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第三十五話 元老院

ランキング一位継続であります!

応援有難うございます!


今回の話、書いている内に、主人公やヒロインが全くでない回となってしまいました。

 学院の生徒達が王城内の迎賓館で交流会を開催している時、同じく王城内では、元老院における会議が開催されていた。本来であれば、中央奥に座すべき王の姿はない。その右前にロンスーシー公爵、その左前にはノンフォーク公爵、空の椅子の隣に宰相であるミルフォード侯爵が立っている。ロンスーシー公は50代を超え、髪も白いものが多くを占めるやや恰幅の良い男性、ノンフォーク公は40代後半で軍人らしい筋肉質な体型をしている。ミルフォード侯は、痩せぎすで神経質そうな顔をした御仁である。


 元老院はいわばこの国の上位貴族による議論を交わす場であり、この国の伯爵家以上で、王城に詰めている者は、原則参加。最終的な裁可は王自らが行うが、基本ここでの決定を覆すことは稀であり、それ程までに大きい権力を持つ会議でもある。


 今日の議題は王太子の冊立に関して。ここ数ヶ月、体調の優れない王に対し、次期国王候補として王太子を選定すべきという意見が上がっての会議だった。今回の司会役である宰相ミルフォード侯爵が、半ば決めつけるように話をする。


「基本次期王太子は、アレックス第一王子で問題ないかと思いますが、皆様方、ご意見はいかがですかな」


「ふむ、問題ないのではないか。その才能も本人の性格も実に王たるに相応しい御仁。直系で王妃のご子息でもある」


「そうですな、他の殿下と言っても、妾腹の第二王子では皆が納得しますまい。側室の子の第三王子に至っては、まだ10歳にもなっていない。流石に候補外となりましょう」


 始まる前から会議の趨勢は、第一王子で固まっている。ここでは、あくまで確認作業で参加者も概ねその意見には、賛同していた。


「となると、後は時期をいつにされるかだな」


 会議参加者からその王太子即位の時期に関して、意見が上がる。ただここに関しては、やや各陣営に思惑がある。それに口火を切ったのが、フラガの実家のランズタウン侯爵だ。丸っこい体に釣り目で鼻下に髭をたくわえ、やや赤らんだ顔をしている。


「まだ国王陛下がご健在なのだ。今すぐ王太子としなくても、良いのではないか。慣例であれば、学院卒業を機会として王太子となられる。あえて急ぐ必要もありますまい」


「おやこれは異な事をおっしゃられる。その国王陛下のご体調がすぐれないからこそのこの会議だと認識しておりましたが」


「なにをおっしゃる。陛下の体調は危惧するべきことではございますが、既に第一王子が王太子になる事は既定路線。であればこそ、在学中に焦る必要はないと言っているのです」


 入った横槍に対し、憤然とした口調でランズタウン侯爵は、その発言を言った人間を睨む。ランズタウン家は、現在第一王子であるアレックスに対し、近しい人間を配置できていない。彼の最大の政敵は現宰相のミルフォード家であり、アレックスが王太子となった際には、エリクがその右腕として傍にいるのに対し、ランズタウン家は近しいものがいない為、大きな差ができてしまう。何とかその在学中に、アレックスに取り入る必要があり、その為の猶予は必要だった。


「成程、ロンスーシー公爵閣下はどう思われますか?」


「確かにランズタウン卿の意見も一理ありますな。在学中に王太子とした場合、対外的には国王陛下のご状況を勘ぐられます。であるなら、内定としてやはり卒業後に王太子とする方が賢明かもしれません」


「成程、ノンフォーク公爵閣下はいかがですか?」


「対外的というのであれば、さして気になさらずとも良いでしょう。国軍を預かる身として、外敵に対しての備えは、十二分にしております。仮に他国が軽挙妄動を起こしても、十分対処はできるでしょう。ただ……」


 ノンフォーク公はそこで一つ間を置く。そして周囲を睨みつけるような視線を送り、その言を発する。


「陛下の従兄の立場からすれば、このような席自体、余り気持ちのいいものではありませんな。ご自身がまだ健在の折、次の相談をするなどやや配慮に欠ける」


 それは尤もな話だ。まだ王は健在で、多少健康が優れないかといって、直ぐ次の話をするのは、いささか配慮に欠ける。元老院の参加者は、それを聞いて慌ててノンフォーク公から目を背ける。ただノンフォーク公の対面に座る、ロンスーシー公だけは、それを笑顔で迎え入れる。


