第三十四話 アレスの懸想
更新遅くなりました。
ジャンル別日刊ランキングが遂に1位に。
単日のPVも10万越えと感謝感激です。
今回は流れの続きですが、次回は話を意外な方へ動かす予定です。
アレス・グレイスは、アレックスの背後で1人の女性に見惚れていた。その女性はユーリ・アナスタシア。今、目の前でアレックスとの談笑で見せる笑顔が、辺り周辺を華やかにする様にただ感動していた。
アレスは幼少の頃よりアレックスの友人であり、従者の様な立ち位置だった。当然、アレックスの周囲には有象無象の女性が群がってくる。勿論、その中には美しく可愛らしい女子も多数いたし、性根の優しい子もいただろう。でも今目の前にいる少女は、その全てを備えている。美しく可憐、そしてその性根の良さも慈母神により保証されている少女がだ。
家格からいったら自分は彼女に釣り合う存在だ。自分は次男だが、彼女も養女。アレス自体はエリクほど貴族主義という訳ではない。本人を余り知らなかった時分には、あまり興味は無かったが、今こうして知ってしまった以上、今日のダンスも新入生歓迎パーティーのダンスも自分が一緒に踊れたらと思わずにはいられない。
ただ残念な事に、今日再びその機会が訪れる事は無いだろう。アレックスが彼女に対してご執心だからだ。アレックスがここまで女性に積極的なのは、珍しい。アレックスは友人の贔屓目で見ても、ストイックな性格だ。己の資質に甘んじるところなく、精進を重ねている。次代の王にふさわしい人間だと思う。
ただそのストイックさから、女性に対して
は、やや遠慮しがちだ。婚約者のセリアリスともやや距離がある様に思われる。まあ政略結婚の類だという部分も有るのだろう。しいてあげれば、エリクの義妹のエリカが普通に会話をする位か。ただ彼女に対しては、身内の家族という意味合い以上の興味は無さそうだが。
今は三人で、厳密には二人と護衛一人という立ち位置だが、他クラスの優秀者と歓談すべく、移動している。
「どうだ、皆のもの、楽しんでるか?」
「ひっアレックス殿下」
突然話しかけられた生徒の一人が、話しかけたのがアレックスだと知って、固まっている。アレックスはそれを気にせず、再び話しかける。
「ああ、済まない。驚かせるつもりは無かった。今宵は生徒会の主催だ。楽しんで貰っているか、気になってな」
「はっはい、十分に楽しませて頂いております!」
「クスクスッ、そんなに緊張なさらなくても良いですよ。同じ学生ですし、それに各クラスを代表する実力者の皆様ですから」
「ユーリ様・・・・・・」
アレックスによってもたらされた緊張は、ユーリの優しげな微笑みに呆気なく溶かされる。それほど迄に優しげな笑みである。
「えーとそれで、皆さまはどのクラスの方々なのですか?」
「あっはい、自分達はBのクラスのメンバーです。他にBでは、サラさんがいるんですが、今は、Dクラスのレイ君と話してて」
ユーリにそう答えてくれた生徒は、目線をそのサラに送って、ユーリもそちらを見ると、確かに仲良さげに談笑している男女がいる。
ユーリは何故か少し不満げな表情を一瞬見せるが、直ぐに取り繕い、彼女らしい笑顔を見せる。
「ああ、この間ユーリのパートナーだった奴か。先程もダンスは上手かった様だが。確かに仲良さげだな。あれだと話しかけるのも憚れる」
「はっはい、殿下の言われる通り、なので、我々は別で楽しんでおります」
アレックスの気さくな相槌にその生徒は緊張した返事を返す。
「ハハッ、ある意味、友人思いだな。なあ、ユーリ」
「えっ、はい」
ユーリは、話を振られたことに戸惑ったのか、少し慌てて返事をする。すると背後のアレスが、珍しく口を開く。
「そう言えば、先般の新入生歓迎パーティーの折、ユーリ嬢とレイとやらがパートナーとなっていましたが、それはどの様なご経緯で?」
