爵の嫡男でレイ・クロイツェルと申します。この度カエラ様より、王都道中での同行を許可頂きました。浅学な身ではございますが、どうぞよろしくお願いします」


 レイは一応、先ほどの話を含めて、挨拶の口上を述べる。すると、セリアリスは少しだけビックリした後、カエラを見て、そこまでの経緯をはっきりと理解する。


「御機嫌よう、レイ様。ノンフォーク公爵家が娘、セリアリスです。とは言え、初めましてと挨拶されるのは、不快です。改めて頂きたいですわ」


 そう言ってセリアリスは両手を前で組み、フンッとばかりにそっぽを向く。レイは何の事か判らず、眉根を眇めた後、そっと隣のカエラの方を向く。カエラはそんなレイを見て、笑いをこらえるように、目線を逸らす。レイは仕方がないので、もう一度、セリアリスの方に向き直り、その顔を良く見る。とは言え、薄藤色のような珍しい髪の色の少女であれば、忘れるはずがないので、記憶に該当者など思い当たらないはずだったが……。


「は!?セリー??」


 レイはビックリして、もう一度、その顔をまじまじと見てしまう。


「ちょっ、レイ様、流石にそうジロジロみられるのは、恥ずかしいですっ」


 セリアリスは余りにレイが凝視するものだから、思わずその頬を赤らめる。とは言え、レイにしてみれば、余りにも意外過ぎて、開いた口が塞がらない。確かにレイが口にした名前の人物の面影はある。むしろ一部分が同じであれば、レイも直ぐに気付いただろう。でも一部分がまさか薄藤色になっているなど、思いもよらなかったのだ。そうすると、セリーと一緒にいた母親も確か同じ髪の色だったからと、再びカエラの方に向く。


「えっ、カーラさん??」


「フフフッ、はい、正解。もう、レイ君、中々気づかないんだもの。おばさん、ちょっとヤキモキしちゃったわ」


 カエラはそう言って、公爵夫人にも関わらず、茶目っ気たっぷりな笑顔を見せる。そして、隣にいるセリアリスと目を合わせると、二人して悪戯成功とばかりに、大笑いをするのだった。



「いやお二人が、まさかカーラさんとセリーだとは思いもしませんでした……」


 レイはそう言って、がっくりと肩を落とす。あれは5年前の夏、レイが父であるカインと共に、国外の要人やら有力な商家の人間等の会食やパーティーの場に参加するようになった頃の話である。


 勿論、レイにはそういう場を経験させる目的もあったのだろうが、基本的には同年代がいる時の相手役というホスト的な立ち位置を与えられていた。とは言え、所詮は地方貴族のそれなので、会はアットホームなものが多く、レイも同年代の子達と遊んでいたに過ぎない。今となっては、立場等も良くわからないまま、話をしていた気がする。そしてそんな遊び相手の中の一人が目の前にいるセリアリス、その時はセリーと名乗っていた。


 セリーはとある商人との商談でカーラさんと共にクロイツェル領に滞在。父はその商人との仲介で参加しており、その商談期間の途中のタイミングで簡単な懇親会が設けられ、そこでレイはカーラさんとセリーを父から紹介されたのだ。その後、彼女らは2週間程度クロイツェルに滞在し、レイは彼女達のお相手をしていた。そう考えると、今回の事は父もグルだった可能性がある。


「クロイツェル子爵からの手紙の中で、貴方が私たちの事を知らない旨は伝えられていたので、事が上手く運びましたわ」


 そう言ってカーラさんこと、カエラ夫人は嬉しそうに微笑む。レイはそれを聞いてやはり父もグルだったかと、思わず苦笑いを浮かべる。


「あらお母様、私はレイならば、もしかしたら気付くかもと思ってましたが、全然気が付く素振りもなかったんですか?」


「フフフッ、まあレイ君にお会いしたのは、前に商談でお伺いした時だけですから。むしろ会った事さえ忘れられていなくて良かったです。それにあの時は魔導具で髪の色も変えてましたから、気付かなくても当然でしょう」


 セリーことセリアリスはそう言って少し不満げな表情を見せるが、カエラ夫人は流石にそれは酷だろうと、やんわりレイのフォローをする。レイは少し困った表情を見せながら、双方に弁明をはかる。


「カエラ様にはそう言っていただけて、大変恐縮です。まだ未熟な子供の頃でしたので、お二方が、公爵家に連なる方だと存じ上げず、誠に申し訳ありませんでした。セリアリス様も、その当時から随分とお綺麗になられたので、面影を感じる程度で、ただただ、自らの不明を恥じるばかりです」


「むーっ、レイ、セリーは私の愛称だから、非公式の場ではそのままセリーで構わないわ。私とあなたは友人でしょ」


「い、いや、セリアリス様、非公式とはいえ、今はカエラ様もいらっしゃいますし……」


セリー(・・・)、今はセリーでいいと言っているのだけどっ」


 セリアリスは言葉を強めて、レイの言い訳を許さない。レイは少し困った表情をカエラ夫人に向けると、そんな様子を見ていたカエラ夫人はコロコロと笑い出す。


「レイ君、貴方の負けですよ、娘はこうなったら梃子でも動きません。非公式の場であれば、友人付き合いをしてあげて下さい」


「ぐっ、カエラ様まで……。はぁ、承知しました。周りに人がいない時だけ、そう呼ばせて頂きます。流石に第一王子殿下の許嫁であるセリアリス様を他の方々がいる前で、愛称呼びさせていただくのは、命がいくつあっても足りませんので。セリーもそれでいいかい?」


「ええ、勿論ですわ。私もそこまでは期待しておりません。レイ、改めて、よろしくね」


「はい、セリー、よろしくお願いします」


 レイは溜息交じりで同意をすると、そんなレイを見て、セリアリスは満足そうに笑みを浮かべるのだった。

面白い、これからに期待、頑張ってと言っていただける方は、是非ブックマーク並びに評価のほど、お願いします。それが作者のモチベーション!


よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前書きで軽いネタバレ入れないでくれー 楽しみが減るー
[良い点] お嬢さんにさっそく絡まれてしまいましたね。
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