「セアド、君の気持ちは良く判る。ただこれも国の安寧を願っての事。備えあれば憂いなしとは言うが、これもまた真実だ」


「フンッ、ルーカス、君の言い分も判る。だからこそ俺もこの場に参加している。まあ王太子云々は、まだ少し先でいいだろう。アレックス殿下が事実上王太子候補最有力なのは変わらん。ならば、その事実だけ、この元老院メンバーが把握しておけば良いだろう」


 そんなツートップのやり取りに、周囲は緊張した面持ちで推移を見守る。そして意見の趨勢が決したところで、ミルフォード侯爵が話を纏める。


「では、今後元老院の意見として、第一王子であるアレックス様を王太子最有力候補とします。その上で、有事以外は、原則、学院卒業後を待って王太子殿下となっていただく事で宜しいですか」


 そして一同が同意の証しに礼をした事で当議案は承認された。そして元老院が閉幕を迎え、各々が自宅なり、職場へと戻る中、一人、宰相のミルフォードが、その場で佇んでいる。


『まあここまでは既定路線ですね。両派閥も自身の意見は主張できましたし、大きな軋轢は無いと言っていいでしょう。まあ元々この件に問題はありません。アレックス殿下が、余程の凡才でなければ、覆そうとするものもいないでしょう。強いてあげれば、殿下に近しい存在を配置できていないランズタウンあたりが面倒ですが、両公爵家の意向さえそろえば誰も反論などできますまい。問題は、アレックス殿下を巡る女性問題ですか』


 現在、アレックスには許嫁にノンフォーク家のセリアリスが、次期王妃に内定している。これに関しては、元々王妃が難色を示していたが、今は小康状態。ロンスーシー、ノンフォークの2大巨頭の力関係を考えれば、現状のまま推移が望ましい。


 とはいえ、次期王太子であるアレックスに対し、妻が一人きりというのもあり得ない。となると、自分のところであれば、養女にしたエリカが対象となるのだが、エリクを傍に置き、その上側室にエリカまでとなると、正直、周囲のやっかみがうるさい。


 ランズタウンあたりが、娘を出すのが良いのかも知れないが、残念なことに妙齢の女子が子供にいないときている。後は、聖女と名高いアナスタシア卿の養女あたりだが、元々は平民。王妃にしてみれば、セリアリスの当て馬にもならないだろう。


『さて、後継者争いとはならないだけましですが、外戚争いはますます苛烈になります。厄介な事だ』


 ミルフォード侯爵は、眉間の皺を指先でほぐすと、深く息を吐いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 ノンフォーク公は、元老院が終わった後、その足で王の寝室へと向かっていた。ここ半年ほど体調の良くない従弟の様子を見るためだ。最初王が倒れた時は、過労と簡単な風邪程度の診断だった。確かに王の執務は激務だ。元々体が強くない従弟は、時折そうして、体調を崩していた。今回の一件もそれと同様で、少し静養すれば、体調は戻ると思っていた。


 ただ、ここ半年、王の体調は一進一退を繰り返し、調子のいい時が長続きしない。政務も宰相のミルフォードや元老院の長であるロンスーシーがあらかた執り行っており、軍務に関しては、ノンフォークに丸投げの状況だった。当然、王が弱れば、貴族も浮き足だつ。アレックスの件も同様で、浮足立った結果が、元老院の議題にまでなった事に他ならない。


『どいつもこいつも王を蔑ろにしすぎだっ』


 確かに政務に関しては、十全にこなしている訳ではないがそれでも重要事項の決済は、病床のふちにありながらも自ら行っている。国力も無駄な戦争を行う訳ではないから、戦争ばかりを繰り返すエリアーゼ皇国あたりと比べたら、大きく伸びているだろう。そう言った意味では、彼の代は平時としては十分な功績を上げているのだ。


 そんな事を考えていると、ノンフォーク公は、国王の居室へと到着する。彼はドアをノックし、中から執事が顔を出したので、用向きを伝える。


「会議のついでによらせて貰った。我が従弟殿の体調がいいのであれば、挨拶をしていきたいのだが」


「国王陛下に確認をしてまいりますので、少々こちらでお待ちいただけますでしょうか?」


「うむ、すまん。もし体調が芳しくないようであれば、また改めるのでその旨も伝えてくれ」


「畏まりました。少々お待ち下さい」


 執事は恭しくお辞儀をすると、静かに扉を閉じる。そして暫くすると、再び扉が開き、執事が現れる。


「陛下がお会いになられるようです。どうぞ、お入り下さい」


 ノンフォーク公は執事の案内を受けて、部屋の奥へと入っていくと、既に王はわざわざベッドから出てきて、客用のソファでガウンを羽織りながら、座っている。年の頃40代前半。黒髪で黒い瞳をした、柔らかい表情をした温和そうな印象を与える。事実、優しい王であり、その反面強い王ではない。


