第三十二話 新しい友人
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何よりビビるのが、昨日のPV7万越え。今日に至っては、既に6万越え。
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レイはダンスの雰囲気を見て、この後にダンスをするのは正直気が引けた。エリク・エリカペアのダンスは見事だったが、他のペアがいまいち過ぎたのだ。多分、次に自分が踊れば、それなりに目立ってしまう。事実、新入生歓迎パーティーでは、十二分に目立ってしまった。ユーリの注目度をひいき目に見ても、目立ち過ぎだっただろう。多分、みんな慣れていないのだ。場数が少ないとでもいおうか。結局ダンスは慣れである。後は、パートナーとの相性とでもいおうか。今回のペアは、そう言った意味では余り相性が良いペアではなかったという事か。
『セリアリスは、王子と素直に踊った方が、良かったろうに』
これが、素直な感想だ。レイは、2番手集団のダンスに誰も行こうとしない空気に、内心溜息を吐きつつ、先ほどまで会話を楽しんでいたサラに声を掛ける。
「サラ、俺と踊ってくれないかい?」
「ええっ、この後で踊るの?なんか気まずい雰囲気なんだけど」
サラは思ったより周囲が見えているのか、この雰囲気にやや、腰が引け気味だ。ただレイは、そんな彼女の手を取り、優しく語りかける。
「こんな雰囲気だからさ。このタイミングなら誰も注目しないから、シレッと踊れるよ」
「でも私、余りダンスが上手じゃないわよ」
「ハハッ、こう見えて、新入生歓迎パーティーではダンスが上手って、褒められたからね。そこは安心していいよ」
サラもここまで言われたら、もう断るという選択肢は、選べない。渋々ながら、レイの手を取ると、レイに連れられ、ホールの中央へと足を向ける。レイ達の動きに周囲も反応し、一組、また一組とホールに足を運び、合計で4組になったところで、音楽がスタートする。
曲調は軽やかなメロディー。レイは曲に合わせて、軽い足取りで、サラをリードする。リードされるサラも、ここまでダンスが上手な人間にリードされたことなど無かったのだろう。軽やかに動く自分の足に驚いた表情をしつつ、レイを見る。レイは、その視線に笑顔で応え、つられるようにサラの表情も綻んでいく。
「凄い、凄いわ、レイ、凄い」
思った以上に踊れている自分に興奮したように声を上げるサラ。レイは結局凄いしか言ってないなぁと、少し苦笑した後、ちょっとだけ彼女の良さを指摘する。
「サラは、騎士志望だけあって体幹がしっかりしているから、踊りやすいよ。それに足さばきもスムーズだしね」
そう、サラは騎士志望だけあって、肉体面での素養は十分あるのだ。後は、自信とフォローだけ。だからレイとしても踊りやすい相手だった。
「フフフッ、私ダンスがこんなにも楽しいものだと思わなかった。騎士になるから、必要ないとさえ思っていたのに、これならまたダンスを踊りたくなっちゃうわ」
「なら、その時はまた一緒に踊ろうか。御姫様」
レイは少しだけ軽口を交え、パチッとウインクをする。サラは顔を赤らめながらも笑みを零し、レイの軽口に応える。
「なら私の王子様、その時はよろしくお願いしますわ」
こうして2人は、曲が終わり切るまで、楽しそうにダンスをするのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
セリアリスは、レイのダンスを眺めながら、内心ちょっとホッとしていた。生徒会メンバーのダンスは、アレックス様のダンスが、余り目立つものでは無かった為、会場全体に、気まずい空気が流れていたからだ。ただ今、レイがダンスを披露しているところで、その空気が一変した。華やかで華麗なダンス。ただそれ以上に楽しそうに踊る二人が、ダンスへの好奇心を駆り立てたのだ。
『まあレイですもの、あれ位当然だけどね』
レイは人を楽しませるのが非常に上手い。気遣いが上手いというのとも少し違う。自分も楽しんでいるからだ。勿論、気遣いもしているが、気を遣われる方も楽しんでくれる相手の方が、嬉しいに違いなく、その辺を意識せずできるのが、レイの良さだ。
『まあその辺は子供の頃から、変わってませんけど』