実はアレスは、背後からユーリの表情を眺めていて、レイを見た時、一瞬見せた複雑な表情が気になったのだ。今し方の動揺も同じである。対するユーリは、アレスからの質問に少し焦った様な仕草で返事をする。
「えっ、ああ、レイ様は父が彼の祖父と友人でして、その兼ね合いで、ご縁がありまして」
ちなみにこの弁明は、ユーリとレイにしてみれば、後から知った事実なのだが、その事実を前後させて公式回答としていたものだった。そんな事を知らないアレスは素直に感心する。
「ほう、アナスタシア卿の」
「はい、何でも学友なのだとか」
「ふむ、成る程。なら元々知人のまだ少ないユーリ嬢の為、推薦されたのも頷けるか」
確かに筋が通っているし、今この場で嘘を言う必要もないので、間違い無いのだろう。となると先程の表情は勘違いかとアレスは、一人納得する。
「でもその事がどうかなさいましたか?」
逆にユーリにしてみれば、普段会話を交わさないアレスからの質問に、不思議そうな顔をする。
確かにアレスらしくない質問だ。アレスは彼にしては珍しく、狼狽て顔を赤くする。
「別に深い意味などない。ただ少し気になっただけだ」
「いえ、それならば良いのですが」
今度は何故か動揺したアレスの顔を見て、ますます、疑問符をユーリは浮かべる。そんなアレスを見て、アレックスが、驚愕の表情を浮かべる。
『アレスにフラグが立っただとっ』
確かにゲームでアレスを選択した場合のヒロインの1人にユーリのルートは存在する。ただこれまでさしたる接点がなかったこの2人が何故、急にフラグが立ったと訝しがる。いや、よく見るとユーリは意味が分かってない。どうやらアレスのみ好感度が上がっている様に見えた。
「ふむ、アレスがその様な些事を気にかけるなど、珍しいな。まして、ユーリを気に掛けるなど、思っても見なかったぞ」
「いえ、私は別に、そ、そう、ただ同じ生徒会メンバーとして、その交友関係を知っておくのも、必要かと思いまして」
アレスは明かに狼狽ている。元々彼は脳筋キャラだ。色恋にはさしたる興味を持たず、確か婚約者の類もいない。興味を持つ事自体は悪い事では無いのだが、アレックスにしてみれば、相手が悪かった。
『今日話した限り、やはりセリアリスよりユーリの方が、話しやすい。側にいてくれるなら、ユーリが良いけど、まさかアレスが。むむ、友情と愛情、これは結構悩ましいか?』
アレックスは内心で思いつつ、ユーリを見る。彼女は、なぜアレスが狼狽ているのか、やっぱり分かっていない。そこに他の生徒達と話していたエリクが戻ってくる。
「アレックス、やはりDクラスのメルテは、脅威になりそう・・・・・・、何か変な顔をして、どうしました?」
「ん、いや何でもない。何でもないぞ」
アレックスは、そう誤魔化しつつ、やはり主人公は大変だ、などと思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
交流会も佳境に迫りつつあるタイミングで、レイはサラと別れ、一人のんびりと壁の花になっていた。ちなみにジークは会が始まって早い段階に、王城の自室に戻った為、今この会場にはいない。メルテはアンナと一緒に相変わらず、食事に夢中で、生徒会メンバーは、固まって談笑している様だ。他のメンバーは、大抵は自クラスのメンバーと固まっており、そう考えると、自分のDクラスは、協調性がないなと苦笑する。
「あらレイ、こんな所でサボり?」
「これはこれはセリアリス様、わざわざお声掛けいただき、有難う御座います」
レイは周囲の目もある為、やや大仰に、セリアリスに礼を取る。そんなレイに不満げな表情を見せつつ、セリアリスは言う。
「私の古馴染みは、本当に薄情よね。私がホストで苦労している時に、ちっとも近寄って、助けようともせずに、自分は女子とのんびり談笑しているのだもの」