「わざわざ起きて出迎えてくれなくてもいいのだぞ、ダニエル」


「ハハッ、我が従兄殿を迎えるのに、ベッドの上だと失礼だろう。それに、余りベッドの上ばかりで過ごしていると、本当に気がめいるんだ。だから、今はこうさせてくれ」


 ノンフォーク公は、自分の従弟の様子が、虚勢を張っているものだと感じるが、その虚勢を張りたいのだろうとも思う。だから、本人のしたい様にさせようと、それ以上は追及しない。


「そうか、ならいい。ただやはり顔色は余り良くないな。医者はなんて言っているんだ?」


「うーん、医者も歯切れが悪いんだよね。まあ元々体が強い性質ではないから、何かしら病魔が巣食ってるんだと思うけどね。あ、そう言えば先日、君のご令嬢がお見舞いに来てくれたよ」


「セリアリスがか?」


「ああ、母上と一緒にだけど、随分と綺麗になったよね。性根の優しい凄く良い子だ。アレックスなんか、全然見舞いに来ないのに、人様の子の方が心配してくれるんだからね」


 ノンフォーク公は、ここでセリアリスの話が出るとは思わず、軽くビックリする。王太后である伯母上が一緒だったという事なら、伯母上の気遣いだろう。ちなみに王太后とノンフォーク公の父が兄妹であり、国王とは従兄弟関係にあり、ノンフォーク公は国王より5つ年齢が上である。


「まあ殿下も学院生活で色々忙しいんだろう。セリアリスは王妃教育の一環で王城に定期的に通っている。そう言う意味では特別という訳でもあるまい」


「それでも誰かが訪ねてくるというのは、嬉しいものだよ。勿論君もね」


「まあ国王陛下に家臣が、会いに来るのは当然だ。勿論従弟に会いに来るのもな」


「国王陛下か。そう言えば、アレックスを王太子候補と決定したらしいね。僕としては、ジークの方が思い入れがあるんだけど、まあそれは仕方がないか」


 国王であるダニエルはそう言って、少し寂しそうな表情を浮かべる。ダニエルにとって、ジークの母はその人となりにほれ込んで、口説き落とした思い入れのある人物だった。当然、その相手から生まれた子供は愛おしい。ただそれはダニエル個人にとってというだけであって、国王、国という立場からすれば、容易に受け入れざることだというのは、重々承知していた。


「ジーク殿下が優秀だというのは、間違いないだろう。ただ序列は大事だし、アレックス殿下が見劣る訳でもない。ジーク殿下も余計な波風を立ててまで、王位に興味はないだろう」


「勿論、判ってるさ。そんなことしたら、ヴィクトリアが黙ってないだろうしね」


「フフッ、まあそうだな。さて、余り長居をしても、迷惑だろう。私はこの辺でお暇するよ」


 ノンフォーク公は、話の区切りのいいところで、さてとばかりに席を立つ。国王は立って見送ろうとするが、それを手で制して、自分だけ扉の方へと向かう。


「しばらくは公務で王都にいる予定だ。また時間を見て、寄らせてもらうよ。勿論、従弟殿の体調が戻れば、謁見の間にも参内するから、早く良くなれよ」


「ああ、僕もそうなれるよう努力するよ、また遊びに来てくれ」


 王は弱々しくはあるが、ノンフォーク公がその扉から出て行くまで、笑みを見せて見送っていた。



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― 新着の感想 ―
[一言] アレックスの童貞インキャ感ハンパねえな マジで笑うんだが
[良い点] ストーリーやキャラが好きです^_^ あらすじを見たときは、「俺そんなつもりないのに…」と努力もせず流される系の主人公だと嫌だなと思いました。 その点、主人公がしっかりしてて好ましいです。 …
[気になる点] 「ちなみに王太后とノンフォーク公の父が兄妹であり、国王とは従兄弟関係にあり、ノンフォーク公は国王より5つ年齢が上である。」 言いたいことは分かるけど文がごちゃついてますね。
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