セリアリスが母に連れられ、クロイツェル領へお忍びで商談に行った際に、出会った少年。レイはその頃から、人を惹きつける何かを持っている少年だった。あのときも立場上は、セリアリスの御守だったはずだが、そんな事はそっちのけで、セリアリスをあっちこっちに引っ張りだし、遊び倒した。多分セリアリスの短い人生の中でも一番無邪気に笑った瞬間だっただろう。流石に今のレイは、その時程に、無茶はしないが、グッと洗練された。もし、セリアリスの立場が今踊っている彼女と同じであれば、レイに夢中になっていたかも知れない。いや、それはあり得ない仮定だ。意味がない。
セリアリスは暗い方向に思考が行くのを振り払い、周囲を見渡す。
アレックス様は、何やらユーリに話しかけ、ユーリも表向きには、微笑んで談笑しているように見える。その他のメンバーもその周囲にいて、時折、会話に加わりつつアレックス様をフォローしているようだ。とは言え、今日は交流会を目的としている。余り生徒会だけで会話しているのも、外聞が悪いかと思い、ホスト役として、周囲の生徒に話しかける。
「どうですか、楽しんでいらっしゃいますか?」
「あっ、セ、セ、セリアリス様」
何やら声を掛けて驚かせてしまった様だ。セリアリスは、緊張する少女を見て、それをほぐす様に笑みを浮かべると、優しく話しかける。
「すみません、驚かせてしまいましたか?ただ私も只の学生です。そう緊張しないでも結構ですよ」
「あっ、その、すいません」
そう言って、腰を直角に曲げて頭を下げる少女。セリアリスはそんな彼女に苦笑しつつ、言葉を続ける。
「ほら、そんなに頭を下げなくても大丈夫です。私の名前はご存知のようですが、えっと、お名前は?」
「あっ、はいっ、ええっと、アンナです。平民なので、ただのアンナです」
「はい、アンナさんですね。よろしくお願いします」
漸く少女から名前を聞き出したところで、少女の背後から、銀髪の少女が現れる。小柄で可愛い、まるで妖精みたいな子だった。
「アンナ、食べ物取ってきた。一緒に食べよ」
「あっ、メルテちゃん、有難うっ、じゃなくて、セリアリス様。ほら、挨拶して」
アンナは、セリアリスに全く関心を示さない級友を慌てて窘め、セリアリスの前へと少女を立たせる。セリアリスはその少女を知っていたし、その振る舞いもレイから聞いていたので、にっこりと微笑んで挨拶をする。
「お名前は知っていますよ。メルテ・スザリンさん。私はセリアリス・フォン・ノンフォークと申します。よろしくお願いしますね」
「おお、ジークと同じフォンの人。私はメルテ、よろしく!」
メルテは何やら変なところで反応したが、そこを気にしたら負けだろうとセリアリスは思い、そこには触れないようにする。
「えっと、メルテさんは、料理がお好きなんですよね。ここの料理はお気に召しましたか?」
「うん、ここの料理は美味しい。アンナのお母さんの料理に勝るとも劣らない。あれ?なんで私が料理好きと知っている?」
セリアリスは流石にレイに聞いたとは言えずに、違う回答をする。
「フフフッ、両手いっぱいに料理をお持ちですもの。そうなのかと思っただけですわ」
すると何故かアンナが顔を赤らめて、メルテを窘める。
「ちょっ、メルテちゃん。だから、あんまり料理を取ってきちゃ駄目だよって言ったのに」
「ああアンナさん、大丈夫ですよ。ダンスより食事という方の為に、美味しい料理もご用意してますから。むしろ美味しそうに一杯食べて頂ける方が嬉しいですわ」
「ほう、セリアリスは中々話が分かる奴。レイと同じ雰囲気がする。アンナは少し焦り過ぎ。もっとドンッと構えてないと、疲れて倒れる」
メルテはそう言って、淡々とアンナを窘める。アンナはというと、自分の気苦労の半分以上は、メルテのせいなのにと、がっくり項垂れている。セリアリスはそんな2人を楽しそうに眺めながらいう。
「メルテさんは随分と、レイという方を信頼していらっしゃるんですね」
「レイは、私の友達。レイが私の友達を増やしてくれた。ジークもそう。アンナもそう。だから私は学校が楽しい。これはレイのお蔭」
「フフフッ、ならそのレイさんと同じ雰囲気というのは、凄い褒め言葉ですね。私ともお友達になってくれますか?勿論、アンナさんも」
セリアリスはそう言って、嬉しげな笑みを浮かべる。レイと同じ雰囲気と言ってくれたのは、素直に嬉しかった。だから、礼には礼を尽くさなければならない。
「ん、ならセリアリスは私の友達。私の友達また増えて、私も嬉しい」
「あっ、私も、私なんかで良かったら、是非お友達になってください」
メルテは薄く微笑みを浮かべ、アンナは緊張した面持ちでそれぞれ、友達になる事を了承してくれた。だからセリアリスも精一杯の思いを込めて、二人に言う。
「はい、では三人お友達ですね、これからよろしくお願いします」
そして三人はメルテの持ってきた料理を摘まみながら、楽しく談笑を始めた。