「ハハッ、セリアリス様ならメルテとも上手くやれると思ってましたから、心配しておりませんでしたが、必要でしたか?」
「もう、必要不必要ではなく、いてくれた方が楽しかったって事。本当、レイは薄情よ」
レイとしては、セリアリスの言い分が分からなくはないものの、あまり接点が有る様に見られたくない。とは言え、ホストとしてしか会に参加していないのも、寂しいだろうと思い、違う機嫌の取り方をする。
「ならお詫びがてら、宜しければ、私めと踊っていただけませんか?少しくらい自分の為に、楽しんでも罰は当たらないでしょう?」
「それで誤魔化しているつもり?」
「いや、ただセリーと踊ったら楽しそうだと思っただけだよ」
レイは笑顔を見せてその手を取る。セリアリスは、こういう所がズルいと思うが、レイと踊れる楽しみに、つい乗ってしまう。
「なら、私を楽しませなさい。少なくても、あの夏に遊んだ時以上にね」
「お任せ下さい、お嬢様。空を舞うかの如く楽しいダンスをご提供しましょう」
レイはセリアリスの挑発に自信を持って、笑顔で応じる。そしてセリアリスを伴って、ステージの中央へと導いた。
2人が中央でホールドを決めると音楽がゆっくりと流れ出す。2人はその音楽に合わせる様に、優雅に動き出すと、周囲にいた生徒達は、そのダンスに魅せられる様に、目を向けていく。レイのダンスは先程もサラとのダンスで見せた様に秀逸なのだが、それ以上にセリアリスとの相性が良い。周囲には2人と一緒に踊る様に風が舞い、2人のダンスを彩っていく。
「ふぁ、凄い、風の精霊が喜んでいるみたい」
メルテの隣で2人を見ていたアンナが、思わず声を上げる。彼らが近くに来ると、その周りを風が優しく舞うのだ。メルテも食事の手を止め、そのダンスを不思議そうに眺める。
「あれは風魔術?うーん、あんな使い方知らない。後でレイを問い詰める」
彼女も彼女らしい感想を抱くのだが、その表情は楽しげだった。
そして生徒会メンバーも2人のダンスを食い入る様に眺める。
「ふむ、やはり彼は彼で侮れないか?メルテにジーク殿下、それに彼となると、中々油断できないな」
「セリアリス様、やっぱり素敵ですね。今日はホスト役で大変そうだったから、最後に楽しめたみたいで、良かったですね」
エリクはレイを単純に警戒し、ユーリはセリアリスを素直に褒め称える。アレスはというとそんな周囲に気を配るユーリに感銘し、見惚れている。エリカは何も口に出さず、ニコニコしている。そしてアレックスはと言うと、物凄くショックを受けていた。
『セリアリスのあんな楽しそうな顔、見た事が無いぞ?あんな可愛らしい表情を出来るなら、何故俺に見せてくれないんだ?』
アレックスがショックを受けたのは、セリアリスのレイと自分に対する表情の温度差だ。自分に対しての笑顔は、綺麗だが温かみが感じられない冷たい笑顔。対する今の彼女は綺麗ではなく年相応の温かみのある可愛らしい笑顔。どちらの方がより魅力的かは、考えるまでも無いだろう。だからこそ相手の男に目を向ける。その笑顔を引き出す相手の男にだ。
一方、踊る当人達は、ただ楽しんでいるだけである。嫉妬も警戒も、羨望さえも気にしない。普通にダンスを楽しんでいるだけ。
「どうセリー、楽しめているかい?」
「フフフッ、風が一緒に踊ってくれてるのが分かるから、すごく楽しいわ」
「風は遊び好きだからね。だからダンスは大好きなんだ」
そして音楽が佳境に入った所で、レイはクルリとセリアリスを回して、最後に彼女を抱きとめる。それに合わせて音楽が止み、一瞬の静寂の後、二人の周囲が喧騒に包まれるのであった。
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